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Volume 20, No.1 Pages 12 - 15

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

長期利用課題報告 超伝導元素の極限環境における構造物性
Structural Study of Elemental Superconductor at Extreme Conditions

清水 克哉 SHIMIZU Katsuya

大阪大学 基礎工学研究科附属極限科学センター Center for Science and Technology under Extreme Conditions, Graduate School of Engineering Science, Osaka University

Abstract
 超伝導を示す元素の超高圧・極低温の極限条件下における構造を明らかにすることを目的とした。これは2010~2013年度にかけて実施した研究(以下、NEXT研究)(日本学術振興会(JSPS)最先端・次世代研究開発支援プロジェクト:全元素の超伝導化)の実施に伴ったものである。物質の基本となる元素において、その究極の姿(超伝導性・結晶構造)を探求することにより、超伝導をはじめとした現象の普遍性や未知の可能性を見出し、物質科学の新しい魅力によって将来の科学技術の発展につなげることを目指した。
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SPring-8

 

1. はじめに
 「超伝導」は低温で物質の電気抵抗がゼロになる究極の物理現象であり、新しい超伝導体の発見は学術的にも産業的にも大きなインパクトを生んできた。しかし、どのような物質が超伝導になるのか、室温で実用できる超伝導体が存在するのか、未だ明らかではない。理論的には原子番号1の水素が超高圧力状態で室温超伝導体になるとされるが、実験的な検証はなされておらず、これらは100年前の「超伝導」発見以来の課題である。NEXT研究の最終目標は全ての元素を超伝導化することであった。全元素のうち、半数が非超伝導元素である。その半数の残りの元素をくまなく調べ上げるという方法はとらず、元素の持つ様々な特徴を代表する性質を持つ、いわばマイルストーンとなるべき元素を5つ(水素、炭素、酸素、金、鉄)を選び、集中的にそれらの元素およびその関連元素の超伝導を研究した。これらの結果は図1に示すとおり、比較的高温の超伝導が元素でも発現することを発見したほか、周期表の端の元素の方が高い傾向を示すことなど、元素の超伝導性に普遍性や一定のルールが存在することを明らかにした。

 

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図1 元素の超伝導の立体周期表。柱の高さがその元素で観測された最高の超伝導転移温度を表す。

 

 

 本長期利用課題(以下、本課題)を総括して以下の3つの元素における成果と技術的開発の達成を挙げる事ができる。
(1)リチウムの再金属(超伝導)相の発見
(2)カルシウムの高温超伝導相の構造の解明
(3)金属水素流体の生成と相転移の検出
 高圧状態では試料の量が極めて微少であるため、高強度でかつ良く集光されたX線を用いる必要があった。この条件のもとで結晶構造の測定を行うが、それと同時に超伝導を始めとした物性測定を同時に行えるようにすることで極限環境下の測定におけるデータの信頼度を向上させた(図2)。

 

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図2 結晶構造と電気抵抗を始めとした物性測定を同時計測するための高圧装置(ダイヤモンドアンビルセル)の外観(左)とその内部の電極配置の模式図(右)。試料を対向する一組のダイヤモンドアンビルの間に挟み込み、高圧力を加えながら電気抵抗とX線回折を同時に測定する。

 

 

2. 実験の経過
 主な成果をその超伝導元素ごとに実験の経過と合わせて以下に記述する。
(1)リチウム
 我々は金属水素の模型として高密度リチウムの超伝導性を追求してきた。リチウムは最も基本的な金属元素であり、自由電子模型が良く当てはまるため、金属一般の物理的性質を理解する上でのモデル物質として重要な役割を果たしてきた。これまでに、圧力下では電気抵抗率が急激に上昇することや、20 Kに迫る高い超伝導転移を起こすことを発見している。さらに最近では、80 GPaにおいて金属から半導体に転移することも発見し、自由電子模型から外れた多彩な物性を示すことを明らかにしてきた。本課題においては、金属−半導体転移よりさらに高圧領域において、当初の目的であった金属水素の模型となるべき再金属化と再超伝導化を探索した。
 低温高圧力下において電気抵抗と結晶構造変化を同時測定した。結晶構造はこれまでに報告したとおりの変化を示したが、123 GPaで相転移を確認し、同時に電気抵抗測定からこの相が金属状態であること[1][1] T. Matsuoka, M. Sakata, Y. Nakamoto, K. Takahama, K. Ichimaru, K. Mukai, K. Ohta, N. Hirao, Y. Ohishi, and K. Shimizu: "Pressure-induced reentrant metallic phase in lithium" Phys. Rev. B 89 (2014) 144103.、さらには超伝導を示すことを発見した(図3)。
 本課題により、金属が圧力下で金属と半導体、そして超伝導体という性質の間を行き来する現象が実験的に明らかになった。基本的な金属元素であるリチウムの多彩な物性を手がかりに、金属一般についての理解がさらに深まることが期待される。

 

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図3 リチウムの電気抵抗の圧力変化(左上)と温度変化(右上)。FCCなどの記号は結晶構造を表し、点線はそれらの境界圧力。(下)Tcは超伝導転移温度。金属(青色)の低温領域に超伝導相(緑色)がある。80から120 GPaまでは半導体(黄色)でそれ以上の圧力下では再金属化して金属(青色)になる。再金属相にも超伝導相(もしくは低温相)がある可能性があり、その境界線を赤色線で示している。

 

 

