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Volume 20, No.4 Pages 342 - 346

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

The 20th International Conference on Magnetism(ICM2015)会議報告
Report on the 20th International Conference on Magnetism

河村 直己 KAWAMURA Naomi

(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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1. はじめに
 2015年7月5日~10日の期間、スペイン・バルセロナにおいて磁性の国際会議ICM2015が開催された。この会議は、1958年にグルノーブルで第1回が開催されて以来、3年ごとに開催されており、スペインでは初の開催となる。本稿では、本会議の概要について簡単に報告する。
 ICMは、毎回、非常に多くの参加者が集まるマンモス会議である。前回は、韓国・釜山にて開催され、今回で20回目の開催となる。会議の主旨やプログラムなどの詳細はWEBページ[1][1] ICM2015のWeb siteを参照、
http://www.icm2015.org/index.html
を参照していただきたい。通常、ICMではPlenary lectures、Semi-plenary lectures以外は、口頭発表が10セッションに分かれて並行して行われている。その内容は、超伝導、強相関系、磁性ナノ粒子、磁性薄膜・多層膜、半導体スピントロニクス、分子・有機磁性、測定法や装置など多岐に亘っている。Closing ceremonyでの発表によると、今回の参加者数は2,197名であり、これは2003年ローマ開催時の2,200名に次いで2番目に多い数字である。
 会議はPalau de Congressos de Catalunya(図1)という立派な会議場で行われた。この会議場はバルセロナの中心部から少し離れてはいるが、地下鉄3号線の終端駅(Zona Universitària)の目の前なので利便性は高い。同じ通りにバルセロナ大学もある。また、10分ほど歩けば、あの有名なサッカーチーム、FCバルセロナ(バルサ)の本拠地がある。この時期は残念ながらオフシーズンに入っており、サッカー観戦はできないにも関わらず、スタジアム周辺は連日、バルサのオフィシャルショップやスタジアム見学ツアーにやって来る熱狂的なバルサファンで溢れかえっている。会議日程は、初日(7/5)が受付と特別講演2件(磁性30年のハイライトとスペインでの磁性研究の簡単なレビュー)、およびWelcome partyが会場の敷地内で行われ、2日目以降は本会議となるが、中日が午前中(といっても13:30まで)で終了する以外は、最終日も夕方まで開催されるというタイトなスケジュール(ほぼ毎日8:30~19:30)であった。会議につきものであるBanquetは、5日目の夜にSpanish Nightと銘打って、Poble Espanyolで行われた。この場所はモンジュイック公園の一角で、1929年に万国博覧会が開催されたのを機に開発が進んだ場所である。また、周辺には1992年のバルセロナオリンピックが開催されたメイン会場やモンジュイック城があり、頂上(標高173 m)付近からはバルセロナ市街が一望できる(図2)。

 

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図1 ICM2015の会場であるPalau de Congressos de Catalunya。外見は地味であるが、会場は広く立派であった。

 

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図2 モンジュイックの丘より眺めたバルセロナ市街の様子。

 

 

 受付でネームカードを受け取った後、別カウンターでプログラム集とアブストラクトの電子ファイルが入ったUSBメモリ、およびメモ用紙が入った小さめのリュックサックを受け取った。ちなみに、このリュックサックは残っても処分に困るためか、余っていたものを会議終了日にFree Bagとして配布していた。また、参加者がアブストラクトやポスター(任意ではあるが、ポスター発表者がアップロードする必要がある)などの会議に関する情報をタブレットやスマートフォンで見られるようなアプリが準備されていたが、筆者はそのような環境を持ち合わせていなかったため、使用することはできなかった。今後、国内外の会議においてもこのような電子媒体が主流になり、紙媒体は姿を消していくと思われる。
 午前中で終了する中日(7/8)では、何となく参加者が少なかったように感じられた。これだけ大規模な会議の場合、一日くらい参加しなくても目立たないかも知れないが、この日が発表日だった方に対して少し気の毒な感じもした。なお、筆者はこの日の午後のフリータイムを使って、バルセロナ観光の一環としてサグラダ・ファミリアに行ってきた(図3)。サマータイムを導入しているため、夜9時半頃までは明るく、会議が終わった後でも建物や街並みを見て回ることができた。

 

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図3 バルセロナのシンボル、サグラダ・ファミリア。ガウディ没後100年の2026年完成予定ということなので、未だ建設中である。

