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Volume 20, No.3 Pages 297 - 303

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

「専用ビームラインの再契約」について
Renewal of Contract Beamline Agreement

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8の専用ビームラインとして、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)が設置しているJAEAビームライン(BL11XU、BL14B1、BL22XU、BL23SU)および国立大学法人電気通信大学が設置している先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン(BL36XU)については、ともに平成27年10月に設置期限が満了することから、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき、再契約の申し出があった。
 これについて、専用施設審査委員会を6月に開催し、利用状況の評価および次期計画の審査を実施した。またその結果を7月21日に開催したSPring-8選定委員会で審議した結果、JAEAビームラインについては現在国による機構改革が進行中であり、新法人に一部施設・設備、人員が移行することが検討されていることから、暫定的に継続を認め、移行後の早い段階で再度審議を行うこととした。先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインについては申請どおり、次期計画期間5年で再契約が認められた。詳細は以下の通り報告する。


「日本原子力研究開発機構専用ビームライン(BL11XU、BL14B1、BL22XU、BL23SU)」契約期間満了に伴う利用状況評価報告書

 日本原子力研究開発機構(JAEA)専用ビームラインの利用状況評価について、専用施設審査委員会を平成27年6月16日に開催し、事前に提出された「JAEA専用ビームライン利用状況等報告書」と関連資料、および当日の口頭説明と質疑応答に基づき、平成27年までの当該専用ビームライン(4本)の利用状況について評価した。この結果、施設運用と利用体制、および、各ビームライン(BL)の装置技術と研究成果において、SPring-8の専用施設としての学術的技術的水準に達していると考え、当該専用BL(4本)の継続は認められると判断した。以下に、当該専用BL全般にわたる評価結果を述べた後、各BL毎の評価結果を記す。

1)評価の概要
 SPring-8施設は、日本原子力研究所と理化学研究所が共同して設立したものであり、平成17年(2005年)、日本原子力研究所が同施設の経営から離れたのちは、4本のBLはJAEA専用施設となり、独自研究が進められてきた。即ち、JAEAは、3本のアンジュレータBLと1本の偏向電磁石BL、計4本のBLを専有し、JAEA「量子ビーム応用研究部門」の下に、約40名の研究者で当該専用BLの運用と高度化を進めるとともに、広範な分野で研究を推進してきた。特に、エネルギー材料などの新機能材料研究や半導体デバイスなどのナノテク基礎研究などの先端物質科学を推進すると同時に、原子力関連の物質・材料科学を推進してきた。
 当該専用BLの利用状況評価については、既に平成23年1月(2011年)に中間評価が行われており、契約継続と評価され現在に至っている。今回の評価は、この中間評価結果を考慮しつつ、契約期間満了に伴う評価を行うものである。中間評価では、「共用BLではできない新規の挑戦的な研究、長期的視野に立った研究への取り組みが求められる」とし、「JAEAの専用BLとして集中的に何を推進したいのかその目的を再度明確にすべき時期に来ている」とした上で、「具体的な応用を原子力分野などへ提案できるような先導的研究を展開することを強く期待する」と指摘し、4本のBLを契約継続とした。
 今回、JAEAより提出された専用BL利用状況等報告書(以下、JAEA報告書)では、中間評価後の「量子ビーム応用研究部門」の重要課題を原子力技術開発に置くこととし、さらに平成23年3月の福島第一原子力発電所の事故以降、福島除染・環境回復研究および廃炉技術開発が国家的な使命であるとして、同部門の最優先課題として位置付けてきた。この最重要課題の設定は、JAEAの使命は勿論、社会貢献の点からも極めて妥当であり評価すべきである。
 実際、福島原発事故対応として、粘土鉱物へのセシウムの吸着・分離研究等がなされ、除染、減容化等につながる具体的な成果も見えつつある。しかし、JAEA報告書で述べられている研究成果の大部分は、原子力関連分野ではなく、従来からの研究領域で展開されている。即ち、実用材料開発を目指した研究では、水素貯蔵材料の基礎物性、応力腐食割れなど金属材料の歪計測・解析、自動車排ガスや電池用触媒の基礎研究など、半導体デバイス開発を目指した研究では、電力デバイス用半導体材料研究、半導体デバイスの結晶成長過程のMBE直接観測、電子・磁性デバイスの評価解析、基礎物性科学では、アクチノイド化合物の電子・磁気構造、放射光メスバウアー計測の技術開発とスピントロニックスなどへの応用、超高圧物性および地球物質科学、誘電体等の構造物性、さらに、分子ビームを用いた表面科学、軟X線による生体分子損傷効果等々、極めて広範囲にわたって行われている。これらの多様な研究成果の中には、個別的には特筆すべき研究結果が含まれている。しかしながら、戦略的で組織的な研究展開・新規分野開拓などは行われておらず、その実績が社会的に高く評価される段階にはまだ至っていない。即ち、多くの研究が4本のBLおよび実験装置で並列的に展開され、総合的・組織的利用による有機的相乗効果に関しては不十分であると判断される。
 JAEAは、ナノテクノロジープラットフォーム事業などの国のプロジェクトに積極的に参画し、共用施設として外部研究者の利用拡大に努力してきたことは高く評価できる。平成23年の原発事故以降、国家的課題への取り組みとして、福島環境回復研究を最重要課題とする方針が取られた。この点に関しては、量子ビーム応用研究部門をあげての組織的な取り組みになっているとは言えず、またその成果は、現地対策に有効活用され、広く理解・評価されるような段階にはまだ至っていない。
 今後、量子ビーム応用研究部門は、当該専用BLの利用・研究戦略を明確に設定し、その実現のために設備の整備は勿論、研究体制の再構築、組織構成員の認識喚起等、指導力を発揮されるよう強く要望したい。特に、4本のBLおよび実験装置を総合的・有機的に活用した戦略的研究の推進を強く期待したい。

2)「施設運用および利用体制」について
 JAEAは、従来からSPring-8サイトに専用BL事務局を設置し、各BLにBL責任者等を設け、施設の管理・運用およびJASRIや外部ユーザー等との連絡・折衝に当たっており、適切な対応がなされている。放射線安全等の安全管理については、JASRIの安全管理体制に従い、SPring-8防災協定など施設内規定に従って運営されている。特に、RI実験棟における国際規制物資(ウランを含む化合物)の取り扱いについては、計量管理規定を定め、JASRIとも協議し適切に実施されている。BLの外部利用については、大学や民間企業等のユーザーに対し、課題募集と外部委員を加えて課題選定を行い、約25%のビームタイムを提供している(平成22年度から平成26年度へ、ビームタイムで19%から28%、実施課題数も45件から64件へ増加している)。これらの外部利用システムの整備は、JAEAの先端施設の社会還元施策の一環として評価できる。国家プロジェクトへの参画などの活動については、外部資金の獲得手段としても重要であり、幾つかの事業に参加している。NEDOの水素貯蔵材料先端基盤研究事業および光・量子融合連携研究開発プログラム、さらに文部科学省委託事業元素戦略プロジェクト、および同省の先端研究施設供用化のための委託事業「ナノテクノロジープラットフォーム」に参加し、大学および企業等ユーザーに当該専用BLを提供してきた実績は評価できる。また、自動車会社との共同事業、科学研究費補助金など、共同研究および研究財源獲得に積極的な努力が認められる。さらに、連携大学院や私立大学戦略的研究基盤形成支援事業など、若手人材育成にも貢献しており評価したい。
 「利用成果」については、以下に個々のBLの項に述べるが、BL全般にわたり言えることは、出版論文(査読有り論文)等の研究成果が活発とは言い難いことである。2010-2014年の5年間の論文数は、4BLに対し約310件(約78件/BL/5年)であるが、これは共同利用BLの平均数(140件/BL/5年)と比較してもかなり少ない(JASRI利用者情報誌統計より)。この傾向は前回の中間評価時も同様であり、量子ビーム応用研究部門での改善への努力を求めたい。

3)各ビームラインの設備および成果についての評価
(1)BL11XU(JAEA量子ダイナミクスBL)
 BL11XUは、SPring-8標準アンジュレータを光源とし、Si(111)とSi(311)マルチ結晶交換システムを用いて、6-70 keVの高輝度X線が利用できる。本BLには、放射光メスバウアー分光装置、高エネルギーXAFS測定システム、共鳴非弾性X線散乱装置、分子線エピタキシー(MBE)による結晶成長のその場X線回折装置が設置されている。
 本BLにおける高輝度放射光メスバウアー分光装置は、わが国の重要な研究中心であり、円偏光など種々の偏光分光に成功し、γ線源の増強やマイクロビームなどのシステム高度化が行われた。これにより、放射光メスバウアーによる原子層レベルの微細試料の電子・磁気構造の解明が可能となり、磁気記録材料などスピントロニックスへの展開がなされている。また、ダイヤモンド高圧セルを用いた地球深部物質の研究にも生かされており、さらに、Fe以外の種々の核種に展開され、水素吸蔵材料での超高圧下での水素吸・放出過程のin-situ観察を可能にするなど、放射光メスバウアー計測に新しい展開がなされており高く評価される。
 MBE装置は、ナノテクノロジープラットフォームなどの外部資金も利用して整備され、化合物半導体デバイス等の結晶成長過程をX線回折によりその場観察できるわが国でも極めてユニークな装置である。太陽電池製作過程での半導体界面の歪緩和現象の観測などが実施されており、電子デバイス等の性能向上への貢献が期待できる。ただ、産業基盤技術まで見込むなら、化合物半導体デバイスの量産技術として一般的に使われているCVD(Chemical Vapor Deposition)成長など、電子ビームプローブでアクセスできない気相成長のその場観測への発展が期待される。
 本BLには、高輝度・高エネルギーXAFS装置が整備されており、微量試料でも時分割計測が可能であり、粘土鉱物へのセシウムの吸脱着の機構解明、さらに異種の鉱物間でのセシウムの移動など、福島環境回復に対応した研究が行われている。これに関連して、Cs吸着有機錯体の開発(特許取得)がなされており、福島除染に極めて重要な寄与が認められる。しかし、これらの研究結果が汚染現場でどのように重要であり、除染効果に反映されているのか、十分な説明がなされるべきであろう。
 この他、共鳴非弾性X線散乱装置が早期段階から整備され、偏光解析法の開発など独自の物資科学を展開しており、特に強相関電子系物質における電子・スピン・電荷の励起状態研究では、放射光に独自のエネルギー・運動量領域での励起状態の解明を可能にした点は評価できる。
 本BLに関わる研究成果は、先鋭的基礎研究に特徴があり、4BLの中でも特にインパクトの高いジャーナルでの成果が認められる。

(2)BL14B1(JAEA物質科学BL)
 本BLは偏向電磁石を光源とし、白色X線と単色X線の両方を使うユニークなBLである。SPring-8標準分光器とミラーを光学系として配置し、5-90 keVの単色X線と5-150 keVの白色X線が利用できる。これらのX線を用いて、XAFS、DXAFS、高温高圧下のX線回折実験、光学素子開発が行われている。最近の実験ステーションの高度化として、外部資金(ナノテクノロジープラットフォーム)による高分解能・高速移動のX線回折計の新規導入、高温高圧装置のハイスループット化、DXAFS法の時分割実験への適用などが実施された。各実験装置は標準的なものであるが、十分に整備され、所定の性能がでていると評価できる。また、サジタル集光結晶ベンダーの開発はSPring-8の分光器技術に貢献している。
 研究成果については、新規水素吸蔵材料の開発研究が進められ、新規のNi系水素吸蔵化合物の開発や、既存のMg合金で元素添加による水素放出開始温度の大幅な低減や、Al系化合物の水素化物の合成に成功するなど、多くの水素貯蔵合金の水素吸脱着に伴う構造変化・化学的特徴を明らかにし、安価・軽量材料の開発に貢献した点は評価される。次世代の環境・エネルギー問題を解決する研究として重要である。さらに、自動車触媒開発における脱貴金属化の試みとして、貴金属フリーのFe-N系錯体触媒等の開発や、銅金属触媒に対する微量希土類添加の効果などを明らかにしている。
 原子力関連では、Pu4+やAm3+の高選択的抽出物質の独自開発とXAFSによる化学結合機構探査などが進められているが、それらはJAEA内でも推進されるべき課題である。福島関連の研究では、Cs吸脱着機構や除染、減容化等につながる具体的な成果も見えつつあるなか、研究成果の活用の仕方については不十分な点も認められる。本研究結果のJAEA内や福島現場での貢献など、その効果が十分に示しきれていない。今後とも、原発事故問題の解決に対してJAEA専用BLがどのように貢献をしたか、また、貢献し得るかをアピールしていく方策を考慮すべきであろう。

(3)BL22XU(JAEA量子構造物性BL)
 BL22XUは、基礎物質科学から原子力産業利用にわたる利用を目的として設置されており、光源はSPring-8標準アンジュレータとし、光学系に2台の液体窒素冷却二結晶分光器を設置し、高エネルギーX線領域だけでなく、低エネルギー領域をカバーするため、ベリリウム窓を使わない差動排気システムを併用し、3-70 keVの広範囲の単色X線が利用できるよう工夫がされている。本BLには、高温高圧および超高圧ダイヤモンドセルの実験装置、共鳴X線散乱装置、さらに最近では、実材料・実環境下での時分割応力・ひずみ評価システムが導入されている。BL最下流は密封のマイナーアクチノイドおよび非密封の国際規制物資の取り扱いが可能なRI実験棟に導入されており、これはJAEA専用BLの重要な特徴である。RI実験棟では、国際規制物資に関して、持ち込まれた非密封試料を密封して放射光実験を実施できるようになっており、上記マイナーアクチノイドの実験も行えるようになっているが、本BLではこの特色を活用した研究が少ない。
 残留応力歪測定装置は、大型試験体を実用条件に近い環境下で計測できる世界でもユニークな装置である。原子炉シュラウドなどの実用材料について、実際の使用環境下(高温・高圧)で内部/表面応力や欠陥、応力腐食割れなどの現象を明らかにできるものであり、表面処理方法(ウォータージェットピーニング)の熱時効効果や、レーザー溶接部分など鋼材の表面・界面における内部応力・欠陥の深さ分布/時間変化などが明らかにされている。これらの成果は、高エネルギーX線を用い、従来困難であった大型金属構造物の非破壊内部応力評価を可能にした点で高く評価できる。企業の施設利用も多く社会貢献が認められる。また、応力歪評価については、東海事業所の中性子施設との相補的利用が進められており、今後さらに推進すべき課題である。
 水素貯蔵物質に関して、ランタナイド水素化合物など多くの物質において高圧下の相分離や構造転移など基礎的性質を明らかにし、さらに、水素吸蔵放出サイクルに伴う構造変化など実用材料開発に向けた系統的な研究を展開した。また、4f電子系の強磁場・低温における磁気・電子構造を共鳴X線回折で解明し、磁気転移や価数転移の詳細を明らかにした。また、大容量プレスとX線吸収法を組み合わせることによりマグマ物質の高圧下で密度異常の存在を観測し、プレート下部でのマグマ滞留現象の解明に寄与した。この他、コヒーレントX線による構造揺らぎの研究も行われている。
 本BLでの発表論文数は、共用BLに比べて少ないが、Nature Geoscience誌やPhysical Review Lettersなど基礎研究分野での高インパクトの論文が比較的多い。

(4)BL23SU(JAEA重元素科学BL)
 BL23SUは、ツインヘリカルアンジュレータを光源とする軟X線光源であり、円偏光の極性反転が可能で、0.37-2 keVの軟X線が利用できる。光学系は不等刻線間隔回折格子分光器と集光ミラーによって構成されており、最近、トロイダルミラー集光などによりビーム強度の増強がなされている。RI実験棟内のBL最下流には、角度分解光電子分光装置、および磁気円二色性測定装置(XMCD)が設置され、国際規制物資であるウラン化合物などアクチノイド化合物の電子状態・磁性状態の分光実験が行うことができる。この他、表面化学実験ステーションやEPR装置を備えた生物物理分光実験ステーションが設備されている。
 アクチノイド化合物の軟X線分光研究に関しては、URu2Si2や窒化ウラン(UN)など多くのウラン化合物のバンド構造やフェルミ面を決定している。本施設でしか実現できない実験であり、その見事な仕事は評価できる(超高真空装置内に非密封国際規制物資試料を導入することで、密封試料として取り扱い、測定することができる)。さらに、XMCDによる磁化過程の観測から特異な磁気相転移を観測するとともに、構成元素の元素別磁化を明らかにし、5f重い電子系の電子・磁気構造等の基礎物性研究を大きく進展させた点は高く評価できる。この他、重い電子系研究では4f電子系の電子・磁気構造の研究成果も注目される。これらの研究は、JAEA先端基礎研究センター(東海村)などとの緊密な連携・協力研究によってなされるものである。本実験施設はウラン化合物などの放射光・光電子分光測定が可能なわが国唯一の物性研究中心であり、世界的な共同研究中心としての展開が望まれる。海外研究者との共同研究や海外ユーザーを念頭においた外部利用の拡大により、ブレークスルーを起こすことを期待したい。光電子分光研究に関して、SiCデバイスなどの電子構造の研究が行われている。これらの半導体材料は、次期の電力デバイスとして有望視されているものであり、応用研究として今後の発展が期待される。
 生物物理分光実験については、高輝度軟X線照射による生体分子損傷をEPRによって検出する研究がなされ、酸素や窒素などの吸収端エネルギーでのラディカル量増加を観測している。DNAの放射線損傷からがん発生の機構解明を目指すとしており、最近では損傷機構への水分子の寄与を強調しているが、ラディカル量の観測だけから生体内反応機構解明に繋がる議論の展開は見えてこない。この他、酸素分子など分子ビーム照射による表面酸化反応など表面解析の研究が長く行われているが、本研究部門における意義を再検討するべき時機に来ていると考えられる。
 なお、本BLの発表論文数はJAEA-4BLの中では最も多いが、平均的な共用BLと同程度に相当する。

以 上

 

 

「日本原子力研究開発機構専用ビームライン(BL11XU、BL14B1、BL22XU、BL23SU)」の次期計画に関する審査について

 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究センターより、日本原子力研究開発機構(JAEA)専用BLの次期計画について、原子力機構第3期中期計画に基づいた重点研究課題と運用・利用体制について説明があったが、この説明の場で2本のBLを新法人に移管する可能性について言及があったため、次期利用計画立案には専用施設の責務として、その利用目的と研究戦略を明確にしたうえで臨まれることを強く期待することから、本委員会で次期計画についての審査結果を出すことは時期尚早と判断し、4本の専用ビームラインの運用体制が明らかになった時点で、再度、同委員会で審議することとした。
 なお、平成27年10月1日で設置期間が満了する現行契約については、上記審議の結果が出るまでは暫定的に継続させることが妥当であると判断する。

以 上

 

 

「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインBL36XU」契約期間満了に伴う利用状況評価報告書

 先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインの利用状況評価について、専用施設審査委員会を平成27年6月30日に開催し、事前に提出された「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン利用状況等報告書」と関連資料、および当日の口頭説明と質疑応答に基づき、同ビームラインの利用状況について評価した。

1)「BLとステーションの構成と性能」に対する評価
 BL36XUは、光源としてSPring-8標準真空封止型テーパーアンジュレータを採用しており、ビームライン構成も豊田ビームライン(BL33XU)および革新型蓄電池ビームライン(BL28XU)で実績のある高時間分解クイックXAFS計測と100 nm集光ビーム形成を可能にするSPring-8標準デザインを用いて、高時間分解能・高空間分解能をもつXAFS計測装置を中心に整備が進められてきている。時間分解XAFS計測装置としては、広範囲なエネルギー領域(5-35 keV)に対応すべく結晶面の異なる2台の分光器を基本にして、10 ms時間分解クイックXAFS計測装置、新規開発のガルバノモーター駆動分光器による800 µs時間分解クイックXAFS計測装置、さらには超高速計測用100 µs時間分解エネルギー分散XAFS計測装置が整備され、目的としている固体高分子形燃料電池電極触媒の化学反応過程および劣化過程のメカニズムの解明において、異なる時間スケールにそれぞれ対応したリアルタイム計測を実現している。一方、空間分解XAFS計測装置では、2次元走査型顕微XAFS計測装置、深さ分解XAFS計測装置、3次元ラミノグラフィXAFS計測装置、さらには、XAFSと相補的な情報を与える雰囲気制御型HAXPES装置が整備されており、電池電極内に不均一に分布する電極触媒の計測など実燃料電池に対応した計測手法を提供している。以上のように、燃料電池電極触媒の高性能化・高耐久性を実現するための基盤情報を得ることに特化した世界最高レベルの燃料電池専用ビームラインとして機器整備され、主要な機器整備がある程度完了した中間評価の後も世界最高水準の技術が維持されていることを高く評価する。

