Volume 20, No.3 Pages 258 - 260
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第15回SPring-8夏の学校を終えて
The 15th SPring-8 Summer School
「第15回SPring-8夏の学校」は、7月5日(日)~7月8日(水)の3泊4日の日程で、全国から66人の学生の参加を得て、放射光普及棟およびSPring-8蓄積リング棟・SACLA実験研究棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関(高輝度光科学研究センター(JASRI)、理化学研究所、日本原子力研究開発機構(JAEA))と、これらの機関と連携大学院協定を持つ大学(兵庫県立大学大学院物質理学研究科・生命理学研究科、関西学院大学大学院理工学研究科、岡山大学)、およびSPring-8サイトにビームラインを持ちそこで教育を行っている大学(東京大学放射光連携研究機構)が主催して、ビームタイムや教官を供出し合って行ったものです。校長は東京大学大学院新領域創成科学研究科の雨宮慶幸先生(東京大学放射光連携研究機構・機構長)にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務局はJASRI研究調整部が行いました。
この夏の学校の開校目的は、「将来の放射光利用研究者の発掘と育成」であり、主として大学院博士課程前期(修士)と学部4年生を対象としています。募集人員は60人程度でしたが、主催各大学からの推薦も含めて90人以上の応募がありました。そのため参加希望者のうち学部4年生のほとんどは参加できないことになりました。その後参加者の都合でキャンセルもあり、最終的に66人の参加者で開催されました。参加者数の制限は、後述するビームライン実習の参加可能人数だけでなく、蓄積リング、収納部、SACLAの見学の際のグループ数、講義室の大きさからも必要であり、さらには事務局が参加者の名前と顔をだいたい認識できることも重要です。このようないろいろな観点から、70人弱というのは、現状の夏の学校では受け入れ最大人数に近いと思われます。参加者は北海道から九州までのさまざまな大学から来ています。なお、主催大学の中には夏の学校への参加を講義として単位認定しているところもあります。
夏の学校では通例として、初日に3講座、2日目に4講座の講義を行い、その後の2日間に2テーマの実習を行っています。講義題目と講師(敬称略)は以下の通りです。
放射光発生の基礎(理研:金城良太)、X線光学の基礎(JASRI/兵県大:山崎裕史)、X線の強度を測る(東大:雨宮慶幸)、X線自由電子レーザー(理研:大和田成起)、回折・散乱の基礎と物質科学研究への応用(関学:水木純一郎)、X線分光の基礎(JASRI:水牧仁一朗)、軟X線を用いた分光・回折入門(東大:和達大樹)。
今年は夏の学校で初めて講義を行う方が3人おられ、全体に講師陣はかなり若返りました。このような専門外の学生も含まれる聴衆に講義をするのは慣れておられなかったと思いますが、いろいろな工夫のある熱心な講義をしていただきました。
また、2日目午前にはSACLAの見学、夜にはSPring-8蓄積リング実験ホールの見学を行いました。さらに3日目の夕方には、SPring-8蓄積リング収納部の見学が行われました。どれも案内者による丁寧な説明があり、施設の大きさや複雑さ、最新の装置技術は参加者に強い印象を与えたようです。特に普段は立ち入れない収納部の見学は、多くの参加者に新鮮なものだったようです。
実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。
BL01B1 | “その場”XAFS計測 |
(JASRI:宇留賀朋哉・新田清文・加藤和男・伊奈稔哲) | |
BL02B1 | 単結晶構造解析の入門 |
(岡山大:野上由夫、JASRI:杉本邦久・安田伸広) | |
BL07LSU | 推理の放射光元素分析 |
(東大:原田慈久・松田巖) | |
BL11XU | XAFSによる溶液内イオンの光酸化還元挙動解明 |
(JAEA:塩飽秀啓・矢板毅・小林徹) | |
BL13XU | サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 |
(JASRI/岡山大:木村滋) | |
BL14B2 | XAFS分析の基礎 |
(JASRI:本間徹生・高垣昌史・大渕博宣、JASRI/岡山大:廣沢一郎) | |
BL17SU | 軟X線でみる液体の世界 |
(理研:徳島高、理研/兵県大:山本雅貴) | |
BL19B2 | 粉末X線回折 |
(JASRI:渡辺剛・井上大輔・佐藤眞直、JASRI/岡山大:廣沢一郎) | |
BL20B2 | 放射光X線画像計測の基礎 |
(JASRI:上杉健太朗) | |
BL22XU | 高圧下における物質の状態変化 |
(JAEA:綿貫徹) | |
BL25SU | 高分解能軟X線光電子分光 |
(岡山大:横谷尚睦、JASRI:中村哲也・室隆桂之) | |
BL26B1 | 単結晶回折(タンパク質) |
(JASRI/理研/関学:熊坂崇、JASRI:奥村英夫) | |
BL26B2 | 単結晶回折(タンパク質) |
(理研:引間孝明・吾郷日出夫、理研/兵県大:山本雅貴) | |
BL40B2 | X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 |
(JASRI:八木直人・関口博史) | |
BL46XU | X線反射率 |
(JASRI:小金澤智之、JASRI/岡山大:廣沢一郎) |
写真1 講義風景
写真2 実習風景
写真3 懇親会風景
参加者は実習テーマの選択希望を出すことができますが、各ビームラインあたりの参加者数には限りがあり、すべての希望をかなえるのは無理でした。しかし、第1希望の実習は必ず受けられるよう工夫したので、特に強い関心を持っている実習は受けてもらえたはずです。もちろん参加者は専門外の講義や実習を受けることもありますが、実習担当の方々の努力もあって、十分に興味を持ってもらえたようです。学生時代になるべく広い範囲の研究に触れておくことの重要性はしばしば指摘されています。一般の講習会では得られないような広範な知識を得られる点こそが、夏の学校の大きな特長となっています。今年は実習ごとに実習可能な最大人数をあらかじめ確認して、その範囲内で参加者を配分しました。実習によっては実際に試料や機械に手を触れてみることが重要なこともあり、人数が多過ぎると教育効果に影響することがありますので、このような配慮は重要でした。
夏の学校の目的は放射光科学の勉強だけではなく、同世代の異なった研究分野の人たちとの交流を通じて知り合いの輪を広げ、将来の研究につなげることも重要です。初日には参加者の各1分間の自己紹介の後に懇親会があり、3日目には萌光館でのバーベキューもあって、教官と参加者が一緒になって会話を弾ませていました。参加者が将来の進路を決める時の参考になることと思います。
参加者が熱心に講義や実習を受け、また楽しんでいる様子からも、この夏の学校が有意義なものであったことは明らかでした。20人もの希望者の参加をお断りしなければならなかったことは残念でしたが、今年参加をお断りした学部4年生の方々には、来年申し込みがあれば優先的に参加していただく方針です。
今年の夏の学校は成功だったことは間違いありませんが、決してすべてについて満足できるものではありません。今後どのようにしてより多くの方に参加していただけるようにするか、博士課程前期の学生が主たる対象でよいのか、学生以外の方々の参加も可能とするか、主催大学の構成はこれでよいのか、など多くの検討事項が残されています。これらについては毎年実行委員会で議論されていますが、なかなか結論が出ません。今年特に顕著になってきた問題は、講義の講師が主に物理のバックグラウンドを持つX線発生・利用技術の専門家であるのに対し、参加者には化学や生物を専攻する学生が多く、講義を難解だと感じる人が増えてきたことです。放射光の利用分野が広がるにつれて避けられない問題ではありますが、今後の大きな課題となっています。
最後になりましたが、熱意のこもった講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を熱心に指導していただいた実習担当の皆様、分かりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、特にSPring-8蓄積リング収納部の見学を可能にしていただいたJASRI加速器部門の方々に感謝致します。また、事務局としてウェブ作成から懇親会・バーベキューのお世話までご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々にも感謝したいと思います。
写真4 記念写真
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