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Volume 20, No.4 Pages 361 - 364

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第12回SPring-8産業利用報告会
The 12th Joint Conference on Industrial Applications of SPring-8

佐野 則道 SANO Norimichi

(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)、兵庫県、(株)豊田中央研究所、(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)の4団体の主催、SPring-8利用推進協議会(推進協)の共催、およびフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体、SPRUC企業利用研究会、光ビームプラットフォーム、(一財)総合科学研究機構東海事業センター(CROSS東海)、(一財)高度情報科学技術研究機構(RIST)、茨城県、あいちシンクロトロン光センターの協賛で、第12回SPring-8産業利用報告会が9月3、4日に川崎市産業振興会館において開催された。総参加者数は過去最多の296名で、口頭とポスターの各セッションでの活発な議論や、技術交流会(参加者122名)での盛況ぶりから、以下に述べる開催目的は達成されたものと考える。
 12回目を数えるSPring-8産業利用報告会と第13回ひょうごSPring-8賞の受賞記念講演会が今年も併催され、例年通りSPring-8産業利用の包括的かつ適時的な情報発信の最良の機会がつくられた。本報告会は、専用および共用のビームラインを産業利用に供する各団体が合同して、推進協の共催の下、(1)産業界における放射光の有用性を広報するとともに、(2)SPring-8の産業界利用者の相互交流と情報交換を促進する目的で、2004年より毎年開催されてきた。一方、SPring-8立地自治体の兵庫県では、SPring-8の社会全体における認識と知名度を高める目的で、2003年度より「ひょうごSPring-8賞」を設置し、SPring-8の利用により社会経済全般の発展に寄与することが期待される成果を挙げた研究者らを顕彰してきた背景がある。

 

 

2. 口頭発表(第1日目)
 セッション1の開会挨拶は、3日の13時より行われた。まずJASRIの土肥理事長が主催4団体を代表して挨拶し、(1)一般課題(産業利用分野)の申請要件として実験責任者・共同実験者に民間企業などの所属者を含むことを背景にした、産学あるいは産産の連携の推奨、(2)SPring-8-IIに対する産業界からの具体的な要望への期待、さらに(3)SACLAの産業界利用の拡大・充実とSACLA産業利用報告会開催への期待が述べられた。続いてセッション司会のJASRI山川常務理事より、本報告会では報告内容のさらなる水準向上を目指して参加者の投票による優秀発表賞の選定があることが告知された。
 セッション2として、「兵庫県成果報告会」が、兵庫県立大学の篭島放射光ナノテクセンター長による概要説明で始まった。続いて兵庫県専用ビームライン(BL08B2、BL24XU)とニュースバルで実施された研究成果と、計算科学の手法を活用した例が、合わせて5件報告された。(株)日産アークの久保渕氏らの「DSC/SAXSによる高分子の高次構造解析」では、BL08B2にDSC-USAXS/WAXS同時測定系を構築し、エンジニアリングプラスチックとして注目されているポリアミドナノファイバーの昇温過程におけるラメラ高次構造の変化と結晶融解挙動の観察を行った。(株)コベルコ科研の北原氏らはBL08B2で「Cr異常分散小角散乱法を用いた、Cu-Cr合金の析出物の評価」を行い、電気・電子部品のコネクターやリードフレームなどに用いられる銅合金について、TEMでは観察困難な高冷延材における析出物を定量的に解析することで、析出強化と転位強化の切り分けを可能とした。(一財)電力中央研究所の澤部氏らはBL24XUにおける「マイクロビームX線による燃料被覆管材の酸化膜の局所応力測定」により、軽水炉核燃料の被覆管材に使用されるジルコニウム合金が高温水と接触することで成長する酸化膜の深さ方向の残留応力分布を明らかにし、表面から金属界面までの圧縮応力の分布と酸化膜成長速度との関連を考察した。マツダ(株)の岡田氏らは「自動車用材料開発における分子シミュレーション技術の活用」において、電池、触媒、塗装、各種構造材料の開発に密度汎関数法や古典分子動力学法などによる材料計算を、(公財)計算科学振興財団が整備した国内唯一の産業界専用スパコンであるFOCUSスパコンなどを用いて行っている。兵庫県立大学の春山氏らはニュースバルBL07Bにおいて「NEXAFSを用いた光反応性高分子液晶薄膜の分子配向性評価」を行い、液晶ディスプレイの液晶分子配向の制御法として提案されている光配向法により作成された液晶膜の表面近傍や基板との界面付近における液晶分子の配向性を明らかにした。
 セッション3は「第15回サンビーム研究発表会」であり、共同体参加企業がサンビーム(BL16B2、BL16XU)を利用した研究成果の発表を行った。まず、(株)日立製作所の高松氏が「放射光を用いたリチウムイオン電池反応挙動のその場観察」と題して、(1)X線回折法による充放電中の負極活物質の粒子レベルの動的挙動観察、(2)二次元イメージングXAS法による充放電中の正極内遷移金属の価数変化の可視化、および(3)X線位相イメージング法による充放電中の電解液内イオン濃度分布のその場可視化について紹介した。日亜化学工業(株)の榊氏らは「放射光マイクロビームX線による高効率LED発光層の評価」において、InGaN層からのInL線蛍光マッピングにより発光層の状態を視覚的に評価し、面内のIn原子分布と光学特性の関係性について議論した。(株)東芝の臼田氏らは「硬X線光電子分光法によるゲルマニウムスズ薄膜の深さ方向結合状態評価」により、トランジスタや光学素子への適用が期待されているGeSn結晶薄膜について、僅か数%の仕込みSn濃度の違いによる深さ方向の酸化物/バルクの組成変化が評価できることを示した。関西電力(株)の向井氏らは「Williamson Hall法によるガスタービン動翼用Ni基超合金のクリープ損傷評価」において、LNG火力発電用ガスタービンの動翼が燃焼ガスに曝されて生じる損傷形態の一つであるクリープ損傷について、回折X線のピーク幅からクリープ損傷に伴い材料中に蓄積された微視的ひずみが直接評価できることを示した。住友電工(株)の福永氏らは「In situ二次元XRDを用いたナトリウム二次電池の充放電状態分布解析」において、今後の需要増加が見込まれる大型蓄電池への適用が検討されている同電池について、ラミネートセルを作成し、正極材料の回折パターンの充放電中に伴う変化を、電極中央部と電極端部で比較したところ、電極端部が局所的に放電できていないことを明らかにし、電池設計の指針を得た。(株)神戸製鋼所の中久保氏が発表した「Si添加鋼の加熱中のスケール生成挙動の観察」は(株)コベルコ科研の北原氏らとの共同研究で、高温製造時に鋼表面に生成し表面品質不良の原因となる数µm未満の厚さのスケールについてin-situ XRD分析を行い、Feの拡散によるスケールの成長速度が温度によって異なる原因が非晶質SiO2による拡散阻害(低温域)とSiO2の消失による拡散進行(高温域)であることを示した。

