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Volume 20, No.4 Pages 319 - 323

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

SACLAにおけるXFEL集光システムの開発
Development of XFEL Focusing System at SACLA

三村 秀和 MIMURA Hidekazu

東京大学大学院 工学系研究科 Graduate School of Engineering, The University of Tokyo

Abstract
 X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAでは、4枚の集光ミラーを用いた2段集光システムにより、XFELの50 nm集光が可能である。世界で初めて、1020 W/cm2の高強度光子場を達成し、X線非線光学現象の観測に貢献している。本稿では、SPring-8 BL29XUでの集光ミラーの開発も含めながら、SACLAにおけるXFEL集光システムについて紹介する。
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SACLA

 

1. SPring-8/BL29XUでのミラー開発
 X線ミラーは、ビームラインを構築する上で必要不可欠なコンポーネントで、集光、発散角抑制、高調波カットの目的で使用される。
 私たちが専門とする加工分野においては、X線ミラーは、長年、超精密な表面を必要とする代表格であった。X線ミラーの性能が大きく進歩したのは、2001年、1 km長尺ビームラインBL29XUを舞台とした理化学研究所と大阪大学との共同研究が始まってからである。
 大阪大学の山内らは、1 km長尺ビームラインのコヒーレント硬X線を、EEM(Elastic Emission Machining)法により加工された平面形状のミラーに照射し、その反射特性を調べた。開発を進めるためには、定量的な目標が重要となる。この研究開始時において、ミラーの形状誤差を考慮した反射強度分布を計算するために、波動光学シミュレータを開発した。解析の結果、X線ミラー上に存在する凹凸の高さが、1 mm程度の周期において数nmであっても、X線反射像に対して激しい強度振幅を発生させることがわかった。この周期の凹凸を取り除く技術は当時存在していなかった。凹凸を正確に計測できないため、取り除くことが不可能であった。そこで、マイクロスティッチング干渉計と名付けた形状計測手法を開発し、ミラー全面にわたって面内の空間分解能30 µmで、高さ方向0.1 nmの精度での測定を可能にした。その結果、強度ムラを発生させる形状誤差を取り除くことが可能となり、世界で初めて、コヒーレント硬X線を反射しても強度ムラが発生しない平面ミラーの作製に成功した[1][1] K. Yamauchi et al.: "Wave-optical evaluation of interference fringes and wavefront phase in a hard-X-ray beam totally reflected by mirror optics" Applied Optics 44 (2005) 6927-6932.
 平面ミラーの作製技術は、そのまま集光ミラーの作製に用いられ、15 keVのX線において、集光サイズ200 nm(半値幅)のほぼ理想的な1次元方向の回折限界集光を確認した[2][2] K. Yamauchi et al.: "Nearly diffraction-limited line focusing of a hard-X-ray beam with an elliptically figured mirror" J. Synchrotron Rad. 9 (2002) 313-316.。翌年、2枚の楕円集光ミラーから構成されたKirkpatrick-Baez光学系により、集光サイズ約200 nmの2次元集光を実現した。
 この成果を元に、集光サイズは全反射ミラーを用いて、25 nm(15 keV)、多層膜ミラーにより7 nm(20 keV)まで集光サイズを縮小させた[3][3] H. Mimura et al.: "Breaking the 10 nm barrier in hard-X-ray focusing" Nat. Phys. 6 (2010) 122-125.。これらの研究の中で、高NA(Numerical Aperture)のミラーの形状計測装置[4][4] H. Mimura et al.: "Relative angle determinable stitching interferometry for hard x-ray reflective optics" Rev. Sci. Instrum. 76 (2005) 045102-1-6.、At-wavelength波面計測法[5][5] H. Mimura et al.: "Direct Determination of the Wave Field of an X-ray Nanobeam" Physical Review A 77 (2008) 015812-1-4.、波面制御のためのアクティブミラー[6][6] T. Kimura et al: "Development of adaptive mirror for wavefront correction of hard x-ray nanobeam" Proc. SPIE 7077 (2008) 707709-1-8.などの様々な要素技術を開発した。集光ビームの応用としては、蛍光X線顕微鏡を構築し、がん細胞の元素イメージングを行うなど医療分野にも貢献してきた[7][7] M. Shimura et al.: "Element Array by Scanning X-ray Fluorescence Microscopy after Cis-Diamminedichloro-Platinum(II) Treatment" Cancer Research 65 (2005) 4998-5002.
 このような一連の研究を進める中で、X線集光の実験をしていた1 km長尺ビームラインの隣で、X線自由電子レーザー施設の建設が進んでいった。

 

 

2. 集光ミラーの長尺化
 例えば、100 µmサイズのビームを100 nmサイズに集光すれば、単位面積あたりの強度(集光強度)は6桁(100万倍)向上する。X線を物質に照射し、検出される様々なシグナルは、基本的には、照射強度に比例することから、集光システムは各種分析機器の性能向上に大きく寄与する。XFEL応用の拡大のためにも、集光システムは大変重要となる。
 現在は、日常的にXFELの集光が行われているが、導入前は、XFELの高い強度のためミラー表面の材料が昇華する可能性があると考えられていた。照射耐性を上げるためには、表面を軽元素とし、更に反射率を100%近くにすればよい。そのため、入射角度を小さくする必要があり、ビームの取りこぼしを防ぐためには、ミラーの長尺化が必要となる。
 図1に示す長さ400 mmのミラーを作製するために、ミラーの加工、計測装置の大型化に加えて、ミラー作製の効率化、自動化を行い、400 mm長のミラーにおいて2 nm(P-V)のミラーの作製に成功した[8][8] H. Mimura et al.: "Focusing mirror for X-ray free-electron lasers" Rev. Sci. Instrum. 79 (2008) 083104.

 

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図1 長さ400 mmのX線集光ミラー

 

 

 結果的には、照射耐性に関する問題は杞憂であったが、ミラーの長尺化により、集光システムの開口が大きくなり、すべての発生したXFELを100%効率で集光可能なシステムが実現した。また、SPring-8においても、取りこぼしなくX線を受け止めることが可能な、300 mm~400 mm長さの集光ミラーの導入が進むこととなった。

 

 

3. 1 µm集光システム
 2011年のXFEL発振に合わせて、2枚の400 mm長のミラーから構成されたKB光学系による集光システムの導入を進めた。集光サイズは、基本的に、光源サイズ、光源からミラーまでの距離、焦点距離、ミラーの開口により求まる。X線のエネルギー10 keVを想定し、1 µm集光サイズの集光システムを設計した結果、ワークディスタンスを1 m以上確保できた。この距離は、焦点周りにおいて十分なスペースがあり、様々な機器を問題なく設置できる。
 XFEL発振成功の一報から約1ヵ月後の2011年7月にXFEL集光実験を行った。初めてのXFEL集光実験ではミラーの照射耐性の心配もあり、ビーム強度を弱めミラーに照射していくなど、様子を見ながら慎重に進めた。照射耐性に関しては問題なく、10 keVのXFELを1.2 µm(縦)、0.95 µm(横)サイズにまで集光することに成功した。この時達成した集光強度は6 × 1017 W/cm2であり、非集光に比べて4桁向上させたことになる[9][9] H. Yumoto et al.: "Focusing of X-ray free-electron laser pulses with reflective optics" Nat. Photon. 7 (2013) 43-47.。この集光システムの後段には、集光XFELビームを用いたコヒーレントX線回折イメージングの装置などが設置され、現在に至るまで様々な実験に貢献している。

 

 

4. 50 nm集光システム
 2010年、先行して発振に成功した米国LCLSにおいて、100 nmサイズに集光することが計画されていた。この頃、すでに高精度ミラーの販売が始まっており、LCLSにおいても、日本産の集光ミラーの導入が計画されていた。
 SACLAにおいても時間を優先し、XFEL発振の約1年前の2010年8月から50 nmサイズの集光システムの検討を開始した。この時期に検討を始めた結果、2011年3月に建設された相互利用棟施設の建設において、50 nm集光システムの導入が可能であり、50 nm集光の早期の実現につながった。
 図2(a)のように、集光点の大きさは、幾何学的に光源サイズを縮小させたサイズであることから、微小集光を実現するためには、その縮小比を大きくする必要がある。縮小比から見た集光ビームサイズD1は、

 D1 = S2/S1 D0

 

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図2 1段による集光と2段による集光の比較

 

