Volume 26, No.1
Winter issue 2021
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1](株)豊田中央研究所 分析部 量子ビーム解析研究室 Quantum Beam Analysis Lab., Materials Analysis & Evaluation Dept., Toyota Central R&D Labs., Inc.、[2](株)豊田中央研究所 環境・エネルギー1部 電池材料・プロセス研究室 Battery Materials & Processing Lab., Environment & Energy Dept. I, Toyota Central R&D Labs., Inc.、[3](株)豊田中央研究所 機械1部 パワトレシステム研究室 Powertrain System Lab., Mechanical Engineering Dept. I, Toyota Central R&D Labs., Inc.
- Abstract
- X線ラマン散乱分光(X-ray Raman scattering: XRS)は、透過能の高い硬X線をプローブとして軟X線吸収分光と同等の情報を得ることができる手法である。同手法の適用により、軟X線吸収分光では一般的に困難である軽元素の非破壊・その場解析を容易に実現できる。一方、黒鉛は、リチウムイオン電池の負極として最も広く利用されている材料であるが、電池充放電に伴う炭素の電子状態変化については未だ十分には解明されていない。本研究では、充放電可能なセルを用いた黒鉛負極のその場XRS測定手法を開発し、放電中に現れる3種の相(LiC6、LiC12、黒鉛)についてC K吸収端XRS測定を行った。観測された放電に伴うスペクトル変化は先行研究の結果と合致するものであり、開発したその場XRS測定手法が、電池動作中の黒鉛負極の電子状態評価に有用であることがわかった。
[1]東北大学 電気通信研究所 Research Institute of Electrical Communication, Tohoku University、[2]住友電気工業(株) Sumitomo Electric Industries, Ltd.、[3](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- Siエレクトロニクスが限界に達した今、新材料の物性を極限まで引き出し、Siデバイスを凌駕するデバイスを創出せねばならない。しかし、新材料を用いたデバイスの機能は、材料物性から予測される理論値を大きく下回っている。その原因を究明すべく、我々はデバイス動作下でナノ物性の時空間ダイナミクスを観測するオペランド高時空間能X線吸収分光のフルスペクトル計測を初めて実現し、さらに、GaN高電子移動度トランジスタの性能を決定する表面電子捕獲の時空間ダイナミクスの直接観測に成功した。現在、オペランド時空間X線分光で得られるダイナミクスを基に、デバイス動作機構を定量可視化する学理の創出に取り組んでいるところである。
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 精密分光推進室 Precision Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- デバイスの小型化・高性能化に伴い、その熱制御が重要となっている。デバイス中の熱は主にフォノンによって伝搬されることから、熱特性の微視的な起源を調べる手段としてフォノン測定や計算が活発に行われている。SPring-8の非弾性X線散乱法は、対象に単結晶試料を用いた場合、そのフォノン分散を測定することができる。この手法を元に、斜入射条件ではX線の侵入長が短い特性を利用し、よりデバイスの環境に近い薄膜(>μm厚)において効率的なフォノン分散測定を可能とした。本稿ではその研究成果を紹介する。
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- 半導体デバイスにおいて、バンドベンディングやバンドオフセットなどの電子状態を精密に評価して正確なバンド構造を把握することは電気特性の要因解析や特性改善の指標を得る上で重要である。本研究では多層膜構造など実際のデバイスに近い構造におけるバンド構造の定量的評価を可能とすることを目的として、BL46XUの硬X線光電子分光(HAXPES, Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy)装置をベースにバンドギャップ光励起による表面光起電力(SPV, Surface photo-voltage)を応用した電子状態評価技術を開発した。本評価技術は半導体デバイスの他、材料の光化学的な反応や光による劣化の評価、太陽電池や光触媒における光照射下の電子状態評価など、様々な材料に応用することもできる。本稿では、本評価技術を用いた半導体デバイスのバンド構造評価や波長依存性を応用したバンドギャップ評価、酸化物半導体や太陽電池材料におけるバンドギャップ光照射下の電子状態、光劣化評価への応用事例を紹介する。
2. ビームライン/BEAMLINES
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- サブミクロンスケールに集光した軟X線ビームを用いる走査型軟X線分光顕微鏡を開発し理研ビームラインBL17SUに設置した。集光素子としてフレネルゾーンプレートを使用し、エネルギー範囲として400~756 eV(一次回折)をカバーし、300~500 nm程度のビーム径で各種試料の表面/界面の観察に利用している。低真空からヘリウム置換大気圧環境下での試料表面近傍の顕微分光観察を可能とするもので、2018年後半より理研ユーザーによる応用研究を進めてきた。装置の概要、可能な計測手法と幾つかの観察事例、そしてソフトウェアアプリケーションについて紹介する。
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国)量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 Quantum Beam Science Research Directorate, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体 Advanced Softmaterial Beamline (FSBL)
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室/(国研)理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL Utilization Division, JASRI / RIKEN SPring-8 Center
5. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/広島大学 大学院先進理工系科学研究科 Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University