Volume 20, No.4 Pages 328 - 341
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第12回放射光装置技術国際会議(SRI2015)報告
“The 12th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI2015)” Report
[1](公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, JASRI、[4](公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI、[5]国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center
1. はじめに
2015年7月6日(月)~10日(金)に、米国BNL(Brookhaven National Laboratory)・NSLS-II(The National Synchrotron Light Source)をホストとし、New York, Times SquareのMarriott Marquisにおいて第12回目となるSRI2015(The 12th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation)が開催された。本会議は、世界各地の放射光施設を中心に3年ごとに開催されており、直近では、2012年にESRF/SOLEILにより仏国Lyonにて、2009年にAustralian Light SourceによりMelbourneにて開催されている。
初日のWelcome Receptionの前に、First lightからまだ8ヵ月余りしか経たないNSLS-II Tourがあり、この新しい施設のお披露目を強く意識させる会議の幕開けとなった(9に後述)。
講演会は4日間で、朝8時半頃から10時過ぎまで写真1のBallroomにおいて、Keynote(初日と2日目のみ)とPlenary Session(4日間とも)が行われた。その後4つの会場に分かれて5~6講演を1つのSessionとするOral Presentation(175件)が2コマあり、最終日を除き、Poster Session(438件)が16時過ぎから18時半までという日程であった。参加登録者数は23ヵ国から789名(米国299、独国115、日本107、英国52名など)と報告された。
写真1 Keynote & Plenary講演会場にてBanquet。Dinner後のProf. Hurowitz(Stony Brook Univ.)による“NASA's Mars 2020 Rover Mission”と題した講演の模様。
以下にOral Session名を記す。平行して多くの話題が提供される会議であり、網羅はできず抜けもあるが、以下の括りごとに分担して会議の模様をお伝えする。なお以下敬称略とする。
■散乱、高エネルギー、時分割関連分野(伊藤真義、今井康彦)
Advances in Inelastic Methods
Inelastic and Emission Spectroscopy
Time-Resolved Methods I, II
New Developments in Materials Applications I, II
In-Situ and Operando Materials Experiments I, II
■生物関連分野(長谷川和也)
Biomedical Applications
Micro-Crystallography
Automation in Structural Biology
■XFEL、検出器、DAQ関連分野(亀島敬、初井宇記)
Advances in X-ray Detectors I, II
Advances in Data Acquisition and Management
Novel Instrumentation for FELs
X-ray Optics for FELs and Ultrafast Sources
Advances in Beam Diagnostics and Monitoring
■光学系関連分野(湯本博勝、仙波泰徳)
X-ray Optics Systems and Metrology I, II
Advances in Focusing and Imaging Optics I, II
Advances in X-ray Imaging I, II
X-ray Optics Modeling and Design I, II
X-ray Microscopy and Nanoprobes
Coherent and Ptychographic Methods
Advances in Soft X-ray and Infrared Methods
■光源・施設関連(大橋治彦)
Novel Insertion Devices
New Facilities I, II
(大橋治彦)
2. Keynote & Plenary Session
Keynote(2講演)とPlenary Session(12講演)のいくつかについて、日程に沿って紹介する。
2-1. 1日目:材料科学系
最初のKeynoteは、Cornell Univ.のM. Millerによる“Understanding the Crystal Scale Performance of Structural Materials”であった。HEXD(High Energy X-ray Diffraction)によって得られるミクロの構造データと物性値を用いたモデルが、どこまでつながるようになってきたか、具体的な構造材料を例に解説した。HEXDは、結晶を回しながら結晶サイズ程度にX線を絞り、サンプルと検出器の距離を変えて、50 keV以上の高エネルギーX線により回折像を取る手法として特徴づけられる。ジェットエンジンのタービンが破壊された事例から、合金の特性評価とモデリングが等軸晶やラメラ構造を2次元から3次元で得られるようになった現状を示した。Cornell Univ.のCHESSのF2実験ステーションでは、The Air Force Research Lab.(AFRL)と共同で製作した新しいHEXD実験ステーションを紹介した。Ti-7Al材料への荷重時の応力変化をNear-field(試料から5 mm)とFar-field(1 m)で、それぞれ□2.7 mm視野で1.5 µm pixelsと、□400 mmで200 µm pixelsサイズの動画(最大4 Mフォーマットで7 Hz)で示し、モデルとの比較検証を行っている。荷重、加熱(1200℃まで)、エアーベアリング回転軸マニピュレータなどの試料環境を整備した。2014年6月には2 mm × 100 µmで3Dのgrain mapを得ており、12月に予定されている溶接の残留応力を調べる実験の準備が進んでいる。
Keynoteに続き初日のPlenary Talkとして、2件、HP-STARのH. Maoが“Materials Discovery at High Pressures in Earth and Energy Sciences”、東北大の高田昌樹が“Industry Research Program at SPring-8”と題して講演した。H. Maoは、APSには多くの高圧実験ステーションがあることを図示し、試料サイズmmオーダーで30 GPa、µmオーダーで400 GPaの高圧でどのように物性が変化するのか、様々な実験例を示した。高田は、SPring-8や京コンピュータを用いた新しい低燃費自動車タイヤの開発を一例としてその経済効果を例示し、大学研究者と産業界、そして施設がいかに連携し利用成果の創出につなげたか、その背景にある共同研究体制作りの重要性を実績に基づき力強く講演した。最後に東北放射光施設計画SLiT-Jについても触れた。
2-2. 2日目:Serial CrystallographyとNSLS-IIのNanoprobe
2日目は、DESYのH. Chapmanによる“Serial Crystallography at Free-Electron Laser and Synchrotron Light Sources”から始まり(写真2-1)、ALBAのE. Pereiroによる“Cryo Soft X-ray Tomography for Elucidating Pathogen-Cellular Interactions”と、NSLS-IIのY. Chuによる“The New Nanoprobe for Hard X-rays”の2件のPlenary Talkがあった(写真2-2)。以下にChapmanとChuの講演について紹介する。
写真2-1 H. ChapmanによるKeynote
写真2-2 NSLS-IIのY. ChuのPlenary講演
KeynoteのChapmanは、Serial Crystallographyの進展をLCLSやPETRA IIIの結果を中心に紹介した。従来手法と比べてSerial Crystallographyの利点として、微小結晶からの像が得られること、データ取得時間の短縮、室温での測定、ポストプロセスで最も良好な結晶を選別できること、アライメントのために試料への暴露が不要なこと、光電子の平均自由行程より小さな結晶と短いX線パルス幅のおかげでより高い放射線耐性を有すること、時分割測定可能など10項目を挙げた。FELによりすでに44個の構造がデータバンクに登録されており、LCLSでPhotosystem Iを対象に9.3 keVでsingle shot、1 mJ、40 fsで3 Ångströmの分解能の像が得られている例を紹介した。集光サイズ1 µmのX線ビームで大きさが0.2~2 µmの結晶を3 µm程度の径のジェットでサンプル供給しており、Liquid jetに対してAerosol beamによりバックグラウンドの低減が可能である。一方で、電子顕微鏡の進展によりNano Crystallographyはラボで可能となりつつあることにも触れた。結晶構造情報を得るためにどれだけ少ない照射量で取得可能かという問いに対して、9 keVで109 phs/µm2を示し、もしピンクビームで1015 phs/sを1 µm2に集光するなら、1 µsで像が取れると述べた。PETRA IIIではナノ秒(4.5 MHz frame rate)での測定が行われている。本会議ではOral Sessionの一つにSerial Micro-Crystallographyが設けられ、普及期に入りつつあるようだ。
NSLS-IIからのPlenary Talkはこの日のChuの1件だけと控えめであったが、新しい施設の目玉のビームラインであり、力の入った発表であった。初期目標10 nmプローブビームを達成し、将来には1 nmを目指す硬X線ナノプローブ顕微鏡ビームラインである。高安定の水平振り結晶分光器を採用し、角度振れは30 nrad以下に抑制している。集光素子としては、NSLS-II内で製作したMLL(Multilayer Laue Lens)(43.4 µmの開口で、12 keVで4.2 mmの焦点距離、ただしOSA(Order selecting aperture)を挿入するためWorking distanceは0.9 mm、7-1に後述)により集光サイズ水平方向11 nm、垂直方向13 nmのLine and spaceのプロファイルを示した。Flying scanにより3分程度で□50 µmの像を取得しており、リアルタイムでDPC(Differential Phase Contrast)を表示するソフトウェアを開発している。利用成果はこれからといったところだが、2017年までにMLLを用いたPtychographyや、Zone PlateによるXANES、XRF Tomographyを計画しており、次々と従来手法の微小ビーム化を推進する模様である。
2-3. 3日目:広範な時間領域での溶液の結合生成の直接観察とSeed型FELの紹介
3日目には、分野の異なる4件のPlenary Talkがあった。KEKの野澤俊介が“Direct Observation of Bond Formation by Femtosecond X-ray Solution Scattering”、PSIのA. Diazが“Development of Ptychographic Tomography for Scientific Applications”と利用研究の話題に加え、SLACのD. Ratnerによる“Seeded Free-Electron Lasers and Applications”と、MAX-IVのM. Erikssonによる“The Multi-Bend Achromat Storage Rings”は、数少ない光源関係のPlenary Talkとなった。このうち、野澤とRatnerの講演について簡単に紹介する。
野澤は、溶液中の[Au(CN)2]nのOligomerを対象に結合の形成過程をフェムト秒X線散乱法により可視化した。PF-AR NW14Aにおいて100 ps分解能で1 nsまでの範囲を、SALCAにおいて−800 fsから100 psまでの範囲において、この両者の光源の特性を使い分けて、時分割X線溶液散乱を測定した。光励起したときの構造変化を、例えば100 psではTrimer、10 nsではTetramerを観測し、その様子を動画としてデモンストレーションした。溶液中での化学反応過程の追跡を可能とした点において注目される。今後は、タイミングモニタの整備により、SACLAの超短パルス幅10 fsオーダーでの観察に意欲を示した。
RatnerはFELの成長式から始めて、現状のSASE型FELではTime domainでもFrequency domainでもばらつきが大きいが、Seed型FELでは前者で滑らかに、後者でシャープになることを示しSeedingの必要性を述べた。External Seedingの例として、High harmonic generation(HG)を用いたEUVから軟X線領域のSCSS、FLASHやFERMIの例を示した。2段のHGHGにより1 nmまで発振している。次にSelf Seedingに話題を移し、挿入光源の途中にシケインを設け、結晶を通してそのあとでFEL発振させる手法を述べ、LCLSやSACLAで実現したスペクトルを紹介した。結晶を用いたSelf Seedingの原理の説明不足が否めず、会場から質問が寄せられ座長の石川哲也が解説するという場面があった。将来展望として、FEL Oscillator(FEL-O)について触れた。
2-4. 4日目:SR Spatiotemporal Toolsの紹介
4日目は、4件のPlenary Talkがあった。APSのG. Shenoyに代わりAPSのJ. Wangが、“Development of SR Spatiotemporal Tools”と題して代理講演した。次いでESRFのN. Brookesは、この会議を象徴する話題の一つに挙げられる軟X線非弾性散乱“Synchrotron Research using Soft X-ray Resonant Inelastic Scattering”(7-4に後述)の講演を行った。HZBのA. Fohlishは、“Implications of Adding the Dimension of Time and Stimulated Processes to Science with X-rays”、最後にALSのD. Parkinsonは、“Real-time Data-Intensive Computing”(6-3に後述)と題して講演した。
このうち、Wangは、SRで10 psからµsオーダーの時間軸と、sub-nmからµmオーダーの空間軸の相関測定を実現するための道具立てを紹介した。APS、NSLS-II、MAX-IVにおける様々なバンチ構造やBESSY IIにおけるチョッパー開発、APSにおけるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術による結晶駆動の装置などである。MEMSによるシリコン結晶により、2.8±0.4 ns幅でビーム切り出しに成功している。熱負荷対策は困難なため白色やピンクビームは受けられないが、分光後のチョッパーとしての利用を考えているようだ。関連講演について4-2に報告がある。
(大橋治彦)
3. 散乱、高エネルギーX線利用関連分野
3-1. 散乱分野
X線非弾性散乱関連のセッションは、4日目の午後にAdvances in Inelastic Methodsとして、また、最終日の午後にInelastic and Emission Spectroscopyが行われた。これまで非弾性散乱分野は単独のセッションはなかったが、今回は2つのセッションが開催された。
NSLS-IIのA. Suvorovにより、X線非弾性散乱スペクトロメーター用の超高エネルギー分解能フォーカシングモノクロメータについての報告があった。内容はモノクロのデザインと理論計算であり、エネルギー分解能0.1 meV以下のガウシアンシェープに近いX線を得られるという結果であった。このモノクロメータは下に述べるNSLS-IIのIXSビームラインに導入される。
NSRRCのD. J. Huangからは、高効率、高分解能な軟X線でのRIXSスペクトロメーターのデザインとその試験結果が示された。このコンセプトに基づいて、台湾PSに新しくRIXSビームラインが建設中である。エネルギー分解能は、計算値では21 meV(@900 eV)、8 meV(@530 eV)であり、今年11月に建設が完了する予定とのことだ。
APSのX-R. Huangからは、新しいコンセプトのRIXSスペクトロメーターの報告があった。これは、シリコン結晶ベースで、エネルギー分解能に幾何学的な要因がなく、< 10 meVであらゆるエネルギーに対応できるとのことで、主にNestedチャンネルカットモノクロメータ、Motel多層膜ミラーとCDSアナライザーから構成されている。現在、実証試験を行っており、個々の光学素子のテストはほぼ設計値通りとのことで、今後RIXSスペクトロメーターとして試験を行っていくとのことだ。
ESRFのM. Moretti Salaは、2013年から運用が開始されたUPBL06の報告を行った。このビームラインはX線非弾性散乱専用であり、RIXS、X線ラマン散乱それぞれ専用のスペクトロメーターを有している。発表では、X線ラマン散乱に重点をおいて装置、実験例が報告された。
ALSのY-D. Chuangは、ALSとLCLSの双方で使用しているqRIXS用のスペクトロメーターの報告を行った。この装置は、ポータブルでモジュール化されており、ALSとLCLSとの往来が容易に可能であるとのことだ。チャンバーは回転可能であり、また5つのポートを備え付けている。また、本機をLCLSに持ち込んで行った時分割RIXS実験の例などの紹介があった。
DESYからはH. Yavasが、この5月に供用を開始したRIXSスペクトロメーターを報告した。現在のところ、エネルギー分解能はCu K吸収端において25 meVを達成したとのことだが、1 meVも可能だと話していた。
NSLS-IIのY. Caiにより、現在NSLS-IIで立ち上げ中の超高エネルギー分解能非弾性散乱ビームラインについて、それぞれの光学コンポーネントのデザイン紹介とその立ち上げ状況の報告があった。このビームラインでのIXSスペクトロメーターの最終目標エネルギー分解能は0.1 meVである。正にこの7月末からコミッショニング実験が始められ、今年10月からは一般ユーザー実験が開始される予定であるとのことだ。
3-2. 高エネルギーX線利用
SRI2015最初の講演が、高エネルギーX線回折であったためか(2-1参照)、50 keVを越えた高エネルギーX線を利用した報告が以前に比べて増加しているように感じた。セッションにまたがっていくつか紹介する。
DESYのU. Ruttにより、PETRA IIIのP07ビームラインでの高エネルギー表面回折実験の報告があった。ここでは50 − 200 keVのX線が使用でき、41 × 41 cmの2次元検出器(flat panel)が使用できる。ビームの集光は1D、2Dの屈折レンズによって可能であり、160 keVにて3 × 30 µmである。高いX線エネルギーは大きく重い試料セルの内部の観察が可能であり、溶液中の触媒反応の観察を容易にしてくれる。触媒反応観察の動画からこの手法の優位性を強く感じられた。
HZGのA. Hippは、PETRA III、P05、P07ビームラインでのX線イメージングの報告を行った。ここでは最大200 keVのX線が使用できる。主題はデータのハイスループット化で、ロボットアームによる試料交換、測定視野の自動設定、再構成システムの高度化などが報告され、高エネルギーX線イメージングにおけるユーザーの高い要求が感じられた。
DLSのM. Drakopoulosからは、Diamondリングの超伝導ウィグラーからの50 – 150 keVのX線を利用した多目的ビームラインの発表があった。これはJEEPと呼ばれるもので、単色および白色のビームが使用でき、RadiographyからSAXSに至るまで多種の測定方法が用意されている。発表は運用を開始した2009年11月からの成果のレビュー的な内容であったが、広い実験ハッチにジェットエンジンが置かれていた写真は印象的であった。SPring-8のW棟の建設時には、車を持ち込んでエンジン本体を動かしながらX線観察を・・・という構想があったと記憶しているが、ここでは正にそれが実現されていた。
BNLのE. Stavitskihaは、NSLS-IIに予定されているISSビームラインの報告を行った。このビームラインは、in-situ、operando実験用のビームラインで、ダンピングウィグラーを光源とし、36 keVまでの光を使用できるビームラインである。発表者は、“Wiggler is an spectroscopist's friend”(原文のまま)と示し、そのためのビームラインコンポーネント、光学素子を紹介した。
検出器セッションでは、Siに代わり、Cd-Te半導体を使用した検出器の方向性が多く示されていた。例えば、M. Wilsonの報告にあったHEXITEC検出器は、検出エネルギー 3 − 200 keV、80 × 80 pixelで、エネルギー分解能は60 keVにおいて800 eVとのことである。
(伊藤真義)
4. 時分割関連分野
4-1. Time-Resolved Methods I
KEKの足立伸一が、PF-ARのNW14AとSACLAを使った時間分解XAFS測定による光触媒の研究について報告した。PF-ARは、シングルバンチ運転に特化しており、時分割研究に適している。光触媒の時間分解XAFS測定は、Ru K端(22.1 keV)で行われた。ポリキャピラリーを用いて集光した30 × 30 µm2のビームを用いた。励起にはフェムト秒・ナノ秒レーザー、397 kHzのファイバーレーザーなどが利用できる。
SOLEILのP. Royは、コヒーレントTHzシンクロトロン放射光についての報告を行った。バンチ長が放射光の波長と同程度になるとコヒーレント光が得られる。SOLEILのコヒーレントTHz光は、2つの周波数コムからなっている。1つは、電子バンチとバンチの繰り返しに由来し、もう1つは846 kHzで蓄積リングの周回時間(1.18 µs)に由来している。これによって、0.1~1 THzに渡って106もの要素を持つ周波数コムのTHz光が得られる。
DESYのZ. Yinは、PETRA IIIの軟X線ビームラインP04で開発されている時間分解軟X線分光測定システムについて報告した。P04の光源APPLE-2アンジュレータで、円偏光または直線偏光、250~3,000 eVの光が得られる。ターゲット元素は軟X線領域にK吸収端を持つC, N, Oなどであり、液体環境(リキッドジェット)下での測定が可能である。ポンプレーザーとX線は、rmsで1 ps以下のジッターで同期が取られている。
BESSY IIのP. Gaalは、BESSY IIのビームラインXPP-KMC-3で行った高繰り返し超高速X線回折測定についての報告を行った。BESSY IIは加速電圧1.7 GeV、周長240 mのリングで、パルスの時間幅は約20 psである。XPP-KMC-3は時間分解X線回折とEXAFS、XANES測定用ビームラインであり、時間分解測定用に時間幅250 fs、周波数1.25 MHzの超高速ファイバーレーザー、PILATUS 100k、4軸回折計、30 K以下のクライオスタットを備えている。3週間前に測ったというスイッチング時間5 psの50 nm LAO/100 nm LSMO膜の結果が紹介された。
DLSのS. S. Dhesiは、DLSとLCLSを使い、時間分解共鳴軟X線回折によって超伝導クプラートの電荷秩序ダイナミクスを測定した結果を報告した。用いたエネルギーは酸素のK吸収端で、時間分解能は300 fsである。ハイブリッドフィリングのシングルバンチ62 psを使っていた。高温超伝導体La2-xBaxCuO4 (x=1/8)では、低温正方晶の格子歪みと電荷秩序が~55 Kという同じ温度で発現する。この2つの現象を切り離して調べるために、赤外光励起・X線プローブの時間分解軟X線共鳴回折を測定した。その結果は、超伝導を阻害しているのは、低温正方晶格子歪みではなく、電荷秩序の方であることを示唆している。
本セッション最後の講演は、発表者のVISAにトラブルがありキャンセルとなった。予定されていた講演は、中国科学技術大学のY. Panによる放射光真空紫外光励起によるイオン化質量分析に関するものであった。
4-2. Time-Resolved Methods II
ESRFのO. Mathonは、ESRF EXAFSビームラインBM23とエネルギー分散型XAFSビームラインID24で行われている高温高圧下における研究を報告した。この2つのビームラインは、時間分解と極限環境下でのX線吸収分光測定に特化させるために完全に再構築された。ID24は、数百万気圧の圧力と最高4,000 Kまで到達可能なレーザー加熱装置を備えている。放射光パルスと同期させたレーザー衝撃波によって動的に加圧した~550万気圧、12,000 Kの鉄のEXAFS測定の結果が紹介された。
NSLS-IIのS. K. Khoseは、ダンピングウィグラーを光源とした時間分解粉末X線回折ビームラインの計画を紹介した。エネルギーは30~70 keV、フラックスは2 × 1013 ph/s at 50 keV and 500 mA、ビームサイズは可変で500 (H) × 50 (V) µm2からmm2。高いフラックスと可変ビームサイズは、サジタルベントの二結晶Laueモノクロメータによって実現している。このビームラインは、水素の貯蔵、二酸化炭素の隔離、先端構造セラミックス、触媒、先端材料合成など複雑な試料に対するin-situ・operando下での粉末X線回折測定を目指している。
APSのD. A. Walkoは、放射光パルスを1パルスだけ切り出すことのできるMEMSベースのX線光学素子について報告を行った。シリコン結晶を放射光と同期した最高~100 kHzで振動させ、004回折をシャッターの開口として用いる。実測の時間幅は2.8 nsであった。
PSIのM. Makitaは、超高速ダイナミクス測定のためのシングルショット、フェムト秒X線ストリーク法の報告を行った。本手法はシングルショットでのダイナミクス測定を可能にした。原理は、まず回折格子によってビームを1次元に15対の複数パスに分割し、次に離れた位置に置いた複数の回折格子によって試料上にビームを再結合させるというものである。観察可能な時間窓は、FLASHの60 eVでは1.57 ps、LCLSの5050 eVでは350 fsである。XUVで測定した強磁性薄膜の消磁のダイナミクス、軟X線で測定したビスマス結晶やリゾチウム結晶の時間分解反射率測定の結果が紹介された。
SOLEILのP. Prigentは、SOLEILで行っているレーザーバンチスライスによるフェムト秒放射光プロジェクトの進捗状況を報告した。2014年末にレーザーと電子の相互作用が初めて観測され、2015年2月にはサブピコ秒の硬X線を確認している。2015年末には、軟X線ビームラインにも供給できる予定であると報告された。
(今井康彦)
5. 生物関連分野
5-1. Serial Micro-Crystallography
Serial Micro-Crystallography(SMX)は、X線ビーム上に次々と送られる多数の微小結晶からの回折データを集めて構造解析する手法である。微小結晶の懸濁液の液流にXFELパルスを照射してデータ測定を行う方法としてLCLSで開発されたが(Serial Femtosecond Crystallography (SFX))、従来の方法では測定できない微小結晶からのデータ測定を実現する方法として注目を集め、タンパク質結晶解析ビームライン(MXビームライン)においても試みられ始めている。本セッションでは、筆者を含めて以下6つの講演があった。
最初に、タンパク質微小結晶構造解析のパイオニアであるESRFのC. Riekelが、MXビームラインでのシリアルデータ測定(以下、シリアル法)の現状について解説した。シリアル法を、(1)基板上に分散させた微結晶をX線で走査して測定する方法、(2)インジェクタで噴出結晶懸濁液にX線照射する方法、(3)基板上に位置決めして配置した多数の結晶にX線を照射する方法の3種類に分類し、それぞれについてどのような測定が試みられているかについて説明した。
NSLS-IIのM. Fuchsは、建設が進んでいる2本のMXビームラインFMX、AMXの現状について報告した。FMXでは、従来のデータ測定方法とシリアル法の両方を行えるようにするため、2つのゴニオメータを準備している。また、光電子の散逸による照射損傷低減効果をねらい、最高30 keVの高エネルギーX線を用いた微小結晶データ測定を目指している。
PETRA IIIのA. Meentsは、2種類のシリアル法について報告した。1つは肉薄キャピラリーに結晶懸濁液を流しながら、室温でX線を照射する方法である。もう1つはシリコン基板にグリッド状に空けた穴に結晶をトラップし、極低温気流下でX線を照射する方法である。後者の方法を発展させ、ピンクビームを用いて測定を行う計画である。
SPring-8・JASRIの長谷川和也は、BL41XUの高度化について報告した。新しい集光光学系の導入で、MXビームラインとして世界トップレベルのビーム強度となり、試料位置やミラー仰角を変えることで2~50 µmの範囲で簡単にビームサイズが変更できることを示した。この微小ビームを用いて、シリアル法によるデータ測定を行い、異常分散法によるタンパク質の構造決定に成功したことを報告した。
DLSのR. Owenは、ID24の高度化について報告した。新しいミラーを導入することで、最小2 × 4 µmビームの利用が可能になった。また、シリアル法については、テイパーを持つ微小穴を多数あけたシリコン基盤に結晶をトラップすることで、90%以上のヒットレート(結晶にX線が当たる確率)で測定ができるようになったと報告した。
SLSのC. Pradervandは、X06SAの高度化について報告した。2段集光光学系を導入し、さらに、仮想光源を光軸に沿って動かすことで2 × 1 µm2 ~100 µm2のビームが利用できるようになったということであった。また、2018年からのユーザー利用に向けて、SwissFELでのシリアル法に向けた準備をしている。
以上の通り、セッションタイトルは“Serial ・・・”であったものの、ビームラインの建設および既設ビームラインの高度化が主たる内容の講演が多かった。しかし、いずれの施設においてもシリアル法を試みており、この方法がMX分野において重要な位置づけであることは間違いないであろう。
また本セッションでは、Riekelと筆者以外の演者は、SLSのMXビームラインで仕事をしているか、あるいは以前していた人たちであった。SLSのMXビームラインでは、早い段階からの微小結晶解析への取り組みやピクセル検出器の導入など、この分野をリードしてきたが、多くの人材を輩出していることがうかがえる。
5-2. Automation in Structural Biology
このセッションでは、SAXS・MXの自動化について計5件の発表があった。
PETRA IIIのC. E. Blanchetは、BioSAXSビームラインの自動化について報告した。サンプルチェンジャーを用いた測定の自動化に加えて、測定結果の解析も自動化したことから、測定の数分後には解析結果が提示される。SAXSの自動化は測定の効率化ばかりではなく、専門分野以外の研究者が使いやすくなるという点でも極めて重要である。
EMBLのF. Ciprianiは、結晶化プレートからタンパク質結晶を拾い上げて液体窒素中で凍結を行う作業の自動化について報告した。これまで自動化が難しかった部分であるが、薄膜上で結晶化する新しい結晶化プレートを開発し、結晶周辺の薄膜をレーザーでくり抜き、薄膜ごとロボットで拾い上げて液体窒素中で凍結することで自動化を実現していた。専用のプレートを用いることから汎用性に欠けるものの、MXビームラインのパイプライン化に必要な技術であり興味深い。
SPring-8・理研の平田邦生は、マクロフォーカスビームラインBL32XUにおける高難度試料の自動測定について講演した。結晶位置の自動検出や測定条件の自動決定などのためにこれまで開発してきたアプリケーションを統合することで、サンプルチェンジャーに試料を装填した後は完全自動測定で回折実験を行えるようになった。このシステムを用いて膜タンパク質結晶の測定を行い、2時間程度の測定時間で構造決定に成功した実例を示した。
SLSのV. Oliericは、生体分子中に含まれる硫黄・リンなどの異常分散を利用して構造決定を行うnative SAD法に関して、構造決定成功に導くための測定方法や、測定条件の決め方について詳しく報告した。その実例として、膜タンパク質結晶や分子量20万以上の超分子複合体など、難易度の高い試料の構造解析例を示した。
またこのセッション最後の講演は、MAX-IVのT. UrsbyによるMAX-IVで建設中のMXビームライン計画についての報告であった。
5-3. Biomedical Applications
このセッションでは、イメージングなど生物関連の話題について6件の発表があった。
Australian Synchrotron(AS)のA. Maksimenkoは、ASのイメージングビームラインの現状ついて報告した。Saskatchewan Univ.のE. Basseyは、Canadian Light Sourceのビームラインで開発したMultiple Energy Imaging(MEI)法について報告した。またSLSのK. Maderは、マウスの脳をµmの解像度でイメージングするための測定技術・解析技術について報告した。この他に、Case Western Reserve Univ.のJ. BohonによるNSLS-IIで建設中のXFPビームライン(XFP: X-ray Footprinting for In Vitro and In Vivo Structural Studies of Biological Macromolecules)に関する講演などがあった。
(長谷川和也)
6. XFEL、検出器、DAQ関連分野
6-1. XFEL
講演スケジュールの初日、Euro XFELのT. Tschentscherから高エネルギー密度科学のエンドステーションの紹介がなされた。極限温度・圧力時(> 100 GPa)における物性の理解を目的においており、例えば惑星の核構造の解明などである。これを実現するための装置として、プローブとしてのXFELに加え、26 J、10 nsecの高強度レーザーを使用する。実験ハッチの上層にレーザーハッチを設置する構成とし、ミラーで下層の実験ハッチにレーザーパルスを伝送する。実験時に見るべきデータとして、融解曲線・核形成・各種相成長・圧力依存性・欠陥成長・時間依存性などがあり、時空間に渡って変化を追う。実験で使用するX線2次元検出器は選定中であり、SACLAで供用中のMPCCD、PSIが開発中のJungfrauなどを候補としている。また、真空槽内で検出器を使用する実験も多く、検出器が真空対応できるかどうかが重要な要素となっており、MPCCDを含め真空対応の開発が進められている。
6-2. 検出器
2日目には、Advances in X-ray Detectors I, IIのセッションが設けられた。DESYのH. Graafsmaから、Euro XFELのバンチトレイン4.5 MHzをパルスごとにイメージングできるAGIPD検出器の紹介がなされた。この検出器は、XFELで要求される高ダイナミックレンジ・高フレームレートを高いレベルで実現できる仕様としている。X線の1光子検出ノイズ性能と3つのゲインをピクセル内に搭載することで、最大10,000光子(12 keV)のピーク信号を得る。最大フレームレートは6.5 MHzであり、352フレーム分のアナログメモリをピクセル内に搭載することで実現する。これらの機能を実装するために、ピクセルサイズは200 µmと大きめの設計となっている。これらを赤外線レーザーやPETRA IIIを使用して性能検証を進めており、その結果が示された。また、軟X線用のイメージセンサPercivalについても最新のプロトタイプの試験結果が示された。
SLACのG. A. Carini、G. Blajからは、LCLS用の新たなX線検出器であるePixについて2回に分けて紹介された。ePixプロジェクトではCSPAD検出器で得た知見・経験を元に、センサーからDAQに渡るまで検出器フレームワークを構築し、フレームワーク内の技術を再利用しながら要求される性能に応じて検出器を開発・展開していくという方針に切り替えたようである。特にCSPADを運用した経験から、ノイズ性能と高ダイナミックレンジの実現を最優先の目標としている。ePixプロジェクトは、ノイズ性能に注力した仕様を持つePix100、高ダイナミックレンジに最適化したePix10kの2つに検出器を分け、開発を行っている。彼らはインハウスでASICの開発・アセンブリを行っており、ASICを制御する独自のプロトコルを開発し、設定の変更などを行えるようにしている。開発状況として、ePixはカメラヘッドからデータ伝送用の光モジュールの開発まで済んでおり、検出器として一つの筐体にモジュール化された状態にある。線形性・PSFの計測などすでに行われており、良好な結果を得ている。この検出器を使用し、LCLSでデモンストレーション実験を行う段階まで来ており、供用にかなり近いところまで開発が進んでいる印象を受けた。
SLACのJ. Hasiは、FEL装置開発のセッションで、これらの技術を援用した高エネルギー分解能のePixSの発表を行った。ピクセルサイズ500 µm、ピクセル数100のプロトタイプの性能が、エネルギー分解能45 eVとSDDと同程度であることを示した。今後さらに大面積化を進め、化学関係のアプリケーションにおいて重要な高い計数率を実現するとした。
PSIのA. Bergamaschiから、小さいピクセルを持つハイブリッド型検出器Mönchについて講演があった。320 µm厚のシリコンセンサに25 µm角のピクセルを持つ。一般的に小さいピクセルの場合、バンプボンディングの難易度が高くなるが、160 kpixelで5%以下の不良ピクセル率が実現できるとしている。この検出器は、複数のピクセルに単一光子の信号が分配される効果(charge sharing)を利用し、数値解析によりサブピクセル分解能を実現することを目標としている。現時点で2 µm分解能を達成したことが示され、最終的目標を1 µm以下としている。フレームレートは3 kHzであり、2016年には大面積センサー(4 × 3 cm2)の2 Mpixelsを製作予定としている。この場合、実効1 Gpixelsとなる。PSIはハイブリッド検出器に特化し、適用限界を徐々に広げているという印象を受けた。
2日目午後の最初のセッションで、NSLSのP. SiddonsからVIPIC検出器の発表があった。APSのアップグレード後には、コヒーレントフラックスの増加によってXPCSの時間分解能がサブマイクロ秒まで向上すると想定している。この検出器は、この可能性を追求することを目的としたXPCSに特化したもので、X線の到来時刻をイメージセンサ内で記憶する機能を持つ。目標時間分解能は100 nsであるが、プロトタイプでは10 µsまで観測できていた。
ESRFのP. Fajardoから、ESRFのアップグレードに向けた検出器の開発・整備について講演があった。ESRFのアップグレードは2つのPhaseに分かれており、現在Phase 2を開始したところである。Phase 2ではESRFでは加速器のアップグレードとともに、検出器の新規開発が実施される。アップグレード後に利用可能となる回折限界リング光源(DLSR)では、高い光子エネルギー(30 – 40 keV)においてもコヒーレントフラックスが実用可能なレベルに到達する。そこで、既存実験の高光子エネルギー対応が検出器側の重要開発項目と位置づけている。
SACLAからは、FEL用に開発したSOPHIAS検出器の発表を行った。30 µmと小さなピクセルであるにも関わらず、10,000光子(6 keV)まで検出可能な広ダイナミクスセンサである。ピクセルの設計の詳細に加えて、3.8 Mpixelsのカメラを利用したSACLAでの試験実験の結果を示し、当初目標を達成したことを報告した。
3日目のランチタイムに、Dectris社からセミナーがあった。Welcome講演ではDectris社の紹介があった。2006年から、PILATUS 6Mを32台、2Mを26台、1Mを32台の出荷があったようである。総勢72名のスタッフであり、プロジェクトマネージャー・サポート・セールス・ソフトウェア開発・アプリケーションと5つのdivisionで構成されている。これまで弱かったソフトウェア開発も含め、それぞれリーダーとなる人材を確保しつつある。また、研究開発投資として新しいビルに移転する他、新たに医療用検出器開発も実施中であるとアナウンスされた。新製品としては計数型でピクセルサイズが75 µmに小さくなったEIGER、PILATUSベースのCdTe検出器の紹介があった。CdTe検出器の評価結果は検出器セッションで報告され、2 Mpixelsまでが量産できる状況とアナウンスされた。
CdTe検出器およびGe、GaAsを用いたハイブリッド検出器は、今回多数発表されていた。これらはヨーロッパの施設が参加しているHigh-Zプロジェクトの成果であり、SOLEIL、ESRF、DESYで大面積の検出器が実験に供されるようになってきており、SOLEIL、DESYなどは、ベンチャー企業での販売を開始している。ヨーロッパ以外では唯一SPring-8の豊川秀訓らのCdTe検出器の発表があり、プロトタイプの性能が議論された。CdTeの場合、いずれも日本のAcrorad社が製造した結晶を用いているが、結晶の質および特性から安定性、応答の均一性がシリコンに比べて悪く、特性をよく理解して使用する必要がある。他方、Ge、GaAsは結晶の質、安定性の面でCdTeに比べ優れているが、それぞれ冷却、入手性が課題である。
6-3. DAQ関連
DAQは、全施設で意識的に開発が進められていることが特に印象的であった。Plenaryでは、ALSのD. Parkinsonから実験中に実施する「リアルタイム」コンピューティングについて講演があった。彼らの調査によると、2010年頃からコンピューティングという要素が実験に加わり始めている。また調査の結果、データの後処理(解析)時間が実験全体の半分程度を占めていると報告され、その役割の大きさが概してうかがえる。2014年頃には全体の8割を超える時間となり、2020年頃には9割を超え、実験のほとんどを占めることになるのではないかということだった。これはデータ取得プロセスのオートメーション化・効率化が進んだ結果であり、同時にデータサイズが肥大化していくことが予想された。結論として、このようなビッグデータはFacilityが取り扱うことが有効であると主張された。
「リアルタイム」コンピューティングの大きな役割はフィードバックであり、実験初期に取得するデータでモデル構築・シミュレーションを行い、実験パラメーターの制御や、データ取得の自動化の方向性を示すことがこれに該当する。具体的にはラフスキャンの実施、データの検索インデックスの構築などがある。これらの役割は重要であり、先端施設の条件は、コンピューティングの要素の導入は必須であるといえると主張された。特に、例としてタイコグラフィーのオンライン表示のデモが紹介された。
発表の結論として、データ管理・自動化・共有化・データアクセスが重要なキーワードとなり、これらを包含するハードウェア・ソフトウェアをどのように構築し、一般化とユーザーへの展開を行うかが挑戦であるということだった。これらを達成する上で、知財や法、施設間の協力、コードなどの共有の場の構築で課題があるという。
DAQのセッションでは口頭発表が6件あり、いずれもイメージングに関連する高速データ収集技術・リアルタイム解析の発表があった。これらの技術はあった方がよいものという位置づけから、データの質を左右するキーエレメントになっている。いずれも開発成果はオープンにしており、施設間、施設外のパートナーシップ構築を指向した発表であった。
(亀島敬、初井宇記)
7. X線光学関連分野
7-1. MLLの作製技術の向上
マルチレイヤーラウエレンズ(MLL)の開発関連の発表では、NSLS-IIのY. S. ChuがPlenary Talkでtilted MLLを交差配置し、12 keVで11 nm × 13 nm(FWHM)の集光サイズを報告した。本MLLを用い走査型蛍光X線顕微鏡を構築し、白金の20 nm線幅のテストパターンの観察が行われた結果が示された。
NSLS-IIのN. Bouetにより、Wedged MLLsの作製法として、コーティング時にマスクと基板間を相対運動させることでWedged膜厚分布を積層する方法が示され(9-1に装置写真掲載)、14.6 keVで26 nmのライン集光、効率27%が達成された。
Fraunhofer InstituteのA. Kubecにより、Wedged MLLsの製作法として、Flat MLLs積層後、側面にSiO2層を積むことでstress layerとし、Wedged構造を作製した。交差配置により集光サイズ10.5 keVにて33 × 28 nm2(FWHM)、開口23 µm × 23 µm、効率8%(各28%)が実現された。
7-2. X線ミラー関連の発表
大阪大学の山内和人より、SACLAにおけるsub10 nm集光光学系の開発について報告がされた。SACLAでは現状で、本グループにより集光サイズ50 nm、集光密度1020 W/cm2が達成され、これを用いることでX線2光子吸収や鉄の過飽和吸収の観察に成功している。本グループでは、多層膜ミラーを用いた新しい2段集光光学系を開発することで、集光サイズsub10 nm、集光密度1022 W/cm2を目指しており、このための要素技術の開発内容について報告された。本集光のために、新規ミラー形状計測装置の開発、多層膜のXFEL耐性評価、タルボ干渉法によるat-wavelength波面誤差評価法の開発が行われた。SACLAにおいて集光実験を実施し、波面誤差を評価した結果、現状で10 nm程度に集光できており、今後ミラーの形状修正成膜を行い、sub10 nm集光を達成する計画である。
大阪大学の松山智至により、直交配置型のウォルターミラー結像顕微鏡の開発結果について報告がされた。以前はウォルターミラーの楕円部と双曲面部が別体のミラーを作製していたが、安定性の欠点やアラインメントの不便さから、一体型ミラーを作製した。発表ではアラインメント許容精度や、ミラー形状許容精度について説明がなされた。作動焦点距離33 mm、拡大倍率637 (H) × 196 (V)、ミラー長80 mm × 230 mm、形状精度PV2 nm、10 keVの反射率63%の光学系を開発し、9.9 keV、200秒の露光時間で50 nmのライン&スペースのテストチャートが明瞭に観察された結果が示された。さらに、入射X線のエネルギーを走査することで、タングステン(L3吸収端10.2 keV)と亜鉛(K吸収端9.7 keV)のサイズ1 µm前後の混合微粒子のXANES像の観察結果が示された。
SPring-8・JASRIからは湯本博勝より、1枚のミラーで2次元集光を行うための回転楕円体形状ミラーの開発状況が報告された。このシステムは、従来の2枚のミラーで集光を行うK−B配置の集光光学系と比べ、高いスループットと安定性が期待されるが、ミラー形状が急峻なため製作・評価が困難であった。この楕円体ミラー製作に最適化した製造・評価手法が報告され、実際に製作された入射長50 m、出射長200 mm、入射角9 mradの楕円体形状ミラーによる集光プロファイルが示された。ミラーの一部を照明した場合には回折限界サイズに近い集光サイズ135 nm × 95 nm(FWHM)が得られている。
7-3. スペックルトラッキング
DLSのH. Wangにより、Speckle tracking techniqueによる波面の傾きの評価法が示された。試料と2次元検出器との間にスペックルを発生するサンドペーパーが挿入され、試料から出るX線波面の歪みが測定される。サンプルで散乱した波面の計測により、X線Phase contrast像や暗視野像が数値回復された結果や、X線ミラーで反射した波面の計測により、X線ミラー反射波面が3 nradで評価可能であることが示された。
7-4. 軟X線分野
ESRFのN. Brookesより、Plenary Sessionにて軟X線非弾性散乱について報告があった。高エネルギー分解能化はこの実験手法における挑戦の一つで、ビームラインと実験装置の光学系を合わせて最適設計する必要があり、ESRFのID32(アップグレードビームライン)ではCu L3吸収端(932 eV)においてエネルギー分解能20,000が達成されていることが示された。また、世界中の放射光施設で高エネルギー分解能化への取り組みが行われていることが報告された。
SSRFのY. Wangに代わり、Y. Wuが上海放射光施設の軟X線超高分解能ビームライン“Dreamline”について報告した。このビームラインはARPES、PEEM利用に最適化したブランチ構成を持ち、2014年10月にコミッショニングが完了している。刻線密度3,600本/mmの回折格子を用いて、867 eVで50,000のエネルギー分解能を達成していることが示された。
SRROの尾嶋正治より、SPring-8 BL07LSUで行われたField Effect Transistor(FET)の“オペランド”軟X線光電子分光について報告があった。Fresnel Zone Plate(FZP)を用いて70 nmに集光された軟X線を用い、電圧を印加したFET試料を走査しながら角度分解光電子分光を行うことで、駆動状態のナノデバイスのピンポイント電子状態の観測結果を報告した。
(湯本博勝、仙波泰徳)
8. 光源、施設関係
New Facilities I, IIのSessionでは、FERMI、NSLS-II、ESRF、CHESS、PETRA III、TPS、Euro XFEL、Swiss FEL、PLS-II、FLASH2、Siriusの11施設から、またNovel Insertion DevicesのSessionでは、ANKA、CHESS、NSLS-II、Hi-SOR、SOLEIL、NSRRCからの6件のOral Presentationがあった。
G. Wangによる“NSLS-II Commissioning Operation”では、NSLS-IIが2005年にCDR-0を出して計画が始まり、3 GeV、500 mAで300 keVから0.1 eVのエネルギー範囲のカバーを目指し、$912 Millionの建設予算であることなど計画の歴史が紹介された。First lightを2014年10月23日に得て、2015年2月から150 mAでビームライン運転が開始され、6月16日に250 mAに達した(ただし挿入光源full open)点などがNSLS-II CommissioningのMilestoneとして紹介された。注目のEmittanceは、Vertical 7 pm・rad、Horizontal 1 nm・radという数値が示された。Horizontal 1nm・radは、3台のIDを閉めたときであり、Full openでは2 nm・radであった。軌道の安定性はビームサイズの10%以下であると強調した。NSLS-IIの先進技術として、高分解能、自己校正、高速I/Oを有するBPM回路や、Grader基準点とVibrating wireを用いて磁石のアライメントを30 µm以下とした点などが簡単に紹介された。一方、LinacとBooster立ち上げ調整は、それぞれRI Research Instruments GmbHやDanfysikと共同で行ったと述べている。これまでにID 8台、FE 6ヵ所、BL 6本が2014年秋から年末にかけて、迅速かつスムーズに立ち上げられている。2015年秋には300 mA運転を計画するとともに、2台目のSuperconducting RF cavityの導入、Top-off operation、新たに3台のIDやBLの立ち上げが予定されている。
K. Scheldtは、ESRFのアップブレード計画について2018年10月から2019年の1年をかけて現在のリングを撤去し、7-bend latticeに更新し、2020年6月にユーザーに戻すこと、すべてのX線ビームラインは同じ位置に保つことを境界条件としている。このためにリングの内側に、3棟計2,500 m2の建屋を準備するとともに、実験ホール内側にも2,000 m2近い搬入エリアを確保するとしている。Latticeの最適化を進めており、水平107 pm、垂直5 pmという数字が示された。Dynamic apertureは10 mm程度で、Touschek寿命は21 hrである。入射部の最適化を進めていることや、永久磁石によるDipole magnetをSm2Co17より試作する計画など技術的開発状況が概説された。最初のbudget reviewを終えており、2015年7月に確定する見込みであり、ESRFの大規模なリング改修が着実に進んでいると印象づけられた。
PETRA IIIの最近の改造と将来計画について、DESYのO. H. Seeckが報告した。2014年にシャットダウンをして、2015年4月から従来のビームラインの運転を再開し、11月から新設ビームラインの調整を開始し、14本のビームラインが利用可能となる。数々の実験装置が紹介されたがそれらはPETRA IIIのホームページをご参照いただくとして、最後に示されたPETRA IVというタイトルの1枚のスライドでは2024年にultra-low-emittance(数値はない)を目指した4つの実験ホールを有する新しいPETRAの計画をお披露目した。
施設紹介のPoserは、20件以上に及んでいたことを付記する。またPoster SessionではSLACのH. Winickから、“Light Source Facility for Sub-Saharan Africa”と題する発表があった。African Light Sourceに関する最初のWorkshopが、2015年11月にESRFで開催されるようだ。
(大橋治彦)
9. NSLS-IIの見学
初日のNSLS-II Tourでは、蓄積リングとOptics R&D Lab.が公開された。NSLS-IIは、講演会場であるNYC中心部からバスで片道2時間弱を要するロングアイランドの中程に位置する。
9-1. Optics R&D Lab. Tour
Optics R&D Lab.は、メインリングとは別棟にあり、分厚く頑強なコンクリートに支えられた2階の1フロア(約490 m2)に目的ごとに9つの部屋が整備されている。NSLS向けにもこうしたLabはすでにあり、これまでのところ存続しているようだが、NSLS-II建設にあたり、フロアや機器を新たに構築し直している。それぞれの部屋はCutting & Lapping、Electro-mechanical technical area、Optical metrology(OM)、Clean assembly、Deposition、Nano positioning(NP)と汎用実験室で、いくつかはクラス10000のクリーンルームとなっている。
OM室には、X線ミラーの評価装置が整備されている。一般的な原子間力顕微鏡や大型干渉計、顕微干渉計の他、独自開発のNOM(Slope profiler)、Stitching Shack Hartmann Optical Head(SSH-OH)(シャックハルトマン式波面センサをスティッチすることでミラー形状を評価する装置)、Software Configurable Optical Test(SCOTS)(モニタ上に映したパタンをX線ミラーに投影し、反射後の像の歪みからミラー形状を評価する装置)などが説明された。マルチレイヤーラウエレンズ(MLL)の成膜が行える22 feet長(約6.7 m)の大型チャンバーを持つコーティング装置が公開された(写真9-1)。
NP室にはビームラインで使用される高分解能ステージの製品評価や組み立てエリアが併設されており、OpticsのR&Dと合わせ、施設全体としてこれらの試験開発あるいは機種選定に取り組んでいるようだ。
写真9-1 MLL成膜装置は全長22 feet長の大型チャンバー
9-2. NSLS-II蓄積リング実験ホール
NSLS-IIリング棟の実験ホール一周(写真9-2)と、収納部(一部)(写真9-3)を自由見学した。昨年度より運転が開始された新しい6ビームラインと、建設中のビームライン、運転制御室等を見学した。3-ID Hard X-ray Nanoprobe(HXN):ゾーンプレートとマルチレイヤーラウエレンズを利用したナノ分解能用顕微鏡(分解能 < 10 nm(目標)~30 nm、108 ph/sec)、5-ID Submicron Resolution X-ray Spectroscopy(SRX):High Resolution KB(sub100 nm、1011 – 1012 ph/sec)、High Flux KB(sub-micron、1013 ph/sec)が、運転中のビームラインである。3-ID Hard X-ray Nanoprobe(HXN)は、床面振動と長い距離を取るため、蓄積リング棟脇の別の建屋に配置されている(写真9-4)。ナノプローブ顕微鏡では、真空チャンバー内のレーザー変位計を用いた試料用フィードバックステージや、ゾーンプレート・MLLのアラインメント調整機構を見学することができた。
(湯本博勝、大橋治彦)
写真9-2 NSLS-II実験ホール
写真9-3 NSLS-II蓄積リング
写真9-4 Nanoprobe実験ステーション建屋(左手)に向かう延伸ダクト。下はスロープになっておりかなり背丈のある人でも容易に潜れる。
10. 最後に
Closing Sessionで、Kai Siegbahn賞が、Polytechnic of MilanのG. Ghiringhelliに授与されることが発表された。SLSおよびESRFにおいて、先導した超高分解能RIXS(Resonant Inelastic soft X-ray Scattering)装置の開発における功績が評価された。受賞理由に軟X線分野のRIXSが強相関遷移金属化合物の電子・磁気励起状態の理解に新たな重要な道具となったとあり、Cu L吸収端で50 meVの超高分解能という典型的な数値が紹介された。まさに今回の会議のトピックスの一つといえる“超高分解能”軟X線非弾性散乱ビームラインの開発に関するものであり、各国で競って建設が進んでいる様子が発表されており、彼らのグループはその先鞭をつけたといえよう。
あっという間の会期であったが、プログラム委員長のQ. Shenからの“NY city Never sleep match to this community!”という開会冒頭の一言が思い出された。会場は、そのNYCの中心Times Squareにあり、建物の壁面を覆い尽くす眩いばかりの電光掲示と、人の流れが絶えない喧噪の真っ只中だったが、それとは好対照に、講演会は比較的淡々と東海岸流にフォーマルに進んだ印象であった。
さて、次回は2018年に台北市でNSRRCをホストとして、2018年5月28日~6月1日の開催が決まった。これまでとは少し早い開催時期は酷暑への配慮だが、スライドで紹介された台北の街はNYCに負けないくらい煌びやかで活気に満ち溢れていそうだ。アジアの熱気とともに、SPring-8やSACLAからの講演でSRI2018を一層盛り上げたいものである。
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