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Volume 20, No.1 Page 1

理事長室から -国内の放射光施設を訪ねて-
Message from President – An Overview of Synchrotron Radiation Facilities in Japan –

土肥 義治 DOI Yoshiharu

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 我が国には主な放射光施設として8施設があり、全国に分布している。東から、高エネルギー加速器研究機構のPF(2.5 GeV, 22BLs)とPF-AR(6.5 GeV, 8BLs)[村上洋一施設長]、分子科学研究所のUVSOR(0.75 GeV, 12BLs)[小杉信博施設長]、愛知県のAichiSR(1.2 GeV, 6BLs)[竹田美和所長]、立命館大学のRits SR(0.575 GeV, 14BLs)[太田俊明センター長]、兵庫県立大学のNew SUBARU(1.5 GeV, 9BLs)[宮本修二所長]、広島大学のHiSOR(0.7 GeV, 13BLs)[谷口雅樹センター長]、佐賀県のSAGA-LS(1.4 GeV, 9BLs)[上坪宏道所長]、そして共用施設のSPring-8(8 GeV, 57BLs)とSACLA(8 GeV, 2BLs)である。昨年の4月から7月にかけて上記施設を訪ね見学して、運営責任者の方々から放射光施設の現状と課題を伺ったのちに、人材の育成や研究開発の推進にあたり、互いに協力できる施設連携の在り方について意見を交換した。その概要を利用者の方々に報告したいと思う。
 各施設の設立経緯、財政基盤、組織使命などは多様であり、施設の目指す方向も一様ではなく、PF・UVSORは大学共同利用施設、Rits SR・New SUBARU・HiSORは大学施設、そしてAichiSR・SAGA-LSは県営施設である。しかしながら、いずれの施設においても、SPring-8と同様に、研究成果の最大化を目指して学術利用と産業利用を戦略的に実行されていた。施設の使命によって、学術研究と産業利用研究に対するビームタイムの配分割合は異なっているが、各施設はそれぞれの光子エネルギーの特性を生かした特徴的なビームライン技術の開発を進めていた。エネルギー領域の異なる各施設を有機的に連携すれば、世界に誇る総合的放射光施設群が我が国に形成でき、利用研究者にとって利便性は極めて大きい。効果的な施設連携の在り方を考えながら、昨年10月に開催された第7回SPring-8萌芽的研究支援ワークショップにおいて大学院生たちの研究発表を聞いていたところ、5名の発表者のうち2名が複数の施設(Rits SRとSPring-8、SAGA-LSとSPring-8)を利用して研究を進めていることを知り、若き研究者の挑戦的な姿勢に感心した。
 放射光施設の産業利用連携は、平成25年度から文科省の支援により、光ビームプラットフォーム形成事業として、KEK-PFが代表機関となって実施されており、JASRIは産業利用に関して長年蓄積してきた経験をもとにこの連携事業に積極的に関与している。大学や研究機関の研究者の方々は、各施設のビームラインの特性を理解され、学術研究においても複数の施設を利用して優れた研究成果を創出されていることと思う。施設の責任者の方々と話し合い、次の事項を協力して進めることにした。

1.施設間で研究者・技術者の交流と移籍を促進するとともに、放射光分野の研究者・技術者の育成を協力して進める。

2.施設間で技術基盤の連携を促進し、技術の標準化を進めて、複数施設を利用する研究者の支援体制を強化する。

 各放射光施設は、それぞれの光子エネルギー領域において独自のビームライン技術の開発に努力されており、また施設の責任者の方々から将来の構想を聞き感銘を受けた。帰りの道すがら短歌を詠み手帳に記した。

 

若葉萌ゆる森を見渡す居室にて彼我の技術の意義論じ合ふ

雲雀啼く広き大学訪ねゐて山の辺に建つセンターに来つ

学術の斯界拓きし科学者は古稀過ぎてなほ世界と競ふ

木陰濃き研究所にて中庭に学問の香の漂ひ満つる

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794