Volume 17, No.1
February issue 2012
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1]奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 Graduate School of Biological Sciences, Nara Institute of Science and Technology、[2]大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University
- Abstract
- 「フロリゲン」は花芽形成を誘導する植物ホルモンとして70年以上前に提唱されていたが、最近になってようやく、その分子実体が高等植物で広く保存されている遺伝子FLOWERING LOCUS T(FT)にコードされている蛋白質であることが明らかになった。本研究において我々は、SPring-8 BL41XUおよびBL44XUを用いた放射光実験により、FT相同蛋白質であるイネのフロリゲンHd3a、茎頂細胞の14-3-3蛋白質、転写因子の3者からなるフロリゲン活性化複合体の結晶構造を2.4 Å分解能で決定することに成功した。さらにイネ培養細胞および形質転換イネを用いた実験から、茎頂細胞の14-3-3蛋白質が細胞内でフロリゲン受容体として働くことや、フロリゲン活性化複合体がイネの花芽形成遺伝子の転写を活性化し、花成を誘導することを明らかにした[1](図1)。
[1]九州大学 先導物質化学研究所 Institute for Materials Chemistry and Engineering, Kyushu University、[2](株)デンソー 材料技術部 Materials Engineering R&D Division, DENSO Corp.、[3](株)デンソー 半導体実装開発部 Semiconductor Packaging R&D Division, DENSO Corp.、[4]科学技術振興機構ERATO 高原ソフト界面プロジェクト ERATO Takahara Soft Interfaces Project, JST
- Abstract
- 環境に優しい接着技術に着目し、1)放射光微小角入射広角X線回折(GIWAXD)を利用したポリブチレンテレフタレートの表面脆弱相の存在の解明に基づく自動車の軽量化に貢献するエンジニアリングプラスチックスの接着技術、2)放射光小角X線散乱による高分子電解質の分子鎖形態の塩濃度依存性の解明に基づいた環境に優しい水を膨潤剤とする接着と塩水溶液による剥離が自在にできるポリマーブラシを用いた接着技術について解説する。
(独)理化学研究所 生命分子システム基盤研究領域 Systems and Structural Biology Center, RIKEN
- Abstract
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膜タンパク質の1つで、真核単細胞生物の光駆動型プロトンポンプであるロドプシン「ARII」は、海藻のカサノリ由来のタンパク質で、生きた細胞を用いる一般的な発現方法では大量合成が非常に難しい。我々は、無細胞タンパク質合成技術※1を用いることで、ARIIの機能を保持したまま大量合成することに初めて成功し、ARIIの機能を詳細に解析することができた。また、人工脂質二重膜中での膜タンパク質の結晶化が可能な脂質メソフェーズ法※2をARIIに適用し、結晶化に成功した。そして、SPring-8のBL41XUでX線回折実験を行い、3.2 Å分解能で立体構造を決定した。これは、真核単細胞生物由来のロドプシンとして初めての構造解析例となる。
今回用いた無細胞タンパク質合成技術による膜タンパク質の合成方法は、医薬品開発など産業上有用な膜タンパク質の機能や構造の解析などに幅広く適用されることが期待される。
※1無細胞タンパク質合成技術:生命体に依存しない人工的なシステムで、細胞からタンパク質合成に必要な成分一式を
抽出し、これに目的のタンパク質をコードする遺伝子を合成装置が読み取れる形にして添加して、タンパク質を合成
する技術。外部からさまざまな因子を加えることが容易であり、反応条件の変更や最適化も容易であるなど、多くの
優れた特徴を持つ。
※2脂質メソフェーズ法:人工脂質二重膜中で膜タンパク質の結晶化を行う新しい技術。生体外で不安定な膜タンパク質
の結晶化に適している。
[1]京都大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Kyoto University、[2]京都大学大学院 物質-細胞統合システム拠点 Institute for Integrated Cell-Material Sciences, Kyoto University
- Abstract
- 金属イオンと有機架橋配位子から形成される多孔性金属錯体の特徴のひとつに、外部刺激による構造の柔軟な変化が挙げられる。このような柔軟性多孔性金属錯体に発光性分子を導入し、溶媒やガスの吸着によってホスト構造を変化させることができれば、そのホスト変化と同期してゲスト分子のコンフォメーションやパッキングが変化し、発光をコントロールできる。本研究では、発光性高分子であるPoly(p-phenylene vinylene)(PPV)のユニット構造であるdistyrylbenzene(DSB)を導入し、溶媒分子やガス分子の吸着や熱といった外部刺激を与えることで発光のスイッチングを行った。これにより、大気中ガスから二酸化炭素のみを選択的に蛍光検知することに成功し、エネルギー移動や化学的相互作用を必要としない先進的なガスセンサーとしての応用が見えてきた。
[1] Institut für Anorganische und Analytische Chemie, Johannes Gutenberg - Universität Mainz、 [2] Max-Planck-Institut für Chemische Physik fester Stoffe、 [3] Institut für Physik, Johannes Gutenberg - Universität Mainz、 [4] Research & Utilization Division, JASRI、 [5] Division of Electronics for Informatics, Hokkaido University、 [6] Magnetic Materials Center, NIMS、 [7] NIMS Beamline Station at SPring-8, NIMS、 [8] Hiroshima Synchrotron Radiation Center, Hiroshima University
- Abstract
- The spin-resolved electronic structure of buried magnetic layers is studied by hard X-ray photoelectron spectroscopy (HAXPES) using a spin polarimeter in combination with a high-energy hemispherical electron analyzer at the high-brilliance BL47XU beamline. Spin-resolved photoelectron spectra are analyzed in comparison with the results of magnetic linear and circular dichroism in photoelectron emission in the case of buried Co2FeAl0.5Si0.5 layers. The relatively large inelastic mean free path (up to 20 nm) of fast photoelectrons enables us to extend the HAXPES technique with electron-spin polarimetry and to develop spin analysis techniques for buried magnetic multilayers and interfaces.
2. ビームライン/BEAMLINES
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
- X線位相イメージングは、X線と試料間において吸収コントラストによるイメージングでは試料中の僅かな密度差を認識できないような場合において、非常に高い感度でそれらを可視化できる測定手法である。位相情報を用いたX線位相差CTは、試料中の僅かな密度差に由来する構造を三次元で測定することが可能であり、主に軽元素で構成された軟組織構造を非破壊かつ高いコントラストで測定できるなど、バイオ・メディカルイメージングへの応用が可能である。BL20B2では、タルボ干渉計を用いたX線位相差CTが可能な光学系の整備を行ってきており、ラット脳全体の高感度三次元イメージングなど、ユーザーの持ち込み試料に対して、測定が行える環境が整っている。
3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS
(独)理化学研究所 播磨研究所 XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門(SPring-8コンファレンス2011実行委員長) Research and Utilization Division, JASRI
(財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Control and Information Division, JASRI
5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
6. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM SPring-8 USERS
SPring-8利用者懇談会 会長(東京大学大学院 新領域創成科学研究科) Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo