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Volume 20, No.1 Pages 66 - 68

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

The 8th Asia-Oceania Forum for Synchrotron Radiation Research (AOFSRR) Cheiron School 2014

原田 慈久 HARADA Yoshihisa

東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo

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SPring-8 SACLA

 

1. AOFSRRとCheiron Schoolの歩み
 日本は、PF、UVSOR、HiSOR、SPring-8、ニュースバル、立命館大学SRセンター、佐賀シンクロトロン、あいちシンクロトロンなど、極めて多くの放射光施設と1万数千人規模の放射光ユーザーを抱え、放射光大国と呼ばれている。日本において放射光は、基礎科学から先端物質開発等の応用まで幅広く科学コミュニティに浸透し必要不可欠な存在となっている。一方、アジア・オセアニア地域では、オーストラリアのAustralian Synchrotron、台湾のTLS/TPS、韓国のPLS、中国のSSRF/BSRF/NSRL、タイのSIAM、シンガポールのSSLS、インドのINDUS I, IIと各国の放射光施設の整備が進んでおり、2014年大晦日には台湾の次世代リングTPSでfirst lightが捉えられたという知らせも届いた。アジア・オセアニアにおいても放射光は必要不可欠なツールとして認識され、欧米諸国の放射光施設がそうであったように、国家間の垣根を越えてユーザーが行き来する時代が到来しつつある。
 この状況下、日本はアジア・オセアニア地域において放射光科学のリーダーシップを執る使命を負っている。そこで、日本放射光学会が中心となって各国に呼びかけ、2006年にAsia-Oceania Forum for Synchrotron Radiation Research(以下、AOFSRR)が結成された。その活動目的はアジア・オセアニア地域における放射光の研究連携と若手人材育成であり、主たる活動はワークショップと放射光スクールの開催である。ワークショップではアジア・オセアニア地域の放射光科学の現状と将来について情報交換を行い、施設を持たない地域との研究協力について話し合い、毎回アジア・オセアニア地域の放射光科学の推進を後押しする内容の“コミュニケ”を採択している。放射光スクールはアジア・オセアニア地域の若手研究者や技術者を集めて、放射光の座学から実地演習まで、全てのことを学べる場となっている。アジア・オセアニア地域において将来の放射光科学を支え、開拓してゆく人材を育成するというイメージは、ギリシャ神話に出てくる半人半馬の怪物であるケンタウロス族の賢者であるケイロン(Cheiron)に通じる。ケイロンは、ヘラクレスには武術、アスクレピウスには医術、カストールには馬術を授けるなど、各人に適した知識、技術を与えた不死の存在であった。そこでこの放射光スクールは“Cheiron School”と名付けられて、今に至っている。
 Cheiron Schoolは、AOFSRR発足の翌年、2007年から理研、高エネ研、JASRIの共催により毎年SPring-8で開催されており、今年で第8回目を数える。参加者はAOFSRRに加盟する各国の若手研究者の中から5名前後が選ばれ、この他に特別推薦枠がある。日本からの参加者も毎年10数名あり、全体で60~70名前後の参加者数となっている(表1参照)。今年度はアフリカ地域の3名の学生を加えて(図1参照)、参加者数76、参加国15と、ともに過去最大となった。

 

表1 Cheiron School参加者数と参加国の推移

開催日 参加者 参加国 国名
第8回 2014/9/23~10/2 76 15 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本・ニュージーランド・マレーシア・ベトナム・インドネシア・アルジェリア・カメルーン・南アフリカ
第7回 2013/9/24~10/3 67 11 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本・ニュージーランド・マレーシア・ベトナム
第6回 2012/9/24~10/3 59 11 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本・ニュージーランド・マレーシア・ベトナム
第5回 2011/9/26~10/5 65 11 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本・ニュージーランド・マレーシア・ベトナム
第4回 2010/10/9~18 68 11 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本・ニュージーランド・マレーシア・ベトナム
第3回 2009/11/2~11 55 9 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本・ニュージーランド
第2回 2008/9/29~10/8 66 9 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本・ニュージーランド
第1回 2007/9/10~20 48 8 オーストラリア・中国・インド・韓国・シンガポール・台湾・タイ・日本

当初、加盟8カ国で始まったCheiron Schoolは、その重要性が認識されて徐々に参加国数、参加者数が増えている。

 

 

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図1 AOFSRR 2014は、IYCrの援助を受けてJoint Workshopとして開催され、UNESCOから推薦された3名の学生が南アフリカ、カメルーン、アルジェリアから特別推薦枠で参加した。

 

 

 Cheiron Schoolには放射光のイロハを学ぶ座学(講義)と実地演習(ビームライン実習)があり、さらに“Meet the experts”と呼ばれる、少人数のクラスに分かれて専門家と直に話をする時間が用意されている。講義はAOFSRR加盟国のみならず、世界中で放射光科学を牽引する話し上手な専門家たちを講師に迎えている。内容は放射光の歴史に始まり、発生原理(偏光電磁石、アンジュレータ)からビームラインまで、光を作り、取り出すところの話があって、X線コヒーレンス、X線結晶構造解析、粉末構造解析、XAFS、X線顕微分光法、赤外分光、X線小角散乱、軟X線分光、原子分子分光など、光の利用に関する幅広い内容が網羅されている。1科目が80分前後で全24科目もあり、放射光についてこれほど一気に学べる場は他にはないだろう。まだSPring-8サイトにXFEL光源のなかった第一回目(2007年)からXFELに関する講義もあり、今は座学の後に対応する施設としてSPring-8とSACLAの両方の見学がセットされている。ビームライン実習は最後の方の2日間の日程で組み込まれている。各自が選んだ2つのテーマをもとにビームラインが割り振られ、実際にビームを用いた実験を体験することができる。

 

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図2 Cheiron School 2014の講師陣

 

 

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図3 2日目に行われたSACLAの見学ツアーの様子

 

 

 この他、初日には各参加者が工夫を凝らしたスライドとともに自分をアピールする自己紹介タイムとウェルカムレセプション、最終日前日にはフェアウェルレセプション、中日にはティーセレモニー、丸一日かけて文化交流のための京都エクスカーションの企画があり、参加者同士が交流を深めるための仕掛けが多数用意してある。最終日のフェアウェルレセプションで、約10日間のプログラムを終えて強い絆で結ばれた多国籍の若者たちがアルコール片手にエキサイトする姿を見ていると、まさに今、日本でアジア・オセアニアの放射光科学の将来を牽引する若者たちが育っているのだという気持ちにさせられる。この光景を見た日本の若手研究者や学生たちは少なからず刺激を受けると言う。彼らが将来のアジア・オセアニア地域の放射光科学を支えてゆくものと期待される。
 次に、実際にCheiron School 2014に参加した日本人研究者(九州大学大学院 総合理工学府 博士課程2年、内山智貴氏)の生の声をお届けする。

 

 

2. 参加者の声 ~ Cheiron School 2014を終えて ~
 「とんでもない世界に足を踏み入れてしまった。」2011年11月に私(当時修士1年)が初めてSPring-8 BL14B2で実験を実施した時に思ったことです。実験中は見たことがない名詞・聞いたことがない言語が飛び交い、試料交換作業と睡魔との戦いで精一杯だったのを覚えています。Cheiron Schoolに参加することは放射光実験を始めた当初の私の目標の1つでした。
 今日まで放射光施設で実験した回数は30回を超え、今では実験責任者として実験を行い、さらには後輩を指導する立場になりました。この3年間の放射光実験で専門とするX線吸収分光法(XAS)のみならず、放射光の発生から光学技術まで第12回SPring-8夏の学校、学会発表、インターンシップを通じて学び、専門家の方々と十分に議論できるまでに自らを高められたと考え、第8回Cheiron Schoolに参加するに至りました。放射光発生の原理から応用までそれぞれの分野の専門家から講義を受けることができ、さらに、世界最高性能を誇る放射光を利用した実習に参加することができる本プログラムは、今後XAS以外の分析も将来視野に入れている私にとって絶好の機会でした。講義において英語は何ら障害にはなりませんでしたが、やはりここまで専門性が高まると分野の壁が立ちはだかり、ついて行くので必死でした。しかし不思議とそれが一切苦痛ではなく、いつもの大学の居室とはまた違う雰囲気も幸いしてか、むしろ未知の分野に対する新鮮な感覚を覚えました。ビームライン実習では以前から興味があったBL27SU(軟X線XAS)とBL46XU(硬X線光電子分光)で貴重な経験をさせていただきました。また、他大学の学生・海外の学生・研究者と交流を持つことができることもCheiron Schoolの魅力の一つでした。海外の放射光施設のビームライン担当者の方も参加されており、Cheiron Schoolのレベルの高さを窺い知ることができました。確かにカリキュラムは(毎日深夜までの酒宴も含め)放射光実験さながらのハードなものでしたが、研究分野に違いはあるものの、放射光という同じ共通項を持った研究者の方々と情報交換できるのは、非常に有意義で見識も広がったように感じます。彼らとはCheiron School終了後も手紙やSNSで連絡を取り合ったり情報交換を行ったりしています。
 今回のCheiron Schoolは、私の狭くて深い知識に幅とさらなる深みを持たせるためのきっかけを与えてくれる最高の機会でした。また、3年前のあの時初めてSPring-8に足を踏み入れた時からの成長を改めて実感できる機会でもありました。そして今回を機に国内外に多くの友人を持つことができたのも大きな収穫でした。
 最後に、第8回Cheiron School期間中は実行委員の方々や講師の先生方、ビームライン担当者の方々に大変お世話になりました。改めて感謝申し上げます。また、特別推薦枠として放射光学会には交通費等の経済的支援をいただきましたこと感謝申し上げます。

 

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図4 日本・オーストラリア・ニュージーランドチームと放射光普及棟の前にて。
(一番左が内山氏、写真提供:内山智貴氏)

 

 

 

原田 慈久 HARADA Yoshihisa
AOFSRR Secretary General(2015年1月~)
東京大学物性研究所 極限コヒーレント光科学研究センター
軌道放射物性研究施設
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1 蓄積リング棟A28
TEL : 0791-58-1973
e-mail : harada@issp.u-tokyo.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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