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Volume 20, No.4 Page 308

理事長室から -オープンサイエンスの国際的な広がり-
Message from President – Recent Progress in Open Science –

土肥 義治 DOI Yoshiharu

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 オープンサイエンス(Open Science)の国際的活動は、この10年間において急速に進展した。オープンサイエンスは、発表論文のオープンアクセスと、研究データの公開(オープンデータ)を含む総称である。オープンサイエンスを求める社会状況は、言うまでもなく、ネットワークWebを通じた研究成果の社会還元であり、さらには分野を超えた人々の共同作業によるイノベーション創出への期待である。また、世界各国において公的研究資金が年々増大した結果、研究成果の共有と相互利用による効率的な研究体制の形成と効果的な価値の創出を社会が関係者に求め始めたためである。わが国においても、来年度から始まる第5期科学技術基本計画に、オープンサイエンスに対応できる研究データ基盤の強化が重点施策の一つとされる予定である。
 20世紀までの科学研究報告は、17世紀の科学革命以来、主要成果を論文として簡潔にまとめ、科学アカデミー、専門学会、学術出版社などの刊行する論文誌に発表するという紙印刷方式が300年以上に亘り続いてきた。しかしながら、20世紀末の情報通信革命によって、21世紀からは論文を電子ジャーナルに発表することが一般化した。研究者はもとより世界の全ての人々が、Webを通じて論文を読むアクセス利用が可能となった。
 オープンアクセスとは、無料で自由に論文にアクセスできる状況をいう。2002年のブダペスト・オープンアクセス・イニシアチブに基づき、世界各国は公的資金による研究の発表論文をオープンアクセスできるよう関係者に努力を要請してきた。その結果、PLoS One、Scientific Reportsなどオープンアクセス電子ジャーナルが数多く創刊され、現在では、全論文の10%以上がオープンアクセス電子ジャーナルに発表されている。われわれ刊行のSPring-8/SACLA Research Reportもその一つである。さらに、NIH PubMed Centralなど機関レポジトリを通しても、オープンアクセス可能な論文数は著しく増加した。Google Scholarなどを利用すると、全論文の30%以上がオープンアクセスできるようになってきた。このように、研究者社会、政府機関、出版社など関係者の努力によって、オープンアクセス活動は着実に進展している。
 つぎの課題は、オープンデータである。2013年に英国で開催されたG8科学技術大臣会合において、論文のオープンアクセス化に加えて、研究データの公開を加速することに各国は同意した。オープンデータの推進活動は、英国、EU諸国、米国、豪州が先行している。わが国も、公的資金による研究成果のうち、論文作成に使用された研究データは原則公開すること、さらにその他の研究データについても可能な範囲で公開することを表明した。なお、研究成果のうち、個人情報データ、商業目的データ、国家安全保障データなどについては公開適用の対象外とされている。オープンデータの活動状況は、研究分野によっても大きく異なる。観測に巨額の公的資金を使う宇宙科学、高エネルギー物理学、生命科学などにおいて、研究データを機関レポジトリし、論文発表とともに公開することを義務化している分野もある。しかし、多くの研究分野において、オープンデータの推進はこれからの課題である。最近、大手出版各社は、オープンデータ電子ジャーナルを創刊した。機関レポジトリとデータジャーナルとの両面整備によって、近い将来、オープンデータの量と質が着実に拡大し向上すると思う。
 SPring-8とSACLAの利用者の方々の研究分野は多様であり、分野によってデータ公開の考え方に差異がある。研究データの保存と共有の作法にも違いがあることを認識しつつ、SPring-8とSACLAで生産される成果公開対象の研究データについて、広く活用・再利用される基盤を構築していきたい。利用者の方々は、オープンデータの社会的意義を理解され、研究データを公開する活動に参加されることを期待している。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794