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Volume 20, No.3 Pages 246 - 250

2. ビームライン/BEAMLINES

BL13XU第4実験ハッチの増設と高分解能マイクロ回折装置の改造
Construction of an Experimental Hutch 4 and Upgrade of a High-Resolution Microdiffraction System at BL13XU

木村 滋 KIMURA Shigeru、今井 康彦 IMAI Yasuhiko、田尻 寛男 TAJIRI Hiroo

(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

Abstract
 「ナノビーム回折・散乱計測基盤の開発」が平成26年度高度化研究開発案件として採択され、(独)理化学研究所(現在:国立研究開発法人理化学研究所)の予算でBL13XUに恒温実験ハッチ(第4実験ハッチ)を増設し、これまで第3実験ハッチで超高真空表面X線回折装置と併設されていた高分解能マイクロ回折装置を第4実験ハッチに移設した。また、高分解能マイクロ回折装置は改造を実施し、より安定的に100 nm程度のビームを利用できるようになった。本報告では、増設した第4実験ハッチと高分解能マイクロ回折装置の改造について概要を説明するとともに、最近の高分解能マイクロ回折装置の利用成果例についても報告する。
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SPring-8

 

1. はじめに

 BL13XUは、X線の回折・散乱現象を利用して、固体表面や埋もれた界面の構造、そこに生成する低次元物質・ナノ物質の構造を原子レベルで評価・解析できる標準アンジュレータを光源とする共用ビームラインである。2001B期から共用を開始している[1][1] O. Sakata et al.: SPring-8利用者情報 6 6 (2001) 450-455.。一方、高分解能マイクロ回折装置はBL13XU共用開始時には整備されていなかったが、文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトの一環で、BL46XUで開発整備し[2,3][2] S. Takeda, S. Kimura, O. Sakata and A. Sakai: Jpn. J. Appl. Phys. 45 39 (2006) L1054-L1056.
[3] S. Mochizuki et al.: Thin Solid Films 508 (2006) 128-131.
、2005A期からBL13XU第3実験ハッチを超高真空表面X線回折装置とシェアする形で運用してきた[4][4] 田尻寛男、今井康彦: SPring-8/SACLA利用研究成果集 Section C 3 1 (2015) 145-153.。これまでの間、さまざまな改良を実施し、200~500 nm程度の集光ビームを利用して、微小領域の逆格子空間マップを迅速に測定することが可能になっている[5,6][5] Y. Imai, S. Kimura, O. Sakata and A. Sakai: AIP Proc. 1221 (2010) 30-32.
[6] S. Kimura, Y. Imai, O. Sakata and A. Sakai: Key Eng. Mat. 470 (2011) 104-109.
。この一連の改良により、小さなビームが利用できるようになった一方で、ハッチ内温度変動などによる試料位置の不安定性が測定上の大きな問題となっていた。
 このような状況を改善するため、BL13XU第3実験ハッチ下流に、BL37XUおよびBL39XUでミラー集光100 nmビームの利用で実績のある恒温実験ハッチ[7][7] 鈴木基寛 他: SPring-8利用者情報 16 3 (2011) 201-209.を増設し、高分解能回折装置を移設することを柱とした高度化提案を行ったところ、平成26年度高度化研究開発案件として採択された。
 本報では、平成26年度高度化研究開発案件として実施した、恒温実験ハッチの増設と高分解能マイクロ回折装置の改造について概要を説明するとともに、高分解能マイクロ回折装置を利用した最近の利用研究成果例を紹介する。

 

 

2. 第4実験ハッチの増設

 図1に増設した第4実験ハッチの写真を示す。サイズは幅3 m、長さ4 m、高さ3.3 mで、第3実験ハッチ下流側から1.3 mの位置に増設した。ハッチ内壁面を断熱構造にするとともに、照明も発熱源となる安定器の不要なLED蛍光灯を採用し、発熱を低減した。更に、精密空調を装備するとともに、排気ダクトをハッチ側面4ヵ所に配置し、空気の流れをコントロールしつつ精密に温度調整を行うことにより、実験ハッチ内の温度変動は0.1℃/日以内に安定化されている。入退室扉付近には風防カーテンを設置し、ハッチ入退室に伴う温度変動も極力抑制し、静穏状態を確保する工夫を行っている。これにより、より安定的に100 nm程度のビームを利用できるようになった。

 

20-3-2015_p246_pic1

図1 増設した第4実験ハッチの写真。

 

 

3. 高分解能マイクロ回折装置

 図2に増設した第4実験ハッチに設置した高分解能マイクロX線回折装置の写真を示す。(a)が装置全体。(b)が架台上の写真である。今回の改造で、高安定架台とCCD検出器用回転ステージを新規に導入した。(b)で、X線は左から入射し、光軸上には上流から順に、イオンチェンバー、アッテネーター、スリット、イオンチェンバー、センターストップ、位相ゾーンプレート(ZP)、30-µm-φ アパチャー(OSA)、試料が配置され、試料の微小部から回折されるX線をCCD検出器で検出する構成になっている。X線は位相ZPによってサブミクロンに集光される。通常、200~300 nm程度のビームサイズがよく利用され、その場合のフラックスは1 × 1010 photons/s程度である。2015年6月に実施したユーザー実験では、二結晶分光器の下流(光源から56.63 mの位置)に設置されたスリット(仮想光源として使用)を50(水平方向)× 100(垂直方向)µm2にすることで、エネルギー8 keVの放射光に対して、ビームサイズを110 × 160(垂直方向)nm2まで小さくすることができた(図3)。使用する位相ZPの最外輪帯幅は81.7 nmであるため、理想的には100 nm程度の集光が可能である。今後、更に調整を進め100 nm集光を実現する予定である。

 

(a)
20-3-2015_p246_pic2a

(b)
20-3-2015_p246_pic2b

 

図2 第4実験ハッチに設置した高分解能マイクロ回折装置の写真。(a) 装置全体の写真。高安定架台とCCD検出器用回転ステージを新規に導入した。(b) 架台上の写真。X線は左から入射する。光軸上には上流から順に、イオンチェンバー、アッテネーター、スリット、イオンチェンバー、センターストップ、位相ZP、30-µm-φ アパチャー(OSA)、試料、X線CCD検出器と並んでいる。

 

20-3-2015_p246_fig3

図3 2015年6月に測定されたビームサイズ。ナイフエッジ法により測定した。黒丸:測定値、赤丸:測定値の差分、赤線:ローレンツ関数によるフィッティング曲線。

 

 

 なお、これまで利用実績のあるX線のエネルギーは8~15 keVである。また、入射X線の発散角は、入射側スリットの幅を調整することで、最小50 µrad程度が利用可能である。回折測定を行うためには試料の回転が必要であるが、全周回転で偏心が500 nm以下という高い精度を持つ精密回転ステージを鉛直軸で使用することにより、回転しても集光ビームの入射位置がほとんど変わらないようにしている。測定できる試料の最大サイズは横幅10 mm、縦幅20 mm程度、厚さは5 mm程度である。試料上でのX線の照射位置は長焦点の顕微鏡で観察可能である。

 

 

4. 最近の高分解能マイクロ回折装置利用成果例

 本節では、マイクロX線回折装置を使用した実際の研究例を2例紹介する。

 

4-1. m面InGaN/GaNヘテロ構造におけるミスフィット転位による格子傾斜解析[8][8] S. Yoshida et al.: Appl. Phys. Lett. 99 (2011) 131909.

