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Volume 20, No.3 Page 236

理事長室から -放射光の科学技術と施設の将来を考える-
Message from President – Future Vision on Research and Facilities of Synchrotron Radiation –

土肥 義治 DOI Yoshiharu

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 2016年度から始まる第5期科学技術基本計画を作成するために、総合科学技術・イノベーション会議で今後5年間の中期計画の内容が多面的に議論されるとともに、各省において多様な討議資料づくりが進められている。その基礎データを提供するために、文部科学省の科学技術・学術政策研究所において、今後20年間を見通した科学技術の予測調査が行われた。調査対象分野は、科学フロンティア(宇宙・海洋・地球・科学基盤136課題)を含め8分野(932課題)であり、6千人以上の研究者・技術者の方々が調査に回答された。今回、科学フロンティア分野の責任者として、また放射光担当として予測調査委員会に参加したので、技術予測の回答結果を報告するとともに、放射光科学技術の将来を展望したい。
 放射光細目には13課題が設定され、また加速器細目には関連6課題が取り上げられた。それらの技術内容は、中型高輝度放射光施設の建設、最先端高輝度・低エミッタンス・高コヒーレンス型光源の開発と実現、nmオーダーの空間分解能やfsオーダーの時間分解能をもつ放射光計測技術の開発、化学反応の解析、物質の構造・電子状態・機能発現の解析、創薬のためのタンパク質構造解析などの放射光解析技術の開発、X線顕微鏡技術、X線イメージング技術、オペランド観察技術の開発などである。さらに、新たなX線格子素子の開発、省エネルギー・省メンテナンス・省コストX線光源の開発、小型・可搬型の加速器の開発などが挙げられた。
 このような多様な科学技術目標に対して、どの課題もその重要度は高いと評価されたが、とくに計測技術の高度化、中型高輝度放射光施設の建設、最先端光源へのアップグレードは極めて高い重要度を示した。各課題とも実現可能性は高く、技術実現年の多くは2020年、実装可能年は2020年代前半と予測された。これらの予測は、わが国の人材、資金、技術などの資源を必要十分に戦略投入すれば実現可能な理想値である。国内の放射光関連組織と利用者コミュニティーは連携して、これら重要課題の実現に向けて全体俯瞰戦略を立て努力する必要があろう。また、わが国の各放射光施設には、光子エネルギー領域(軟X線、硬X線)、利用目的(学術利用、産業利用)、利用形態(先端研究、ルーチン分析)、地域性などを考慮した役割分担が求められている。さらに、将来に予想されるSPring-8の高度化のための停止期間においては、産学官の利用研究が停滞しないように施設間での利用調整など運営上の配慮が必要であろう。
 昨年4月に、SPRUCから放射光科学将来ビジョン白書が発表された。この白書において、わが国の各放射光施設の光源性能を客観的に俯瞰して、施設の役割の階層化を戦略的に進め、各施設が効果的・相補的に機能する将来計画を作成することの重要性が指摘されている。さらに白書は、新しい科学と技術を開拓する先端光科学創出施設(SPring-8-II)、イノベーション創出に活用する光科学活用施設(新3 GeVリング、UVSOR-III)、高性能分析ツールとしての基盤支援施設との3層構造に各施設の役割分担を明確にすべきと提言している。そして、まず早急に3 GeVクラスの高輝度蓄積リング計画を実現して、その後に世界最高性能をもつSPring-8-II計画を実現するよう提案している。これら計画の実現によって、硬X線領域と軟X線領域において世界と競争できる体制をわが国で確立できるとしている。
 科学フロンティア分野の技術予測において最重要度を示した課題(機能性材料の局所構造・電子状態をnmスケール・fsオーダーで観測する技術の開発)は、SPring-8の研究者たちが挑戦すべき技術開発課題である。このような計測技術の高度化を達成できるよう施設内でも努力を続けたい。また、目前の最重要課題としては、第5期科学技術基本計画に次世代放射光施設の建設と光源技術や計測技術の高度化が記載されることであり、その実現を期待したい。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794