Volume 20, No.2 Pages 143 - 144
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第9回三極X線光学ワークショップ
3-way X-ray Optics Workshop IX
表題のワークショップは2015年2月26日にSPring-8において開催された。このワークショップはESRF−APS−SPring-8三極ミーティング本体のサテライトとして行われているもので、2001年11月にESRFにおいて第1回が開催されてから3周目最後の番となる。前回は2013年7月末にアメリカのAPSにおいて開催されている。今回、三極ミーティング本体はテーマを絞り込むとともに、今後の三極ミーティングのあり方を議論する場とした。これに合わせ、サテライトに関しても参加者を少数にし、単に各々の施設の活動状況を紹介し合うというよりは、共通する課題や目標などを見出し、今後の放射光施設におけるX線光学の開発の進め方に関して議論する場とすることを目指した。
プログラムは以下に示す通りである。今回は都合が合わずPETRA-III/DESYからの参加はなかったが、ESRF、APS/ANL、SPring-8に加え、大阪大学からの参加による13件の口頭発表が行われた。各施設の概要報告、結晶光学、薄膜技術、形状計測・シミュレーションの4セッションが展開された。プログラムは、アプリケーションというよりは基盤技術、要素技術のカテゴリーで仕分けられている。また、最後に少し時間をとって参加者全体で議論の場を設けた。以下、簡単にワークショップの概要について報告する。
施設概要
R. Barrett(ESRF)からは、分光結晶の表面研磨の改善により裾の低いきれいなロッキングカーブが得られるようになったことなどが報告された。ESRFのアップグレード計画に対応して光学機器・素子の高度化が推進されている。L. Assoufid(APS)からも、アップグレード計画も見据えた多方面での光学系の活動状況が紹介された。大橋(SPring-8)からは、BL25SUなど最近のビームライン光学系のアップグレードの状況や光学素子の表面汚染とその除去の方法などが紹介された。
結晶光学
R. Verbeni(ESRF)からは、最近ESRF内に整備されたアナライザー結晶の加工・評価ラボの紹介があった。アナライザー結晶はESRF外にも提供できるが、基本はESRF内での利用が主である。非弾性散乱や共鳴非弾性散乱実験用に積極的にアナライザー結晶などを整備していく方針である。また、山崎(SPring-8)からは、SPring-8の高熱負荷の二結晶分光器に関し、安定性の確保、低振動化、オフライン評価装置による高熱負荷模擬実験の現状が報告された。X. Shi(APS)からは、Laue-Braggのベント結晶による50 keV程度の高エネルギーでの集光技術の開発状況が報告された。シーズ寄りの話で、適当なアプリケーションを探しているようにも見える。
薄膜技術
C. Morawe(ESRF)、B. Shi(APS)、小山(SPring-8)から、それぞれの施設の成膜装置関係の報告が行われた。多層膜ミラーにおいては、エネルギー分解能の制御に加えて、集光などの目的で面間隔の勾配のきついもの(数十%に及ぶもの)、また基板として1 m近い大きなものへのコーティングを目指した開発が進められている。また、ミラーにおいては、1.5 m近いものまで高品質にコーティングできるような技術開発が進められている。APSでは、以前からイオンミリングやプロファイルコーティングが表面形状補正に用いられており、確立した技術となっている。
形状計測・シミュレーション
R. Barrett(ESRF)、L. Assoufid(APS)からは、それぞれの形状計測の状況が報告された。従来の干渉計などの光学式の計測に加え、X線を使ったAt-wavelength計測も積極的に利用されている。特に、アップグレード計画を見据え、光源サイズやコヒーレンスの評価技術が注目されている。山内(大阪大学)からは、At-wavelengthでの波面計測の手法と、放射光やXFELへの応用例が紹介された。シミュレーションでは、高次(4次)の研磨誤差の集光に対する影響が評価されているが、うまく条件を選べばSACLAにおいて10 nm以下の集光が可能となる見込みである。
最近の放射光光源と光学系においては、計算による振る舞いの評価を行うには、光線追跡では不十分であることは常識である。一方で、波動光学の要素を取り込んで素直に計算すると、系が複雑になるほど莫大な計算機パワーを要する。X. Shi(APS)のシミュレーションは光線追跡と波動光学のハイブリッドである。これにより波動的な要素を取り入れつつも短時間に計算できる特徴があり、最近注目されている。
最後の全体討論では、少数ゆえに密度の高い議論がおこなわれた。ダイヤモンドを含む低歪の結晶の確保が重要であること、結晶やミラーの表面のダメージや汚染とその除去に関して技術蓄積と情報交換が必要であること、ラウンドロビンや、スタッフの交流が重要であることなどがまとめられた。
2月28日の午後に三極ミーティング本体において、大橋から今回のワークショップのまとめが報告された。次回の三極ミーティングは2016年9月頃にDESYにおいて行われることが決まった。今回参加したESRFとAPSのリーダーたちは他の学会ではできない情報共有が可能となるこのワークショップを継続することに積極的であり、三極ミーティング本体に合わせて光学ワークショップが行われることになるだろう。
三極X線光学ワークショップIXプログラム
Organizing committee: S. Goto (SPring-8), R. Barrett (ESRF), L. Assoufid (APS), H. Ohashi (SPring-8), H. Yamazaki (SPring-8)
Place: Kamitsubo hall
February 26, 2015
9:00 | Opening address (S. Goto / SPring-8) |
Session 1: Optics Overviews (Chair: S. Goto / SPring-8)
9:10 | Overviews of optics from ESRF (R. Barrett / ESRF) |
9:25 | Overviews of optics from APS (L. Assoufid / APS) |
9:40 | Overviews of optics from SPring-8 (H. Ohashi / SPring-8) |
Session 2: Crystal Optics (Chair: R. Barrett / ESRF)
9:55 | New analyzer crystal laboratory at the ESRF (R. Verbeni / ESRF) |
10:15 | Present status and next plans of stabilization of DCMs (H. Yamazaki / SPring-8) (Break) |
10:50 | High energy focusing optics (X. Shi / APS) |
Session 3: Thin-film coating (Chair: L. Assoufid / APS)
11:10 | News from the ESRF multilayer facility (C. Morawe / ESRF) |
11:30 | Intent and architecture for the APS modular deposition system (B. Shi / APS) |
11:50 | Development of thin film coatings at SPring-8 (T. Koyama / SPring-8) (Lunch break) |
Session 4: Metrology and simulation (Chair: H. Ohashi / SPring-8)
13:40 | Metrology developments at the ESRF (R. Barrett / ESRF) |
14:00 | Metrology developments at the APS (L. Assoufid / APS) |
14:20 | At-wavelength wavefront measurement for hard-X-ray nanofocusing (K. Yamauchi / Osaka Univ.) |
14:40 | Optics modeling and simulation at APS (X. Shi / APS) (Break) |
15:15 | Discussion |
16:05 | Closing remarks (S. Goto / SPring-8) |
16:15 | Site tour |
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