Volume 23, No.4
November issue 2018
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
(国)日本原子力研究開発機構 物質化学研究センター Materials Sciences Research Center, Japan Atomic Energy Agency
- Abstract
- BL23SU(JAEA重元素科学II)では、挿入光源をツインヘリカルアンジュレータに更新後、高い測定精度を武器に、様々な磁性材料に対する内殻吸収磁気円二色性の利用研究を進めて来た。本稿では、CeFe2に対する応用例を紹介する。これにより、その4f電子が温度や磁場変化に対し極めて敏感であるという、他の手法では抽出が困難な、特異な磁気的性質を有することが判明した。
[1]兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo、[2]兵庫県立大学 放射光ナノテクセンター Synchrotron Radiation Nanotechnology Center, University of Hyogo
- Abstract
- 明視野X線トポグラフィを、サファイア結晶の転位観察に適用した。通常のX線トポグラフィでは回折像の撮像を行うが、明視野トポグラフィでは透過像を撮像する。このとき、複数の回折面で回折が生じる多波回折条件近傍で撮像すると、回折ベクトルを変更しても結晶の位置や形状が変化することのない像が得られる。結晶による吸収がそれほど大きくない場合(µt~1)は、透過像と回折像は相補的であるため、通常のLang法と同様に転位のバーガースベクトルが決定できる。また、検出器に可視変換型のCMOSカメラを用いると、その高空間分解能や検出感度の広い直線性から、105 /cm2程度の転位密度の試料まで転位観察が可能である。加えて回折条件からわずかに外した像を用いて数値処理を行うと、ビームの強度ムラのない像を得ることができる。
京都大学 複合原子力科学研究所 Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science, Kyoto University
- Abstract
- 放射光により原子核を励起することによって、放射光の指向性を受け継いだ単色ガンマ線を生成することができる。このガンマ線を用いて時間領域干渉計を構築することによって、電子密度の原子・分子スケールの空間相関の緩和時間をナノ秒~マイクロ秒において測定可能なユニークな準弾性散乱実験を行うことができる。その基本的な原理や応用の可能性については、[SPring-8/SACLA利用者情報 22 (2017) 91−98]に解説を行った。本稿では、入射放射光やガンマ線の時空ダイヤグラム上での経路を考えることにより、時間領域上におけるガンマ線の干渉計描像を解説することで、時間領域干渉計を用いたガンマ線準弾性散乱法のさらなる基礎理解の一助とする。さらに、高分解能モノクロメーターを用いてmeVオーダーのエネルギー幅の入射光を用い、かつマルチラインのガンマ線を実験に用いることで、サブピコ秒オーダーのダイナミクスの情報を取り出す事ができることを示す。
東京大学 大学院理学系研究科 Graduate School of Science, The University of Tokyo
- Abstract
- X線結晶構造解析によるタンパク質立体構造決定では、十分な大きさと回折能を持ったタンパク質結晶を得る過程がボトルネックになっている。特に、膜タンパク質や不安定な複合体などは難度が高く、数から数十マイクロメートルオーダーの小さな結晶しか得られないことが多い。そのような微小結晶に対しては、マイクロビームX線を利用することで高S/N比でのデータ収集が可能になるが、放射線損傷の問題から、1つの結晶から高分解能かつ完全なデータを得ることは難しい。よって、構造解析には複数の微小結晶を用いる必要がある。筆者らは、SPring-8のマイクロビームビームラインBL32XUにおいて多数の微小結晶からデータ収集・処理を行うワークフローを整備し、自動化に成功した。これらの開発によって、微小結晶を用いた構造解析が劇的に容易になり、多くの成果が創出された。
[1]東北大学 電気通信研究所 Research Institute of Electrical Communication, Tohoku University、[2]名古屋工業大学 大学院工学研究科 Department of Electrical and Mechanical Engineering, Nagoya Institute of Technology、[3]東京大学 大学院工学系研究科 Department of Applied Physics, The University of Tokyo
- Abstract
- SPring-8をとりまく研究者間の横のつながりを強化することを目的に設置された「SPRUC分野融合型研究グループ」の一つである「ナノデバイス科学」の理念を体現するため、2015B−2017A期の4期・2年にわたり、新分野創成利用課題「ナノスケール実スピンデバイス開発に向けた新しい放射光利用」が実施された。トップダウン式の課題設定と研究者間の密接な情報交換を両輪に、最終的に9つの研究グループが7本のビームラインを有機的に活用し、スピントロニクスを中心としたナノデバイス科学と放射光研究の融合課題が推進された。異なるグループの研究者間の協力のもと、単一チームの発想に基づく従来のSPring-8一般課題では実施されなかったであろう課題や、SPring-8の利用や特定のビームラインの利用を強く検討していなかった研究グループの課題も実施され、いくつかの新しい成果が挙げられた。
京都大学 化学研究所 Institute for Chemical Research, Kyoto University
- Abstract
- スピントロニクス分野の最近の進展として、電流注入によるスピンホール効果や電圧印加による磁性制御などの外部誘起スピン秩序現象があげられる。これらの現象は高速低消費電力な新規スピントロニクスデバイスへの利用が期待され、世界的に盛んに研究がなされている。しかし、原子レベルでの基本的なメカニズムは多くの部分で未解明であり、高い効率でのスピンの外場制御の達成には電子状態の観点からの現象解明が不可欠である。放射光解析によって電子状態の観点から基礎的メカニズムの解明をすることで、新規スピントロニクスデバイス開発が促進されることが期待される。本研究では、外場印加条件下でのその場観察手法を開発し、外部誘起スピン秩序現象の発現機構を元素選択的な電子状態の直接観測というミクロな視点から解明することを目指した。
東京大学 定量生命科学研究所 Institute for Quantitative Biosciences, The University of Tokyo
- Abstract
- 膜蛋白質結晶中の脂質二重膜の可視化を目指し、複数の長期利用課題を通してX線溶媒コントラスト変調法を開発してきた。4つの状態のCa2+ポンプ結晶に適用した結果、これまでは1,2分子しか見えなかったCa2+ポンプを取り囲む燐脂質すべて(~45分子)を解像できた。その結果、膜蛋白質には燐脂質の「錨」としてともに動くアミノ酸残基と膜に浮かぶための「浮き」となる残基が配置されており、両者の間に緊密な連携があること、脂質二重膜もイオン輸送メカニズムの一部として組み込まれていることが分かった。
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
[1]SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo、[2]広島大学 大学院理学研究科 Graduate School of Sciences, Hiroshima University
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
[1](公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI、[2](国)理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)利用幹事/(国)量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学研究部門 Quantum Beam Science Research Directorate, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
4. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/関西学院大学 理工学部 School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University