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Volume 19, No.1 Page 1

理事長室から -SPring-8利用研究成果の論文分析-
Message from President – Bibliometrical Analysis of Research Papers Published by SPring-8 Users –

土肥 義治 DOI Yoshiharu

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 大型放射光施設SPring-8は、1997年の供用開始から16年が経過し、多様なビームライン(BL)の整備と各種機器の高度化により世界最高レベルの先端研究基盤となり、学術の進歩と産業の発展に貢献してきた。現在、稼働しているBL数は、共用BL26本、専用BL19本、理研BL9本、加速器診断BL2本の総計56本であり、さらに1本が調整中である。これらのBLを利用して15年間に8,000編近い論文が発表された。最近は年間800編近い論文が発表されており、この値は我が国から一年間に発表される総論文数の1%強である。また、これまでに発表された全論文の被引用数の平均値は、1編あたり16回程度と高い値を示している。このように、SPring-8の利用研究成果の主要なアウトプットである論文は量と質ともに高く、我が国の学術の進歩に貢献してきた。しかしながら、研究基盤SPring-8のさらなる進展のためには、これらの発表論文データの分析や国際的なベンチマーキングによって強みと課題を把握する必要がある。
 さて、研究者が研究を推進する動機は、学理の追求と現実の問題解決とに大別できる。学理を追求する純粋基礎研究をボーア型研究、二つを同時追求する目的基礎研究をパスツール型研究、そして応用開発研究をエジソン型研究と称しよう。被引用数上位1%の論文を産出した日米の研究者を対象とした最近の調査によれば、ボーア型研究の割合は、日本45%、米国46%と最大を占めた。パスツール型研究の割合は、米国33%そして日本15%であり、一方、エジソン型研究は、日本15%そして米国11%であった。このように、現実の問題解決を目指す研究も、高被引用度論文を生み出していることは注目してよい。最近、我が国の研究活動の活性化のためには、研究論文の量的拡大と質の向上に加えて、新興・融合領域研究やハイリスク研究を促進すべきと提言されている。新規性の高い研究やハイリスク研究は、成功すれば成果が学術的あるいは社会的・経済的に大きなアウトカムやインパクトを生み出す。したがって、被引用数の高い論文を多く産出すればそれでよしとする一面的な見方ではなく、複眼的に研究論文の分析と議論を進める必要があることは言うまでもない。
 読者の方々のご参考のために、本誌*1の記事にSPring-8利用研究者の発表論文の年間総数に加えて、論文の被引用数のデータが共用BL、専用BL、そして理研BLについて掲載してある。他機関とのベンチマークによく使用される最近11年間(2002-2012)の累積論文数、累積被引用数、平均被引用数が示してあるが、論文の平均被引用数は14.4であり、この値は東京大学や京都大学とほぼ同等である。論文の影響が被引用数に表れ、その影響度を測定できるのは発表後2年目以降と言われている。本誌においても最近の状況を知るために、2年経過した2011年発表論文のデータが示してある。平均被引用数は、2011年の4.9から2002年の32.7まで年の経過とともに増大している。このことは、影響度の大きい論文が多数発表されていることを示唆している。ご参考のために、2011年に発表された論文のなかの被引用数トップ10の論文が示してある。最近は共用BL26本を用いて年間約1,400課題の実験が実施されているが、2011年の発表論文数は約570編である。このことは、2.5課題で1編の論文が発表されたことになる。1課題で論文1編が出るよう実験シフト数を配分できればと思う。
 ここで注目していただきたいのは、BL別の論文数と被引用数である。11年間の累積論文数と累積被引用数において、また2011年においても最も高い実績値を示すトップ3の共用ビームラインは、BL01B1(XAFS), BL02B2(粉末結晶構造解析)およびBL41XU(構造生物学Ⅰ)である。BL3本の総論文数は、共用BL26本の全数の30%近くを占めている。また、BL3本の総被引用数は、共用BLの全数の50%以上を占めているのである。これらの論文分析データをBLの高度化や改廃のための議論に生かしていただきたい。BLの多様性を確保しつつ共用施設の利用効率を最大化するためにも、論文分析の結果を毎年公表して説明責任を果たしていきたいと考えている。

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*1 http://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=24399 「SPring-8 利用研究成果の論文分析 2013」参照

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794