Volume 25, No.2
Spring issue 2020
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1]岡山大学 異分野基礎科学研究所 Research Institute for Interdisciplinary Science, Okayama University、[2]京都大学 複合原子力科学研究所 Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science, Kyoto University、[3](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center、[4](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- トリウムの同位体の1つである229Thの原子核はおよそ8 eVという、特異的に低いエネルギーの第一励起状態(229mTh)をもつ。229mThは真空紫外領域のレーザー光で励起が可能であるため、229Th原子核を用いた超高精度な“原子核時計”などの様々な応用の可能性があり、多くの研究者の興味を惹いている。しかしながら、229mThへの励起や、229mThの脱励起光の観測に成功した例はない。一方、我々のグループはSPring-8の高品質X線ビームを用いた独自の手法で229mThを生成し、世界初の脱励起光観測に向けて研究を進めている。本記事では、2018年の実験で成功した229mTh生成実験について主に紹介する。
Application of Synchrotron Radiation in Materials Crystallography
[1]Department of Chemistry, University of Aarhus、[2]Graduate School of Science, Hiroshima University、[3]Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba
[1]広島大学 大学院理学研究科 Graduate School of Science, Hiroshima University、[2]大阪府立大学 大学院理学系研究科 Graduate School of Science, Osaka Prefecture University、[3]筑波大学 数理物質系/エネルギー物質科学研究センター Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba / Tsukuba Research Center for Energy Materials Science
愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター Geodynamics Research Center, Ehime University
[1](国)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター Research Center for Photovoltaics, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology、[2]埼玉大学 大学院理工学研究科 Graduate School of Science and Engineering, Saitama University、[3]東北大学 大学院工学研究科 School of Engineering, Tohoku University、[4](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- 長期利用課題(課題番号:2017A0136~2018B0136)において金属ハライドペロブスカイトや有機半導体の成膜過程のリアルタイムX線回折測定や、有機薄膜のコンビナトリアルライブラリのX線回折測定に取り組んだ。本稿では金属ハライドペロブスカイトのレーザー蒸着過程のリアルタイムX線回折について報告する。近年注目を集めているペロブスカイト太陽電池において、成膜過程の解析は重要な研究課題であると言える。SPring-8のBL46XUに設置し、X線回折リアルタイム測定が可能な小型レーザー蒸着装置を構築した。当該装置を用いて金属ハライドペロブスカイトの共蒸着過程および交互積層過程のリアルタイムX線回折測定を実施し、薄膜形成過程のダイナミクスを解析することに成功した。特に交互積層過程においては平坦なPbI2結晶がLayer-by-layerで形成されていくことを示すラウエ振動やペロブスカイトに変換されていく過程での格子定数変化など特異なダイナミクスを見出すことに成功した。結晶成長ダイナミクス解析に関する当該測定システムの利点を示すことができたため、今後のペロブスカイト太陽電池の研究開発における重要な研究ツールになるものと考えられる。
[1]山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター Fuel Cell Nanomaterials Center, University of Yamanashi、[2](株)日産アーク 解析プラットフォーム開発部 Analysis PF Department, Nissan ARC, Ltd.、[3](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[4]山梨大学 クリーンエネルギー研究センター Clean Energy Research Center, University of Yamanashi
- Abstract
- 電気化学反応速度と硬X線光電子分光スペクトルの同時測定が可能なoperando装置を開発した。電極触媒などの測定サンプルに対して反応物を含んだ溶液を温度・流速制御のもと層流で供給し続けるため、電気化学反応を厳密に測定あるいは任意に制御することができる。一方、溶液と超高真空の異なった環境を15 nm程度の厚さのSi3N4ウィンドウで「つなげる」ことにより、operando硬X線光電子分光スペクトルを行うことも可能となった。本装置の機構および本装置を用いて得られた結果について報告する。
2. ビームライン/BEAMLINES
[1](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI、[3]高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 Institute of Materials Structure Science, High Energy Accelerator Research Organization (KEK)
- Abstract
- 吸引力相殺型アンジュレータとは、周期磁場を発生する上下磁石列の間に働く吸引力を相殺する機構を備えた、新たな概念に基づくアンジュレータである。同機構により、上下磁石列を保持し、またそれらのギャップを高精度に制御する駆動架台に加わる機械負荷が磁石列の自重程度にまで軽減される。このため駆動架台を構成する様々な部品への要求仕様が緩和され、その構造を大幅に簡素化することが可能になる。駆動架台の構造簡素化はアンジュレータの製造コストの削減や製造期間の短縮に極めて有効であるため、その実用化に向けた研究開発が著者らのグループによって行われてきた。原理検証や各種試験を経て最初の実用機が2018年3月に完成し、1年間のビーム試験を経てSPring-8のBL10XU用光源として導入された。
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- 放射光を用いたX線CT測定の冷凍食品分野への応用を目的とした技術開発事例を紹介する。冷凍食品中の凍結組織を構成する氷と食材の密度差は小さく、管球光源の白色X線を用いた実験室系のX線CT装置ではその組織を識別することは困難である。この問題の解決手段として、放射光から得られる高輝度単色X線を活用することで凍結組織のX線CT断層像のコントラストを向上し、冷凍食品内部組織の非破壊観察を実現可能か、産業利用ビームラインBL19B2において技術検討した。まず、X線CT装置上で冷凍試料を凍結保持するための液体窒素吹付試料冷却装置を開発した。この装置を用いて冷凍マグロ試料のX線CT測定を行った。その結果、凍結組織中のマグロの筋肉成分の凝集組織と氷を明確に識別できるだけでなく、得られたX線線吸収係数の分布の定量的なデータから冷凍による組織の密度変化の評価にまで応用可能になることが示された。
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/岡山大学 異分野基礎科学研究所 Research Institute for Interdisciplinary Science, Okayama University
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
5. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/広島大学 大学院先進理工系科学研究科 Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University