Volume 29, No.1
Winter issue 2024
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
花王株式会社 研究開発部門 解析科学研究所
Kao Corporation, R&D - Core Technology, Analytical Science Research
- Abstract
- 頭髪の髪をめくりあげた内側に比べて表層の髪は顕著にうねりが多く、美髪を損ない様々な髪悩みに繋がる原因となっている。頭髪表層には紫外線や外力といった複数の外的要因が影響しやすいことに着目し、うねり発生の機構を調べた。分光的手法により毛髪内部の結合状態の経時変化を、マイクロビームX線散乱法により毛髪タンパク質の構造変化を詳細に解析した。その結果、紫外線の影響で切断された毛髪内部のジスルフィド結合が、外力の影響でひずんだ状態で再結合し、パーマに類似した機序でうねりが発生することが示唆された。ここではX線構造解析の内容について詳しく紹介する。
東京大学 工学系研究科 電気系工学専攻 スピントロニクス学術連携研究教育センター
The University of Tokyo, Department of Electrical Engineering and Information Systems, Graduate School of Engineering
- Abstract
- 強磁性体の磁化をサブピコ秒(サブps)の時間スケールで制御することは、スピン自由度を利用する超高速電子デバイスの実現につながることが期待される。これまでの磁化(スピン)ダイナミクス研究では、磁化の超高速制御は強磁性体のd軌道またはf軌道に多数のキャリアを光学的に励起することで実現されてきたが、ゲート電圧によって実現することは極めて困難であった。本研究では、s(またはp)電子の空間分布を決める波動関数を光照射による内部電界によって制御し、キャリア密度を変化させる必要のないサブpsで磁化操作する新しい方法(波動関数工学と呼ぶ)を実証した。具体的には、強磁性半導体(FMS)(In,Fe)As超薄膜を含むIII-V族半導体量子井戸構造にフェムト秒(fs)レーザパルスを照射し、量子井戸中の2次元電子の波動関数が急速に移動するときに、600 fsという先行研究の300分の1の非常に短い時間で磁化が増大することを観測した。この波動関数制御法は、ゲート電界の印加でも実現できるため、本研究の結果は、次世代エレクトロニクスに向けて超高速で動作する磁気メモリやスピンを用いた情報処理を実現する新しい道を開くものである。
[1](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN, SPring-8 Center、[2]東北大学 多元物質科学研究所 Tohoku University IMRAM
- Abstract
- 複雑な構造を持つ有機化合物では、X線回折に適したサイズの結晶の調製が難しいことがある。そこで、創薬、材料科学などの広範な分野で、小さな結晶から原子配置を決定することが重要になっている。私たちは、この問題の解決のために、X線自由電子レーザーを用いた低分子有機化合物の微小結晶構造解析法を開発した。実証実験では有機蛍光分子であるローダミン6Gの構造を、0.82 Åの空間分解能で決定できた。電子回折から得た構造と比較すると、どちらの構造も水素原子の位置を化学結合の種類に依存して正確に区別できることが分かった。両構造間の水素原子の測定距離の違いは、X線と電子線の散乱の特性を反映しており、また、原子座標の信頼性はXFELの方が高いが、電子線は電荷に対してより高い感度を示すことも明らかにできた。
2. ビームライン・加速器/BEAMLINES•ACCELERATORS
[1](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN, SPring-8 Center、[2](公財)高輝度光科学研究センター ビームライン技術推進室 Beamline Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[4](公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- SPring-8/SACLAにおいて開発と導入が進められてきた「ビームライン制御・データ収集・オンライン解析プラットフォーム:BL-774」は、2023年夏の時点で、SPring-8の5つのビームラインにおいて、光学機器の制御を含めたユーザー共用が行われている。ビームラインにおけるBL-774のシステム構成は、ネットワークの接続を含めてビームライン毎に完結的である。本稿では、特に実験制御用プログラムの作成・開発のあり方に着目し、現代に相応しいソフトウェア開発のコンセプトと、そのコンセプトを実現していくBL-774の基幹的なソフトウェア・システム「774 Basic System」を紹介する。774 Basic Systemは、実験制御用プログラムの作成段階ではロジックに関わる部分に注力できるよう、周辺のパーツがビームラインでの実験に適切な形、機能、規模で実装されていて、利用形態に沿って選択可能な複数のマイクロサービスとして提供される。今後、機能の拡張を図るとともに幅広いビームラインでの導入が進められていく見通しである。
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 企画室 Planning Office, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光推進室 Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
5. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/筑波大学 数理物質系物理学域 エネルギー物質科学研究センター Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba