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Volume 20, No.2 Pages 184 - 185

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

平成27年度に指定されたパートナーユーザーの紹介
Newly Designated Partner Users FY 2015

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 平成25年度まで運用していた「パワーユーザー」制度について、平成26年度より名称および一部運用を変更し、「パートナーユーザー」(以下「PU」という)として運用を開始しました。平成27年度は、3名の応募があり、PU審査委員会による審査の結果、3名が指定されました。指定されたPUおよびPU審査委員会からの審査結果を以下に示します。

 

 

PUの概要

・PUは、平成25年度までの「パワーユーザー」の名称および一部運用を変更したもの。

・平成26年度以降のPUは、共用ビームラインおよび測定技術を熟知し、放射光科学・技術の学術分野の開拓が期待できる研究者で、
1)ビームライン実験設備の開発および高度化への協力
2)上記高度化等に関連した、先導的な放射光利用の実施および当該利用分野の拡大・推進
3)上記高度化等に関連した利用者支援
のいずれも満たすユーザーを指す。

・PUの指定期間は原則2年間(PU審査委員会が必要と認めた場合には延長可。最長5年間)。

 

[指定期間]
平成27年4月1日から平成29年3月31日まで(2年間)

 

[指定されたPU]
1. 森吉 千佳子(広島大学)

(1)実施内容
 研究テーマ:粉末・多粒子X線回折による高速構造計測基盤の構築
 高度化:迅速オペランド構造計測ステーションの整備
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL02B2

(3)審査コメント
 本申請は、微量な粉末試料においても精密構造決定を可能とするBL02B2の計測基盤において、新規検出器を活用したその場(in-situ)構造計測、実使用環境下(operando)構造計測などを基盤化することで、構造物性研究の新展開を目指している。申請代表者らは、BL02B2ビームラインの利用開始時から、装置機器整備、利用支援に大きな貢献をしてきており、ビームラインの特長を生かした成果創出を行ってきた。本申請では、これまでの実績に基づき、ビームラインが進める高度化・開発、利用研究、利用者支援をビームライン担当者と連携して意欲的に推進する提案がなされている。以下に高度化・開発、高度化に関連した利用実験、および利用者支援の要点を記す。
 高度化・開発においては、半導体一次元検出器の導入とシステム構築を行い、in-situ計測、operando計測を可能とする。また、検出器の配置自由度の利点を活用し、研究対象に応じた測定領域、測定分解能での構造計測を可能とする。これにより、無機材料から巨大分子まで、また、ナノ粒子やナノ構造体など多様な試料、形態の構造計測を可能とする。さらに、次世代光源を見据え、粉末試料としても単結晶試料としても取り扱いが困難な多粒子(極微量の複数粒子)試料の構造決定や局所構造決定など、新しい構造計測コンセプトを構築する野心的な計画である。
 高度化に関連した利用実験としては、検出器の高い時間・空間・エネルギー分解能を活用し、電子材料における電場などの外場応答構造計測、物理・化学吸着などの雰囲気応答構造計測、巨大分子系での粉末回折プロファイルからの構造決定など、学術界、産業界からのニーズが高い構造計測研究を展開する計画である。
 利用者支援においては、上記の幅広い試料群を扱う研究者やin-situ、operando構造計測を必要とする新規利用者の拡大を目指す。放射光利用の習熟度の浅い利用者に対しても実験、解析の支援までを行う計画である。利用者拡大に対しては、申請者の専門分野に留まらず、異分野への意欲的な市場開拓を期待したい。
 以上のように、本申請は、これまでの実績を基盤に、学術・産業界のニーズ、放射光計測の発展にそった計画であり、BL02B2の利用研究の新しい展開が期待できるものである。よって、パートナーユーザーとしての選定が適当であると判断する。


2. 入舩 徹男(愛媛大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:大容量高圧装置を活用した地球および関連物質の高温高圧物性研究の推進
 高度化:超音波測定システムおよび単色X線光学系の高度化
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL04B1

(3)審査コメント
 本申請は、多段アンビル超高圧装置と超音波測定装置を組み合わせて、音速測定・微小破壊音測定を含む物性測定を地球科学的視点で行うとともに、装置技術開発をふまえて、物性物理、化学、材料科学にかかわる一般ユーザーの拡大を展望している提案である。
 学術的には、まず地球科学において最先端の未知の領域の問題解明を目指し、ヒメダイヤの利用を展望するなど野心的な試みも含まれている。またこのグループの過去の業績を見ると、地球科学以外にも基礎物性物理などにおいて質の高い業績が得られている。グループには外国人も含まれており、地球科学の枠をこえた一般ユーザー拡大については、これまでの実績からも高い実現性があると判断される。
 一方、装置開発の基本は愛媛大学でなされるものの、それをビームラインに持ち込むことにより、施設側との緊密な連携を目指している。多段アンビル装置の場合、比較的試料サイズが大きいとはいえ、検出系を含めてビームライン光学系との整合性を取ることは不可欠である。この工程については、申請文に十分には記載されていないが、施設側との緊密な話し合いで内容を煮詰めていくことが必要である。
 以上を総合して、本申請は、パートナーユーザーとしての選定が適当であると判断する。


3. 戸田 裕之(九州大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:構造材料の4Dイメージング技術およびその周辺解析技術の高度化
 高度化:マイクロCTの多元イメージング技術の高度化
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL20XU

(3)審査コメント
 申請者は、これまでX線マイクロCTを用いて金属材料の変形・破壊などの問題に関する研究を行ってきた。本申請では、これまでの研究をさらに発展させるとともに、疲労・引張・圧縮試験機、高温用材料試験機を用いて疲労破壊のその場観察を行う4Dイメージングの実験・解析技術を、施設側と協同して開発することを目的としている。さらに、CTとX線回折を組み合わせた結晶粒界追跡法の高度化など、先端実験技術の開発を行うことを意図している。
 本研究分野は、SPring-8における利用者が少なく、国際的には不十分な技術レベルにあると考えられ、これらの技術開発はSPring-8として推進すべき課題である。申請者は多くの研究プロジェクトに参加し、金属材料における亀裂先端の変形過程や、水素の挙動観察などを行うことで十分な知識と経験の蓄積を有しており、多数の出版論文がある。また、研究計画も明確であり、本申請の技術開発を遂行するにあたって十分な力量を持つと判断でき、研究成果も期待できる。よって、パートナーユーザーとしての選定が適当であると判断する。
 本課題の実施にあたり、開発した実験・解析技術は、申請者自身の研究にとどまらず、一般ユーザーへ開放して利用を促す必要がある。研究対象を金属材料にだけ限定することなく、高分子など他分野への応用も視野に入れて、申請者が利用拡大に積極的に取り組むことを期待する。また施設側にも、本課題で開発された優れた技術を多くのユーザーが利用して成果をあげるように、十分な普及啓発活動を行うことを求めたい。

 

 

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794