Volume 19, No.2
May issue 2014
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[2]兵庫県立大学大学院 物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo
- Abstract
- X線磁気コンプトン散乱強度がスピンモーメントに依存するという特徴を利用して、スピン磁気モーメントのみの磁気ヒステリシス直接測定法を確立した。通常の全磁化曲線を参照することにより軌道モーメントのみのヒステリシス曲線の取得も可能である。測定例として、SmAl2のスピン・軌道別の磁気ヒステリシス曲線、温度依存スピン磁化曲線を取得した。従来の磁気コンプトン散乱において必要であった反転した磁場下での散乱強度の差分ではなく、各点の散乱強度から直接スピン磁気モーメント値を取得しているため、初磁化曲線や、交換磁気異方性などにより磁気ヒステリシスが非対称となる磁化過程も測定が可能となった[1][1] M. Itou, A. Koizumi and Y. Sakurai: Appl. Phys. Lett. 102 (2013) 082403.。
京都大学大学院 人間・環境学研究科 Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University
- Abstract
- 結晶構造・電子構造変化をリアルタイムで観測可能な「時間分解X線吸収分光法」「時間分解X線回折法」をリチウムイオン電池動作環境で適用させ、高速充放電時における電極材料の相変化挙動解明を試みた。SPring-8の高輝度放射光は、充放電反応中の構造情報を連続的に取得することを可能にした。高速充放電可能な正極材料であるLiFePO4は、充放電反応中には熱力学的に安定な二つの相の間で反応することが知られている。高速充放電中の結晶構造を「時間分解X線回折法」により解析した結果、安定な二相に加え、中間の格子定数を有する中間相LixFePO4相が生成していることを初めて発見した。LixFePO4相の出現量は反応速度に比例し、定常状態では消滅することから、準安定な相であることが判明した。準安定なLixFePO4相は、高速反応時に生成し、二相の歪みを緩和することで、LiFePO4の高速充放電特性を発現していると考えられる。
2. ビームライン/BEAMLINES
[1](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI
- Abstract
- BL25SUは、ツインヘリカルアンジュレーターを光源とする共用の円偏光軟X線ビームラインである。これまで固体物性分野を中心に成果を挙げてきた。今回、文部科学省・元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)<磁性材料研究拠点>において、軟X線ナノビームによる磁気解析が必須の利用とされたことをはじめ、より先端的な利用研究ニーズに応えるため、ナノビーム、および、マイクロビームの利用基盤を整備したので紹介する。改造後のビームラインは、ビーム径φ100 nm以下の集光ビームを利用するナノビームブランチと、ビーム径数μ~数100 μmを利用するマイクロビームブランチで構成される。各ブランチの利用は、前置鏡の切り替えによる排他選択方式となる。マイクロビームブランチは、光電子分光実験に対応するために旧ビームラインの分光特性(高いエネルギー分解能:E / ΔE > 10,000、エネルギー範囲、フラックス)を維持する。また、ナノビームブランチでは、明るいナノビームの利用を目的として、フラックスを重視した光学設計とした。2014B期以降は、従来の実験装置について総合的なパフォーマンスを向上させた形で継続するほか、パートナーユーザー(PU)等と協同で新設装置の開発を進めていく。
3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部 Beamline Infrastructure Group, RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- X線非線形光学の研究の一環として、SACLAにてクリプトンの内殻2重イオン化とゲルマニウムでの2光子吸収の観測に成功した。これらの研究で得た経験と実際にSACLAを利用した体験について報告する。特に、集光システムを使った実験と光子計数のやり方について詳しく述べる。
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門(SPring-8コンファレンス2014実行委員長) Research & Utilization Division, JASRI
[1]SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ 実行委員長/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University、[2]SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ 実行副委員長/(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI