Volume 20, No.3 Pages 261 - 263
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
最近/今後のSPring-8利用制度等の各種変更について
The Renewal Points of the Proposal Systems at SPring-8
SPring-8の利用者選定を行うJASRIは、SPring-8における利用研究成果の一層の創出を促進するため、また、各種利用ニーズに対応しつつ、結果として定期的に利用制度やその個別運用を変更している。以下に、最近および今後の各種新設・変更のポイントを記す。
1. 新規利用制度 1−(1) 社会・文化利用課題 2015A期~ 1−(2) 新分野創成利用 2015B期~ |
2. 運用変更 2−(1) 生命科学/タンパク質結晶構造解析分野の運用変更 2015A期~ 2−(2) 一般課題(産業利用分野)への課題申請要件の変更 2015A期~ 2−(3) 長期利用課題の運用変更 2015B期~ |
1. 新規利用制度
1−(1) 社会・文化利用課題 2015A期~
国費により整備・運営されるSPring-8においては、利用成果が広く国民に享受され、また、支持される研究活動を推進する観点も極めて重要である。
そのため、SPring-8にて実施される利用研究課題のうち、国民の関心や、社会的要請が高い事項に係る研究を推進するため、「社会・文化のための利用領域」を重点領域として設定した。これにより、利用研究の新規性や社会的意義等が、必ずしも既存の利用分野等に係る利用研究と同列の評価が得られる訳ではない利用研究を戦略的に推進するものである。
国民生活の安心・安全に関すること <課題・キーワード> 環境保全・除染、防災、土木、科学捜査、食の安全(産地判別技術) など |
文化的・知的関心に対応すること <課題・キーワード> 美術・芸術、文化財、考古学、古生物学(化石等)、宇宙科学 など |
国民の生活の向上に資する科学技術 <課題・キーワード> 食品科学(農・水・畜産物)、生活の科学 など |
○重点領域設定期間
2015A期から2016B期までの2年間(社会状況を鑑み、延長の可能性あり)
○配分ビームタイム
基本的に共用BL(産業利用に特化した3本を除く)が供出する全ユーザータイムの4%かつ当該各BLにおける全ユーザータイムの8%を配分上限とする。
○審査
社会・文化利用課題の特性(前述の利用研究の新規性や社会的な意義等が、必ずしも既存の利用分野等に係る利用研究と同列での評価が得られる訳ではない利用研究であること)を踏まえ、「社会・文化利用分科会」にて審査する。
○その他
重点課題における採択機会確保の観点から、他の領域指定型重点課題と同様、社会・文化利用課題として審査のうえ不採択となった場合は、自動的に一般課題で再度審査を行う。
1−(2) 新分野創成利用 2015B期~
利用研究成果創出を質的・量的に飛躍させるためには、既存の研究分野の枠を超えた複合・融合領域等における未踏領域の開拓・創成およびそれに伴う利用の裾野拡大が極めて重要である。
SPring-8が有するポテンシャルを最大限活かせるこれら未踏の研究領域を積極的に開拓・創成することを目的に、SPring-8共用BL(一部共用に供出している理研BLを含む)において、これまでの研究分野領域や仕組みとは一線を画す「新分野創成」利用制度を設定した。
○公募
「新分野創成」利用制度により未踏領域における新たな研究を展開しようとする研究グループを広く公募する。
研究グループは、
・代表責任者(=本利用申請者)
・分担責任者(=個別課題の実験責任者。本利用申請時に設定)
・共同実験者(有効期間内における個別課題実施時に任意に参画)
から構成され、研究グループの研究活動は提案された研究計画に基づいて行われる。
代表責任者は当該グループにおける新分野創成に係る研究計画(プログラム)全体を統括し、分担責任者は代表責任者の下で個別課題を実験責任者として実施する。なお、代表責任者は、新分野創成を効果的に推進するため、共同実験者の構成、および個別課題に関する柔軟性を確保するための裁量、すなわち利用BLおよびビームタイム配分に係る一定の裁量を有する。
○設定期間
設定期間(=研究グループ公募期間)は、原則5年間(5年目最終期の申請まで有効)とする。なお、当該制度自体の実施状況も踏まえ、以降の扱い(終了、延長または制度再設計等)を定める。
○グループの有効期間
各研究グループの有効期間は2年間(原則)とする。
○配分ビームタイム
基本的に各共用BL(産業利用に特化した3本を除く)が供出する全ユーザータイムの8%を、当該利用制度全体(注:各研究グループ単位ではない)の配分上限とする。
○審査
新分野創成利用審査委員会が審査を行う。審査基準は、通常の一般課題等における基準に以下を加える。
・新分野の創成が見込まれること
・申請グループ構成の新規性があること
・研究の持続的発展性が期待されること
・研究計画の人的・資金的な実行性およびそれを担保するマネジメント体制が妥当であること
○その他
実施研究グループ数を最大4件とする。また、募集は年一回(B期のみ)とし、選定は最大2件/年とする。
2. 運用変更
