Volume 18(2013)
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1]Department of Chemistry, Stanford University, [2]Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
- Mononuclear and binuclear non-heme iron enzymes are found in numerous aerobic organisms and perform an array of different chemistries, which are significant in the development of drugs and industrial catalysts. The goal of this research is to understand mechanisms by which the iron cofactors of these enzymes activate O2 to perform the diverse chemistries. Recently, the first structural elucidation of the key reactive Fe(IV)=O intermediate of a mononuclear non-heme iron enzyme SyrB2 has been achieved by utilizing nuclear resonance vibrational spectroscopy (NRVS), and it has been correlated to the function of the enzyme in combination with density functional theory (DFT) computations. For the similar achievement in elucidating binuclear non-heme iron enzyme intermediates, we also established bases for the NRVS analyses of peroxo-bridged biferric and mono- and di-oxo-bridged high-valent diiron complexes.
名古屋大学 大学院理学研究科 Graduate School of Science, Nagoya University
- Abstract
- 放射光を用いたLi@C60塩の単結晶構造解析によって、C60ケージ内にLi原子が内包されていることを明らかにした。また、Li原子がLi+の状態を取っており、ケージ内におけるLiの位置はアニオンが作る静電場に支配されていることも明らかとした。このことは、外部電場印加によるLi位置のコントロールが可能であることを示唆しており、分子反転を伴わない新たな内包フラーレン分子スイッチとなりうることがわかった。
名古屋大学 大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya University
- Abstract
- 高度情報化社会を支える半導体集積回路の基本素子であるMISトランジスタの開発において、物理寸法の微細化スケーリングに代わる技術開発、具体的には、新材料・新デバイス構造の導入による高性能化に強い期待が向けられている。ゲルマニウム(Ge)は、従来のシリコン(Si)に比べ、電子・正孔ともにバルク移動度が高く、歪み印加による移動度向上率も高いことから、次世代高移動度チャネル材料として有望視されている。その導入に当たっては、電気的特性と密接に関連するゲート絶縁膜等の材料および界面物性の理解が必須であり、実デバイス内の様々な材料で構成されるナノメートルスケールの多層構造や埋もれた界面を高感度に非破壊で分析可能な硬X線光電子分光(HAXPES)は極めて強力な分析技術である。本研究では、ビームラインBL46XUでのHAXPES分析を通して、Geチャネルを有効活用する上で不可欠となる金属/high-k絶縁膜スタックやコンタクト形成等の要素技術において、化学反応や電子状態の理解を深め、界面反応の精密制御に繋がる知見を得ることに成功した。
東北大学 大学院理学研究科 Graduate school of Science, Tohoku University
- Abstract
- 本研究(長期課題番号2009B0028)は、BL10XUにおいて、高温高圧発生技術の開発とともに、放射光メスバウア法を導入し、放射光粉末X線回折と放射光メスバウア法の同時測定を可能にした。現在、100 GPaを超える圧力のもとでルーチンの実験が可能になっている。また、移設可能なポータブルレーザー加熱測温システムを開発し、2000 Kを超える条件での長時間加熱・測温を可能にした。地球の内核を構成すると考えられる鉄、鉄ニッケル珪素合金、鉄ニッケル硫黄合金等の相平衡関係と状態方程式を決定し、内核が軽元素とニッケルを含むhcp構造の合金であることを示した。また、鉄軽元素系の溶融関係を核内部の圧力で決定し、内核境界および核マントル境界の温度を推定した。さらに、高圧で安定な含水鉱物δ相(δ-AlOOH)が、下部マントルの主要構成鉱物であるペロブスカイト相およびポストペロブスカイト相と共存することを示し、プレートの沈み込みにともなって、この鉱物が核マントル境界に水を運ぶことを明らかにした。
京都大学 物質-細胞統合システム拠点 Institute for Integrated Cell-Material Sciences, Kyoto University
- Abstract
- 有機物と無機物からなる「多孔性金属錯体」というナノ細孔をもつ結晶性の多孔性材料を用いて、分子の動きに由来する「サイズ効果」を世界で初めて発見した。具体的には、ゲスト分子を取り込む際にナノ細孔の構造を変化させるフレキシブル多孔性金属錯体に注目した。この化合物群は、分子を吸着する前はナノ細孔が閉じており、分子を吸着するとナノ細孔が開く。分子を取り除くとまた閉じた構造に戻る。この化合物の結晶サイズを数十ナノメートル(メゾスコピック領域)まで小さくすると、分子を吸着したナノ細孔が開いた構造から分子を取り除いても閉じた構造に戻らず、開いた構造を「記憶」していることがわかった。また開いた構造を加熱により閉じた構造へ戻すことにも成功した。分子の吸着情報をナノ細孔の構造により「記憶」し「消去」できる形状記憶ナノ細孔を合成することが可能になった。
[1]大阪大学大学院 薬学研究科 Department of Pharmaceutical Sciences, Osaka University、[2]大阪大学 微生物病研究所 Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University
- Abstract
- 毒素原性大腸菌(ETEC)はその病原性を発揮するために、菌体表面上に線毛などを形成し、腸管上皮に定着する必要がある。CofAは、ETECの腸管への定着に関わるCFA/IIIと呼ばれる定着因子の主要線毛構成蛋白質である。本研究において、我々はSPring-8のビームラインBL38B1を使用した放射光実験を行い、蛋白質に内在する硫黄原子の異常分散効果を利用したS-SAD法を適用することで、CofAの結晶構造を0.9 Åの高分解能で解明した。さらに、結晶構造解析で得られたCofAの立体構造情報を基に、分子動力学シミュレーション法を用いてCFA/III線毛モデルの構築を行い、その特徴的な表面構造を明らかにした[1][1] Fukakusa, S., Kawahara, K., Nakamura, S., Iwashita, T., Baba, S. et al.: Structure of the CFA/III major Pilin subunit CofA from human enterotoxigenic Escherichia coli determined at 0.90 rsolution by sulfur-SAD phasing. Acta Cryst. D68 (2012) 1418-1429.。
[1]Instituto de Ciencia de Materiales de Aragón, CSIC-Un. Zaragoza, [2]Dpto. Física de Materiales, Un. Complutense de Madrid, [3]Instituto de Ciencia de Materiales de Madrid, CSIC, [4]Instituto de Cerámica y Vidrio, CSIC
- Abstract
- Discoveries of room-temperature ferromagnetism (RTFM) in diluted magnetic oxides and semiconductors hold great promise in future spintronics technologies. Unfortunately, this ferromagnetism remains poorly understood and the debate concerning the nature of ferromagnetism in semiconducting oxides is still open. Here, we demonstrate by using X-ray absorption (XAS) and X-ray magnetic circular dichroism (XMCD) the intrinsic occurrence of RTFM in these systems and point out that it is not related to the metallic cation but it relays on the conduction band of the semiconductor. We present here direct experimental evidence of the magnetic polarization of Zn atoms in ZnO nanoparticles capped with different organic molecules and on ZnS/ZnO heterostructures. The analysis of both XAS and XMCD spectra indicates the formation of a well defined interface between ZnO and the capping molecule in which the exotic magnetism resides. The occurrence of ferromagnetism does not critically depend on the details of the synthesis but on the formation of a pristine ZnS/ZnO interface. These results provide an avenue to explain the surprising results found in this field, sometimes seemingly irreconcilable, ending the longstanding controversy about the existence of intrinsic RTFM in ZnO-based systems. Moreover, they provide new insights to finally establish the mechanism that sets on the ferromagnetic order in these systems and bringing support to this new route for room-temperature semiconductor spintronics.
京都大学 産官学連携本部/(株)日立製作所 日立研究所 Office of Society-Academia Collaboration for Innovation, Kyoto University / Hitachi Research Laboratory, Hitachi, Ltd.
- Abstract
- BL01B1ビームラインにおいて、リチウムイオン二次電池の電極最表面のX線吸収分光(XAS)測定を行いました。パルスレーザー堆積法で白金基板上に作製したLiCoO2薄膜電極に、Co-K吸収端の全反射蛍光XAS(TRF-XAS)を適用することで、電極最表面(3 nm深さ)のCoの化学状態を抽出計測することに成功しました。さらに、充放電制御させながらTRF-XAS測定が可能な実験系を構築し、電池作動環境下でのLiCoO2電極と電解質のナノ界面挙動のその場観察に世界で初めて成功しました。
東京大学 分子細胞生物学研究所 Institute of Molecular and Cellular Biosciences, The University of Tokyo
[1]東京工業大学 応用セラミックス研究所 Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology、[2]Department of Energy Science, Sungkyunkwan University
- Abstract
- LaFeAsO1−x Fxはホール面と電子面から構成される二次元フェルミ面を持っており、それらの形状がよく似ているため、これらのポケット間に働く強いネスティング;ある波数に対するフェルミ面の重なり具合、が母相の構造および磁気相転移を誘起する。O2−サイトをF−に置換することにより電子ドーピングすると、これらの相転移が抑制され0.05 < x < 0.2において最高でTC = 26 Kの超伝導が発現する。しかし、フッ素の酸素サイトへの固溶量がLaOFの生成によって制限されるために、電子ドーピングによって超伝導が完全に消失する過剰ドーピング領域をこれまで観察できていなかった。そこで我々は新しい電子ドーパントとして水素を用い、この問題の解決を試みた。フッ素の代替として水素を用いることによりx〜0.5まで電子をドープすることに成功し、LaFeAsO1−x Fxに見られていた超伝導ドーム(0.05 < x < 0.20)に加えて0.2 < x < 0.5に最高でTC = 36 Kを示す二つ目のドームを見出した。電子構造計算によれば、xの増加に従いフェルミ面のネスティングは単調に弱くなるが、鉄の三つの3d軌道、dxy、dyz、dzxから成るバンドがx = 0.36において縮退することが分かった。これらの結果から高いTCの発現にはバンド縮退が重要な寄与を果たしていると考えられる。
国立遺伝学研究所 分子遺伝研究部門 Department of Molecular Genetics, National Institute of Genetics
- Abstract
- 細胞分裂の過程において、紡錘体微小管は染色体上の特殊領域に結合して染色体を娘細胞へと均等に分配する。紡錘体微小管が結合する染色体上の特殊構造はキネトコアと呼ばれ、キネトコアが形成される染色体領域はセントロメアと定義されている。通常、染色体上にセントロメア領域は一カ所だけであるが、その領域はDNA配列の特異性によって規定されていない。しかし、いったん決まったセントロメア領域は、次世代細胞においてもセントロメアとなるので、DNA配列以外のエピジェネティックな機構により、セントロメア領域は規定されていると考えられる。エピジェネティックマーカーとしては、セントロメアに特異的なヒストンであるCENP-Aが注目されている。筆者らは、CENP-Aに加えてセントロメアに特異的なクロマチン構造の構築には、CENP-T-W-S-Xと名付けた複合体が重要であると提唱している。最近、CENP-T-W-S-Xの構造解析に成功し、その構造からセントロメア形成に重要である特異的なクロマチン構造の実体が見えてきた。
2. ビームライン/BEAMLINES
(公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI
- Abstract
- 低温下で永久磁石の性質が向上することを利用したクライオアンジュレータのプロトタイプ機を製作し、蓄積リング34セルに設置して電子ビームを用いた熱的な評価試験を行った。その結果、実用上、問題はないことを確認した。本報告書では、クライオアンジュレータの特徴と開発のポイントおよび要素技術について述べる。
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL 研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN
[1]東北大学 電子光理学研究センター Research Center for Electron Photon Science, Tohoku University、[2]大阪大学 核物理研究センター Research Center for Nuclear Physics, Osaka University
- Abstract
- 30m長直線部ビームラインBL31LEPに新レーザー電子光実験施設LEPS2が完成し、平成25年1月27日にレーザー電子光ビーム生成を初観測した。24 W出力紫外レーザー(波長355 nm)を蓄積リングに入射し、最大2.4 GeVまでのガンマ線ビームを2~5 MHzの強度で生成した。この際、レーザー電子光ビームのエネルギー・スペクトルの測定も行われ、コンプトン端を伴う分布形状が確認された。長直線部の電子ビーム発散角が水平方向で12 µradに抑えられているのに伴い、135 m下流のLEPS2実験棟においてビーム径が標準偏差で10 mm以下程度に絞られていることを確認した。今後、大立体角・高分解能の電磁カロリメーター系及び荷電スペクトロメーター系をLEPS2実験棟内に整備し、体系的に次世代のハドロン物理実験を推進する予定である。
[1]電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター Innovation Research Center for Fuel Cells, The University of Electro-Communications、[2]自然科学研究機構 分子科学研究所 Institute for Molecular Science, Department of Materials Molecular Science
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS
SPring-8 夏の学校実行委員会 委員長/(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
[1](独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center、[2](公財)高輝度光科学研究センター XFEL研究推進室 XFEL Division, JASRI
- Abstract
- X線自由電子レーザー施設SACLAでは、大強度のフェムト秒X線レーザーが生成される。SACLAの利用実験では試料をパルス毎に取り換えながら実験を行うこと・X線レーザーのSASEに由来するパルス特性の揺らぎを考慮した実験データ解析を行うことを目的とし、パルスと同期して実験データを取得できるX線2次元検出器システムを開発した。このシステムは現在SACLAの利用実験で供用中であり、最大で4 Mpixelのイメージ領域を持つ検出器が利用可能である。
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
[1](独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部 Beamline infrastructure Group, Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN/SPring-8)、[2](公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI、[4](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL Research and Development Division, RIKEN
SPring-8 Taiwan beamline office, National Synchrotron Radiation Research Center, Taiwan
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/大阪府立大学大学院 理学系研究科 Graduate School of Science, Osaka Prefecture University
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 Graduate School of Environmental and Life Science, Okayama University
SPring‐8 萌芽的研究アワード審査委員会 委員長 Chair of The SPring-8 Budding Researchers Award Committee
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体 研究連絡協議会世話役/名古屋工業大学大学院 工学研究科 Facilitator of FSBL User Group, Advanced Softmaterial Beamline Consortium / Graduate School of Engineering, Nagoya Insititute of Technology
5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
[1]SPring-8 ユーザー協同体(SPRUC) 会長/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo、[2]SPRUC 庶務幹事・放射光科学将来ビジョン作業部会担当幹事/(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター RIKEN SPring-8 Center
SPring-8利用研究課題審査委員会 委員長/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
SPring-8利用研究課題審査委員会 生命科学分科会主査/横浜市立大学大学院 生命医科学研究科 Graduate School of Medical Life Science, Yokohama City University
SPring-8利用研究課題審査委員会 散乱・回折分科会主査/東京工業大学 応用セラミックス研究所 Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology
SPring-8利用研究課題審査委員会 XAFS・蛍光分析分科会主査/兵庫県立大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, University of Hyogo
SPring-8利用研究課題審査委員会 分光分科会主査/東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo
6. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM SPring-8 USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)利用委員会委員長/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC) 会長/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo