Volume 20, No.4 Pages 387 - 388
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2015B期 採択「新分野創成利用」研究グループの紹介
2015B Newly Approved Research Groups for SPring-8 Epoch-Making Initiatives Projects
2015B期より新たに「新分野創成利用」の運用を開始しました。この利用は、SPring-8の利用研究成果創出を質的・量的に飛躍させるために、既存の研究分野の枠を超えた複合・融合領域等における未踏分野の開拓・創成およびそれに伴う利用の裾野を拡大することを目的としています。公募は、SPring-8で未踏分野の研究を展開しようとする研究グループ(構成は以下の図のとおり)を対象とします。採択されたグループは、代表責任者の裁量により有効期間(2年間)内に各分担責任者が複数ビームラインで「新分野創成利用課題」を実施することも可能となり、またビームタイムも認められた範囲内で期ごとに任意に配分(但し審査あり)することができます。
2015B期は、2グループからの応募があり、新分野創成利用審査委員会による審査の結果、1グループが採択されました。採択されたグループおよび新分野創成利用審査委員会からの審査結果を以下に示します。
[有効期間]
2015B期から2017A期までの2年間
[採択された研究グループ]
代表責任者(所属):大野英男(東北大学)
分担責任者1(所属、利用BL※):壬生功(名古屋工業大学、BL08WおよびBL13XU)
分担責任者2(所属、利用BL※):千葉大地(東京大学、BL25SUおよびBL39XU)
※利用BLは、採択時(2015B期)のものを示す。2016A期以降は、実験計画の進捗状況に応じ変遷する。
[プロジェクト名]
ナノスケール実スピンデバイス開発に向けた新しい放射光利用
[審査コメント]
〇新分野創成の見込み
スピントロニクス分野そのものは、すでに確立した分野であり、提案の中心となるMTJ(磁気トンネル接合素子)は、HDDヘッド、STT-MRAMとして産業利用が進んでいる。大野グループは、不揮発性を備えた大規模論理集積回路に向けて、さらなる高度化を進めているが、そのためには、ナノ領域におけるSTT(スピン移行トルク)による磁化反転機構の動的解明、超低消費電力である電圧誘起磁化反転導入のための機構解明などが必要で、いずれにおいてもナノ領域における界面の物理現象解明に放射光利用がキーを握っており、放射光施設にとってもチャレンジングな課題である。実デバイスに向けた放射光利用の開拓という意味で、新分野創成と解釈できる。
〇申請グループ構成の新規性
近い分野の既存ユーザーによる構成であり、「新規性」は認められないが、本提案の趣旨を実行に移すためには妥当な構成であると判断される。
〇研究の持続的発展性
スピントロニクスは、まだまだ発展途上の分野であり、放射光利用によって電圧誘起による界面の磁気異方性の機構解明が進めば、電圧制御MRAMなど超低消費電力デバイスが実現する可能性があり、さらなる持続的発展が期待できる。
〇研究計画の実行性・妥当性
構成メンバーは、放射光利用の実績をもち、計画はよく練られている。ナノサイズの微小素子の単一原子層以下の界面構造における磁化のダイナミクスや、電圧誘起磁気異方性の機構解明は放射光にとってもチャレンジであるので、段階的な実験計画を立てるなど、さらに練ることが必要であろう。
〇総合評価
以上各項目を総合的に判断して、本提案は、「新分野創成利用」における「グループ利用による効率的な研究遂行」の趣旨に合致したものであり、グループ構成、研究計画もおおむね妥当で、今後の持続的発展が可能であると認められ、採択するに相応であると判断する。
以 上