 

 

 夏のバルセロナは相当暑いだろうと覚悟していた。出発時の日本(関西)の気温が30℃を超えておらず、それほど高くなかったためか、バルセロナ到着時は夕刻であったにもかかわらず暑く感じた。最初の2日間は気温30℃超えで非常に暑かったが、3日目以降は日差しは強いものの日陰にいれば過ごしやすい気候であった。したがって、帰国後は蒸し暑く感じたのはいうまでもない。

 

 

2. 会議内容の概略
 先にも述べたが、ICMは口頭発表が10のパラレルセッションで行われるような会議であるため、すべての話題について聴講することや報告することは不可能である。したがって、以下、いくつかの話題について触れるに留めることにご了承いただきたい。
 ICMにおけるPlenary lecturesは、すばらしい功績に対する御褒美であり、名誉ともいえる。毎日1名選ばれており、全部で5名の方が講演された。スタート(2日目)は米国・コロンビア大学のA. J. Mills博士によって連続時間量子モンテカルロ計算についての講演がなされた。超伝導体やスピンクロスオーバー分子磁性体、置換系物質に対する相図の計算を行い、この手法の有用性を示された。ただ残念なことに、次にパラレルセッションが控えていたため、講演終了10分前ぐらいから多くの聴衆が退席し始めてしまい、折角のPlenary lecturesの雰囲気が台無しであった(同様の状況は4日目のPlenary lecturesでも生じた)。3日目は、ICM2015において国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)磁性賞の表彰を受けて、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のC. L. Chien博士によって講演がなされた(図4)。Chien博士は、新規磁性材料とナノ構造におけるパイオニア的な研究による功績が認められた受賞となった[2][2] 業績については、以下のホームページを参照、
http://medusa.pha.jhu.edu/index.html
。講演内容は、現代磁性学の黄金時代というタイトルで、まず磁石の応用の歴史を簡単に振り返り、現在の流行であるスピン流、スキルミオン、および3Heで見られるp波超伝導の3つの話題について講演された。なお、この日にIUPAPの若手研究者賞(磁性分野)の受賞式も行われ、スペイン・ICN2(Catalan Institute of Nanoscience and Nanotechnology)のM. V. Costache博士がマグノン・ドラッグ効果の新しい検出法の開発など[3][3] 例えば、M. V. Costache et al.: Nature Mater. 11 (2012) 199-202.に対する功績で、物質・材料研究機構の林将光博士が磁気ナノワイヤ中の磁壁移動ダイナミクスに関するパイオニア的研究の功績など[4][4] 例えば、M. Hayashi et al.: Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 172406.において受賞された。4日目は、東北大学の齊藤英治博士によって、スピン流に関する講演がなされた。電流を伴わないスピンの流れであるスピン流をどのように作り出し、観測するかということを、実験結果を示しながら丁寧にわかりやすく講演されていた[5][5] 例えば、K. Uchida et al.: Nature Commun. 6 (2015) 5910.。5日目は地元スペイン・バレンシア大学のE. Coronado博士による分子スピントロニクスに関する講演がなされた。強磁性体に挟まれた有機半導体をナノ粒子、分子にしていくことでナノスピントロニクスを実現させ、イオン磁石や量子ビットへの応用を目指しているようである。最終日は、ドイツ・ダルムシュタット工科大学のO. Gutfleisch博士によって環境保全技術への磁性材料の役割についての講演がなされた。自動車のモーターや冷蔵庫に使われている永久磁石に対して、希少金属である希土類元素を使わない高性能磁石の開発や希土類磁石の再利用法などの話題が取り上げられた[6][6] O. Gutfleisch et al.: Adv. Mater. 23 (2011) 821-842.

 

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図4 Plenary lecturesで講演するC. L. Chien博士。

 

 

 Semi-plenary lecturesは中日を除いて各日3件の講演がパラレルに行われた。その中で特に印象に残った講演は、アルゴンヌ国立研究所のA. Hoffmann博士によるスピン組織を電気的に操作する、という内容のものである[7][7] A. Hoffmann: IEEE Trans. Magn. 49 (2013) 5172 -5193.。スピンの時間的な流れはスピン波になり、空間的な流れは磁気スキルミオンに相当する。スキルミオンは、次世代の磁気メモリ候補のレーストラック・メモリを凌駕することが期待されるが、最終的にはスキルミオンを1個ずつ運ぶ(制御する)ことが必要であり、それを目指して世界中でしのぎを削っているようである。ちなみに、スキルミオンを磁場でブロウするデモンストレーション動画を動かす際に、処理が重かったせいかパワーポイントがクラッシュして落ちてしまうというトラブルがあったが、そのトラブルも含めてインパクトの強い講演であった。
 分野ごとに分かれて行われるオーラルセッションでは、トピックこそ5つの分野(強相関電子系、スピン系と磁気構造、スピンエレクトロニクス・輸送系と磁気ダイナミクス、ナノスケール磁性、磁性材料と技術)に分類されていたが、詳細には47のカテゴリーに細分化されていた。これだけ細分化されると、磁性が絡む研究者は参加しやすいし、磁性の基礎研究から応用研究に亘った話が聞けるため、見聞を広めるには絶好の会議といえる。本会議の最初の2日間は、通常のオーラルセッションとは別にスピン・オービトロニクスとスキルミオン、生体医学的応用と磁性ナノ粒子という表題でのシンポジウムが実施されたが、筆者は別のセッションを聴講していたため、これらのシンポジウムの報告は割愛する。
 5日間のオーラルセッションでは、全般的に強相関電子系物質の話題とナノスケールの磁性についての話題が多かったように思われる。各会場は100名程度入れるぐらいの大きさであったと思うが、どの会場も立ち見が出るほどの盛況ぶりであった。超伝導に関する話題は、高温酸化物超伝導体の発見以降、途絶えることのないトピックの一つであるが、新規の超伝導試料の合成、新規超伝導相の発現、近年発見された鉄ヒ素系超伝導に関する話題が中心であったように思われる。それらの話題の中で、実験する側として重要なことでかつ印象的だったのは、G. W. Scheerer博士からのCeCu2Si2単結晶試料で、破断した試料と研磨した試料で超伝導転移温度(Tsc)が変化するという報告であった。試料の純良性の指標である残留抵抗比(RRR)に依存してTscが異なるという話や、金属間化合物では試料を粉末化する際に試料に歪が入ってしまうという話はよく聞くが、試料作製ロッドや組成が異なるわけでもなく、同一試料を破断するか研磨するかでマクロ物性が異なるとなると、放射光実験のように何度も測定の機会がないような場合には、より一層、試料の準備も入念に行う必要があると思われる。それ以外の講演では、超伝導の絡みもあるためか、強相関電子系Ce化合物、Pr化合物、Yb化合物、U化合物の話題が多く見られた。また、最近の話題であるトポロジカル絶縁体やスピン流の話題も多く見られた。
 放射光関連の話題では、磁性の会議であるためX線磁気円二色性(XMCD)を始め、反強磁性体で観測可能なX線磁気線二色性(XMLD)、共鳴磁気散乱(RXMS)および共鳴非弾性X線散乱(RIXS)の話題が多く見られた。もちろん、磁気構造決定には欠かせない中性子回折や中性子非弾性散乱の話題も見られた。RXMSやRIXSは数年前までは5 keV以上の硬X線領域での話題が主であったが、3 GeVリングの急激な普及もあってか、ここ数年では軟X線領域での進展が著しく、その話題がかなり増えたように思われる。軟X線領域では、磁性体には欠かせない3d遷移金属や4f希土類元素の磁性電子に対して直接的なプローブが可能であるため、これらの手法は今後、普及・発展していくものと思われる。また、欧州の放射光施設の軟X線ビームラインの多くには、ベクトル型超伝導磁石が設置されている。超高真空が必要であるために、試料へのアクセス頻度が限られていることや、RXMSやXMLD測定のために、磁場方向を変化させる必要があることが関係しているものと思われる。
 磁性材料の応用に直結する薄膜作製技術、微細加工技術の進展は目覚ましいものがある。ナノオーダーで厚さや面を加工することはもちろん、測定に必要な端子の加工も重要である。これらの作製・加工には、当然、ナノオーダーの観察手法が不可欠であるため、その両者が精度よく決められる必要がある。放射光を用いたナノオーダー観察手法は現状で50~100 nmレベルまで到達しているが、それを超える観測技術の開発は今後不可欠であり、さらなる進化を期待する。
 ポスター発表は、各日472件(7/6)、509件(7/7)、494件(7/9)、274件(7/10)の発表があった(図5)。一つの分野が集中しないように、各日で適度に分野を散りばめていたが、あまりにも多いため、最終日を除いて2つの時間帯を設け、ポスター番号の偶数・奇数で発表者の説明時間を分けていた。事前に電子メールで発表者へ発表義務の時間帯の連絡は受けていたが、会場で配られたプログラムブックには、偶数・奇数の説明時間に対する記述が逆になっていたため、発表者の多くは混乱していた。ちなみに、これだけの参加者がいると、良質紙を使っていたのもあるがプログラムブックだけでも2 cmの厚みになっており、重量感があった。ICMではBest Postersの表彰を各日で行っており、前回のICM2012では各日2件ずつだったのに対し、今回は各日10件ずつ(最終日は5件)選ばれていた(選ばれたポスターについては[1][1] ICM2015のWeb siteを参照、
http://www.icm2015.org/index.html
を参照されたい)。分野が多岐に亘っていることもあり、ポスター発表があまりにも多く、すべてを見て回るためには美術館の絵をみるような感じになってしまうため、どうしても印象的なポスターに目が留まる。また、これだけ多くのポスター発表がある場合、欠席も多かったりするものだが、今回の会議では欠席はそれほど多くなかったように思う。ポスター発表においてもオーラル発表同様、今回の主流がわかる。トポロジカル絶縁体、スキルミオン、マルチフェロイック、ナノ粒子・ナノワイヤーといった流行分野から、超伝導、f電子系、と長年に亘って議論されているものまで、どれも興味深い研究ばかりである。最近の傾向としては、生体医学への応用分野が増えてきているように感じられる。様々な磁性物質・材料が作製され、それを評価するための手法の開発、応用するための材料加工技術の向上、そして応用への展開、といったところであろう。