 

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写真1 口頭発表の様子

 

 

3. 技術交流会
 この後行われた技術交流会(懇親会)では例年と同様、産業分野や産官学の所属組織を超えた「SPring-8産業利用者仲間」の連帯感が会場に充満していた。また、産業新分野支援課題の施行により利用が拡大している食品分野の産業界および学術界の利用者らが集うテーブルも見られ、この分野の利用の定着と発展が予兆された。

 

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写真2 技術交流会の様子

 

 

4. ポスター発表
 第2日目9:30より2時間にわたって行われたポスター発表には、主催のサンビーム26件、兵庫県18件、豊田中央研究所10件、およびJASRI 20件、および協賛のフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体の2件を合わせて76件の研究成果のポスターに加えて、ひょうごSPring-8賞、SPRUC企業利用研究会、光ビームプラットフォーム、RIST、CROSS東海、茨城県、あいちSR、JASRI産業利用推進室およびJASRI利用推進部から合わせて12件の施設紹介や利用制度、利用者動向などのポスターが掲示された。全ポスターが一つの大部屋に、(1)有機材料、(2)半導体・電子材料、(3)金属、(4)食品・生活用品、(5)電気化学・触媒、および(6)その他の分野ごとに配置された(図1)。昨年に引き続いたこの分野ごとの配置に参加者が慣れたこともあり、会場全体が落ち着いた賑わいの中、各分野で活発な議論の輪が形成されていた。プログラム構成上、ポスター発表と続く口頭セッション4との間に移動時間を設ける必要を感じた。

 

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図1 ポスター配置図

 

 

5. 口頭発表(第2日目)
 セッション4は「第6回豊田ビームライン研究発表会」で、BL33XUにおける散乱・回折技術とXAFS技術をそれぞれ利用した研究成果2件が発表された。松永氏らによる「小角/広角X線散乱法を用いた射出成形機金型内における熱可塑性樹脂の結晶化過程その場観察」では、射出成形機は透過ビームが抜けるように縦型とし、ベリリウム窓を持つ特別仕様の試験片成形金型を製作、時間分解能0.05秒でポリフェニレンスルフィド(PPS)のSAXS/WAXSを測定したところ、金型温度は結晶成長速度に影響を与えることが分かった。また岡氏らによる「放射光X線を用いたLiイオン電池正負極反応の同時測定」では、リチウムイオン二次電池を安全に使用するために必要な、温度・電圧・電流などが通常状態を超えて使用された場合の正負極と電解液の正規反応および副反応の定量的情報を得ることができた。
 セッション5の「JASRI共用ビームライン実施課題報告会(産業利用分野・産業新分野支援課題)」では、JASRI産業利用推進室の廣沢室長による「2014年度産業利用ビームラインの利用状況」に続いて、利用者による4件の発表があった。それらのうち2件が食品分野の研究報告であり、産業新分野支援課題による新分野の利用促進が一定の成果を挙げたことが示された。まず三菱電機(株)の本谷氏が発表した「金属シリサイド成長のSi基板面方位依存性評価」は東北大学の田中氏らとの共同研究で、集積回路の高性能化に不可欠なSi基板と金属電極との低抵抗接合について、X線反射率測定と硬X線光電子分光測定を用いて膜密度解析と化学結合状態の解析を行った。日本ゼオン(株)の高柳氏らは「異なる構造を持つ熱可塑性エラストマー混合物のミクロ相分離構造と力学物性の関係」について、BL19B2とBL08B2におけるSAXSとTEM観察、およびスパコンを用いた粗視化分子動力学シミュレーションにより、紙おむつなどに望まれる硬さと柔軟性が両立したエラスティックフィルムの機械特性発現メカニズムを明らかにした。ミヨシ油脂(株)の仲西氏らによる「時間分割in-situ X線回折測定法を利用した、マーガリン製造工程において冷却プロセス依存的に生じる油脂結晶の相挙動の解明」は、JASRIの佐藤氏および広島大学の上野氏との共同研究で、BL19B2の小角散乱装置と持ち込みの温度制御試料セルを用いて、ラードとパーム油の主成分が形成する分子化合物結晶相の生成条件を詳細に探査することにより、マーガリン製造工程で実現可能な製品の物性制御の可能性が検証できた。東京海洋大学の小林氏らがJASRIの佐藤氏と共同で行った「放射光X線イメージングによる冷凍果実・野菜内部氷結晶像の直接観察」では、イチゴ緩慢凍結試料中に形成される粗大な氷結晶は観察できたが、リーフレタス緩慢凍結試料および、より微細な氷結晶が生成すると考えられ実用上より望ましいとされるこれらの農作物の過冷却凍結試料では、氷結晶は観察できなかった。この結果の考察から提案された技術課題は、共用産業利用ビームラインにおける冷凍食品CT観察法の技術開発の指針となった。
 セッション6として「第13回ひょうごSPring-8賞受賞記念講演会」が行われた。本年は(株)日産アークの今井英人氏が「リチウムイオン電池の電子の動きを可視化する技術開発と電気自動車用高容量電池開発への寄与」で受賞した。坂田選定部会長による講評に続いて、今井氏の受賞記念講演が行われた。より安定で高容量な正極材料の開発には、リチウムイオン電池の充電時に負極に移動するリチウムイオンの電荷を補償するために移動する電子が正極材料のどの元素からどのように放出されたかを正確に知る必要があった。今井氏らは共用産業利用ビームラインやサンビームにおいてXAFS法を主な手法として、リチウムイオン電池の充放電過程での正極材料中の各元素の価数変化や局所構造の変化を調べた。さらに第一原理計算によるスペクトルシミュレーションを併用してXAFSスペクトルを解析することで、充放電過程での遷移金属原子や酸素原子の周囲の電子の移動を可視化できた。その結果、高容量正極材料では充電時に遷移金属に帰属する電子だけではなく、酸素原子の電子も移動することなどが初めて明らかになった。これらの成果は実用化のために開発中の新規正極材料に活用され、高容量・長寿命・高信頼性の自動車用電池の実現につながるものと期待される。
 セッション7では、まず水木関西学院大学教授が講評として、(1)幅広い産業分野で、不均一、局所、時分割、オペランドをキーワードとした課題解決型の研究にSPring-8の利用が広がっていることに感心したが、「尖った」研究が見られなかったのが残念であったことと、(2)「SPring-8でなければ」の課題は共用ビームライン利用研究課題として審査を経ているので、専用ビームラインの課題選定方法にも工夫が必要ではないかとの感想を述べた。続いて土肥理事長が閉会挨拶の中で、確立された評価法の利用や展開について、JISやISOなどにおける試験法標準化や、品質保証への活用の提言をした。最後に山川常務理事が、来年の本報告会が9月8、9日に神戸市で開催される見込みであることを告知して閉会した。

 

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写真3 口頭発表会場の全景

 

 

6. おわりに
 こうして本年の産業利用報告会が無事、盛況のうちに終えることができた。準備段階から当日の会場運営、さらに事後のとりまとめなど、主催4団体の事務局のご尽力と共催団体の関係者各位のご協力に、この場を借りて感謝の意を表したい。

 

 

 

佐野 則道 SANO Norimichi
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0963
e-mail : sanon@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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