2−(1) 生命科学/タンパク質結晶構造解析分野の運用変更 2015A期~
放射光を活用したタンパク質結晶解析においては、結晶の作製の成否が研究の成否に直結している。
競争の激しい分野であるため研究の迅速性が重要であり、結晶が得られたのちに直ちに測定を行うことが要求されている。
一方で、約半年前にビームタイム(配分シフト数および利用時期)を決定する現行のSPring-8共用BL利用制度は、当該分野における研究の実情と要求に合致していない。
海外の放射光施設では、ビームタイム申請が随時可能で、申請後2週間から2ヶ月程度で測定ができる態勢が組まれているところが大半である。
従来から、SPring-8共用BLにおいてもタイムリーな測定を望む利用者が多い。これまでもSPring-8では、利用研究課題審査委員会(PRC)において生命科学(L1)分科会留保ビームタイムを設定して対応してきたが、その運用は偏向電磁石BLに限られており、利用率には改善の余地がある。このような状況に鑑み、SPring-8の共用タンパク質結晶構造解析BL(共用BL2本および一部ビームタイムを共用に供出する理研BL3本、計5本)に、より柔軟性の高い以下の利用制度を導入した。
○PRCは申請課題の優先順位のみを決定し、配分シフト数や利用BLは決定しない。従って、例えば科学技術的妥当性の不適(全く同一のタンパク質の結晶構造が既に報告されている)等を除き、相対評価による不採択はない。
○課題の有効期間は1年とする。測定対象タンパク質を特定しないような包括的申請は認めない。
○ビームタイム配分(シフト数および日時)は、年4回(おおよそ3月、5月、8月、10月)実験責任者に希望を聞き、課題の優先順位に基づいて、PRC L1分科会委員および施設側スタッフで構成するビームタイム配分会議で決定する。
○課題申請時にはBLの指定は不可とする。ビームタイム希望時には、BLに希望順位をつけられるが、偏向電磁石BLは一括りとする。BLの配分は、該当課題の優先度と必要性を鑑みて、ビームタイム配分会議で決定する。
○ビームタイム配分は、BL41XUでは0.5シフト単位、BL38B1、BL26B1/B2、BL32XUでは1シフト単位とする。
2−(2) 一般課題(産業利用分野)への課題申請要件の変更 2015A期~
産業利用に特化したSPring-8の共用BL(BL19B2、BL14B2、BL46XU)を中心に実施した重点産業利用課題(2007~2011年度)においては、それ以前に実施した戦略活用プログラムにおいて拡大した産業界ユーザーの定着と産学官連携促進を目的としたため、産業界だけでなく大学等の公的研究機関に所属する者が実験責任者として課題申請することを認めていた。
2013年には、産業界所属実験責任者による成果を専有した実施課題数が、非専有課題を含む全実施課題数の63%を占めるまでになった。このように産業界の定着ユーザーの利用形態が成果専有課題に重点が移りつつある一方、成果非専有の一般課題(産業利用分野)を利用する産業界ユーザーの割合が漸減、大学等の公的研究機関による利用が次第に増加し、研究グループに産業界ユーザーを含まない課題が増えてきた。
産業利用分野の課題は、産業基盤技術の発展と社会経済への寄与が期待できる課題である。これら発展と寄与は、いずれも産業界の活動により実現されるものであることから、産業界ユーザーを含まない研究グループによる課題の増加は適切とは言えない。そこで、2015A期より、“研究グループに産業界およびそれに準ずる機関に所属する者を有すること”を、成果非専有の一般課題(産業利用分野)への申請要件に加えることとした。
○研究グループの要件
実験責任者、もしくは共同実験者に、
・民間企業
・産業界に準ずる機関である公設試験場または民間企業からの委託試験・研究を主な事業とする財団/社団法人
に所属する者が1名以上含まれること。
*注 要件に満たない例:大学(私立大学含む)、独立行政法人、特殊法人、公社に所属する者(単独またはこれら所属者の組み合わせ)の研究グループのみ。
2−(3) 長期利用課題の運用変更 2015B期~
SPring-8共用BLにおいては様々な利用制度が導入されるに伴い各分科会において審査対象となる一般課題(成果非専有)および重点課題に配分できるビームタイムが厳しくなっている。特にその大きな原因となっている長期利用課題の運用を見直すことで、一般課題(成果非専有)等へ配分できるビームタイムの確保を目指す。
○課題有効期間を3年(6期)から2年(4期)へ変更*する。
○複数BL併用課題の場合においても、1課題あたりのビームタイム配分は利用BL本数に限らず合計16%を上限とする*(これまでは、利用BL × 16%が上限)。
○新規公募は年1回、各A期から始まる課題のみとする*。
○長期利用課題およびパートナーユーザー課題のいずれか2課題以上(同種課題が2課題以上も含む)を既に受け入れているBLでは、新規の長期利用課題の募集対象外とする*。
* 2016A期募集以降の新規採択課題より適用する。
なお、当該長期利用課題の運用については、今後も必要に応じてPRC長期利用分科会等々において議論する。
以 上
公益財団法人
高輝度光科学研究センター 利用推進部
TEL:0791-58-0961
e-mail : sp8jasri@spring8.or.jp