2)「施設運用および利用体制」に対する評価
 BL36XUは、NEDO燃料電池プロジェクトの専用ビームラインであり、電気通信大学燃料電池イノベーション研究センターに設けたBL36XU事務局が管理業務やビームタイム配分等の事務処理業務を遂行している。ビームラインの維持管理、高度化およびユーザー支援は、電気通信大学SPring-8分室の常駐のビームライン担当者とテクニカルスタッフが行っており、当初計画に沿った性能目標を達成しており、装置類トラブルによるビームタイムロスもほとんどなく極めて安定に利用実験に供していることは大いに評価できる。利用研究は、本プロジェクト参画チームである電気通信大学、分子科学研究所、名古屋大学、北海道大学が主に実施しており、産学との連携についてはNEDOと協力し進めるなど、順調なビームライン運用が行われているものと評価できる。

3)「利用成果」に対する評価
 世界最高レベルの時間分解・空間分解性能を有する先端XAFS/XRD/X線CT計測法および雰囲気制御型HAXPES計測法の構築により、NEDO燃料電池プロジェクトが目的としているin-situ実燃料電池実験に特化した計測システムを利用した研究課題が実施されている。実用的に用いられる低触媒担持量の燃料電池に対して、反応素過程を高精度に追跡できるように独自開発した計測システムにより、様々な試料・計測条件に対する系統的な時間分解XAFSの成果が得られている上、中間評価後もin-situ 3次元角度制限投影型CT-XAFS測定技術に代表されるような意欲的な技術開発が行われている。また、高空間分解(50 nm)3次元(3D)顕微イメージングXAFS法の開発により、Pt触媒分布の3Dイメージングに成功するとともに、燃料電池電極膜切片試料に対してex-situ走査型2次元顕微XAFS計測と走査型透過電子顕微鏡(STEM)観察する積層メンブレン・セルの開発により、同一視野ナノマッピングに成功している。さらに、雰囲気制御型HAXPES装置による燃料電池電極の動作下での光電子分光in-situ測定に成功している。以上のように、高時間分解能・高空間分解能をもつXAFS計測装置等を駆使した研究により、NEDO燃料電池プロジェクトの目的に合致しているとともに、国際的にレベルが高く、しかも独自性の高い成果が着実に得られているものと高く評価できる。しかしながら、現状では技術開発に重点が置かれているため、燃料電池の電極触媒の反応機構と劣化のメカニズムの情報を蓄積しつつあるものの、問題解決への糸口までには至らず、燃料電池のイノベーションまでには長い道のりがあるという印象を否めない。それが、NEDO燃料電池プロジェクトの目標に沿ったものとなっているのであれば十分ではあるが、論文数という観点から学術的な成果のアピールという面では少々物足りなさを感じる。多くの優れた研究者が結集している燃料電池専用ビームラインでは、燃料電池プロジェクトの研究拠点として、その役割を果たすことは勿論のこと、学術面においてもこの分野をより一層牽引する原動力として機能していくことを強く期待したい。

以 上

 

 

「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインBL36XU」次期計画審査結果報告書

1. 次期計画の研究概要に対する評価
 本ビームライン(BL36XU)では、今後平成27年5月から平成32年2月の期間に実施される新NEDOプロジェクト「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発/普及拡大化基板技術開発」の下で、これまでに同ビームラインで開発された高輝度放射光計測手法群を駆使し、産業界から求められる様々な燃料電池運転条件やMEA材料(電極触媒・担体、電解質膜等)に対応できる先端計測技術開発を継続し、燃料電池電極触媒系の活性因子や劣化メカニズムを解明し、高活性・高耐久性燃料電池触媒開発の設計指針を提示することを目的としている。このように燃料電池という国家の基盤技術開発に関わる研究を推進するビームラインであり、その重要性は極めて高く、計画の高い発展性が認められる。さらに、本ビームラインで開発してきた高空間分解能XAFS、高時間分解能XAFS等の先端放射光計測技術・解析手法は、SPring-8の高輝度、高エネルギーX線光源が必須である上、NEDOプロジェクトに基づいた集中的な研究開発により、一定期間で成果を得ることが求められるビームラインであることから、今後も専用ビームラインとして運営されることが適切かつ必須である。

2. 施設および設備に関する計画に対する評価
 これまで本ビームラインでは、高空間分解能と高時間分解能を有するXAFS測定技術を中心とした先端的な計測技術の開発が行われているが、これらの技術はビームライン完成後2年半経過した現時点でも、設計時に目標とした世界最高レベルの性能を有している。ビームライン輸送系の改造は行わず、ビームラインの効率的運用と放射光照射による試料損傷の低減を合わせ実現するための高度化が計画されている。
 先端放射光計測技術・解析手法の迅速化・高精度化においては、これまでに開発した先端的計測手法(時間分解XAFS/XRD法、3次元CT-XAFS法、発光分光XAFS法等)をシステム化し、同一観察領域に対する同時時系列計測を行い、得られたデータを統合して解析することにより、燃料電池膜/電極接合体内部で起こる化学反応および劣化現象の鍵因子・機構の全体像を解明することが計画されている。
 また、電極触媒自身の化学状態と構造変化を捉えることを目指して、2次元空間分解ナノXAFSとTEM/STEM-EDSの同一試料・同視野計測法を用いて、燃料電池電極膜劣化過程のその場観察を可能とする計測セルの開発、および大気圧下での光電子分光測定を可能とする装置改良を実施することが計画されている。
 これらの開発計画はいずれも挑戦的である上、新しく採択されたNEDOプロジェクトの目的達成に適合したものである。

3. 運用体制および利用計画に対する評価
 ビームラインの設置目的に沿って2015年2月に終了した前NEDOプロジェクトと同様に、NEDOプロジェクト以外の共同利用的な利用は行わないが、電気通信大学、名古屋大学、分子科学研究所に加えて、NEDO燃料電池プロジェクトに参画する産学との連携、他のNEDOプロジェクトの連携が計画されていることは、高い競争力を有するビームラインの機器・技術が幅広く利用されることを示すもので、歓迎すべき提案である。運営業務(ビームタイム配分、実験課題募集、申請、課題評価、採択、実施支援、成果取り扱い等)に関しては、これまで通り電気通信大学燃料電池イノベーション研究センターに設けたBL36XU事務局や技術委員会が担うことが提案されているが、これまでも円滑な運営が行われていることから、次期計画においても適切な運営が実施されるものと期待できる。次期計画では、プロジェクトの目的に沿った成果創出に向けて高い競争力を有する機器・技術を用いた実験の遂行が活動の重点になるため、実験現場での技術支援も含めた、これまでと同様の、あるいはこれまで以上に充実した支援体制で臨まれることを期待する。

4. スケジュールおよび予算計画に対する評価
 2015年5月に新たに採択された次期NEDOプロジェクトに基づいて、堅実な資金計画が提案されているため、予算計画に関する懸念は皆無である。また、設置期間の大部分が同NEDOプロジェクトの実施期間と重なっていることは、BL36XUがNEDOプロジェクト遂行を目的としたビームラインであることから、妥当な計画と認められる。なお、設置期間が5年であること、各々の研究開発テーマにおいて平成29年度半ばに中間目標が設定されていること、自らが中間評価を平成29年度と提案していることから、設置継続決定後、2、3年を経過した時点での中間評価が必要である。

結語
 以上のように、今後もさらなる研究成果や発展が期待でき、また前回の中間評価時においても、平成27年度10月以降も継続して燃料電池における化学・電気化学反応の機構解明に資すべきであり、施設資産の有効利用と研究組織の継続を計ることが提言され、着実な成果を上げてきていること、新しいNEDOプロジェクトの実施に向けて、適切で挑戦的な技術開発計画が提案されていること、資金計画や人員体制においても堅実で意欲的な利用計画が提案されていることから、再契約を承認し、次期計画期間は5年として継続することが適切である。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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