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Volume 20, No.1 Pages 83 - 85

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第7回SPring-8萌芽的研究アワード/萌芽的研究支援ワークショップ報告
The 7th Workshop on the SPring-8 Budding Researchers Support Program / Winners of Budding Researchers Award

鈴木 謙爾 SUZUKI Kenji

SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会 委員長 Chair of The SPring-8 Budding Researchers Award Committee

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SPring-8

 

1. はじめに
 SPring-8では、将来の放射光科学研究の発展を担う若い人材を育成することを目的として、平成17年度より、「萌芽的研究支援プログラム」を実施しています。本プログラムは、一般課題と同じ基準による課題審査に基づき、大学院生が実験責任者として主体的にSPring-8を利用した研究遂行を支援する内容となっています。開始以来、9年にわたり約400課題が実施され、質・量ともにレベルの高い成果発表が行われています。本萌芽的研究支援プログラムは、これまで3度にわたって行われた外部有識者による評価*1において、大学院生が研究者になるための主体的な能力開発に取り組む姿勢を積極的にサポートする意義深いプログラムであると、高い評価を受けております。特に、平成26年10月10日付で報告を受けた第3回目の外部評価では、本プログラムは、“若手研究者の育成にとって今後も必要不可欠な制度”との総合評価を受けました。
 平成20年度に設置された、「SPring-8萌芽的研究アワード」は、萌芽的研究支援プログラムの一環であり、同プログラムを活用して優秀な成果を上げた実験責任者を表彰し、奨励してきました。また、アワード審査の口頭発表にあわせて、様々な研究分野にわたる萌芽的研究支援課題の成果をポスター発表し、JASRIスタッフや発表者との交流を図るため、「萌芽的研究支援ワークショップ」を開催しています。SPring-8がカバーする多様な利用研究に触れてもらい、幅広い視野と価値観を持った研究者に成長してもらうことを目的に支援しています。

 

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*1 http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/committees/reports/bud_res_sup_report/

 

 

2. 萌芽的研究支援ワークショップ:萌芽的研究アワード審査
 SPring-8萌芽的研究アワードは、過去2年間に実施された萌芽的研究支援課題を対象に、以下の3つの項目に基づき、第一次審査として応募書類審査と、ワークショップにおける第二次審査(口頭発表:発表時間20分、質疑応答10分)により審査を行い、受賞者を決定します。
① 研究テーマの新規性・独創性・発展性
② 研究成果におけるSPring-8の有効性
③ 実施体制における主体性

 第7回目となる今回は、後述の通り10月28日にキャンパス・イノベーション東京で開催されたワークショップにおいて、第一次審査を通過した5名による研究成果発表(第二次審査)が行われ、地球・惑星科学、物質・材料科学、生命科学、化学など広い研究分野にわたるテーマで、マイクロCT、蛋白質結晶構造解析、赤外顕微分光、XAFSなど多彩な研究手法を用いた内容でした。発表はSPring-8の特性を活かすための独自の工夫を凝らした研究プロセスについて紹介され、それがチャレンジングなテーマの遂行にどのように効果的であったかという情熱的な議論から、実験成果を根気よく積み上げて取り組み、最後の結論を導き出したものまで、学生の多様な個性が発揮されたものとなりました。
 審査は、人材育成の観点から、着想、発想の自主性を重視し、ディスカッションでは専門分野の異なる学術界・産業界の審査委員からの多角的な質問に対しても、明確な議論が展開されるなど、本プログラムの趣旨が成果を上げつつあることがうかがえ、審査委員による採点集計結果をもとに議論した結果、1名の受賞者を決定しました。

第7回SPring-8萌芽的研究アワード 受賞者
 野村 龍一*2
 東京工業大学 地球生命研究所 研究員(現所属)
「放射光X線マイクロトモグラフィー法によるマントル物質の融解温度の決定」

 

20-1-2015_p83_pic1

 

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*2 http://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=32183

 

 

3. 萌芽的研究支援ワークショップ:ポスターセッション
 アワード審査に合わせて10月28日に開催されたワークショップには、約30名の参加があり、ポスターセッションによる活発な議論が行われました。
 2012A期の課題応募資格拡大により、発表者数とともに発表者の学年幅が広がり、ポスターセッションのみの参加者2名を加えて、博士課程1年からポスドク、助教まで7名の非常に多様で、バラエティに富んだ発表がありました。発表者らはJASRI利用研究促進部門のスタッフや専門分野の異なる他の参加者と交流することができました。

 

 

4. おわりに
 萌芽的研究アワードは回を重ねるごとに、研究テーマの応募分野はますます広がり、プレゼンテーションの技術も向上してきました。今回、残念ながらアワード受賞に該当しなかった方々も、受賞者と優劣つけ難い研究成果を発表されています。これまでの応募者の多くが、学位取得、および企業、大学、公的研究機関でのポスト獲得にも成功されています。これらのことは、この萌芽的研究支援プログラムの趣旨がユーザーに着実に根付き、目標としている一定の成果を挙げていることの現れといえます。
 また、前述のワークショップの際、土肥理事長からのコメントにありましたように、発表者の中にはSPring-8以外の放射光施設も連携して活用しており、若い研究者達のこの行動力を心強く思っています。
 なお、今回のアワード受賞者は、12月1日に東京で開催されましたSPring-8/SACLAコンファレンス2014*3において表彰され、受賞講演が行われました。あわせて、先のワークショップで発表されたすべての研究成果が、ポスター展示されました。このように、萌芽的研究が、学術界・産業界の研究者の目に触れ、新たな研究交流の場となること、また、次の世代の学生が本プログラムについての理解を深め、自らの応募を後押しする機会となることを期待しております。

 

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*3 http://www.spring8.or.jp/ja/science/meetings/2014/141201/

 

 

〇アワード受賞候補者研究タイトル一覧
1.「放射光X線マイクロトモグラフィー法によるマントル物質の融解温度の決定」
  野村 龍一(東京工業大学 地球生命研究所)
2.「放射光XAFSによる水素吸蔵ナノ粒子の分析」
  小川 智史(名古屋大学大学院 工学研究科)
3.「La-Fe-Pd系ペロブスカイト型酸化物の合成、XAFSによるキャラクタリゼーションとその触媒特性」
  内山 智貴(九州大学大学院 総合理工学府)
4.「pHに依存したADPリボース加水分解酵素の微細構造変化」
  古池 美彦(大阪市立大学大学院 理学研究科)
5.「生体由来グアニン結晶における磁場配向と光反射現象に対する高輝度赤外分光解析」
  水川 友里(広島大学大学院 先端物質科学研究科)


〇ポスター発表研究タイトル一覧(アワード受賞候補者重複分を除く)
1.「高圧合成法による新規ニオブ酸リチウム型ScFeO3の合成と物性評価」
  河本 崇博(京都大学大学院 工学研究科)
2.「配向制御を行った導電性高分子PEDOT/PSSのWAXD・GIWAXD構造解析」
  本間 優太(東北大学 金属材料研究所)


〇萌芽的研究アワード審査委員会(平成26年10月28日現在)

委員長 鈴木 謙爾 公益財団法人特殊無機材料研究所 代表理事
委 員 岡田 明彦 住友化学株式会社 先端材料探索研究所 材料物性科学グループ 研究グループマネージャー
委 員 上村みどり 帝人ファーマ株式会社 生物医学総合研究所 課長
委 員 栗原 和枝 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構および多元物質科学研究所 教授
委 員 高田 昌樹 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門長
委 員 鈴木 昌世 公益財団法人高輝度光科学研究センター 研究調整部長
委 員 八木 直人 公益財団法人高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室長

 

 

 

鈴木 謙爾 SUZUKI Kenji
(公財)特殊無機材料研究所 代表理事
東北大学 名誉教授

SPring-8萌芽的研究支援事務局
(公財)高輝度光科学研究センター 研究調整部
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-2730
e-mail : houga@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794