Volume 28, No.2
Spring issue 2023
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
九州大学 大学院理学研究院 化学部門 Faculty of Science, Kyushu University
- Abstract
- 日本酒の劣化臭の原因となる硫黄化合物、1,3-ジメチルトリスルファン(DMTS)を選択的に除去するシリカ担持金ナノ粒子吸着剤の調製法として、種々のアミノ酸を配位子とした金錯体を合成し、これを前駆体とした含浸法を用いた。これまで報告してきた金-β-アラニン錯体よりも、空気中での安定性が高く、取り扱いが容易な金―トリプトファン錯体を前駆体とした際の焼成過程において、in situ Au LIII-edge XAFSと質量分析を同時測定し、焼成ガス雰囲気、焼成温度などの調製条件を最適化した。空気下焼成では、金錯体の還元に350°C、また配位子の分解除去に400°C以上を必要としたが、水素/窒素混合ガス下とすると、300°C以下で金錯体の還元、分解が完了した。得られた金粒子径は1.7 nm ± 0.6 nmとなり、粒子径増大の抑制と配位子分解除去の両方が達成されたことで、高いDMTS吸着性能を得ることができた。
[1]東京大学 先端科学技術研究センター Research Center for Advanced Science and Technology, The University of Tokyo、[2](国)理化学研究所 放射光科学研究センター 利用システム開発研究部門 SACLAビームライン基盤グループ ビームライン開発チーム RIKEN SPring-8 Center、[3]東京大学 物性研究所 Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo
- Abstract
- ウォルターミラーは、ハイスループットかつ色収差なく軟X線ナノ集光・結像が可能な光学素子である。従来作製困難とされてきたウォルターミラーの製造プロセスを確立し、軟X線ナノ集光・結像システムをSACLA BL1に整備した。集光システムでは330 × 540 nmの領域に集光することで1016 W/cm2を超える軟X線高強度場を生成し、非線形光学現象の観測を可能としている。結像システムではシングルショット撮影による空間分解能500 nmの透過像撮影が可能である。本稿では、集光・結像装置の概要と性能について報告する。
[1]大阪大学 大学院基礎工学研究科 Graduate School of Engineering Science, Osaka University、[2]Academia Sinica, Taiwan、[3]Department of Chemistry, National Taiwan University、[4]Department of Chemistry, Philipps University Marburg, Germany、[5]Institute of Biological Chemistry, Academia Sinica, Taiwan、[6](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center、[7]東京大学 大学院農学生命科学研究科 Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
- Abstract
- フラビン補酵素はさまざまな生体内酸化還元反応において普遍的に用いられている。フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を有するDNA光回復酵素は、DNA修復反応およびFADの光還元反応に青色光を用いる。後者の反応では、FADへの2回の電子移動反応およびプロトン化が起こることで、DNA修復活性を有する酵素状態が形成される。本研究では、光還元における電子移動反応に続くナノ秒~マイクロ秒におけるFADおよび周辺アミノ酸側鎖の動きを記述するため、SACLAにて時分割シリアルフェムト秒X線結晶構造解析を実施した。その結果、光回復酵素・クリプトクロムスーパーファミリーが持つFAD近傍に存在するAsn側鎖およびArg–Asp塩橋が、FAD還元反応に伴う構造変化およびプロトン化を制御することを見出した。
[1]東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻 Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo、[2]東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology
- Abstract
- 我々のグループでは、金属イオン(M)と有機分子(L)の配位結合形成に基づく、配位駆動自己集合によるナノサイズ中空構造のデザインと機能創出を探究してきた。本稿では最近の成果から、(i)我々が開拓してきたMnL2n型球状錯体を用いたタンパク質の1分子閉じ込めへの応用、(ii)ペプチドのフォールディング集合を操ることで実現した種々のトポロジーを示す巨大空孔性構造の創出、および(iii)複数の配位結合協働による新たなナノサイズ空孔構築を取り上げ、未踏構造・機能の創出に向けた進展について紹介する。
[1]北海道大学 大学院工学研究院 機械・宇宙航空工学部門 Division of Mechanical and Aerospace Engineering, Hokkaido University、[2]北海道大学 大学院工学院 機械宇宙工学専攻 Division of Mechanical and Space Engineering, Hokkaido University、[3](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- 本研究は、高強度金属材料における超高サイクル疲労の支配因子である材料内部に発生する微小き裂の非破壊観察を目的とした。ビームラインBL20XUに設置できるその場疲労試験システムを開発し、2相チタン合金((α+β)型Ti-6Al-4V)、単相チタン合金(β型Ti-22V-4Al)および超高張力鋼(SUS630)を対象として、疲労試験とマルチスケールX線CT(マイクロCTおよびナノCT)による撮像を繰り返した。その結果、3種類の材料すべてに関して、数~数十µmの内部微小き裂を検出し、その発生位置の特定や進展速度の計測に成功した。特にチタン合金では、き裂の発生・進展過程と基地組織との関係を明らかにした。超高張力鋼では、X線透過率の制限によりマイクロCTのみによる観察を行ったが、き裂が材料内部の数µmの非金属介在物から発生し、負荷方向に対して垂直に開口形で進展する様子を明瞭に捉えることができた。
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 Department of Earth and Planetary Science, Graduate School of Science, The University of Tokyo
- Abstract
- 蛍光X線(XRF)分析やX線吸収微細構造(XAFS)分析をマイクロ/ナノメートルのサイズに集光したX線ビームを用いて行うµ-XRF-XAFS法は、宇宙地球化学試料中の微量元素マッピングや局所化学種分析法として重要な位置を占めている。しかし、依然問題なのが計測目的である極微量元素の微弱XRFに対するそれ以外の元素などからの背景X線(XRFや散乱X線)の妨害である。本課題ではこの解決のため、(i)高エネルギー対応の集光光学系、(ii)これまで硬X線領域でのXRF法や蛍光XAFS法への本格利用がなかった高エネルギー分解能を持つ超伝導転移端検出器(TES)、の2つの革新的技術を用いて、極微量元素の超高感度µ-XRF-XAFS法を実現し、新規性の高い宇宙地球化学研究を推進した。またTESを用いた蛍光分光分析による高エネルギー分解能蛍光検出(HERFD)-XANESなどが今後可能であることも示した。そして、その応用によりリュウグウ試料や隕石試料の分析などの「夢」のある研究と、希土類元素(REE)資源の形成過程や福島第一原発事故で放出された放射性セシウムの環境挙動解明などの資源・環境分野における「役に立つ」研究の両方に貢献する成果を得た。
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター/東北大学 多元物質科学研究所/東京大学 大学院工学系研究科 International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS), Tohoku University / Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials (IMRAM), Tohoku University / School of Engineering, the University of Tokyo
- Abstract
- ミリ秒オーダー時間分解能、10 μmオーダーの空間分解能の時空間領域は、ニーズにマッチしているにもかかわらず、これまで未開拓の領域であった。本稿では、我々が最近開発した放射光マルチビーム光学系による試料回転なしミリ秒時間分解能X線CTの現状について紹介する。SPring-8 BL28B2の偏向電磁石から生じる白色放射光用に開発したπ偏光型マルチビーム光学系により、時間分解能0.5 msの4DX線CTの原理実証に成功した。σ偏光型のマルチビーム光学系についても開発を進めた結果、マイクロ秒オーダーのマルチビームCTやXAFS CTも視野に入ってきた。本稿の技術の応用は多岐にわたり、材料破壊、液体や粘弾性体の挙動、昆虫などの生きた生物(バイオミメティクス)、機械加工、摩耗・摩擦など、学術研究から産業応用まで様々な展開が期待されている。
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/近畿大学 理工学部 理学科 化学コース Department of Chemistry, Faculty of Science and Engineering, Kindai University
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SPring-8利用研究課題審査委員会 委員長/関西学院大学 工学部 School of Engineering, Kwansei Gakuin University
[1]SPring-8利用研究課題審査委員会 小角・広角散乱分科会主査/京都大学 化学研究所 Institute for Chemical Research, Kyoto University、[2]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(単結晶)分科会主査/筑波大学 数理物質系 Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba、[3]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(粉末)分科会主査/東京工業大学 理学院 School of Science, Tokyo Institute of Technology、[4]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(汎用・構造評価)分科会主査/千葉大学 大学院工学研究院 Graduate School of Engineering, Chiba University、[5]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(高圧)分科会主査/東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo、[6]SPring-8利用研究課題審査委員会 汎用XAFS・汎用MCD分科会主査/慶應義塾大学 理工学部 Faculty of Science and Technology, Keio University、[7]SPring-8利用研究課題審査委員会 先端X線分光分科会主査/東北大学 多元物質科学研究所 Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials, Tohoku University、[8]SPring-8利用研究課題審査委員会 光電子分光分科会主査/東京理科大学 先進工学部 Faculty of Advanced Engineering, Tokyo University of Science、[9]SPring-8利用研究課題審査委員会 赤外分光分科会主査/東北大学 金属材料研究所 Institute for Materials Research, Tohoku University、[10]SPring-8利用研究課題審査委員会 イメージング分科会主査/北海道大学 大学院工学研究院 機械・宇宙航空工学部門 Division of Mechanical and Aerospace Engineering, Graduate School of Engineering, Hokkaido University、[11]SPring-8利用研究課題審査委員会 非弾性散乱分科会主査/名古屋工業大学 大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology、[12]SPring-8利用研究課題審査委員会 構造生物学分科会主査/岡山大学 学術研究院医歯薬学域 Faculty of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, Okayama University、[13]SPring-8利用研究課題審査委員会 産業利用分科会主査/(公財)佐賀県産業振興機構 九州シンクロトロン光研究センター SAGA Light Source, Saga Industrial Promotion Organization、[14]SPring-8利用研究課題審査委員会 人文・社会科学分科会主査/山陽学園大学/林原美術館 Sanyo Gakuen University / Hayashibara Museum of Art、[15]SPring-8利用研究課題審査委員会 長期利用分科会主査/東京大学 大学院新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/電気通信大学 レーザー新世代研究センター Institute for Laser Science, The University of Electro-Communications
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
4. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/筑波大学 数理物質系物理学域 エネルギー物質科学研究センター Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba