Volume 20, No.1
February issue 2015
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
ダイハツ工業株式会社 開発部 Research and Development Division, Daihatsu Motor Co., Ltd.
- Abstract
- 地球温暖化を抑制するために低炭素社会の実現が望まれている。二酸化炭素排出量の20%に相当する運輸部門においては、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの普及により、二酸化炭素の排出を電力や燃料生産側に集中させることが有効な手段だと考えられる。ここでは我々が現在取り組んでいるFCV開発『CAFEプロジェクト』と、SPring-8のシンクロトロン放射光を活用した技術開発について紹介する。核となる技術は、貴金属を全く使わない電極触媒、新規アニオン交換膜、液体燃料・水加ヒドラジン(N2H4·H2O)から直接発電、の3つである。特に脱貴金属触媒の開発に対してはSPring-8のシンクロトロン放射光を用いたin-situ XAFSによる触媒の活性状態での微細結晶構造解析や、HAXPESを用いた触媒の化学状態解析を駆使して開発を加速してきた。この燃料電池は、貴金属を使わないことから低価格・省資源であり、液体燃料を用いるため扱いやすく、二酸化炭素を排出しない上にコンパクトで高出力であり、広く普及することが期待されている。特に水加ヒドラジンはポリエチレン容器で広く保管・流通しており、インフラの無い過疎地区でも使いやすい燃料電池車として、さらには生活電源や災害時の緊急発電用として一日も早く実現し、SPring-8の産業利用成果であるこの燃料電池が、人々の暮らしを支える技術として育っていくことを願う。
東京工業大学 地球生命研究所 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology
- Abstract
- 本研究では、地球マントルの代表的な物質であるパイロライトに対し、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧高温実験を行い、大気圧室温下に急冷させた回収試料中の溶融痕跡をX線マイクロトモグラフィー法を用いて撮像することにより、マントル最下部圧力(136 GPa)までの融け始めの温度(ソリダス温度)を決定することに成功した。地球のマントル最下部は全球的には融けていないことから、マントルのソリダス温度はマントル最下部、さらにはその下に存在する地球外核の温度構造に上限を与える。地球外核は液体であることから、鉄合金として融点を大きく下げる効果を持つ水素が外核に大量に存在している可能性が示唆される。
大阪大学 基礎工学研究科附属極限科学センター Center for Science and Technology under Extreme Conditions, Graduate School of Engineering Science, Osaka University
- Abstract
- 超伝導を示す元素の超高圧・極低温の極限条件下における構造を明らかにすることを目的とした。これは2010~2013年度にかけて実施した研究(以下、NEXT研究)(日本学術振興会(JSPS)最先端・次世代研究開発支援プロジェクト:全元素の超伝導化)の実施に伴ったものである。物質の基本となる元素において、その究極の姿(超伝導性・結晶構造)を探求することにより、超伝導をはじめとした現象の普遍性や未知の可能性を見出し、物質科学の新しい魅力によって将来の科学技術の発展につなげることを目指した。
名古屋大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya University
大阪府立大学大学院 理学系研究科 Graduate School of Science, Osaka Prefecture University
東京工業大学 地球生命研究所 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology
[1]名古屋大学 現象解析研究センター Center for Experimental Studies, Nagoya University、[2]名古屋大学大学院 理学研究科 Graduate School of Science, Nagoya University
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門(SPring-8/SACLA コンファレンス2014 実行委員長) Research & Utilization Division, JASRI
SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会 委員長 Chair of The SPring-8 Budding Researchers Award Committee
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI
- Abstract
- 前号(Vol.19 No.4)にて、次世代SPring-8制御フレームワークMADOCA II(Message And Database Oriented Control Architecture II)について解説を行った。2014年にこのフレームワークを加速器制御に導入し、利用を開始した。複数のコンピューターを同期制御し、柔軟で堅牢な制御系を構築することができる。さらに、様々なOSや言語で動くように細心を払ってコーディングされており、Windowsもサポートする。これによりSPring-8ユーザー実験でも利用できる下地が整った。ユーザー実験ではLabVIEWによる計測プログラムが多く使用されている。そこで、LabVIEWからMADOCA IIを容易に利用できるように、VIライブラリの開発を行った。LabVIEWでSPring-8の光源制御システムや複数の実験制御コンピューターを連動させた高度な実験プログラムが開発できるようになる。
4. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)庶務幹事/東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo