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Volume 20, No.1 Pages 9 - 11

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

(SPring-8萌芽的研究アワード受賞 研究報告)
放射光X線マイクロトモグラフィー法によるマントル物質の融解温度の決定
Low Core-mantle Boundary Temperature Inferred from the Solidus of Pyrolite

野村 龍一 NOMURA Ryuichi

東京工業大学 地球生命研究所 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology

Abstract
 本研究では、地球マントルの代表的な物質であるパイロライトに対し、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧高温実験を行い、大気圧室温下に急冷させた回収試料中の溶融痕跡をX線マイクロトモグラフィー法を用いて撮像することにより、マントル最下部圧力(136 GPa)までの融け始めの温度(ソリダス温度)を決定することに成功した。地球のマントル最下部は全球的には融けていないことから、マントルのソリダス温度はマントル最下部、さらにはその下に存在する地球外核の温度構造に上限を与える。地球外核は液体であることから、鉄合金として融点を大きく下げる効果を持つ水素が外核に大量に存在している可能性が示唆される。
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SPring-8

 

1. はじめに
 地球は、その中心部からコア(深さ 2,900~6,400 km)、マントル(深さ 約35~2,900 km)、地殻(深さ ~5−35 km)の順番で層をなす玉ねぎ構造をしている(図1)。マントルは主に酸素、ケイ素、マグネシウム、鉄からなる岩石で構成されており、コアは主に鉄ニッケル合金でできている。コアはさらに液体の外核と固体の内核に分けられ、液体の外核がコアの体積の大部分(約95%)を占めている。実験や理論による液体合金の物性研究と地震波観測によるコアの構造研究により、外核は鉄ニッケル合金よりも約10%密度が低く、鉄やニッケルよりも軽い元素を多量に含むものと考えられている。硫黄、ケイ素、酸素、炭素や水素など、宇宙に豊富に存在する元素がコア中の軽元素候補としてよく研究されているが、過去60年以上にもおよぶ精力的な研究にもかかわらず、コアに含まれる軽元素は未だよく分かっていないのが現状である。

 

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図1 地球の断面図

 

 

 地球内部の温度構造は、有用な情報の一つである。マントル内部に関しては、マントルが対流していることから、浅いところから断熱温度勾配で変化していると理解でき、温度構造は比較的よく分かっている。これに対して、マントルとコアの間には熱境界層が存在しているため、コア内部の温度構造はあまりよく分かっていない。あとで述べるように、マントルの融け始めの温度(ソリダス温度)は、コアの温度・組成に対し大きな制約を与えることから、マントルのソリダス温度を明らかにすることで、コアに関する重要な手掛かりが得られる。
 本研究では、パイロライトと呼ばれる代表的なマントルの組成に対し、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧高温実験をBL10XU(2012B0087)にて、回収試料のX線マイクロトモグラフィー撮像をBL47XU(萌芽的研究支援課題:2012B1706)にて行い、微小な急冷マグマを撮像することにより、ソリダス温度の決定に成功した。その結果、マントル最下部のソリダス温度は従来考えられてきた温度[1][1] G. Fiquet et al.: Science 329 (2010) 1516-1518.よりも約600 Kも低く、3570±200 Kであることが分かった[2][2] R. Nomura et al.: Science 343 (2014) 522-525.。低いマントルソリダス温度は地球コアの温度・組成を強く制約する。本稿ではこの一連の研究成果について紹介する。


2. 実験と結果
2-1. 高圧高温実験
 高圧高温実験はSPring-8のBL10XUにおいて、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いて行った。出発物質にはパイロライト組成のゲルを用いた。パイロライトマントルの主要構成鉱物相であるブリッジマナイトの格子体積を高圧高温その場粉末X線回折測定によって求め、圧力−体積−温度(P-V-T)状態方程式を用いて圧力を決定した。温度は試料の輻射スペクトルから見積もった。サンプルが目的の圧力・温度に到達した後、加熱レーザーを切ることで室温に急冷し、脱圧後サンプルを回収した。このような急冷回収試料分析は、より冷却速度が遅いマルチアンビルプレスなどで一般的に用いられている方法である。

2-2. X線マイクロトモグラフィー撮像
 我々の過去の研究により、マントル物質の部分溶融液は全下部マントル圧力下でFeOに富むことが分かっている[3][3] R. Nomura et al.: Nature 473 (2011) 199-202.。そのため、サンプル内の鉄の強い濃集を液体(マグマ)のトレーサーとして用いることができる。
 本研究ではSPring-8の萌芽的研究支援課題制度を利用し、高圧高温実験回収試料のCT撮像を行った(BL47XU)。鉄のK吸収端(7.11 keV)を挟む7 keVおよび8 keVの2つのエネルギーを用いて撮像することにより、サンプル内の鉄の濃集を高空間分解能(ボクセルサイズ:100 µm以下のサイズの試料に対して約70 nm)で識別することが可能である[4][4] A. Tsuchiyama et al.: Geochimica et Cosmochimica Acta 116 (2013) 5-16.。本研究ではこのX線マイクロトモグラフィー撮像技術を利用することにより、鉄に富むわずか3%の部分融解度メルトの識別に成功した。その結果、パイロライトのソリダス温度をマントル最下部圧力(136 GPa)で、3570±200 Kと決定することに成功した(図2)。

 

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図2 高圧高温実験回収試料のCT画像。画像の明るさはX線吸収係数(LAC)を表す[2][2] R. Nomura et al.: Science 343 (2014) 522-525.。試料中の鉄(K吸収端:7.11 keV)の濃度が7 keVと8 keVで撮像されたCT画像の明るさの違いに大きく反映される。7 keVに比べ、8 keVでより明るい部分で鉄の濃度が高い。

 

 

3. 地球外核の温度と組成の制約
 本研究で決定されたマントルのソリダス温度は従来考えられてきた温度よりも約600 Kも低く、地球深部の温度や組成を知る上で重要な役割を果たす。
 マントル最下部は全球的には融けていないことが地震波観測から分かっているため、マントル物質の融解温度はコア−マントル境界の温度に上限を与える。こうして、コア−マントル境界を出発点として、外核内部の温度構造を制約することができる(図3)。

 

20-1-2015_p9_fig3

 

図3 本研究で明らかとなったマントルソリダス温度といろいろな鉄合金の全溶融温度(リキダス温度)[5,6,7][5] S. Anzellini et al.: Science 340 (2013) 464-466.
[6] H. Terasaki et al.: Earth and Planetary Science Letters 304 (2011) 559-564.
[7] G. Morard et al.: Physics and Chemistry of Minerals 38 (2011) 767-776.
、地球深部温度構造。

 

 

 一方、外核は液体であることから、外核組成の全溶融温度(リキダス温度)は外核温度よりも低い必要がある。一般に二元合金系では、固溶する相手によらず、共晶点に向かって融点が下がる。外核は鉄ニッケル合金よりも約10%密度が低いことや、融点降下の度合いはその不純物組成に大きく依存することを考慮することで、本研究で明らかとなった地球外核の冷たい温度構造からその化学組成を制約することができる。これまでよく研究されてきた硫黄やケイ素、酸素では必要な融点降下を引き起こすことができず[6,7][6] H. Terasaki et al.: Earth and Planetary Science Letters 304 (2011) 559-564.
[7] G. Morard et al.: Physics and Chemistry of Minerals 38 (2011) 767-776.
、融点を大きく下げる効果を持つ水素が地球外核に多量(25 atm%)に溶けていることを示唆する(図4)。

 

20-1-2015_p9_fig4

 

図4 地球コアの水素

 

 

 地球は形成期、マグマオーシャン(マグマの海)に覆われていたとされている。水素はこのような高圧高温下では親鉄性元素としてふるまうため、マグマオーシャン中でマグマ(液体ケイ酸塩)と地球コア物質(金属鉄)が高温で反応し、水素が地球コアへ取り込まれた可能性が高い[8][8] T. Okuchi: Science 278 (1997) 1781-1784.


4. まとめ
 本研究では、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルにX線マイクロトモグラフィー撮像法を組み合わせ、高圧高温を経験したサンプル内に鉄に富む微小な急冷メルトを識別することに成功した。その結果、代表的なマントル物質であるパイロライトのソリダス温度を最下部マントル圧力下まで決定することに成功した。この温度は従来予想されてきたソリダス温度よりも約600 K低く、地球コア−マントル境界、さらにはコア内部の温度構造に上限を与える。本研究によって決められた低い地球内部温度は、地球外核に合金の融点を大きく下げる効果を持つ水素が大量に含まれていることを示唆する。

 

 

 

参考文献
[1] G. Fiquet et al.: Science 329 (2010) 1516-1518.
[2] R. Nomura et al.: Science 343 (2014) 522-525.
[3] R. Nomura et al.: Nature 473 (2011) 199-202.
[4] A. Tsuchiyama et al.: Geochimica et Cosmochimica Acta 116 (2013) 5-16.
[5] S. Anzellini et al.: Science 340 (2013) 464-466.
[6] H. Terasaki et al.: Earth and Planetary Science Letters 304 (2011) 559-564.
[7] G. Morard et al.: Physics and Chemistry of Minerals 38 (2011) 767-776.
[8] T. Okuchi: Science 278 (1997) 1781-1784.

 

 

 

野村 龍一 NOMURA Ryuichi
東京工業大学 地球生命研究所
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1
TEL : 03-5734-2715
e-mail : nomura.r.ab@m.titech.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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