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Volume 19, No.4 Pages 322 - 325

3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS

SACLAのレーザー性能の高度化
XFEL Performance Upgrade at SACLA

田中 均 TANAKA Hitoshi

(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL 研究開発部門/先端光源開発研究部門 回折限界光源設計検討グループ XFEL Research and Development Division / Diffraction Limited Synchrotron Radiation Design Group, Innovative Light Sources Division, RIKEN SPring-8 Center

Abstract
 前回の記事[1][1] 田中均:SPring-8利用者情報 18 No.3 (2013) 223-225.では供用開始初年度(2013年3月まで)のSACLAの運転状況を紹介した。今回はSACLAのレーザー運転の現状を2013年4月から2014年7月までに実施されたレーザー性能の高度化に焦点を当てて報告する。
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1. はじめに
 Table 1に現状の光源性能を、Table 2に2013年度のSACLAの運転統計を2012年度の実績とともに示す。光源性能では、レーザー強度とその繰り返しに顕著な性能の向上が見られる。ユーザー運転2年目も、初年度に引き続き7,000時間を超える運転が行われ、施設の稼働率~97.5%が達成された。利用運転時間は初年度の10%増に当たる3,300時間が計画され、その目標も達成されている。大きなトラブルもなくSACLAの運転は概ね順調に行われ、年間の平均レーザー利用率として92.7%という高い値が得られた。以下に光源高度化の詳細を述べる。

 

Table 1 Achieved SASE FEL performance
Pulse Energy 0.6 mJ@10 keV
Available Photon Energy Range 4~15 keV
Laser Pulse Duration < 10 fs (FWHM)
Spatial Coherence Nearly full
Repetition Rate 30 Hz
Stability     Intensity σδI/I ≤ 10%
     Pointing σδz/z(FWHM) 3~7%
     Wavelength σδλ ~0.1%

 

Table 2 SACLA Operation Statistics
  FY2012 FY2013
Total Operation Time per Fiscal Year
(Achieved / Planned)
7016 / 7060 hr 7017 / 7197 hr
Operation Rate ~99.4% ~97.5%
Machine Tuning Time 583 hr 860 hr
BL Tuning, Preparation & R&D Time 3281 hr 2698 hr
User Experimental Time 3152 hr 3459 hr
Downtime in User Experiments 241 hr 252 hr
Laser Availability ~92.3% ~92.7%

 

 

2. レーザー繰り返しの増大
 レーザーの繰り返しはFig. 1に示すように段階的に引き上げられ、2014年の運転開始からは30 Hzを標準繰り返し*1)として利用運転が行われている。繰り返しを引き上げる際に問題となるのは、レーザーのトリップ頻度である。一般にトリップは加速管や高出力パルス機器の放電、サイラトロン(高圧スイッチ)のミスファイアにより発生し、その頻度は繰り返しに比例する。このため、繰り返しを上げるには、このトリップ頻度の低減が必須となる。SACLAでは、長時間に亘る加速システムのコンディショニングとサイラトロンの機器インターロックの適正化により30 Hzの繰り返しにおいて、安定なレーザー運転、即ち、許容範囲内のトリップ頻度、レーザーの安定性と再現性を実現した。定格60 Hzのレーザー運転の達成には、クライストロンを駆動するモジュレータの印加電源における熱的耐久性の問題を解決する必要があった。冷却系の改善を重ねた結果、定格運転の目処が得られ、2014年秋には60 Hzの繰り返しでのレーザー運転試験を予定している。

*1) 実験により、30 Hzの繰り返しでデータが取れない場合もある。その場合は実験に応じてレーザーの繰り返しを下げて運転を行う。

 

19-4-2014_p322_fig1

 

Fig. 1 Increase in laser repetition rate since 2013.

 

 

3. レーザー強度の増大
 レーザー強度は10 keVの光子エネルギーにおいて600 µJ/pulseまで増大した。加速器の安定化は、電子ビームのピーク電流を10 kAレベルまで調整可能にしただけでなく、半値幅10 fsを下回る短パルスレーザーを定常的に供給可能とした[2][2] P. Schmüser, M. Dohlus, J. Rossbach and C. Behrens: Free-Electron Lasers in the Ultraviolet and X-Ray Regime; Physical Principles, Experimental Results, Technical Realization, Springer Tracts in Modern Physics, Volume 258, 2nd Edition (Springer, Switzerland, 2014) Ch.9.。Fig. 2にユーザー実験時のレーザー強度の安定性の一例を示す。レーザー強度の増加に伴う強度変動の増大は特に見られず、良好な強度安定性(規格化強度変動で~10%)が維持されている。

 

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Fig. 2 High XFEL intensity stability routinely achieved at around a pulse-energy of 0.6 mJ. XFEL photon energy is 10 keV and the intensity was measured at the optical hutch just upstream of the experimental hutch.

 

 

 現状、電子バンチのレージング部のピーク電流は限界に近く、圧縮を強め短パルス化によるレーザー強度増強にも限界がある。さらなるピークパワーの増大には、レーザーパルス圧縮[3][3] T. Tanaka: Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 084801.等の新たなスキームを具体化する必要があろう。一方で、レーザーパルスエネルギーの増強には、電子バンチのレージング部のパルス幅を伸ばし、レージングに寄与する電子数を増やす方法もある。これには圧縮プロセスの線形性をエネルギーチャープの広い範囲まで拡張する必要があり、8極電磁石をバンチ圧縮用シケインに設置する方法[4][4] 渡川和晃、原徹、田中均: Proc. of the 9th meeting of Particle Accelerator Society of Japan, Toyonaka Campus, Osaka Univ., Aug. (2012) 1018-1021.も検討され、試験段階に入っている。以上述べた2つのアプローチで、さらなるレーザー強度の改善可能性が多角的に検討されている。


4. 自己シードXFELの導入
 多モードのSASE XFELのモード数を飛躍的に減らし、スペクトル幅を狭帯域化するとともに時間コヒーレンスを改善する手法の1つにシード化がある。X線領域では、1枚の薄い結晶(例えばダイヤモンド)を用いた透過型ブラッグ回折配置により、SASE XFELのエネルギースペクトルの一部を種光レーザーとして利用する自己シードスキーム[5][5] G. Geloni, V. Kocharyan and E. Saldin: J. Mod. Opt. 58 (2011) 1391-1403.が、(a)新たな外部レーザーを必要としない、(b)設置スペースがコンパクトという長所により有望視されている。SACLAでも2013年夏期停止期間に装置設置を完了し、2014年秋以降のユーザー運転導入を目指し、ビーム調整を進めてきた。Fig. 3に自己シードXFELの実験結果の一部を示す[6][6] T. Inagaki et al.: Proc. of the 5th International Particle Accelerator Conference (IPAC), Dresden, Germany, June (2014) 2888-2890.

 

19-4-2014_p322_fig3

 

Fig. 3 Energy spectra of the X-ray radiation with the seeding configuration. The three lines show the spectra with different numbers of active undulator segments at the downstream of the chicane. The spectra represent the integration of 100 shots. The bandwidth of the seeded spike is about 4 eV in FWHM.

 

 

 現状では、高性能のシードXFELを短時間の調整で再現させることが困難である。その原因の1つとして、電子ビームパルスの極端に短いパルス幅、かつ高ピーク電流が挙げられる。この高ピーク電流は、CSRや加速管、アンジュレータのインピーダンスにより容易にエネルギーチャープを形成する。このチャープの状況はピーク電流分布に依存するので、試験の度にシード化の最適条件がずれ、簡単に再現しないのではないかと考えられている。そこで電子ビームの圧縮を弱め、ピーク電流を下げた電子ビームのパラメータによる安定で再現性のよいシード型XFEL生成の検討を進めている。


5. ビームラインの増設(BL2の建設)
 2本目のXFELのビームラインであるBL2が予定通り2014年夏期停止期間に完成した。設置されたアンジュレータセグメントの総数は15台であり、途中に自己シード化のための分光結晶設置のスペースも確保されている。10月7日の施設検査にも無事合格し、10月中旬のFirst Lasingを目標に本格的なビーム調整を進めている。BL2を利用した試験実験は2014年中に実施する予定である。
 当面の運用では、BL3もしくはBL2のどちらか一方を利用することを考えている。実験の裏で使用しないビームラインのセッティングを実施し、さらにBL2では、多様なサンプルを交換して計測可能なCDIやFSX等の実験を長いスパンで実施することで、実験セットアップの入れ替え時間を削減し実験効率の改善を図る計画である。


6. パルス毎のビームライン高速切り替え
 BL2とBL3レーザーラインのパルス切り替え運転実施に向け、必要な機器の設置を2014年夏期停止期間に行った。全ての機器の加速器トンネル、アンジュレータホールへの設置は2014年冬期停止期間中に完了する見通しである。2015年のレーザー運転再開以降、パルス毎のレーザーライン切り替えに必要な調整と検証を順次行っていく。パルス切り替え運転には、(a)安定で信頼性の高いビームルートの切り替え、(b)パルス毎に異なるビームエネルギーを可能にする加速器マルチエネルギー運転[7][7] T. Hara et al.: Phys. Rev. STAB. 16 (2013) 080701.、(c)複数のBLに跨がる加速器、ビームライン機器、ならびに計測データの同期収集とそのストレージが必要であり、十分な準備と試験的検証を積み上げ、2015年秋のユーザー運転導入を目指している。


7. BL1ビームラインの高度化
 BL1広帯域ビームラインは2012年3月から利用が開始されたが、現状では短パルス自発光の利用に止まっている。SACLAの効率的運用とBL1のSASE FEL化を目指し、BL1ビームライン上流部(アンジュレータホール内)にSACLAのプロトタイプ機[8][8] T. Shintake et al.: Nature Photonics 2 No.9 (2008) 555-559.を移設・改造し、ビーム性能を向上させた上で、BL1の専用電子加速器として利用する計画が進められている。C-band加速システムを増強し、最大約450 MeVの高輝度電子ビームをBL1のアンジュレータラインに入射して、波長20 nmを下回るSASE FELの生成を第1段階の目標としている。2014年秋から加速器システムのコンディショニングを開始し、1年後の2015年秋からSASE FELによる利用実験を目指す。


8. 最後に
 SACLAの高度化はこの3年の間に驚くべきスピードで進展した。この光源の進化が必ずや革新的な研究成果に繋がっていくと信じて止まない。独自のアイデアとシステムによる複数本のレーザーラインのパルス切り替え運転、ならびにBL1ビームラインの高度化に関し、実際に得られたレーザー性能を次回報告できることを期待して筆を置く。

 

 

 

参考文献
[1] 田中均:SPring-8利用者情報 18 No.3 (2013) 223-225.
[2] P. Schmüser, M. Dohlus, J. Rossbach and C. Behrens: Free-Electron Lasers in the Ultraviolet and X-Ray Regime; Physical Principles, Experimental Results, Technical Realization, Springer Tracts in Modern Physics, Volume 258, 2nd Edition (Springer, Switzerland, 2014) Ch.9.
[3] T. Tanaka: Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 084801.
[4] 渡川和晃、原徹、田中均: Proc. of the 9th meeting of Particle Accelerator Society of Japan, Toyonaka Campus, Osaka Univ., Aug. (2012) 1018-1021.
[5] G. Geloni, V. Kocharyan and E. Saldin: J. Mod. Opt. 58 (2011) 1391-1403.
[6] T. Inagaki et al.: Proc. of the 5th International Particle Accelerator Conference (IPAC), Dresden, Germany, June (2014) 2888-2890.
[7] T. Hara et al.: Phys. Rev. STAB. 16 (2013) 080701.
[8] T. Shintake et al.: Nature Photonics 2 No.9 (2008) 555-559.

 

 

 

田中 均 TANAKA Hitoshi
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター
XFEL研究開発部門/
先端光源開発研究部門 回折限界光源設計検討グループ
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 3513
e-mail : tanaka@spring8.or.jp

 

 

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