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Volume 19, No.4 Pages 396 - 399

6. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM SPring-8 USERS

PSI(スイス)・SOLEIL(仏)・DESY(独)との産業利用に関する交流 -2014年度SPring-8利用推進協議会海外放射光施設調査-
Visit and Communication with PSI, SOLEIL, DESY in Industrial Utilization  – Visiting Report of Foreign SR Facilities 2014 by “Industrial User’s Society of SPring-8” –

山川 晃 YAMAKAWA Akira[1]、小金澤 智之 KOGANEZAWA Tomoyuki[2]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 常務理事 Managing Executive Director of JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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1. はじめに
 SPring-8利用推進協議会による海外放射光施設調査は1991年から実施され、特に放射光産業利用に関する意見交換を中心に海外放射光施設との交流を深めてきた。最近では、2011年度は東アジア:SINAP(中国・上海)とNSRRC(台湾)、2012年度は北米:NSLS(米国)、APS(米国)とCLS(カナダ)、2013年度は北欧:ASTRID2(デンマーク)とMAX-IV(スウェーデン)を訪問している。
 2014年度、SPring-8利用推進協議会と(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)は、2014年7月27日から8月1日にかけて欧州の放射光施設SLS(Swiss Light Source、スイス)、SOLEIL(仏)とPETRA III(Positron-Elektron Tandem Ring Anlage、独)とX線検出器メーカーDECTRIS社を対象に海外放射光施設調査を実施した。参加者はSPring-8利用推進協議会会員3社3名((株)豊田中央研究所・野中敬正氏、(株)日立製作所・南部英氏、(株)日産アーク・与儀千尋氏)とJASRI 2名(山川、小金澤)の合計5名であった。各訪問先においてSPring-8側から、SPring-8での産業利用の概要、サンビーム・豊田BL・JASRI産業利用BLの現状をプレゼンし、訪問施設側からも施設の概要と産業利用の状況について報告をいただき、産業利用の現状と促進のための施策を含めて情報交換を行った。


2. Swiss Light Source(SLS)
 SLSはスイス・チューリッヒの北西約30 kmのアーレ河畔にあるPSI(Paul Scherrer Institute)内に2000年に建設された電子の加速エネルギー2.4 GeV、周長288 mの第3世代の中型放射光施設である。PSIはスイス最大の自然科学系研究機関で、SLS以外に中性子、ミューオンを用いた研究施設が稼働している。また2016年の稼働を目標にSwissFELが建設中である。SLSには挿入光源BL9本、偏向電磁石光源BL8本の計17本のビームラインがユーザー利用中で、4本のビームラインが建設・調整中であった。各ビームラインは特定の測定手法に特化・最適化されている。
 放射光施設や実験室系X線回折装置でもおなじみとなった2次元X線検出器「PILATUS」、1次元検出器「MYTHEN」は、ここPSI・SLSで生まれた検出器である。これらの検出器は、JASRI豊川秀訓主幹研究員が中心となってSPring-8と共同開発が行われ、新しく開発した検出器はまずSLSとSPring-8に設置して実証試験をするなど、SPring-8との関係は深い。また日本企業とも関わりが強く、Siセンサーは浜松ホトニクス(株)から、高エネルギー対応のCdTeセンサーは(株)アクロラドから供給されている。PILATUSなどの検出器はPSI・SLSからスピンオフしたベンチャー企業DECTRIS社に事業移管し、DECTRIS社から販売されている。現在PSI・SLSでは後継機の「EIGER」やSwissFELに向けた積分型検出器「GOTTHARD」「JUNGFRAU」などの開発に注力している。
 SLSの運営で興味深いのがスピンオフベンチャーの育成である。前述したDECTRIS社以外にも蛋白構造解析受託企業EXPOSE社、粉末X線回折受託企業EXCELSUS社など4社あり、いずれもPSIのメンバーが異動して運営している。
 産業利用は全ビームタイムの10%を占めるが、その74%は製薬分野の蛋白構造解析が占めており、残りはX線イメージングや粉末X線回折などであった。蛋白構造解析ビームラインの建設には日本企業を含めた複数の製薬会社が出資している。測定効率が極めて高いことをアピールされていた。

[面談者]

Dr. Thierry Strässle, Chief of staff PSI

Prof. Gabriel Aeppli, Head of Synchrotron Radiation and Nanotechnology Department

Dr. Oliver Bunk, Head of Laboratory for Macromolecules and Bioimaging (LSB)

Dr. Stefan Müller, Science Coordinator Synchrotron Radiation and Nanotechnology Dep.

Prof. Jens Gobrecht, Head laboratory for Micro- and Nanotechnology(Lunchのみ)

Dr. Federica Marone, Group Leader TOMCAT Group

Dr. Daniel Grolimund, Group Leader microXAS

Dr. Benjamin Watts, Beamline Scientist X-Ray Microspectroscopy Group

Dr. Andreas Menzel, Group Leader Coherent X-ray Scattering

Dr. Bernd Schmitt, Group Leader Detectors Group

 

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Fig. 1 PSI内にある食堂OASE(オアシス)。ランチ後の集合写真。右から3人目がProf. Gabriel Aeppli。

 

 

3. DECTRIS Ltd.
 DECTRIS社はPSIがあるVilligen市よりチューリッヒ寄りのBaden市にある。前述したようにDECTRIS社はPSI・SLSが開発したX線検出器PILATUSやMYTHENを量産・販売するためにPSIからスピンオフしたベンチャー会社である。PSIでの主要開発メンバー(C. Brönnimann:PILUTUSプロジェクトのプロジェクトリーダーで現在CEO、E. F. Eikenberry、M. Näf、P. Salficky)が2006年に創業した。PSIでの検出器開発は、DECTRIS社独立の10年以上前から進められており、PSIが持つ特許をDECTRIS社にライセンス契約し、開発成果を移転した上で、出資も行っている。また、従業員にもPSIから異動した研究者が多くいる。従業員は60名に急増しており、現在の本社が手狭なため、Baden市内に移転予定である。2010年にはSwiss Econonic Awardを受賞し、新しいビジネスモデルとしても着目されている。
 DECTRIS社には放射光施設向けの検出器を扱う部署の他に実験室向けを扱う部署もあり、放射光施設以外への販売にも力を入れている印象を受けた。最近、放射光施設用のPILATUS “X”シリーズに、実験室用PILATUS “R”シリーズが商品ラインナップに加わった。これは最大フレームレートを抑え、低価格を実現した検出器である。またPILATUSの後継機EIGERの販売も始めていた。
 SPring-8から施設の現状と主なビームラインとX線検出器の利用状況を紹介した。DECTRIS社から事業および新製品開発状況の紹介の後、DECTRIS社内を見学した。工場内には「Rigaku」と印字された多くの検出器が出荷状態にあった。

[面談者]

Christian Brönnimann, Ph.D.(CEO)

Marcus Muller, Ph.D.

Stefan Brandstetter, Ph.D.

 

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Fig. 2 DECTRIS社にて。右から2人目がBrönnimann社長。

 

 

4. SYNCHROTRON SOLEIL
 SOLEILはフランス・パリの南西約20 kmにある第3世代の中型放射光施設である。電子の加速エネルギーは2.75 GeV、蓄積リングの周長は354 mで2006年に稼働を開始した。フランス国内にはESRFがEU共同施設として稼働しているが、フランス国内の増大する放射光利用ニーズに答えるため、フランス独自の放射光施設としてSOLEILが建設された。SOLEILには25本のビームラインがユーザー利用中で、4本のビームラインが建設・調整中であった。すべてのビームラインが共用ビームラインであり、いわゆる専用ビームラインに相当するビームラインはないとのことであった。2012年の年間課題申請は1,200件で課題採択率は50%弱、うち産業課題は11%である。SOLEILでは、Industrial Relation & Business Developmentを設置するなど産業利用拡大に積極的であった。成果専有や測定代行など、利用制度はSPring-8に類似するが、データ収集やデータ解釈・解析、報告書作成など、SOLEILが提供する有償サポートの選択肢は多く、サービス向上への意識は高い。長期パートナー契約などユニークな制度もある。収入は増加傾向にあり、直近では年間0.6ミリオンユーロの収入がある。産業分野は製薬が40%程度であり、残りはバイオ、コスメ、ケミカルなどが占め、フランスの産業構造を反映している。
 SOLEILではRS2E−SOLEIL(電池開発の国家プロジェクト)がスタートし、フランスの17研究機関に加え、電池材料メーカー5社、電池メーカー2社、ユーザー5社が参加している。SOLEILには専任のスタッフを配置し、電池を動作させながらその場測定用のビームライン建設・電気化学セルの開発状況について報告があった。
 ミーティングにはHead of Accelerator Physicsである長岡隆太郎氏も出席されていた。長岡氏はSPring-8の設計段階で3年ほど参加され、以降は欧州放射光施設(ELETTRA、ESRF、SOLEIL)で活躍されている。

[面談者]

Dr. Jean Daillant, Director General

Dr. Andrew Thompson, Research Director-Life Sciences

Dr. Philippe Deblay, Head of Industrial Relation & Business Development

Dr. Camile La Fontain

Dr. Ryutaro Nagaoka, Head of Accelerator Physics

 

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Fig. 3 SOLEILでのミィーティング風景。右端がDr. Jean Daillant所長。

 

 

5. PETRA III
 PETRA IIIはドイツ・ハンブルク中心部から西に約10 kmにあるDESY(Deutsches Elektronen-Synchrotron)ハンブルクキャンパス内にある。PETRA IIIは素粒子実験用の加速器HERAの前段加速器を放射光専用に改修したリングで、周長2,304 mのうち約300 mの部分に実験ホール“Max von Laue”を建設し、2010年から放射光施設として稼働している。現在14本のビームライン(すべて挿入光源)がユーザー利用中である。電子ビームのHorizontal beam emittanceの1 nm・radは、世界の6 GeV以上の大型放射光施設の中では最高性能であり、現時点で最も明るい光源と言われる。PETRA III以前はDESY内でDORIS IIIが稼働していて(2012年に運転停止)、DORIS IIIの36本のビームラインを大幅に減らして14本に厳選している。訪問時は約1年間の長期シャットダウン中で、PETRA III拡張プロジェクト(北実験ホールと東実験ホールの建設、計10本のビームラインの増設)工事中であった。
 DESY内には、VUV−軟X線領域の自由電子レーザー施設FLASHが稼働しており、5本のビームラインを共用している。さらにFLASHに隣接してFLASH IIが建設中で2015年に最初のユーザー実験を予定している。また2017年ユーザー利用開始を目標にEuropean XFELの建設工事が進んでいた。このようにDESYは素粒子物理からフォトンサイエンスにダイナミックに舵を切っている印象を受けた。PETRA III、FLASH、FLASH II建設現場、PETRA IIIビームライン増設現場、European XEFLの加速管等組立現場・進行状況を含めて丁寧に案内してもらった。いずれも活況を呈しており、ドイツの好調な経済と国力の高さ、科学技術水準などが感じられた。
 2012年にDORIS IIIの運転停止によりユーザー数を減らしたこともあり、PETRA IIIの14ビームライン、年間ユーザー利用時間5,000時間の企業利用は合計約200時間/年と多くない。利用企業はVolkswagen、Bosh、BASF、Rocheなどドイツの大企業が中心である。今後、PETRA IIIビームライン増設が行われ、産業利用拡大・利用収入増額を期待されているようであった。SPring-8の産業利用、サンビームなどの企業専用ビームラインへの関心・興味は非常に高かった。夏のハンブルクは快適なので、SPring-8の夏のシャットダウン期間は、PETRA IIIを利用してほしいとの冗談(本音?)もあった。

[面談者]

Prof. Helmut Dosch, Chairman of the Board of Directors

Mr. Christian Scherf, Director of Administration

Prof. Edgar Weckert, Director Photon Science

Dr. Hermann Franz, Co-Director Photon Science

Dr. Christian Schroer, Head of PETRA III

Dr. Oliver Seeck, Group leader PETRA III Experiments

Ms. Katja Kroschewski, Head of Technology Transfer

Dr. Frank Lehner, Head of International Cooperation

Dr. Beate Ritz, Executive Assistant to the Chair of the Board of Director

Dr. Uwe Sassenberg, Project Director Science Link

Dr. Hans-Jürgen Donath

 

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Fig. 4 DESYでの記念撮影。前列中央がProf. Helmut Dosch所長。

 

 

6. 今回の海外放射光施設調査まとめ

・PSI(SLS)、SYNCHROTRON SOLEIL、DESY(PETRA III)ともに今後の放射光利用の方向とESRFとの分担を意識し、各国の実情に合わせた施設運営を行っている。

・XFEL施設はDESY、PSIで建設が進んでいる。DESYはEUVレーザーの利用実績があり、着実に建設が進んでおり、2017年の利用開始が期待出来る。

・DECTRIS社はPSIからのスピンオフ企業で、スイスにおけるベンチャー企業の代表的成功例と思われる。対象とした製品分野、PSIのサポート、CEOの事業家精神とリーダーシップなどが成功原因であろう。

・3大放射光施設との交流・比較検討に加えて、該当する施設が日本にまだないこれら最新鋭中型施設およびPETRA IIIとの交流から示唆されるものが多い。

・いずれの施設も産業利用にも注力し、その利用比率は1割に近づいている。SPring-8がひとつの目標とされており、今後も交流を継続したい。

 

 

 

山川 晃 YAMAKAWA Akira
(公財)高輝度光科学研究センター 常務理事
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0954
e-mail : yamakawa@spring8.or.jp

 

小金澤 智之 KOGANEZAWA Tomoyuki
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 3377
e-mail : koganeza@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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