 

 ここで、S2は焦点距離、S1は光源から集光素子までの距離、D0は光源の大きさである。
 すなわち、ある程度の焦点距離を確保しようとした場合、微小集光を行うためにはS1を長くする必要があり、そのためビームラインは長くなる。実用的な集光システムの構築の場合、光源性能、必要強度、スペースの確保の観点から総合して、光学系が設計される。
 XFELで高強度場を実現するためには、発生したビームすべてを50 nmサイズに集光したい。利用実験を考え、100 mm以上の焦点距離も確保する。スペースの限られたSACLAにおいて、すべての要請を満足させたのが図3に示す2組のKBミラーシステムを用いた2段集光システムである。このシステムでは、図2(b)のように、1段目の集光システムにより1度XFELを集光し、拡大した光を2段目の集光システムにより集光するというシステムである。2段目により集光される最終的な集光サイズD2は、

 

 D2 = S4/S3 D1

  = S4/S3・S2/S1 D0

 

20-4-2015_p319_fig3

図3 4枚の鏡を利用した2段集光によるXFELナノビームの形成
SACLAに導入されたX線レーザーの集光システム。直線的に進むX線レーザーを一度拡大し、集光することでX線レーザーをナノメートルサイズに集めることができる。

 

 

 S4は2段目の集光システムの焦点距離、S3は1段目の集光システムの焦点と2段目の集光素子までの距離である。すなわち、集光サイズD2は最終的な焦点距離であるS4と光源からの集光システムの距離S1以外に、S3とS2の比により変えることができる。
 その結果、上記の要請を満足する光学設計が可能となり4枚のミラーを用いた2段集光システムによる集光サイズ50 nm以下の設計が可能となった。
 2段集光システムでは、2つの集光光学システムの距離が離れれば、1段目の焦点距離が長くなり、ミラーの曲率が小さくなりほぼ平面に近い形状となる。その結果、1段目のアライメント必要精度は低下する。2つの集光システムの距離を約70 mとし、2段目の集光システムは相互利用棟に設置することとなった。
 1 µm集光の成功から約1年後の2012年6月に50 nm集光の実験を実施した。2 nm(P-V)レベルの高精度の形状精度を持った4枚の集光ミラーを使用し、JASRIの湯本らが開発した2台の高剛性ミラーアライメント装置を導入した。実験では、1段目の集光調性を行い、2段目の集光調性を行った。ナイフエッジスキャン法により、ビームプロファイルを評価しながら、集光サイズが小さくなるようにアライメントを行った。
 XFELはパルス毎に波長や方向が変化することが予測されていたため、XFEL集光特性においても、1パルス毎の評価が必要である。そこで、タルボ効果を利用したグレーティング干渉計を構築した[10][10] H. Mimura et al.: "Generation of 1020 W/cm-2 hard X-ray laser pulses with two-stage reflective focusing system" Nature Commun. 5 (2014) 3539.。この方法では、フーリエ変換法を利用することでワンショット毎の集光XFELの波面を計測できる。その波面プロファイルから集光プロファイルを計算した。
 図4に、集光アライメントを行った後に測定した波面プロファイルを示す。集光後焦点を過ぎた拡大するXFELの波面を示している。理論的には1.5ラジアン以下であれば理想的な集光が実現でき、それを満たしていることがわかる。また、計算した集光プロファイルを図5に示す。このように、縦方向で30 nm、横方向で55 nmの集光を実現した。なお、このサイズは、ナイフエッジスキャン法により測定した値とほぼ一致していることを確認している。

 

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図4 測定された集光X線レーザーの波面(ある縦方向の断面プロファイル)
高い精度で4枚の鏡の位置、姿勢を制御することで、SACLAのX線レーザーの光を集光した時、波面がほぼ理想的であることが確認された。

 

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図5 実現した集光X線ビームの強度の分布
X線レーザーで世界最強の集光ビームの強度分布を測定した結果、横方向55ナノメートル、縦方向30ナノメートルのサイズを達成した。

 

 

 XFELにおいては、非線形光学への応用を考えた場合、その達成された集光サイズよりも、強度密度が重要になる。この実験では、当時実現されていたXFELの強度から、焦点での強度密度を計算した。図6は、パルス毎の強度密度を示す。このように、硬X線領域において、世界で初めて、1020 W/cm2を超える高強度場を実現した[11][11] S. Matsuyama et al.: "Wavefront measurement for a hard-X-ray nanobeam using single-grating interferometry" Opt. Express 20 (2012) 24977-24986.