(2)カルシウム
 カルシウムは圧力をかけることで、構造相転移をおこし、それとともに超伝導を発現する事が知られている。高圧力下ではさらに構造相転移を繰り返し、合計7つの結晶構造の存在が報告されている。これらの構造相転移のたびに超伝導転移温度は上昇し、最高圧相(VII相)では元素における最高温度(29 K)を示すことを我々は明らかにした[2][2] M. Sakata, Y. Nakamoto, K. Shimizu, T. Matsuoka, and Y. Ohishi: "Superconducting state of Ca-VII below a critical temperature of 29 K at a pressure of 216 GPa" Phys. Rev. B 83 (2011) 220512(R).。しかし、他の元素に比べて極めて高い理由は未だ明らかになっていない。この高温超伝導を示す結晶構造を明らかにするために、高圧粉末X線回折実験を行った。241 GPaにおいてVII相の単相の回折パターンを得ることに成功し、リートベルト解析により結晶構造モデルを作成し、DFT計算によりそのモデル安定性を評価した。既知のホスト−ゲスト構造のab面を2 × 2倍にしたモデルを作成し、ゲスト原子の原子座標を最適化したところ、実測の回折パターンを良くフィットできる構造モデルが得られた(図4)[3][3] H. Fujihisa, Y. Nakamoto, M. Sakata, K. Shimizu, T. Matsuoka, Y. Ohishi, H. Yamawaki, S. Takeya, and Y. Gotoh: "Ca-VII: A Chain Ordered Host-Guest Structure of Calcium above 210 GPa" Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 235501.
 結晶構造を元に超伝導転移温度の計算をすることで、超伝導と結晶構造の関連性解明に重要な情報を与えることが可能となる。従来よりも高い転移温度を持つ物質の設計への応用が期待される。

 

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図4 カルシウムの超伝導転移温度の圧力変化。他のアルカリ土類金属とともに示している。(カルシウム:オレンジ色、ストロンチウム:緑色、バリウム:黒色)。挿入図はホスト−ゲスト構造の構造モデル図。

 

 

(3)水素
 固体金属水素は、超高圧下に存在するとされ、また室温程度の高温超伝導体になると理論予測されて久しいが、実験的困難からその実験的検証は達成されていない。NEXT研究においてもその実現を目指したが、そもそも理論から必要と予測された超高圧力までの加圧は世界的にも未だ達成できていない。一方で、高温高圧下においては流体金属相が存在するとされている。将来の固体金属水素実現への技術的マイルストーンともなるべき技術開発として、ダイヤモンドアンビル中へのレーザー加熱による流体金属水素の生成とその検出を行った。
 水素は拡散性や反応性が非常に高い元素であるため、圧力発生に用いるダイヤモンドアンビルはチタンでコーティングし、レニウムガスケットの内壁を食塩で覆って水素との反応を防いだ。水素ガスを低温で液化し、レーザー吸収材の金箔とともに試料室内に封入した。加熱はBL10XUで行い、水素と金箔、ガスケットとの反応の有無を加熱前後のXRDおよび水素分子のラマンスペクトルから確認した。
 各圧力において水素のレーザー加熱実験を行った結果、レーザー出力と温度の比例関係に変曲点が見られた。これらの変曲点において金属流体水素が生成されたと考えられる。水素の相図上にこの変曲点を描くと理論計算や他の高圧実験と良く一致した(図5)。流体水素状態中に絶縁体−金属相転移が存在することを明らかにした。今後、より高圧・低温へこの測定を進めることで、固体金属水素へ迫ることができる。

 

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図5 水素の温度−圧力相図。実線は理論計算、記号は実験結果を示す。

 

 

3. まとめ
 本課題の成果は、NEXT研究において目標としていた、元素の超伝導化や高温超伝導の可能性と高圧力を使った物質機能開発法に、結晶構造データを加えることができた。これは高温超伝導体の製造やその他の機能開発においてより直接的に材料開発の指針を示すものである。同時に、未踏の高圧力における結晶構造を予測する理論の構築およびその精度向上に寄与する構造データを与えた。本課題と付随して行ってきたビームラインの高度化(低温下物性同時測定など)は、本課題の成果に限らず、他の課題においても利用され技術的波及に貢献している。
 元素といったシンプルな対象物の極限環境における結晶構造の計測は、今後も物質科学の重要な研究手法として位置づけられるばかりでなく、究極の省エネルギー材料や高機能の電子デバイスを実現する材料開発に広く応用され貢献するものと期待している。


謝辞
 本報告の成果は、日本学術振興会(JSPS)最先端・次世代研究開発支援プロジェクト(NEXT):全元素の超伝導化(GR068)を通じ、長期利用課題(課題番号2011B0038~2014A0038)により、SPring-8 BL10XUで得られたものである。

 

 

 

参考文献
[1] T. Matsuoka, M. Sakata, Y. Nakamoto, K. Takahama, K. Ichimaru, K. Mukai, K. Ohta, N. Hirao, Y. Ohishi, and K. Shimizu: "Pressure-induced reentrant metallic phase in lithium" Phys. Rev. B 89 (2014) 144103.
[2] M. Sakata, Y. Nakamoto, K. Shimizu, T. Matsuoka, and Y. Ohishi: "Superconducting state of Ca-VII below a critical temperature of 29 K at a pressure of 216 GPa" Phys. Rev. B 83 (2011) 220512(R).
[3] H. Fujihisa, Y. Nakamoto, M. Sakata, K. Shimizu, T. Matsuoka, Y. Ohishi, H. Yamawaki, S. Takeya, and Y. Gotoh: "Ca-VII: A Chain Ordered Host-Guest Structure of Calcium above 210 GPa" Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 235501.

 

 

 

清水 克哉 SHIMIZU Katsuya
大阪大学 基礎工学研究科附属極限科学センター
〒560-8531 大阪府豊中市待兼山町1-3
TEL : 06-6850-6675
e-mail : shimizu@stec.es.osaka-u.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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