Volume 20, No.3 Pages 254 - 257

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第6回世界加速器会議(IPAC’15)報告
Report of IPAC’15 (The 6th International Particle Accelerator Conference)

谷内 努 TANIUCHI Tsutomu、満田 史織 MITSUDA Chikaori、下崎 義人 SHIMOSAKI Yoshito、高雄 勝 TAKAO Masaru

(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI

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SPring-8

 

 第6回世界加速器会議(The 6th International Particle Accelerator Conference, IPAC’15[1][1] https://www.jlab.org/conferences/ipac2015/)が2015年5月3日から9日まで、アメリカ・バージニア州リッチモンドで開かれた。リッチモンドは南北戦争の南軍の首都であった歴史的な都市である。その開催地から100 kmほど離れたバージニア州ニューポートニューズに位置するジェファーソン研究所がホストとなった。IPACは2009年までアジア、ヨーロッパ、北米でそれぞれ独立して開催されていた加速器の国際会議を統合し、毎年開催されている国際会議で、2010年に京都で第1回が開催されて以来、アジア、ヨーロッパ、アメリカの順に開催地が巡回している。ちなみに第1回以降の開催地は、サンセバスチャン、ニューオリンズ、上海、ドレスデンであった。今回の会場となったGreater Richmond Convention Centerは、参加者1,000人規模を優に収容できる大規模な会議場であり、最終的な会議参加者数31ヵ国、309施設からの1,187名に対して余裕のある対応ができた。大規模会議場の選定に苦労のあるアジア、ヨーロッパでの会議とは趣が異なっているように思われた(図1)。

 

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図1 Greater Richmond Convention Center

 

 

 基本的な会議プログラムは、9時~16時までが招待講演およびプログラム採択講演、16時~18時まではポスター発表という形態で、講演で広く扱った内容をポスター発表にて詳細を専門の担当者に問い合わせる流れは、効率的に情報収集し易くなっている。ポスター会場は例年よりも非常に大きく確保されており、ポスター前で議論の群衆があったとしてもスムーズにポスター間を移動でき快適であった(図2)。

 

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図2 ポスター発表会場

 

 

 ポスター発表、口頭発表いずれにおいてもソフトマター的なテーマの発表が多数を占めているように思われた。これは、周長100 kmで100 TeVの衝突エネルギーを生み出す次期大型高エネルギー衝突型加速器(ヨーロッパや中国で計画、FCC(Future Circular Collider))、LHCのヒッグス探索実験から新粒子の探索を目指し、直線距離50 kmで500 GeVの衝突エネルギーを生み出すILC(国際線形衝突加速器)、100 pm・rad以下の極低エミッタンス次世代放射光光源加速器、アタッシュケース規模の超小型医療加速器など、次世代加速器において飛躍的な加速器技術の進歩や材料開発技術などが望まれる中で、それらの進歩が緩やかであるためではないかと考えられる。
 全体を通して、現在コミッショニングが進んでいるNSLS-II、TPS関連の発表がポスター発表の件数などからも存在感を示していた。また、アメリカでのIPAC開催ということもあり、超伝導運用に欠かせないHeを潤沢に使用できる産出国としての圧倒的なアドバンテージとともに、超伝導技術の牽引国にふさわしく、超伝導空洞、超伝導アンジュレータ、超伝導ケーブル、超伝導に関する発表も比較的多かったのではないかとの印象を受けた。超伝導空洞ではILCに向け、Nb材によるTESLAベースの量産向き超伝導空洞の生産技術の向上が日米欧で行われている。これらの技術は超伝導空洞を使ったXFELなどで利用が進んでいる。Nb空洞より臨界磁場が高いNb3Sn空洞の開発がアメリカで進められており、実現できれば、これまでのNb空洞の加速電界強度25 MV/mよりも高い50 MV/m以上を得ることができる。超伝導ケーブルはNbTi材からNb3Snが主流となりつつあり、LHCアップグレードや超高エネルギー衝突型加速器において必要とされるNbTi材の臨界磁場9 Tを超える15 T以上の磁場に対応が可能なケーブルの開発が進んでいる。この技術は高エネルギー加速器にとどまらず、放射光光源加速器では、高エネルギーフォトンの要求に応える磁場強度を高めるための真空封止アンジュレータやクライオアンジュレータ、真空外でも十分に磁場強度を実現可能な超伝導アンジュレータへの利用へと展開されている。電子蓄積リングで低エミッタンスを実現するためのダンピングウィグラーも視野にあるようである。尚、アメリカでは、FNAL、BNL、SLAC、ANL各加速器施設が、空洞、ケーブル、磁石と開発テーマの住み分けを持って開発を並列的に進めており、技術の進歩と応用の速度が目覚ましい。
 LHCはヒッグス探索の成功からさらに実験確度を向上させるため、また新粒子の探索のため、衝突エネルギー4 TeV−4 TeVから6.5 TeV−6.5 TeVへのエネルギー増強を目指している。デザインとしては7.5 TeV × 2であるが、超伝導磁石のクエンチ・トレーニング問題が足かせとなっており、磁石入れ替えにより2015年夏までに前段階の6.5 TeV × 2による実験を開始させる。将来的には、15 TeVエネルギーの達成とルミノシティー向上が重要となっており、収束用4極磁石用Nb3Sn線材の開発が鋭意進められている。さらに、beam depositのエネルギーが500 MJに達することから、超伝導システムを冷却する冷凍プラントの追加が必要である。
 NSLS-IIは2012年の200 MeV Linac、2013年のブースターに続き、2014年3月より蓄積リングのコミッショニングを開始、beam based alignmentとlinear optics correctionで、CODの残差が50 µm、ベータ関数のmodulationがΔβ/β = 3%(RMS)となるまでラティスのエラーを補正したとのことで、「ラティスが安定なので1/2のhalf integer resonanceを安定に横切ることができる」とのことであった。また3台のダンピングウィグラーを用いることで、設計値通りのエミッタンス(0.98 nm・rad@3 GeV)を達成することができた。低電流でのユーザー運転は開始されており、2015年内に200 mAの蓄積、トップアップ運転などの試験を行う予定となっている。真空封止アンジュレータの6 mm gapがビームの不安定性の閾値を決めているが、この不安定性を抑制して2016年に500 mA、6 mA single bunchの達成を目指している。
 建設中のMAX-IVは、ブロックからの削り出しにより、1 cell分の電磁石が1ブロックの中に同包されている特徴を持つ。このアライメント方法・精度が世界の注目するところであるが、ブロック全体における相対誤差で設計値25 µm(RMS)以下に対して20 µm以下を達成したとの報告があった。
 超伝導RF(SRF)の開発は欧米のみでなく、日本でもILCに向けた開発がKEKを中心に進められている。ドイツDESYのTESLAベースとしたSRFの開発では、量産に向けたメーカーとの共同開発が、KEK内への製作、試験、組み上げ工場の建設とともに着実に進行しているとの報告があった。目指す体制は、ILCに向けた量産高品質同一性能の達成と、高圧ガス取り扱いも含めた表面処理経験の蓄積である。ILCをターゲットとしているが、この空洞はFEL、ERL、CLSなどのあらゆるケースに展開可能である。KEK独自に開発を進めていた空洞は、量産体制に向かないとのことから、現実的な選択としてTESLA-9 cellの選択となったとのことである。
 放射光アンジュレータの開発動向としては、真空封止からクライオアンジュレータへと開発が移行し、狭小ギャップによる磁場応力を支持する構造をコストダウンさせるためのシステム開発が進んでいる。超伝導アンジュレータの開発も進んでおり、APSが主となり、Nb3Sn線材開発とアンジュレータ応用、ANLでは高温超伝導線材HTSのアンジュレータ応用が進められている。
 ALSにおける擬似シングルバンチ利用技術は、利用者側のサンプルの放射線ダメージを下げるため開発され、キッカーおよびキッカー電源の高度な技術により実現できている。バンチのうち、一部のバンチをユーザーの要求する周波数で蹴ることによりカムシャフト軌道を描いて、特定のバンチは常時、振動によりユーザー側へ提供する光がoff-axisとなる。これにより、周波数依存の放射光をユーザーが作為的に利用できることになっている。ここで、8極磁場のカムシャフトキッカーを利用することにより、メインバンチは振動が誘起されずに、on-axis光を提供可能である。
 PALでは、XFELの建設が急ピッチで進んでいる。昨年末には、建屋の鉄骨が組み上がったばかりで搬入道路なども整備されていない状況であったが、現在は、LINAC、アンジュレータギャラリーすべての建屋が完成し、2015年夏にはLINACのコミッショニングが行われる。クライストロンモジュレータはPOSCOとの共同開発で、7 ppmの安定度のことである。2015年中に全装置のインストールを済ませ、2016年にはコミッショニングの予定である。
 3 GeVリングTPSのコミッショニングは、ブースターリングの真空チェンバーが磁化するというトラブルがあったものの、2014年末に5 mAの電子ビーム蓄積に成功、2015年3月に100 mAの蓄積に成功した。エミッタンスも概ね設計値(1.6 nm・rad)通りで、エミッタンスカップリング比は1%以下とのことであった。TPSの3 GeV低エミッタンスリングの検討は、2004年より磁石アライメントの要となる架台システムの検討が開始され、2013年にリングへの架台設置が開始された。架台の据え付けはステッピングモーターの分解能にて0.03 µmの分解能で設置、架台内磁石アライメントはチャンネルの削り出しが15 µm/4 mとなっており、水平20.4 µm、垂直18.4 µm(RMS)を達成している。架台の伸縮変化をレーザーセンサーで感知し、リアルタイムアライメントを全周にわたり実施している。今後、超伝導RFキャビティの調整、IDのコミッショニング、ビーム不安定性と非線形ダイナミクスの調査などを行った後にユーザー運転に適用するとのことであった。
 現在、世界各地の放射光リングで低エミッタンスオプティクスへのアップグレードが検討されている。例えば、APSは12ヶ月で既存のリングの撤去、新リングのインストール、およびコミッショニングが検討されている。このうち、コミッショニングにかかる時間を3ヶ月と予想している。これに絡み、ANLのM. Borland氏より、ここ最近(10~15年前)にコミッショニングを行った9つの施設に対し、過去のリングのコミッショニング経験と、予想される将来のリングにおけるコミッショニングについてのサーベイを行ったとの口頭発表があった。詳細は省くが、「過去のリングで、何がコミッショニングにおいて最もディレイを生じさせたか?」の問いに対して最も多かった答えが「Vacuum obstruction」なのに対し、「新しいリングで、何がコミッショニングにおいて最もディレイを生じさせると思うか?」の問いに対して最も多かった答えが「Obtaining stored beam with small dynamic / physical aperture」だったり、「新しいリングでコミッショニングを進めるにあたり必要なものは?」の問いに対して最も多かった答えが「Working, well-understood diagnostics」だったりと、SPring-8-II以外の施設で何を考えているのかという点において、興味深い講演であった。
 会議5日目には、加速器ソサエティに貢献した人を讃えるAward Sessionと、PACシリーズが始まってから今回で50年ということで、50周年記念を祝うSpecial Sessionが開催された。Special Sessionでは、アメリカ、アジア、ヨーロッパにおける加速器会議のこれまでを振り返る講演が行われた。アジアからは黒川眞一氏がPAC、APAC、そしてIPACまでの変遷を振り返り、孔子の「学びて時にこれを習う、亦(また)説(よろこ)ばしからずや。朋(とも)あり遠方より来る、亦楽しからずや」を引用して「これが、まさにIPACである」と言っていたのが印象的であった。
 会議最終日は、ジェファーソン研究所(J−Lab)ツアーが催行された。J−Labが保有する原子核実験施設であるCEBAFは、電子ビームエネルギーを連続的に可変かつ取り出しが可能である施設として特徴的である(図3)。最大24 GeVの到達エネルギーが可能なようにリング設計されており、今年6 GeVから12 GeVへのアップグレードが完了している。決め手となったのは、Nb超伝導空洞の表面状態の改善(窒素ドープ)により、従来よりも高い加速電界を達成したことによる。この超伝導表面技術の開発は、加速長の短縮が望まれるILCだけでなく小型加速器などへの展開が可能である。J−Labツアーでは実際にCEBAFリングの見学を行い、異なるエネルギーの電子ビームの連続的取り出し機構が、およそ幅4 m高さ4 mほどの狭い加速器収納部内に緻密な設計と高密度な装置の配置のもと組み上げられていることを確認した。収納部内は周回クレーンがなく、エネルギーの異なる電子ビームを振り分けて周回させる多段の加速器ライン(1 tクラスの電磁石も含め)の平積みや、今回のアップグレードによる機器再配置および入れ替えをフォークリフトによる設置で実現していることは驚きであった。
 次回IPAC’16は、2016年5月8日~13日に韓国釜山で開催される。また、IPAC’17はコペンハーゲン、IPAC’18はバンクーバーでの開催が予定されている。

 

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図3 CEBAF リング収納部

 

 

[1] https://www.jlab.org/conferences/ipac2015/

 

 

 

谷内 努 TANIUCHI Tsutomu
(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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満田 史織 MITSUDA Chikaori
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下崎 義人 SHIMOSAKI Yoshito
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高雄 勝 TAKAO Masaru
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SPring-8/SACLA INFORMATION

ISSN 1341-9668 EISSN 2187-4794