 InGaN/GaN系発光デバイスの研究開発は近年急速に進展し、青色LEDや青紫色レーザなどの実用化や更なる応用が期待されている。最近では、従来のc面ではなく非極性(m面やa面)や半極性面のInGaN結晶を活性層に用いることでピエゾ電界を抑制でき、更なる発光効率の向上や緑色レーザ開発などが期待されている。ここでは、非極性面m面GaN上に成長した臨界膜厚よりも厚いInGaN層に対し、ミスフィット転位により生じる格子傾斜の局所的な変化について調べた結果を紹介する。
 試料には、非極性m面自立GaN基板上に有機金属気相成長(MOCVD)法によって成長された200 nm厚InGaN層を用いた。In組成は10%とした。局所的な逆格子空間マッピング測定は、ビームサイズを320(水平方向)× 450(垂直方向)nm2にまで集光されたマイクロX線ビームを用いた。試料ステージを500 nmずつ精密に繰り返し移動し、それぞれの位置においてX線回折の測定を行った。
 m面においてマイクロX線ビームをa軸[11-20]方向へ入射させ、任意位置における対称面(2-200)の逆格子空間マップを示す(図4)。横軸をa軸[11-20]方向、縦軸をm軸[1-100]方向とし、それぞれqx、qyで表す。GaN基板のピーク位置に比べInGaN結晶のピーク位置がqx方向にオフセットしており、InGaN結晶が基板面方位から傾斜していることが分かる。更に、図4に示したInGaNの回折ピーク位置にω値を固定して、マイクロX線ビームの照射位置を、ほぼビーム径に等しい500 nmピッチで入射方向[11-20]へ試料ステージを微動した際の回折強度変化を図5に示す。この結果から数10 µmの領域でInGaN結晶の格子傾斜が存在し、局所的に傾斜が変化していることが明らかとなった。

 

20-3-2015_p246_fig4

図4 測定された2-200近傍の逆格子空間マップ。

 

20-3-2015_p246_fig5

図5 図3のInGaNの回折ピーク位置にω値を固定して測定した強度の場所依存性。

 

4-2. 埋め込みGe1−xSnx/Ge微細構造内部の局所歪評価[9][9] S. Ike et al.: Appl. Phys. Lett. 106 (2015) 182104.
 省電力CMOSデバイスの開発に向けて、MOSFETの微細化のみに依存しない性能向上技術が求められている。その一つとして、高移動度チャネル材料と歪技術を併用した歪Geチャネルが挙げられる。特に、高い正孔移動度が期待できる一軸圧縮歪Geにおいて、チャネル領域への歪印加のための局所応力印加源としてGeより格子定数の大きなGe1−xSnx混晶の導入が提案されている。平面基板上のGe1−xSnx薄膜の結晶成長については報告が増えている一方で、立体的な局所領域への結晶成長、埋め込みGe1−xSnx/Ge構造内部の局所歪および結晶構造に関しては世界でもほとんど報告例がない。チャネル歪制御のためには、局所領域における歪分布や結晶構造の解明は不可欠である。そこで、サブミクロンオーダの空間分解能を有し、かつ直接的に歪構造を観察できるX線マイクロ回折法を用いて、埋め込みGe1−xSnx/Ge構造内部の局所歪分布を調べた。
 Ge(001)基板表面に細線状のSiO2層を形成後、化学エッチングによりパターニング基板(Ge細線幅/ピッチ = 25~60/500 nm、リセス深さ130 nm)を作製した。化学洗浄および超高真空中熱処理により表面清浄化した基板上に、固体ソースMBE法を用いて基板温度150˚CにおいてSn組成2.9~6.5%、膜厚120~130 nmの埋め込みGe1−xSnx層を形成した。作製試料に対して、380 × 260 nm2~820 × 260 nm2の領域に集光したエネルギー8 keVの放射光を用いてマイクロ回折測定を行った。
 図6には、25~60 nmそれぞれの細線を横切るように50 nmステップでX線マイクロビームを走査して得たGe004およびGeSn004 Bragg反射の回折プロファイルを示す。無歪のGe基板および埋め込みGeSn回折ピークに加えて、Ge細線に印加される局所歪を反映した回折ピークが得られる。細線幅の縮小に伴い、歪量増大の方向に歪Geピーク位置がシフトする様子が観察された。ピーク位置から、基板面直方向の平均伸張歪量は細線幅60 nmから25 nmにおいてそれぞれ0.46%、0.68%、0.83%と推移し、面内一軸歪を仮定した場合はそれぞれ1.2%、1.8%、2.2%の圧縮歪が印加されていると見積もられた。これは、マイクロ回折測定がナノメートルオーダ領域の局所歪評価において有力な手法であることを示すとともに、GeSnローカルストレッサの導入によりGeに局所歪が印加されることを実証した。

 

20-3-2015_p246_fig6

図6 細線幅25~60 nmのそれぞれの細線を横切るように50 nmステップでX線マイクロビームを走査して得たGe004およびGeSn004 Bragg反射の回折プロファイル。

 

 

5. おわりに

 BL13XUに増設した第4実験ハッチ、および、ハッチ内に導入した高分解能マイクロ回折装置の改造について報告した。また、高分解能マイクロ回折装置を利用した最近の研究成果を2例だけ紹介した。本稿で紹介した以外の最近の研究成果については、参考文献[10-20][10] O. Nakatsuka et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 50 (2011) 05ED03.
[11] K. Ebihara et al.: Solid-State Electronics 60 (2011) 26-30.
[12] M. Tsujino et al.: J. Appl. Phys. 110 (2011) 126103.
[13] S. Yoshida, T. Yokogawa, Y. Imai and S. Kimura: Jpn. J. Appl. Phys. 52 (2013) 072201.
[14] D. T. Khan et al.: J. Cryst. Growth 381 (2013) 37-42.
[15] M. Murugesan et al.: IEEE Trans. Electron Devices 61 (2014) 540-547.
[16] S. Ike et al.: Thin Solid Films 557 (2014) 164-168.
[17] N. Taoka et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 53 (2014) 05GE03.
[18] M. Yoshida et al.: Scientific Reports 4 (2014) 7302.
[19] D. T. Khan et al.: J. Cryst. Growth 411 (2015) 38-44.
[20] T. Arauchi et al.: Phys. Status Solidi B 252 (2015) 1149-1154.
を参照いただきたい。

 

 

謝辞

 本稿で紹介したBL13XU第4実験ハッチの増設と高分解能マイクロ回折装置の改造は平成26年度高度化研究開発「ナノビーム回折・散乱計測基盤の開発」の予算で行いました。(独)理化学研究所(現在:国立研究開発法人理化学研究所)の関係者の方々に感謝いたします。第4実験ハッチ増設に関しては、(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)光源・光学系部門の竹下邦和グループリーダー、大橋治彦グループリーダー、成山展照チームリーダー、制御・情報部門の石澤康秀氏他多くの方々にご協力いただきました。ここに感謝いたします。なお、2015年4月に実施した立ち上げ実験は、課題番号2015A1334で行いました。

 

 

参考文献
[1] O. Sakata et al.: SPring-8利用者情報 6 6 (2001) 450-455.
[2] S. Takeda, S. Kimura, O. Sakata and A. Sakai: Jpn. J. Appl. Phys. 45 39 (2006) L1054-L1056.
[3] S. Mochizuki et al.: Thin Solid Films 508 (2006) 128-131.
[4] 田尻寛男、今井康彦: SPring-8/SACLA利用研究成果集 Section C 3 1 (2015) 145-153.
[5] Y. Imai, S. Kimura, O. Sakata and A. Sakai: AIP Proc. 1221 (2010) 30-32.
[6] S. Kimura, Y. Imai, O. Sakata and A. Sakai: Key Eng. Mat. 470 (2011) 104-109.
[7] 鈴木基寛 他: SPring-8利用者情報 16 3 (2011) 201-209.
[8] S. Yoshida et al.: Appl. Phys. Lett. 99 (2011) 131909.
[9] S. Ike et al.: Appl. Phys. Lett. 106 (2015) 182104.
[10] O. Nakatsuka et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 50 (2011) 05ED03.
[11] K. Ebihara et al.: Solid-State Electronics 60 (2011) 26-30.
[12] M. Tsujino et al.: J. Appl. Phys. 110 (2011) 126103.
[13] S. Yoshida, T. Yokogawa, Y. Imai and S. Kimura: Jpn. J. Appl. Phys. 52 (2013) 072201.
[14] D. T. Khan et al.: J. Cryst. Growth 381 (2013) 37-42.
[15] M. Murugesan et al.: IEEE Trans. Electron Devices 61 (2014) 540-547.
[16] S. Ike et al.: Thin Solid Films 557 (2014) 164-168.
[17] N. Taoka et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 53 (2014) 05GE03.
[18] M. Yoshida et al.: Scientific Reports 4 (2014) 7302.
[19] D. T. Khan et al.: J. Cryst. Growth 411 (2015) 38-44.
[20] T. Arauchi et al.: Phys. Status Solidi B 252 (2015) 1149-1154.

 

 

 

木村 滋 KIMURA Shigeru
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