Volume 24, No.3
August issue 2019
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1]京都大学 産官学連携本部 Office of Society-Academia Collaboration for Innovation (SACI), Kyoto University、[2]京都大学 大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Kyoto University
- Abstract
- 近年、次世代二次電池候補として亜鉛空気電池をはじめとする水系亜鉛二次電池が再注目されている。亜鉛負極は水系電解液中で作動する多価金属電極であり、高容量・高エネルギー密度のキーマテリアルであるため、1970年代から精力的に二次電池化の研究が進められてきた。しかしながら、亜鉛負極の様々な劣化モードが課題となり、現在に至るまで実用に耐えうる安定性能を満たすほどには十分に克服出来ていない。ここでは亜鉛負極の課題と性能劣化に関して、BL28XU(RISING2(京都大学)ビームライン)から得られた最新の知見を紹介する。
[1]大学共同利用機関法人自然科学研究機構 分子科学研究所 Institute for Molecular Science, National Institutes of Natural Sciences、[2]名古屋大学 大学院理学研究科 Graduate School of Science, Nagoya University、[3]電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター Innovation Research Center for Fuel Cells, The University of Electro-Communications
- Abstract
- 固体高分子形燃料電池の劣化・被毒機構の解明を目的とした先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインBL36XUに設置した雰囲気制御硬X線光電子分光装置について、最近の成果概要を2件ほど紹介する。第一は、完全大気圧下での光電子分光測定に成功した成果である。完全大気圧下光電子分光測定の実現はSPring-8アンジュレータからの高輝度硬X線マイクロビームが利用できたことが成功の第一義的要因であるといえる。第二は、本装置を用いて、一般には不可能とされる電気化学セルの電解質電位が容易に計測できることを明示したことである。さらに、この各相電位計測法を通して、固体高分子形燃料電池中の硫黄不純物の挙動を追跡するために、観測された各硫黄含有化学種の電位を光電子分光で測定し、その化学種が正極・負極・電解質のいずれの相に存在するかを決定できるという新たな方法論を提唱できた。
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC) 分野融合研究(実用)グループ Practical Application Research Group, SPRUC
- Abstract
- SPring-8を取り巻く多様な研究者間の横のつながりを強化することを目的に設置された「SPRUC分野融合型研究グループ」の一つである「実用」の理念を体現するため、2016B−2018A期の4期・2年にわたり、新分野創成利用課題「固液界面構造解明と可視化および構成物質間のダイナミクス」を実施した。トップダウン式の課題設定と研究者間の密接な情報交換を両輪に、5つの研究グループが複数のビームラインで、実用材料・デバイスの固液界面のうち主に液体側の現象解明を目的とした課題設定と放射光利活用研究が推進された。各グループはアカデミア中心のものと、企業中心のものがあり、当初はそれぞれで研究が始まったが、測定データの共有、課題解決手段の理解が深まった結果、時間が経るにつれ、自然発生的に産学連携を含むグループ間の協力体制が進化してきた。特に既に上市されて実用されている先端材料や伝統的な材料に潜在する、未知の現象、未解明の課題をバックキャストで解決することを目指して、SPRUCの分野融合の取り組みが効果を発している。システムとしても自然な産学連携が実現している。
2. ビームライン/BEAMLINES
(公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室 Information-technology Promotion Division, JASRI
- Abstract
- 我々は、DARUMA(Data collection And control system for X-Ray stations Using MADOCA)と呼ばれるビームライン(BL)向けのデータ収集・実験計測システムのパッケージ開発をしている。このパッケージは、SPring-8加速器制御で活用されている分散制御フレームワークMADOCA[1][1] T. Matsumoto et al.: Proc. ICALEPCS2013, Proc. ICALEPCS2015, Proc. ICALEPCS2017.を基盤としており、SPring-8で標準的に使われる可読性が高いテキスト(SVOC文型)によるメッセージ通信を用いている。DARUMAを活用することで、得られるメリットとしては、1)機器制御のプログラムとユーザインタフェースのプログラムを分離して開発できるようになる、2)SVOCによる機器制御の抽象化によるプログラムの可搬性の向上、3)画像処理など機器制御以外のプログラムもSVOCの枠組みで部品化できる、4)実験計測時に測定条件などの付加情報(メタ情報)の収集が使える、など様々な特徴が挙げられる。これらの機能のため、実験セットアップ時の装置の組み替えにも柔軟に対応でき、既存のspec[2][2] spec (https://certif.com/spec.html)やLabVIEW[3,4][3] LabVIEW (http://www.ni.com//labview)
[4] T. Matsushita el al.: SPring-8/SACLA Info. 20 (2015) 116-119. (https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=32203)、Visual BASICなどを用いた制御系に容易に組み込むことが可能となる。DARUMAは、BL向けに整備されたフレームワークの提供のみならず、開発のための様々な支援ツールやプログラムも提供している。さらに、実際にBLで使われている多くの汎用の機器制御プログラムの提供から、これらと連携するビューアなどの汎用的なインタフェース、様々な画像処理機能を持ったプログラム群なども提供している。現在、常設でないものを含めれば、BL01B1、BL02B1、BL03XU、BL04B2、BL08W、BL10XU、BL13XU、BL14B2、BL19B2、BL35XU、BL36XU、BL37XU、BL40B2、BL46XUにおいて実験計測に活用されている。
[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI、[3](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- BL45XUは、5.7 × 1012~1.7 × 1013 photons/sec@12.4 keVの高強度ビームを用いた自動での回折実験ができるタンパク質結晶解析ビームラインです。膜タンパク質を含む10 µmから数百µmまでの様々な大きさの凍結結晶を対象試料とし、ビームサイズを5(H) × 5(V)~50(H) × 50(V) µm2の範囲で切り替えて、試料の交換・X線照射位置の決定・データ測定・データ処理を自動化した高効率な回折実験に対応します。
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 SPring-8 Summer School Executive Committee, Chair
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
5. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/関西学院大学 研究創発センター Center of Research Initiative, Kwansei Gakuin University