Volume 19, No.1 Pages 74 - 78
4. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
SPring-8利用研究成果の論文分析2013 -年間論文数と論文被引用状況-
Statistical Analysis on Publications and Citations at SPring-8 2013
1. はじめに
SPring-8利用成果の自己評価として、論文の量だけではなく、質の視点から評価分析するために、2013年5月に論文被引用数の調査を行った。論文被引用数は、研究評価のメトリックスとして広く利用されている。本集計にあたっては個々の論文からビームライン別の平均論文被引用数を集計し、施設有効利用の指標のひとつとして活用することを目的としている。
2. 集計方法
2−1. 集計対象論文について
論文被引用数を求める母数として、以下の要件を設定した。
ⅰ)SPring-8論文発表等登録データベースに登録されている原著論文であること
SPring-8の成果と見なす論文は、各ユーザから「論文発表等登録データベース」に原著論文として登録された論文のみを集計母体とした。「SPring-8/SACLA利用研究成果集」において発表された論文は含まない。
ⅱ)SPring-8ビームラインを利用した成果であること
「論文発表等登録データベース」に登録される原著論文のうち、SPring-8のいずれかのビームラインに関連した原著論文を被引用数集計対象とする。当該データベースには、加速器等に代表されるビームラインに依存しない研究成果もSPring-8の成果として登録されているが、ビームラインに依存するユーザの利用成果状況把握を集計主旨とするため、対象からは除外する。
ⅲ)成果妥当性が確認できること
「論文発表等登録データベース」は、ユーザからの自己申告登録により、関連課題、関連ビームライン等の登録を受けている。図書情報課では、登録された論文の内容を確認し、必要であれば、著者への問合せを実施して、SPring-8としての成果であることを確認している。
2−2. 集計方法について
集計対象論文に対する論文被引用数集計方法を以下に示す。
ⅰ)被引用数取得方法
論文被引用数の集計には、今回は学術文献・引用索引DBとして認知されているElsevier社Scopusを利用した。
ⅱ)分類方法
用途により、以下の分類を用いる。
・ビームライン種別集計
各ビームラインを共用、専用、理研の種別に分類し、各種別の論文数、論文被引用数の集計を行う。また、合計値が総計を示すよう、一つの論文は代表されるいずれか一つのビームライン種別に含まれるよう分類するため、ビームライン種別集計値は参考値を提供している。また、利用する学術文献・引用索引DBから論文被引用数が取得出来ない論文が存在した場合、本集計では集計対象の母数から除外して、平均論文被引用数を求めることとする。
・ビームライン別集計
各ビームライン別に関連する論文を集計する。集計には、整数カウント法を採用し、一つの論文が関連する全てのビームラインに加算を行う。
3. 集計結果について
各集計結果について、以下に示す。
表1にSPring-8を利用した発表論文の総数と累積被引用数を示す。
表1 SPring-8を利用した発表論文の総数と累積被引用数
1997-2013 (供用開始からの総数) |
2002-2012 (最近11年間の総数) |
2011 (2011年の年間総数) |
|||||||
累積 論文数 |
累積 被引用数 |
平均 被引用数 |
累積 論文数 |
累積 被引用数 |
平均 被引用数 |
年間 総論文数 |
累積 被引用数 |
平均 被引用数 |
|
SPring-8(ALL) | 7531 | 119515 | 15.9 | 6817 | 98122 | 14.4 | 754 | 3703 | 4.9 |
共用 BL | 5375 | 83235 | 15.5 | 4870 | 70388 | 14.5 | 567 | 2910 | 5.1 |
専用 BL | 1317 | 18513 | 14.1 | 1208 | 16040 | 13.3 | 139 | 580 | 4.2 |
理研 BL | 839 | 17767 | 21.2 | 739 | 11694 | 15.9 | 48 | 213 | 4.4 |
●集計対象BL
共用BL ---- 計26本
BL01B1 BL02B1 BL02B2 BL04B1 BL04B2 BL08W BL09XU BL10XU BL13XU BL14B2 BL19B2
BL20B2 BL20XU BL25SU BL27SU BL28B2 BL35XU BL37XU BL38B1 BL39XU BL40B2 BL40XU
BL41XU BL43IR BL46XU BL47XU
専用BL ---- 計17本
BL03XU BL07LSU BL08B2 BL11XU BL12B2 BL12XU BL14B1 BL15XU BL16B2 BL16XU BL22XU
BL23SU BL24XU BL32B2 BL33LEP BL33XU BL44XU
理研BL ---- 計8本
BL17SU BL19LXU BL26B1 BL26B2 BL29XU BL32XU BL44B2 BL45XU
●備考
*1:2013年は、2013年1月1日から2013年4月30日までに発行された論文を集計対象とした。それ以外は、各年1月1日から12月31日までに発行された論文を集計対象とした。
*2:以下のBLは調査対象から除外した。
加速器診断用BL --- BL05SS BL38B2
調査時における供用開始から2年以内のBL --- BL43XU(供用開始2011年10月)、BL28XU(同2012年4月)、BL36XU(同2013年1月)、BL31LEP(同2013年5月)
*3:BL32B2(創薬産業BL)は、専用BLに含めた(2012/3/29に設置期間終了)。
 
 
1)1997-2013(供用開始からの総数)
ⅰ)累積論文数 --- SPring-8が供用を開始した1997年から、調査を行った2013年5月までに登録を受けた総論文数は、8043件である。そのうち、以下の論文について、母数から除外した。
・論文被引用数が不明な論文 | --- | 464件 |
・加速器診断用ビームラインに関わる論文 | --- | 48件 |
ⅱ)累積被引用数 --- 調査を行った時点での各論文の被引用数の合計を示す。
ⅲ)平均被引用数 --- 累積被引用数を年別論文数で除した値を示す。
2)2002-2012(最近11年間の総数)
一般的に論文被引用数は、論文が発表されてから他の論文に引用され始めるまでに時間がかかり、その後数年の間被引用数は増加し続け、徐々に増加値は収束していく。Thomson Reuters社が毎年公開する論文の引用動向調査においては、論文発表から11年間を集計期間の対象としている。本調査でも、上記との比較を視野に入れ、2002年から2012年の11年間に発表された論文を対象に集計を行った。
3)2011(2011年の年間総数)
論文発表から有効被引用数を示すまでの経過値として2年を目安にし、論文発表から2年経過した時点の被引用数を集計した。
4)ビームライン種別(共用、専用、理研)
各ビームラインを表1注釈に示すとおり分類した。また、合計値が総計を示すよう、一つの論文は代表されるいずれか一つのビームライン種別に含まれるよう分類した。よって、ビームライン種別集計は便宜的分類であり、参考値として集計した。
表2および図1に年別発行論文数と2013年5月1~2日における平均被引用数(2002-2012)を示す。
表2 年別発行論文数と2013年5月1-2日における平均被引用数(2002-2012)
SPring-8 | 2012 | 2011 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 2006 | 2005 | 2004 | 2003 | 2002 |
年別論文数 | 582 | 754 | 697 | 719 | 715 | 748 | 616 | 653 | 571 | 418 | 344 |
累積被引用数 | 986 | 3703 | 5016 | 8871 | 9322 | 10148 | 11264 | 11395 | 14802 | 11379 | 11236 |
平均被引用数 | 1.7 | 4.9 | 7.2 | 12.3 | 13.0 | 13.6 | 18.3 | 17.5 | 25.9 | 27.2 | 32.7 |
図1 年別発行論文数と2013年5月1-2日における平均被引用数(2002-2012)
1)2002-2012 --- 各年1月1日から12月31日までに発行された論文を集計する。
2)年別論文数 --- 当該年に発表されたSPring-8の成果と登録論文数。ただし、以下の論文について、母数から除外した。
・論文被引用数が不明な論文
・加速器診断用ビームラインに関わる論文
3)累積被引用数 --- 調査を行った時点での各論文の被引用数の合計
4)平均被引用数 --- 累積被引用数を年別論文数で除した平均値
図2にBL別累積論文数と累積被引用数の比較(1997-2013年の発表論文)を示す。
本集計では、整数カウント法を採用し、一つの論文が関連する全てのビームラインに加算を行った。又、累積論文数には被引用数が確認できない論文も計上し、真値に近づけた。
図3にBL別累積論文数と累積被引用数の比較(2002-2012年の発表論文)を示す。図2同様の集計を2002年から2012年の11年間に注目して集計した。
図4にBL別累積論文数と累積被引用数の比較(2011)を示す。図2同様の集計を論文発表後2年経過値(2011年発行論文)に注目して集計した。
図2 BL別累積論文数と累積被引用数の比較(1997-2013年の発表論文)
*1) 検索DB(Elsevier Scopus)未登録のため、被引用数が確認できない論文は「被引用数未確認」に計上する。
*2) 一つの論文が異なる複数のBLに関わる共通の成果とみなせる場合、各BLそれぞれに計上する。
図3 BL別累積論文数と累積被引用数の比較(2002-2012年の発表論文)
*1) 検索DB(Elsevier Scopus)未登録のため、被引用数が確認できない論文は「被引用数未確認」に計上する。
*2) 一つの論文が異なる複数のBLに関わる共通の成果とみなせる場合、各BLそれぞれに計上する。
図4 BL別年間総論文数と総被引用数の比較(2011年の発表論文)
*1) 検索DB(Elsevier Scopus)未登録のため、被引用数が確認できない論文は「被引用数未確認」に計上する。
*2) 一つの論文が異なる複数のBLに関わる共通の成果とみなせる場合、各BLそれぞれに計上する。
表3に2011年発行論文における被引用数ベスト10の論文リストを示す。2011年に発行された論文に関する被引用数上位10位を掲載している。
表3 2011年発行論文における被引用数ベスト10の論文リスト
# | 回 数 |
BL | 実験責任者 | タイトル | 筆頭著者 | 所属 | 投稿先ジャーナル名 |
1 | 382 | BL38B1 BL41XU BL44XU |
Jian-Ren Shen | Crystal Structure of Oxygen-Evolving Photosystem II at a Resolution of 1.9 Å | Yasufumi Umena | Osaka City University | Nature Vol.473 No.7345 p55-60 |
2 | 75 | BL02B2 | Shinichi Komaba | Detailed Studies of a High-Capacity Electrode Material for Rechargeable Batteries, Li2MnO3-LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2 | Naoaki Yabuuchi | Tokyo University of Science | Journal of the American Chemical Society Vol.133 No.12 p4404-4419 |
3 | 71 | BL37XU | Horacio Cabral | Accumulation of Sub-100 nm Polymeric Micelles in Poorly Permeable Tumours Depends on Size | Horacio Cabral | The University of Tokyo | Nature Nanotechnology Vol.6 No.12 p815-823 |
4 | 41 | BL32XU | Toyoyuki Ose | Structure of the Measles Virus Hemagglutinin Bound to its Cellular Receptor SLAM | Takao Hashiguchi | Kyushu University | Nature Structural and Molecular Biology Vol.18 No.2 p135-141 |
4 | 41 | BL41XU | Hitoshi Kurumizaka | Crystal Structure of the Human Centromeric Nucleosome Containing CENP-A | Hiroaki Tachiwana | Waseda University | Nature Vol.476 No.7359 p232-235 |
6 | 40 | BL41XU | Masaki Yamamoto | Crystal Structure of Autotaxin and Insight into GPCR Activation by Lipid Mediators | Hiroshi Nishimasu | The University of Tokyo | Nature Structural and Molecular Biology Vol.18 No.2 p205-212 |
7 | 35 | BL12B2 | Nei Li Chan | Structural Basis of Type II Topoisomerase Inhibition by the Anticancer Drug Etoposide | Chyuan-Chuan Wu | National Taiwan University | Science Vol.333 No.6041 p459-462 |
8 | 33 | BL01B1 | Shun Nishimura | Hydrotalcite-Supported Gold-Nanoparticle-Catalyzed Highly Efficient Base-Free Aqueous Oxidation of 5-hydroxymethylfurfural into 2,5-furandicarboxylic Acid under Atmospheric Oxygen Pressure | Navneet Kumar Gupta | Japan Advanced Institute of Science and Technology | Green Chemistry Vol.13 No.4 p824-827 |
9 | 32 | BL41XU BL44XU |
Masaki Yamamoto | 14-3-3 Proteins Act as Intracellular Receptors for Rice Hd3a Florigen | Ken-Ichiro Taoka | Nara Institute of Science and Technology | Nature Vol.476 No.7360 p332-335 |
10 | 31 | BL41XU BL44XU |
Yasuhito Shomura | Structural Basis for a Cluster in the Oxygen-Tolerant Membrane-Bound -hydrogenase | Yasuhito Shomura | University of Hyogo, SPring-8/RIKEN | Nature Vol.479 No. 7372 p253-256 |
4. おわりに
SPring-8利用者情報では毎号「論文発表の現状」において、SPring-8を利用した成果として各ビームライン別に集計した論文成果状況を掲載しているが、今年より年一回、各論文が他の論文から何回引用されているかを示す、論文被引用数(サイテーション数)の集計結果も掲載することにする。今後、同様の集計方法をもって毎年5月第1週に集計作業を行い、本誌各8月号に掲載の予定である。