Volume 22, No.1
February issue 2017
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
スタンフォード大学 医学部 分子細胞生理学科 School of Medicine, Stanford University
- Abstract
- ヒトをはじめとする殆どあらゆる生物は光情報を利用して行動しているが、この光情報の受容は、多くの場合ロドプシンファミリータンパク質によって担われる。この中でも近年特に、イオン輸送体として働くロドプシンが、光によって細胞の膜電位を操作できるツールとして注目を集めている(オプトジェネティクス)。我々は、オプトジェネティクスツールとして最も広く利用されている光駆動性陽イオンチャネル、チャネルロドプシン(ChR)について、その立体構造を明らかにし分子機構の一端を解明した。また、得られた結晶構造を元に、異なる吸収波長特性を持つ変異型イオン輸送ロドプシンを創製する合理的設計法を提唱、実証した。更に、2013年に発見されたばかりの光駆動性Na+ポンプであるKrokinobacter rhodopsin 2(KR2)についてもその立体構造を明らかにし、光依存的Na+輸送の分子機構を解明するとともに、自然界からは発見されていない光駆動性K+ポンプを創製することに成功した。
株式会社豊田中央研究所 分析部 Materials Analysis & Evaluation Division, TOYOTA Central R&D Labs., Inc.
- Abstract
- 実用金属材料内部の結晶方位及び応力の非破壊3次元観察を行うため、細いビームを使って試料を3次元走査する3DXRD法(走査型3DXRD法)を開発した。再構成シミュレーションにより入射ビーム幅の2倍程度の空間分解能で結晶方位マッピングが可能であると推定した。最初の実験として、ビーム幅20 µmの入射ビーム及び粗大粒化純鉄試料を使って、再構成シミュレーションと矛盾しない結果が得られた。高エネルギー1 µmマイクロビームを使うことで実用冷間圧延鋼板材の結晶方位マッピングに初めて成功した。
[1]School of Physics, Monash University、[2]Institute of Advanced Studies & Chair of Biomedical Physics, Technische Universitat Munchen、[3]Women's and Children's Hospital, North Adelaide & Robinson Institute, University of Adelaide
大阪大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Osaka University
- Abstract
- これまで開発されてきた高空間分解能な結像型X線顕微鏡は強い色収差を持っていた。顕微分光などの高度なアプリケーションを遂行するためには、この色収差の問題を解決することが必要不可欠である。本研究では、全反射ミラーに基づいたAdvanced Kirkpatrick-Baezミラー光学系を開発することで、高分解能かつ色収差のない結像型X線顕微鏡を構築した。超高精度ミラーを作製し、また、これを高精度にアライメントすることで、色収差がない条件下では世界で初めて50 nmの空間分解能を達成した。
愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター Geodynamics Research Center, Ehime University
- Abstract
- 地球内部の構造やダイナミクス、さらにはどのようにして地球が現在の姿になったのかを理解するためには、地球を構成する物質(ケイ酸塩や鉄合金)を地球深部に対応する超高圧高温環境におき、その物理的・化学的性質を調べることが必要である。ダイアモンドアンビル高圧発生装置によって地球中心までの超高圧高温極限環境を静的圧縮下で実験室に再現できるようになった今、高圧試料から「何の」情報を引き出せるかといった測定の新しいアイデア・技術進化が地球科学に新たな知見を与えてくれる。本稿ではそのような一例として我々が現在開発を行っている、超高圧その場でのX線ラミノグラフィーを用いた化学的3Dイメージング法について進展を紹介する。
東京大学大学院 理学系研究科 Graduate School of Science, The University of Tokyo
- Abstract
- 原核生物のもつCRISPR-Cas系は外来核酸に対する獲得免疫機構としてはたらく。CRISPR-Cas系にかかわるRNA依存性ヌクレアーゼであるCas9やCpf1はガイドRNAと相補的な二本鎖DNAを特異的に切断する。近年、この性質を応用したゲノム編集技術の登場により、様々な生物のゲノム情報(生命の設計図)を「書き換える」ことが可能になってきた。これまでに我々はCas9およびCpf1の結晶構造を決定し、そのRNA依存的なDNA切断機構を解明してきた。また、Cas9とCpf1の構造比較から、CRISPR-Casヌクレアーゼの作動機構の共通性および多様性が明らかになった。さらに、これらの構造情報は新規のゲノム改変ツールの開発にも大きく貢献してきた。
2. ビームライン/BEAMLINES
[1]兵庫県立大学 放射光ナノテクセンター Institute for Research Promotion and Collaboration Synchrotron Radiation Nanotechnology Center, University of Hyogo、[2]マツダ株式会社 技術研究所 Technical Research Center, Mazda Motor Corporation、[3]兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所 Laboratory of Advanced Science and Technology for Industry, University of Hyogo、[4]スプリングエイトサービス株式会社 技術部 Technical Beamline Group, SPring-8 Service Co., Ltd.、[5]兵庫県立大学大学院 物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo
- Abstract
- 兵庫県立大学が管理運営するビームラインBL24XUは、様々な産業分野に対して放射光の高精度分析技術を提供してきた。また同大学の理学部エックス線光学講座が中心となって放射光利用技術の基礎研究に取り組み、その成果を産業界が求める材料評価の手法へと応用してきた。
BL24XUにおける放射光産業利用の新たな取り組みとして、兵庫県立大学とマツダ株式会社は、次世代自動車材料開発に向けた放射光分析、解析技術の活用研究を開始した。効率良い材料開発のため、元素レベルでのモデル化を目的とした最初の取り組みとして、BL24XUに専用実験装置である雰囲気制御型硬X線光電子分光装置を整備した。複合材料の界面を評価し、材料因子を精密に取得することで構造モデルの精密化と特性発現のメカニズム解明を目指している。
本報告では上記取り組みの中で、2016年度に実施したBL24XUの装置改造ならびに整備状況、今後の研究計画について報告する。
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
(国)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center
5. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)庶務幹事/(国)理化学研究所 放射光科学総合研究センター RIKEN SPring-8 Center