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Volume 19, No.2 Pages 182 - 183

5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS

2014A期 採択長期利用課題の紹介
Brief Description of Long-term Proposals Approved for 2014A

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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 2014A期は4件の長期利用課題の応募があり、1件が採択されました。採択された課題の審査結果および実験責任者による研究概要を以下に示します。

 

課題名 グリーンナノエレクトロニクスのための材料・プロセスインテグレーション
~超低消費電力次世代トランジスタ開発~
実験責任者名(所属) 宮崎 誠一(名古屋大学)
採択時の課題番号 2014A0109
ビームライン BL47XU
審査結果 採択する

 

 

[審査コメント]
 本課題は、新材料・新構造導入による超低消費電力・超高電流駆動をデバイスレベルで引き出すために、硬X線光電子分光(HAXPES)法を利用することでMISFETを構成する電子材料固有の物性の理解と異種材料界面で生じる化学反応の精密制御技術の開発を目的としており、超高性能・超大規模集積回路実現へのブレークスルーとなる重要なテーマである。本課題は、1)歪Ge系MIS構造の化学構造評価、2)Ge系MIS構造の内部電位評価と界面化学反応制御、3)高濃度不純物注入Ge層の化学状態分析、4)微細加工した高移動度チャネルの電子状態分析、5)Ge系IV族混晶材料のエネルギーバンド構造解析、の5項目を具体的なテーマとして設定している。これらは、これまでの長期利用課題で蓄積したGe系MISFETの研究を踏まえて、歪Ge系材料へと新展開するものであり、SPring-8の基盤技術を最大限に活用する研究である。
 これまでの半導体分野における産業基盤技術としての成果を踏まえた上で、明確な目標とそれを実施するための適切な研究計画並びに研究連携体制が立てられており、今後も大いに成果が期待できるので、本申請課題を長期利用課題として採択する。


[実験責任者による研究概要]
 スマートフォンやタブレット等の携帯情報端末の普及、クラウドコンピューティングやソーシャルメディアに代表される新たなICT技術の浸透・高度化に伴って、より安全で快適なネットワーク社会への進化が強く求められている。その一方で、ICT機器・インフラの拡充による消費電力の激増が大きな社会問題となっている。これを抜本的に打開するには、ICT機器の主要構成部品である大規模集積回路(LSI)の消費電力および発熱量を低減する技術の確立が急務である。とりわけ、LSIの基本素子である金属−絶縁膜−半導体電界効果トランジスタ(MISFET)の開発では、低省電力化と高性能化の両立が強く求められている。現在では、従来の幾何学的な微細化スケーリング(素子サイズの縮小)によるMISFETの性能向上は極限に達しており、材料固有の物性が性能限界を決定する主要因となっている。そこで、更なる高集積化・高性能化を図るために、新たな電子材料・技術を導入した等価的なスケーリングや立体構造トランジスタの開発・実用化が進められている。
 新材料・新構造導入による超低消費電力・高電流駆動力を最大限に引き出すためには、デバイスを構成する電子材料固有の物性の本質的な理解と、異種材料界面で生じる化学反応の精密制御技術を確立する必要がある。特に、各種候補材料に対して、薄膜や界面の化学構造をそれぞれ独立に評価するだけでなく、最終的な微細デバイスを見据えた積層構造において、ナノメートルスケールで近接する界面で生じる相互作用(酸化・還元反応や原子拡散に及ぼす影響)を明らかにすることが重要となる。極薄膜や固体表面・界面における化学結合状態評価には、光電子分光が有力な分析手法であり、特に、SPring-8における硬X線をプローブに用いた光電子分光(HAXPES)では、実際のデバイス構造に対して、非破壊でリアルな状態の化学結合状態評価が実現でき、各種微細・多層構造に対する強力な分析手法となる。
 本長期利用課題では、MISFETの低消費電力化・高性能化の要となる新規チャネル候補であるGe系半導体を主な評価対象とする。Geは、従来用いられてきたSiに比べて電子・正孔ともにバルク移動度が高いだけでなく、歪み印加による移動度向上率も高い。さらに、同IV族系材料であるSnを加えたGeSnにおいては、Γ点の小さな電子有効質量を活かした高移動度チャネル応用だけでなく、直接遷移型半導体になることから、Si集積回路に親和性の高い新しい光デバイスへ展開できる。しかしながら、デバイス応用する際、Ge系材料はSiと比較して低融点材料であるため、低温領域から生じる各種材料との界面における化学反応を抑制しなければならない。加えて、Ge系材料のMIS構造における界面エネルギーバンドアライメントや金属/半導体(MS)界面におけるショットキー障壁高さなどは未解明な点も多く、MS界面におけるフェルミレベルピニング現象はn型Geとの低抵抗オーミック接触の形成を困難にしており、その現象解明はデバイス応用上極めて重要な課題である。
 そこで、次世代の材料プロセス技術の開発に指針を与える各種物性メカニズムの解明することを目的とし、BL47XUに設置されているHAXPESを活用し、Ge系薄膜多層構造や微細構造における化学結合および電子状態の精密評価を推進する。具体的には、(1)歪Ge系MIS構造の化学構造評価、(2)Ge系MS構造の内部電位評価と界面化学反応制御、(3)高濃度不純物注入Ge層の化学状態分析、(4)微細加工した高移動度チャネルの電子状態分析、および(5)Ge系Ⅳ族混晶材料のエネルギーバンド構造解析を行う。得られる知見を体系的に整理・統合し、新世代のGe系電子・光学デバイス実現に不可欠なナノ材料・プロセスの方法論を確立することに努める。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794