 

20-4-2015_p319_fig6

図6 集光X線レーザーの集光強度
SACLAのX線レーザーをナノサイズにまで集光することにより、平均集光強度1020 W/cm2を達成した。

 

 

 この50 nmのXFEL集光ビームを用い、硬X線領域での過飽和吸収などの非線形現象が観察されている[12][12] H. Yoneda et al.: "Atomic inner-shell laser at 1.5-ångström wavelength pumped by an X-ray free-electron laser" Nature 524 (2015) 446-449.。こういった結果は、従来にない硬X線領域の高強度場が形成されたことの証明となっている。

 

 

5. まとめ
 硬X線領域においては、可視光のように理想的なレンズはないといわれてきたが、それは過去の言葉になりつつある。反射率、集光サイズとも理想的な集光ミラーの誕生により、SACLA、SPring-8で発生する硬X線をすべて受け止め、理想的に集光できるようになった。そして、ミラー反射によりX線の強度などは低下しないため、可視光での光学システムと同様、多段の集光素子による光学系の構築が可能となった。
 SACLAにおいて、大阪大学の山内グループを中心に、多層膜ミラーを利用することで、10 nmにまで集光サイズを縮小させる研究が進んでおり、更なる高強度場の実現が期待できる。
 世界各地で建設が進むXFELおよび次世代放射光施設においては、X線を100 nm以下に集光することは当然のように考えられている。更に、本稿で紹介した2段集光の成功により、ビームラインにおける集光光学系の設計の自由度は格段に高まっており、多様な集光光学系が考案され、高精度ミラーを用いた集光システムの導入が加速されると考えている。

 

 

 

参考文献
[1] K. Yamauchi et al.: "Wave-optical evaluation of interference fringes and wavefront phase in a hard-X-ray beam totally reflected by mirror optics" Applied Optics 44 (2005) 6927-6932.
[2] K. Yamauchi et al.: "Nearly diffraction-limited line focusing of a hard-X-ray beam with an elliptically figured mirror" J. Synchrotron Rad. 9 (2002) 313-316.
[3] H. Mimura et al.: "Breaking the 10 nm barrier in hard-X-ray focusing" Nat. Phys. 6 (2010) 122-125.
[4] H. Mimura et al.: "Relative angle determinable stitching interferometry for hard x-ray reflective optics" Rev. Sci. Instrum. 76 (2005) 045102-1-6.
[5] H. Mimura et al.: "Direct Determination of the Wave Field of an X-ray Nanobeam" Physical Review A 77 (2008) 015812-1-4.
[6] T. Kimura et al: "Development of adaptive mirror for wavefront correction of hard x-ray nanobeam" Proc. SPIE 7077 (2008) 707709-1-8.
[7] M. Shimura et al.: "Element Array by Scanning X-ray Fluorescence Microscopy after Cis-Diamminedichloro-Platinum(II) Treatment" Cancer Research 65 (2005) 4998-5002.
[8] H. Mimura et al.: "Focusing mirror for X-ray free-electron lasers" Rev. Sci. Instrum. 79 (2008) 083104.
[9] H. Yumoto et al.: "Focusing of X-ray free-electron laser pulses with reflective optics" Nat. Photon. 7 (2013) 43-47.
[10] H. Mimura et al.: "Generation of 1020 W/cm-2 hard X-ray laser pulses with two-stage reflective focusing system" Nature Commun. 5 (2014) 3539.
[11] S. Matsuyama et al.: "Wavefront measurement for a hard-X-ray nanobeam using single-grating interferometry" Opt. Express 20 (2012) 24977-24986.
[12] H. Yoneda et al.: "Atomic inner-shell laser at 1.5-ångström wavelength pumped by an X-ray free-electron laser" Nature 524 (2015) 446-449.

 

 

 

三村 秀和 MIMURA Hidekazu
東京大学大学院 工学系研究科
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
TEL : 03-5841-6550
e-mail : mimura@edm.t.u-tokyo.ac.jp

 

 

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