 

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図5 ポスターセッションの様子。

 

 

 SPring-8の共用ビームラインで働いている職業柄、放射光施設を利用した結果や装置にどうしても目が留まってしまう。バルセロナから15 kmほど離れた位置にあるALBA、フランスのESRF、英国のDiamond、ドイツのPETRA III、スイスのSLSからの発表が多く見られた。個々の放射光施設のビームラインの特性は周知の通りであり、強烈な印象を残すものや、際立った特性について紹介しているものはなかったが、敢えて挙げるとするならば、ESRFのビームラインID32に設置されている超伝導磁石であろう。このビームラインの超伝導磁石はビームに平行に9 T、垂直に4 Tの磁場が発生できるが、そのスイープ速度がそれぞれ8 T/minおよび4 T/minというのは驚きである。軟X線ビームラインは、エンド・ステーションまでの距離が長くなるので、超伝導磁石からの漏洩磁場の蓄積リングへの影響は小さいと思われるが、その取り組みは凄いものを感じた。

 

 

3. 会議の総括
 スペイン・バルセロナで行われたICM2015は、大盛況であり、大きなトラブルもなく、成功裏に終わったと思われる。会議の規模が大き過ぎて嫌う方もいるが、「磁性」という一つのキーワードから基礎研究から応用研究に至るまで、様々な分野の話を聴講できるという点では視野が広がるので、興味のある方は是非一度参加することをお勧めする。磁性は日本のお家芸のようなものなので、ICMの日本人参加者が多いのは理解できるが、前回のICM2012に引き続き、今回も参加人数がホスト国を抑えての堂々の1位(449名)というのは凄まじい(2位はドイツの214名、3位はスペインの195名)。次回の会議は、3年後の2018年7月15日~20日に米国・サンフランシスコにて行われるが、ここでもやはりホスト国を抑えて参加人数1位になると予想される。

 

 

 

参考文献
[1] ICM2015のWeb siteを参照、http://www.icm2015.org/index.html
[2] 業績については、以下のホームページを参照、http://medusa.pha.jhu.edu/index.html
[3] 例えば、M. V. Costache et al.: Nature Mater. 11 (2012) 199-202.
[4] 例えば、M. Hayashi et al.: Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 172406.
[5] 例えば、K. Uchida et al.: Nature Commun. 6 (2015) 5910.
[6] O. Gutfleisch et al.: Adv. Mater. 23 (2011) 821-842.
[7] A. Hoffmann: IEEE Trans. Magn. 49 (2013) 5172 -5193.

 

 

 

河村 直己 KAWAMURA Naomi
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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