Volume 19, No.4 Page 308
理事長室から -利用研究成果の最大化をめざして-
Message from President – To Maximize Academic and Social Impact on the Scientific and Technological Results from SPring-8 and SACLA –
登録機関JASRIの使命は、言うまでもなく、特定放射光施設SPring-8とSACLAの共用促進において公正な利用者選定業務と効果的な利用支援業務を行い、共用施設の利用研究成果を最大化して、学術の進歩とわが国の社会経済の発展に資することにある。施設の利用研究成果の最大化をめざして、最近、JASRIにおいて支援体制の改組および選定委員会において課題審査システムの見直しを行ったので、それらの概要を説明し利用者の方々のご理解を得たいと思う。
まず、本年4月にJASRIの組織において利用業務部と広報室を統合して利用推進部(木下豊彦部長)を新設して、共用推進課、利用情報課、普及啓発課の3課体制を構築した。利用者の選定と支援、利用成果情報の整備と解析、成果の普及啓発と新たな利用者の開拓からなる一連の業務を通して、利用成果の最大化をめざす観点からPDCAサイクルの実効性を高めたいと考えている。さらに、利用研究促進部門から構造生物学グループを独立させ、タンパク質結晶解析推進室(八木直人室長)を新設した。SPring-8におけるタンパク質構造解析の成果に関して、質的に優れた論文は発表されているがESRFおよびAPSに比べて発表論文の数は少なく、この分野の支援強化が必要であると判断して推進室を設置した。また、タンパク質結晶構造解析用の理研BL26B1のビームタイムを、2015A期から100%共用に供すること(従来は20%。なお、2016A期以降は共用ビームライン化を視野)について、理化学研究所の承認を得た。これにより、2015A期からタンパク質結晶構造解析のための共用に供するBLは、これまでのBL41XUとBL38B1にBL26B1が加わり、従来の理研BLにおける当該解析のための一部共用供出ビームタイム(BL26B2、BL32XUのそれぞれ20%)を含め3.4本相当の体制となる。
さて次に、2015A期からのSPring-8利用研究課題審査委員会における分科会の新設と2つの既存分科会の運用変更について述べる。産業利用分科会以外の6分科会(長期利用、生命科学、散乱・回折、XAFS・蛍光分析、分光、スマートイノベーション)においては、主に学術的あるいは科学技術的価値の観点から申請課題が審査され、最終的に利用者が選定されている。産業利用分科会では、科学技術的価値に加えて経済的価値の創造が重要な審査の視点となる。今回の変更においては、第1に、産業利用分野への一般課題の申請要件に企業研究者が加わることを必要条件とした。大学研究者は、産学連携で技術シーズの実用化をめざして研究開発を推進していただきたい。イノベーションハブとしてのSPring-8の機能強化をめざした変更である。第2に、社会・文化利用分科会を領域指定型重点研究課題の審査会として新設した。この分科会では、科学技術的価値に加えて社会的価値、公共的価値あるいは文化的価値の創造に結びつくかどうかの観点から申請課題の審査が行われることになる。想定される利用研究課題は、環境保全・除染、防災、科学捜査、食の安全、美術・芸術、文化財、考古学、食品科学、生活科学などの分野からと考えられ、SPring-8の新規利用者を開拓していきたい。第3に、生命科学分科会のタンパク質結晶構造解析分野の審査と運用の変更についてである。タンパク質結晶解析においては、結晶が得られたのちに直ちに測定を実施する必要を鑑みて、現行の運用方式を見直し、柔軟性の高い利用制度を導入した。すなわち、審査会では申請課題の優先順位のみを決定し、ビームタイムの配分は課題の優先度と必要性に基づき決めることとした。
最後に、SPring-8/SACLA成果審査委員会を選定委員会の下に位置づけ、利用成果の公表状況を選定委員会に報告することにした。平成22年10月に選定委員会から成果公開の促進に関する提言をいただき、2011B期から成果公開の利用課題においては、実施終了後3年以内に成果を論文として公表することが利用者の義務となった。この成果公開義務は、公的研究基盤の社会への説明責任の一つである。SPring-8とSACLAを利用して学術的、社会的、経済的にインパクトある研究開発成果が数多く創出されるようにさらなる努力を続けていきたい。