ページトップへ戻る

Volume 20, No.2 Pages 155 - 157

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告1 -生命科学分科会-
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Life Science –

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi

SPring-8利用研究課題審査委員会 生命科学分科会主査/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University

pdfDownload PDF (662 KB)
SPring-8

 

1. はじめに
 平成25年4月から平成27年3月までSPring-8利用研究課題審査委員会生命科学分科会の主査を務めさせていただいた。
 生命科学分科会は、3つの分科(L1、L2、L3)に分かれ、それぞれL1:蛋白質結晶構造解析、L2:生体試料小角散乱、L3:医学利用、バイオメディカルイメージング分野の課題審査を担当している。
 以下、それぞれの分科(L1、L2、L3)ごとに2013B期から2015A期の2年間の課題審査について報告させていただく。なお、L2分科は平井光博先生(群馬大学)、L3分科は白井幹康先生(国立循環器病研究センター)にお願いして報告をまとめていただいた。

2. 生命科学分科 I(L1:蛋白質結晶構造解析)
 L1分科では、従来からの偏向電磁石(BM)ビームラインBL38B1と、アンジュレータビームラインBL41XUの2本の共用ビームラインを中心に、実験内容によっては理化学研究所が部分的にビームタイムを供出しているBL26B1(イメージングプレート実験)、BL26B2(顕微分光測定実験)、BL32XU(マイクロビーム実験)も対象に加え、蛋白質結晶の回折実験を中心とした課題選定を行っている。2015A期からBL26B1は、ビームタイムの80%が共用枠に利用されるようになった。L1分科の特徴として、蛋白質結晶学の激しい国際競争に対応するために、結晶が得られてから回折実験までの時間をできる限り短くし、タイムリーな実験を行うことが重要である。このため、2014B期までは、留保ビームタイムとして一定のビームタイムをL1分科で確保し、年2回の審査スケジュールの合間に結晶が得られた場合でも、速やかにデータ収集ができるように、随時募集を行った。この制度は、緊急性の高い数多くの申請に有効に機能したが、より効率的・効果的なビームタイム配分を行うために、2014年度にJASRIに設置されたタンパク質結晶解析推進室のご尽力で、次のように変更した。これまでのように年2回の課題募集時には、ビームタイム配分を決定せず、課題採択後、各期あたり2回にわけてビームタイムの希望を募り、結晶の準備状況と課題審査の点数を総合的に判断して、ビームタイムを配分する。この制度を2015A期から開始することができた。この制度により、結晶の準備が間に合わずビームタイムがキャンセルされたり、重要なテーマの結晶が得られてもアンジュレータのビームタイムを配分することができないといった、これまでの問題点が解決できると考えている。また、3本のBMビームラインは、ビームライン付属装置の違いを除いて、いずれも同じようなビームライン性能を持つため、BMビームラインとしてひと括りでビームタイムの希望調査を行うこととなった。これにより、BMビームラインへのビームタイムをより効率良く配分することができるようになった。この新しいビームタイム配分の制度はまだ始まったばかりであり、2015A期以降の実施を通して問題点も見えてくるかもしれないが、より柔軟な運用が行えることで、これまで以上の成果が得られると期待している。
 なお、2013B期から2015A期までのL1分科での申請課題総数は413件で、採択件数は357件であった(採択率86%)。内訳はBL41XU(採択85件/申請137件)、BL38B1(採択79件/申請64件)、BL32XU(採択23件/申請32件)、BL26B1(採択16件/申請8件)、BL26B2(採択4件/申請0件)であり、この間、BL41XU、BL38B1、BL32XU、BL26B1の分科会留保(採択37件/申請51件)が採択された。また大学院学生を対象として、BL41XU、BL38B1、BL32XU、BL26B1、PX-BLの萌芽的研究支援課題(採択8件/申請14件)が採択された(各ビームラインの申請件数は第一希望分のみを示す)。

3. 生命科学分科 II(L2:生体試料小角散乱)
 L2分科では、結晶構造をとらない溶液分散系や非結晶状態での生体物質、生体関連物質の小角散乱・回折・反射法を用いた機能構造解析を主な研究テーマとした課題を取り扱っている。利用ビームラインは、BL37XU(分光分析)、BL40B2(構造生物学 II)、BL40XU(高フラックス)およびBL45XU(理研構造生物学 I)である。2013B期から2015A期までのL2領域での申請課題総数は112件で、各期平均およそ30件程度の申請があった。内訳は、BL37XU(採択4件/申請4件)、BL40B2(採択33件/申請43件)、BL40XU(採択24件/申請34件)、BL45XU(採択22件/申請31件)である。大学院学生を対象とした萌芽的研究支援課題は、申請数が15件あり、採択率は40%、全体の採択率は74%であった。
 具体的な研究対象は、タンパク質、核酸、生体脂質膜、筋肉、それらの複合体などである。ビームラインごとの申請課題の傾向として、BL37XUでは、気液界面水平反射率測定およびマイクロビームX線蛍光の課題、BL40B2では、溶液小角散乱法、斜入射X線散乱法を用いたタンパク質、脂質ラメラ・リポソーム、皮膚、薬剤担体カプセル(DDS)を対象とした研究が多く、生体物質の基礎的な構造物性研究は少なくなっている。BL40XUでは、多くがマイクロビーム一分子高速計測法による動的挙動解析研究であるが、研究対象は分子モータータンパク質、チャンネルタンパク質、疾病関連タンパク質など様々な広がりを持っている。BL45XUでは、筋肉や鞭毛、微小管の時分割X線繊維回折測定研究が多く、その他は、タンパク質間相互作用やタンパク質・核酸相互作用などの時分割溶液小角散乱研究である。上記の申請テーマの傾向は、各ビームラインの特性をユーザーが十分認識し、使い分けを行っていることを反映している。反面、ビームラインごとの特徴的な測定法を利用するため、ユーザーが特化される傾向が一般的に見られ、新規参入者が少なくなっているように思われる。
 生命現象は、多種多様な構成成分の相互作用が織りなす反応の連鎖で成り立っており、また、光応答、抗原・抗体反応のような短時間の反応から、時計タンパク質やアミロイド凝集のような長時間にわたる反応まで様々である。そのため、申請課題で要求する時間・空間分解能は大きな広がりを持ち、試料自体も、例えば単成分希薄溶液系から多成分濃厚溶液系(混雑液体)などのように、より複雑化している。複数の分子の相互作用を対象とする申請課題は今後も増加すると予想されるが、多様な試料・測定環境を可能とする装置、計測法のさらなる高度化・整備と同時に、パートナーユーザーと協力した解析ツールの開発と一般化やユーザーサポートを含めた利用体制の一層の強化が、新規課題申請者の拡大や新たな研究の萌芽・展開に繋がると考えられる。関連して、申請課題枠には、一般課題の他に、時代に即した様々なカテゴリーが用意されているが、ユーザーが固定化する傾向を避けるために、萌芽的研究支援課題に加え、新規ユーザーを対象とした課題枠も新規参入を促す上で必要ではないかと思われる。

4. 生命科学分科 III(L3:医学利用、バイオメディカルイメージング)
 L3は、医学から生物学まで広い分野の申請を扱い、課題の対象はヒト、動物、植物など多様である。A、B期それぞれの申請総数は、30~40課題であった。最近の研究動向について、研究法別にみると、位相差コントラストX線CT、あるいは透過X線マイクロCTを用いた摘出組織や薬剤などの構造・機能解析が申請課題の約半数を占めた。注目される研究として位相差コントラストX線CTの高い密度分解能を活かした心臓刺激伝導系や大動脈壁の密度差解析が挙げられ、心血管病の新たな病態発見に繋がる可能性がある。また、製剤微粒子構造と徐放能や浮遊能などの製剤性能との相関研究は、新規薬剤開発の効率を大幅に向上すると期待される。生体組織の微細構造とダイナミクスの解析に向けた位相差コントラストX線CTの時間・空間分解能の改善が進められており、様々な臓器・組織のin vivo動的3次元観察への展開が待たれる。透過X線マイクロCTでは、放射光の単色性と造影剤の吸収端を利用した骨再生/血管新生イメージングが注目され、骨形成と骨血管新生の関係解析から骨修復機序の理解がさらに深まりつつある。
 2番目に多い課題は、微小血管造影法および屈折コントラスト法を用いた生きた動物での機能解析で、申請総数の15~20%を占めた。研究テーマとして、循環器病モデル小動物を用いた心臓虚血、肺高血圧、下肢虚血などの血管病態解析と治療法開発が多くを占め、少数ではあるが、癌治療法開発に向けた腫瘍微小循環の制御機構の解析も注目される。微小血管造影技術の向上により、遺伝子改変マウスでの解析が定着し、個体レベルでの分子血管病態の解明が加速しつつある。また、屈折コントラスト法での肺の気道・血管イメージングは、換気・呼吸機能や気道上皮の分泌・異物排出能の機序解明に威力を発揮しており、技術の結集による肺疾患の病態解明・治療法開発への展開が期待される。
 その他の申請課題として、X線回折法による生体分子の動態解析、赤外顕微鏡分光法による細胞・組織成分あるいは薬物生体内分布に関する研究、蛍光X線分析法による薬物・金属の生体内動態解析などがみられたが、全体的には申請総数は頭打ちで、研究グループの固定化傾向も否めない。その背景には、ラボ用マイクロCTや赤外顕微鏡の性能向上やラマン顕微鏡などの普及から、以前ほど生体試料に対する放射光利用の必要性が高くなくなったこと(L3小分科会委員、松本氏のご意見)、多光子共焦点レーザー顕微鏡を用いた蛍光分子イメージングによる生体シグナル伝達機構研究が活発になってきたことなどがあると思われる。将来的には、SPring-8のデバイス(撮像系、試料アタッチメントなど)に特徴ある専用的スペック(例えば、in vivo計測に最適化など)を増やしたり(松本氏のご意見)、放射光利用に初めて興味を持った研究者に対してトライアルビームタイム申請枠を設けるなど、高度専門化と裾野拡大化の両面からの検討が必要ではと考える。
 課題審査において、レフェリー評点は極めて重要な指標となる。L3の課題は広い分野にまたがっているため、レフェリーが専門外の課題を評価せざるを得ない場合が想定される。2014B期から、差分(レフェリー総合評価点の最大値-最小値)が導入され、また総合評価点が1.0~2.4の課題には、レフェリーコメント記述の必須化が徹底したことで、審査の公正さと質が向上したと思う。
 海外も含めた、さらに多くの研究者からの申請を望み、本分科の一層の発展を期待したい。

5. おわりに
 この20年程の間に生命科学研究の分野は飛躍的に進歩してきたが、この進歩にSPring-8が果たしてきた役割の大きさは言うまでもない。さらに、単純な構造解析から、より動的な構造、より高次な構造の必要性が希求されてきており、SPring-8(およびSACLA)に対する期待もますます大きくなってきている。これからの生命科学研究にとってSPring-8が果たすべき役割は大きく、そのためにも生命科学分科会の役割と責任もこれまで以上に大きなものとなっていくとともに、分科間でのコミュニケーションがますます重要になっていくと考えている。

 課題審査にあたり、分科会委員、レフェリー、そしてJASRIの関係者の方々に大変お世話になりました。この場をお借りして深く感謝いたします。

 

 

 

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi
大阪大学 蛋白質研究所
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-2
TEL : 06-6879-4313
e-mail : atsushi@protein.osaka-u.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794