Volume 27, No.4
Autumn issue 2022
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター Geodynamics Research Center, Ehime University
- Abstract
- SiO2は地球に最もありふれた物質の一つであり、その液体・ガラスの構造と特性の理解は、地球内部におけるマグマの理解から、我々の日常で利用するガラス材料の理解など、様々な科学・技術分野において重要視されている。特に、SiO2液体・ガラスは圧力下において異常な密度変化や圧縮率変化をすることが知られており、そのようなSiO2の特異な物性のメカニズムを理解することは、物理学、地球科学、材料科学などの幅広い学術分野における重要課題である。本研究では、SPring-8のBL05XU、BL37XUビームラインにおける高強度の高エネルギーX線を活用することにより、高圧その場環境下において精確にSiO2ガラスの構造を測定する手法を開発した。そして、得られた実験結果と逆モンテカルロ解析、分子動力学シミュレーションを組み合わせることにより、SiO2ガラスにおける四面体構造の存在とその高圧下における崩壊を実験的に捉えることに成功した。
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- X線自由電子レーザー(XFEL)の可能性を広げるために、我々はSACLAにおいてセルフシードXFELや2色ダブルパルスXFELなどの新しい運転モードの開発やその応用研究に取り組んできた。本稿では、これらのユニークな運転モードの原理や光特性、および高強度X線科学への応用について紹介する。
自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター Research Center of Integrative Molecular Systems, Institute for Molecular Science
- Abstract
- シアノバクテリアの概日時計は、時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiCによって構成される。ペースメーカーとして働くKaiCは、N末端側のC1ドメインにてATP加水分解反応を触媒して時計システム全体のペースを決定し、C末端側のC2ドメインではリン酸化・脱リン酸化によりサイクル反応を進行させる。C1ドメインとC2ドメインの間には、密接な連携メカニズムが存在すると長年考えられてきたが、リン酸化サイクル反応におけるC2ドメインの構造変化の全容が解明されていなかったために、その仕組みは明らかになっていなかった。
SPring-8において構築したKaiC結晶構造ライブラリーに基づき、リン酸化サイクル反応全体を原子分解能で可視化することによって、リン酸化部位の状態に依存して二次構造が転移するスイッチ機構を見出した。このリン酸化スイッチ機構は、C1ドメインのATP加水分解反応によって生じる構造変化と連携していた。この2つのドメインにまたがって、それぞれのサイクル反応を統合するアロステリックな分子構造変化は、「概日周期をもった振動性」をはじめとする概日時計の機能に必須であった。
[1]九州大学 工学研究院 機械工学部門 Faculty of Engineering, Kyushu University、[2]京都大学 工学研究科 材料工学専攻 Faculty of Engineering, Kyoto University、[3](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[4]岩手大学 理工学部 物理・材料理工学科 Faculty of Science and Engineering, Iwate University
[1]広島大学 大学院先進理工系科学研究科 Graduate School of Advanced Science and Engineering Hiroshima University、[2]大阪公立大学 大学院理学研究科 Department of Physics, Graduate School of Science, Osaka Metropolitan University、[3]筑波大学 数理物質系物理学域 Department of Physics, Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba
[1]東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart, Tohoku University、[2]住友ゴム工業株式会社 研究開発本部 分析センター Chemical Analysis Center, Research & Development HQ., Sumitomo Rubber Industries, Ltd.、[3](公財)高輝度光科学研究センター 情報技術推進室 Information-Technology Promotion Division, JASRI、[4](公財)高輝度光科学研究センター ビームライン技術推進室 Beamline Division, JASRI、[5](国)理化学研究所 放射光科学研究センター 次世代検出器開発チーム Advanced Detector Development Team, RIKEN SPring-8 Center、[6](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光推進室 Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- 本研究課題では、SPring-8 BL27SUにおいてテンダーX線タイコグラフィ計測の基盤技術の開発に取り組んだ。装置恒温化、ピンホールの精密加工、画像検出器SOPHIAS-Lの導入、照明光学系の改良など様々な技術開発を行うことで計測精度が向上し、テンダーX線タイコグラフィ計測システムを世界で初めて確立することに成功した。また、同計測システムを用いてTaテストチャートの測定を実施することで、幅50 nmの構造を観察できることを示した。さらに、硫黄(S)のK端近傍において、硫黄変性ポリブチルメタクリレート粒子を測定することで、粒子内の硫黄化学状態を非破壊で可視化することに成功した。今後、開発したテンダーX線タイコグラフィ計測システムを活用した様々な応用研究への展開が期待される。
2. ビームライン/BEAMLINES
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 構造生物学推進室 Structural Biology Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- タンパク質結晶構造解析では、世界中で回折データ収集の自動化が進められている。SPring-8構造生物学ビームラインにおいても自動測定の開発が進んでおり、BL32XUにおいて開発されたZOOシステムによる自動測定は、結晶の形状や数により、(1)ループ内の複数結晶からsmall-wedge(10°程度)のデータを測定する「small-wedge synchrotron crystallography(SWSX)」、(2)結晶への照射位置を移動しながら測定する「Helical」(3)単点露光データ収集「Single」の測定などを選択できる。凍結した単結晶からのデータ収集においては、吸収線量と放射線損傷、得られるデータ精度の議論が多くなされて、ある程度コンセンサスができつつある。しかし、複数のタンパク質の微小結晶から得られたsmall-wedgeデータをマージして完全データを得るSWSXでは、X線の吸収線量をどの程度まで制限すれば高精度な解析ができるか系統的な調査報告がなかった。そのため我々は、SWXS測定における高精度、高効率なデータ取得の最適な吸収線量の条件を調査し、マージによる吸収線量の平均化の効果を明らかにすることができた。さらに、シグナル量と放射線損傷の効果の低減のバランスが重要であることを示し、特に位相決定などの高精度データを必要とする場合には、1結晶あたり吸収線量5 MGyでの測定を提案できた。
[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2]近畿大学 理工学部 理学科 化学コース Department of Science, Faculty of Science and Engineering, Kindai University
- Abstract
- SPring-8単結晶構造解析ビームラインBL02B1では、高エネルギーX線を活かした電子密度レベルの精密構造解析が可能である。BL02B1では、大量の試料を高速に測定するハイスループット測定の需要が高まっており、単結晶構造解析測定の全自動化に向けて開発を進めている。多種多様な試料や実験条件に対応するため、試料環境や試料形状に依存しない自動測定システムの開発に取り組んでいる。測定の全自動化のためには、①試料の搬送と回折計への取り付け、②回折計の回転中心への単結晶試料の位置調整、③回折計の自動制御の3つを行うためのプログラムがそれぞれ必要となる。本稿ではこれら3つについての開発の現状について紹介する。
(公財)高輝度光科学研究センター ビームライン技術推進室 Beamline Division, JASRI
- Abstract
- SPring-8の大きな特徴の一つである100 keV前後の高エネルギーX線は、物質の透過能が高く金属内部の観察など利用分野は多様である。分光にあたり結晶では高次の反射面を用いることになり、エネルギー幅が必要以上に狭くなりすぎフラックス低下が課題である。エネルギー幅を結晶と比べ2桁以上広く設計可能な多層膜素子を用いた多層膜分光器は、試料を明るく照明可能な分光手段である。一方、高エネルギーX線用多層膜分光器をビームラインに導入するには、分光器の大きさや多層膜素子の精度などいくつかの考慮すべき技術課題がある。本稿では多層膜分光器の設計例を示し、最近、利用可能となった偏向電磁石ビームラインBL20B2とアンジュレータビームラインBL05XUにおける多層膜分光器の導入例を紹介する。
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 精密分光推進室 Precision Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター Materials Sciences Research Center, Japan Atomic Energy Agency
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/近畿大学 理工学部 理学科 化学コース Department of Science, Faculty of Science and Engineering, Kindai University
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
5. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba