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Volume 19, No.2 Pages 118 - 128

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ報告 -SPring-8とユーザーのさらなる連携を目指して-
Joint Workshops of SPRUC Extended Research Group & SPring-8 Utilization – Toward Further Collaboration between Users and Facility –

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi[1]、熊坂 崇 KUMASAKA Takashi[2]

[1]SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ 実行委員長/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University、[2]SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ 実行副委員長/(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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はじめに
 SPring-8は、世界最高性能の高輝度X線光源として、これまでに延べ13万人を超える大学や企業のユーザーが、物理、化学、工学、物質科学、地球環境科学、生命科学、産業利用など、多様な分野にわたる利用研究を展開し、数多くの世界トップクラスの成果を挙げてきた。
 SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)は、ユーザーの意見集約やユーザーと施設との意見交換、また関連学協会と施設とのインターフェースの役割を果たし、施設の高度な利活用に貢献することを目標にSPring-8の全ユーザーを会員として2012年4月に発足した。SPRUCを支えるのはユーザーからの申請により設置された研究会活動である。研究会は、同じ研究分野や同一の計測手法を利用するユーザーが自発的に組織し、その専門性・先端性を高めるべく活動を行ってきた。
 SPRUCでは2014年4月より第2期の研究会組織をスタートさせる。新組織では、研究会組織をSPring-8の外部からもわかりやすい「生命科学」「物質基礎」「物質応用」「計測」の4分野に分類し、それぞれの分野に分野全体を見渡すことができる有識者を研究会顧問として設置する。研究会顧問が分野内の各研究会活動に助言し導くことで、研究会が属する分野でのSPring-8の高度化・将来計画の意見を集約し、新しい利用研究を創成する。また、研究会の活動と各BLで展開される研究分野との構成を明確化するとともに、時限付の分野融合研究グループの設置により、施設高度化に対する意見をより明確に提案することを目指している。
 第2期SPRUC研究会を発足するに先立ち、SPRUC利用委員会とSPRUC研究会組織検討作業部会が議論を重ね、既存のSPRUC研究会を「生命科学」「物質基礎」「物質応用」「計測」の4分野に分類した「SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ」を企画した。SPRUC研究会組織検討作業部会員をつとめる有識者による助言と、分野ごとの企画・プログラム作成により、研究会毎の専門性・先端性を研究会間で共有し、4分野でのSPring-8の高度化・将来計画をユーザー視点でデザインし、施設への要望-高度化の効率的なサイクルの構築を目指した。
 この報告では、全体会合についての報告を述べた後、4分野のパラレルセッションの報告を記すこととする。全体会合の報告はSPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ実行委員長、副委員長により作成された。各分野の報告は分野の代表者によって作成されたものを実行委員長、副委員長にて取りまとめた。分野の代表者の方々に感謝を申し上げる。


全体会合
 初日に普及棟大講堂で行われたオープニングセッションでは、雨宮SPRUC会長から冒頭の挨拶および本拡大研究会・ワークショップ開催の趣意説明が行われ、それに続き、土肥JASRI理事長から挨拶およびSPring-8から発信された成果報告の最近の動向について説明された。次に、中川SPRUC利用委員長からSPRUC組織の現状の問題点と来期から開始する新組織についてスライド資料による説明が行われた。その後、参加者は「生命科学」「物質基礎」「物質応用」「計測」の4分野に分かれて、セッションを開始した。
 2日午前のセッション終了後、参加者が普及棟大講堂に戻り全体総合討論が行われた。拡大研究会・SPring-8ユーザーワークショップの4セッションについて、SPRUC研究会検討作業部会員をつとめる有識者による総括報告が行われた。その後、SPRUCの新しい研究会組織および今後のSPRUCとSPring-8施設との連携のあり方について意見が交わされた。詳細な内容についてはSPRUCのWebページ(http://www.spring8.or.jp/ext/ja/spruc/pdf/SPRUC20140201-2.pdf)にて公開されているため興味のある方は参照いただきたい。
 最後に雨宮SPRUC会長より、SPring-8ワークショップと合同で開催した今回の研究会は試行的なものだったが、SPring-8の成果をいかにして最大化するかという意識をもって研究会の垣根を越えてリシャッフルすれば新しい刺激となるはずであり、これからも今回のような交流の機会が必要と感じている。今後も今回のようなワークショップを継続して開催していきたいと考えているので皆さんの積極的な参加を期待する。と締めくくられ閉会となった。

 

 

SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ プログラム
【1日目 2014年2月1日(土)】
オープニングセッション(会場:普及棟大講堂)
13:15-13:55 オープニングセッション(全体会合)
来年度のSPRUC研究会組織の概要説明等
14:00- パラレルセッション(各分野毎、プログラムは報告の後に記載)
18:30-19:30 合同懇親会(構内食堂)

 

【2日目 2014年2月2日(日)】
全体総合討論(会場:普及棟大講堂)
13:00-14:00 BLの高度化やSPring-8次期計画に関する議論など
14:00 閉会

 

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全体会合の様子1

 

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全体会合の様子2

 

 

生命科学分野
 生体分子の構造を解明することで生命現象を原子レベルで理解する構造生命科学は飛躍的な発展を遂げてきた。しかし、分子の離散・集合やダイナミックな構造変化によって引き起こされる生命現象を理解し応用につなげていくには、精密な構造データに加えて動態解析などの高度な放射光利用が求められている。また、放射光を利用した細胞や組織レベルでのイメージング手法は生体の高次機能解明のために進展しており、今後は医学利用分野との連携も期待されている。本セッションでは、SPring-8の生命科学利用を従来の領域を超えてシームレスな統合生命科学研究へと進展させる観点から、「マイクロ・ナノイメージングと生体機能研究会」、「小角散乱研究会」、「放射光構造生物研究会」が中心となって関連研究者が一同に会して議論を行った。合計14件の発表があり、生体高分子のX線小角散乱・X線結晶構造解析・放射光を利用した生体イメージングや医学利用基礎研究などに関するものであった。講演では、解析ターゲットがタンパク質の分子構造から細胞、組織さらに個体レベルのイメージングにまでおよんでおり、オングストロームからマイクロメートル領域の広いスケールに渡る様々な手法を用いている。
 セッション1「放射光を利用したタンパク質構造研究の最前線」では、溶液散乱と結晶構造の最新の成果が報告された。明石知子氏(横浜市大)は一定の構造をとらない領域(IDR)を有するタンパク質複合体について、イオンモビリティ質量分析で得られるデータを基に、SAXSやMD simulationを組み合わせることで、構造に関する特性解析ができることを示した。上久保裕生氏(奈良先端大)は溶液散乱が動的秩序の形成における多成分平衡系の解析に有用である例を示し、弱い相互作用の検出のための装置開発についての紹介もあった。塚崎智也氏(奈良先端大)の発表では、細菌型Secトランスロコン複合体は解析困難な膜タンパク質であるにも関わらず、結晶構造からその複雑な作動原理について詳細なメカニズムの解析を報告した。角田佳充氏(九大)は硫酸転移酵素の活性中心の構造から硫酸転移反応メカニズムおよび基質ペプチド認識機構の考察を詳細におこなった。質疑では複数の単結晶ビームラインをどのような観点で使い分けているのかなどの議論がなされた。
 セッション2「放射光イメージングの新展開と生命科学分野の連携を目指して」では、水谷隆太氏(東海大)によってヒト大脳神経回路のイメージング解析についての最新の解析例の報告があった。神経回路の配線図を明らかにする上で有用な知見となるであろう。また、イメージング技術を利用したタンパク質単結晶への応用の紹介もあった。峰雪芳宣氏(兵庫県大)はマイクロCT法によるミヤコグサ種子におけるシュウ酸カルシウム結晶の形成メカニズムや細胞間隙の発達過程の解析結果を報告した。近藤威氏(新須磨病院)はSPring-8でのメディカルバイオ・トライアルユースでの動物実験例などをもとに、マイクロビーム照射後の正常脳および脳腫瘍に対する組織損傷および再生効果の解析の報告が行われた。臨床医の視点からのがん治療を指向した放射線利用の歴史的な経緯と今後の展望についての講演であり、本セッションにおいても異色を放って印象深いものであった。
 セッション3「細胞ダイナミクスと新しい放射光利用技術」では、八田公平氏(兵庫県大)は、高速ライブ動画解析よってゼブラフィッシュとメダカの咽頭歯の立体構造と機能を初めてあきらかにした例などが紹介された。松尾光一氏(慶應大)からは、X線タルボ干渉計による骨の石灰化・脱石灰化のメカニズムについて、イメージング解析と分子生物学的な解析による最新の報告があった。小田隆氏(横浜市大)は、マルチドメインタンパク質などが機能している動的構造を求める方法としてX線小角散乱法の有用性を示した。井上倫太郎氏(京大)はX線小角散乱や中性子散乱といった方法を有効活用し、それぞれの特長を活かした相補的な活用で高度な物質構造の解析や評価が可能となることを示した。ビームライン施設からの新しい技術として、熊坂崇氏(JASRI)からは結晶の保持方法や常温測定に関する技術開発や、平田邦夫氏(理研)による微小結晶対応などの技術開発に関する報告が行われた。難度の高いサンプルの構造解析に対応するために、このようなビームラインおよびその周辺技術の整備が今後一層必要とされると考えられる。
 以上の生命科学分野の放射光利用では、単結晶・溶液・個体レベルでの構造解析などにおいて共通した課題としてX線損傷と検出装置の性能があげられる。この2つは密接に関わっており、検出器の感度などの性能が向上すれば、照射X線量も低減できる可能性がある。ただし、解析ターゲットの階層によってX線損傷の問題の取扱い方には違いがある。特に、がん治療においてはむしろ損傷を利用しているという特徴をもつ。生物を対象とする以上、タンパク質から細胞、組織さらに個体レベルまでおよぶ広いスケールでの構造を解明し、最終的にその複雑な仕組みを解き明かすことが求められる。複数の研究会の連携は、このマルチスケールな視点を改めて意識する上で有意義であった。一方、細胞内小器官あるいはそれ以下のレベルの観察は今回の3つの研究会ではカバーしきれていない部分である。このため、イメージングと分子の間に方法論的にも隔たりがある。SACLAでも研究が進められているこの境の領域とうまく連携していく必要があろう。次世代放射光への期待としては、より精密な解析や上位の階層の構造に加えて時間軸を含む解析への挑戦などが一層重要になっていくと考えられる。

 

 

生命科学分野プログラム
会場:SACLA大会議室
【1日目 2014年2月1日(土)】
14:10-14:20 開会の挨拶
栗栖 源嗣(阪大)/伊藤 敦(東海大)

 

セッション1:放射光を利用したタンパク質構造研究の最前線
座長:杉山 正明(京大)
14:20-14:45 「MSとSAXSを組み合わせたタンパク質の解析」
明石 知子(横浜市大)
14:45-15:10 「溶液散乱を用いた多成分平衡系における構造解析」
上久保 裕生(奈良先端大)
15:10-15:35 「Sec膜タンパク質複合体の結晶構造解析」
塚崎 智也(奈良先端大)
15:35-16:00 「硫酸転移反応の構造基盤」
角田 佳充(九大)

 

セッション2:放射光イメージングの新展開と生命科学分野の連携を目指して
座長:伊藤 敦(東海大)
16:15-16:40 「X線マイクロトモグラフィ法によるヒト大脳神経回路の解析」
水谷 隆太(東海大)
16:40-17:05 「種子保存と育苗改良のためのマイクロCT細胞・空間ジオメトリー法の開発をめざして」
*峰雪 芳宣、山内 大輔(兵庫県大)、唐原 一郎(富山大)
17:05-17:30 「MicroangiographyからMicrobeam irradiation:臨床医としての10年の研究」
近藤 威(新須磨病院)

 

【2日目 2014年2月2日(日)】
セッション3:細胞ダイナミクスと新しい放射光利用技術
座長:栗栖 源嗣(阪大)
 9:00- 9:25 「極限環境耐性動物クマムシ内部構造のシンクロトロン放射光によるmCT解析」
*八田 公平(兵庫県大)、池永 隆徳(鹿児島大)
 9:25- 9:55 「X線タルボ干渉計による骨の石灰化・脱石灰化の解析」
*松尾 光一(慶應大)、南郷 脩史(ラトック)、百生 敦(東北大)
 9:55-10:20 「高精度回折測定のための結晶ハンドリング法開発」
熊坂 崇(JASRI)
10:20-10:45 「タンパク質微小結晶からの回折データ収集技術の現状と展望」
平田 邦生(理研)
10:55-11:20 「揺らいだ構造を持つタンパク質のX線小角散乱解析」
小田 隆(横浜市大)
11:20-11:55 「X線・中性子線散乱による生体関連物質の静的・動的構造解析」
井上 倫太郎(京大)
以上     

 

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生命科学分野

 

 

物質基礎分野
 物質基礎分野では、先端計測を駆使して物質の機能を解明する凝縮系物理学を中心とした研究者の最先端の研究発表を通じてSPring-8の物質基礎研究における今後の利活用について議論することを目的に、「原子分解能ホログラフィー研究会」、「表面界面・薄膜ナノ構造研究会」、「キラル磁性・マルチフェロイックス研究会」、「機能磁性材料分光研究会」、「スピン・電子運動量密度研究会」、「構造物性研究会」、「固体分光研究会」、「不規則系物質先端科学研究会」、「高圧物質科学研究会」、「理論研究会」の10研究会が参加し、すべての研究会からの発表と討論が行われた。物質基礎分野では全体会合と同じ会場で会議が進められた。分野を取りまとめる有馬孝尚氏(東大)より、プログラムを示しながら分野ワークショップの概要が説明され研究会が開始された。
 セッション1「手法開発」では、若林裕助氏(阪大)により表面X線回折を有機分子数層分の構造解析について報告があった。ルブレン、テトラセン構造緩和やイオン液体電気二重層構造の電圧依存性についての報告があり、深さ方向の情報の抽出が課題との意見があった。大和田謙二氏(JAEA)はリラクサー強誘電体におけるコヒーレントX線散乱実験の現状について報告し、測定・解析法共に開発・改良が必須の状況にあることが示された。林好一氏(東北大)は蛍光X線ホログラフィーによる中距離局所構造とリラクサー誘電体への適用について報告した。大門寛氏(奈良先端大)は顕微二次元光電子分光器の開発とともに研究会関連ビームラインおよび研究プロジェクトの紹介を行った。松井文彦氏(奈良先端大)は光電子回折・ホログラフィーを手法のデモを含めて講演した。吹留博一氏(東北大)はグラフェン・トランジスタについてBL17SUにおけるオペランド光電子顕微鏡観察を報告した。
 セッション2「構造物性研究」では、主に研究成果の発表が行われた。中村将志氏(千葉大)は、固体表面、固体液体界面の吸着構造解析の現状について手法も交えながら報告し光源の高度化に対する要望を述べた。大坪主弥氏(京大)はSPring-8での研究が活発な多孔性配位高分子のナノ薄膜の研究について発表した。町田晃彦氏(JAEA)は、自身が代表を務める光・量子融合連携プログラムについて報告した。高木成幸氏(東北大)は第一原理計算を使った新規水素化物の高温高圧合成の研究、太田健二氏(阪大)はダイヤモンドアンビルとレーザー加熱を使った金属流体水素の研究を報告した。曽田一雄氏(名大)は高温超高圧下合成Nb水素化物およびRu窒化物の電子構造と化学状態についてHAXPES、SXPESの結果を報告した。
 セッション3「磁性研究」では、理論と実験両面からの報告があったのが印象的であった。岸根順一郎氏(放送大)はキラルスピンテクスチャーと伝導電子の結合について理論家の立場からSPring-8への期待について述べた。大隅寛幸氏(理研)はマイクロビームと円偏光共鳴X線回折を駆使したキラリティドメインのX線顕微観察を示し、SPring-8の計測技術を集結させた発表であった。筒井健二氏(JAEA)は非弾性X線散乱の理論について報告した。特にまだ実験報告のない非共鳴非弾性X線散乱(NIXS)によるスピン励起、軌道励起の観測について議論された。米田仁紀氏(電通大)からは高エネルギー密度科学状態研究におけるX線プローブの役割について全体の概略を含めた話がなされた。
 セッション4の「電子状態、励起状態」では、研究成果中心の報告が数多く見られた。藤原秀紀氏(阪大)は軟X線ARPESによるLAO/STO界面の研究や、Ti L3 edgeでの共鳴ARPESについて報告した。現状ではシグナルが小さく、高輝度化によってもっと分解能を上げて測定できるようになるが、あまり光が強いとキャリアが誘起されてしまうという他の研究では見られない視点での意見があった。松田和博氏(京大)はコンプトン散乱による超臨界アルカリ金属流体の電子状態観測について報告した。測定時間がかかりすぎることを強調していた。Alfred Baron氏(理研)は、1-10 meV分解能のHigh resolution IXSについて強相関電子系や誘電体酸化物のフォノン測定や高圧下でのフォノン測定について報告した。細川伸也氏(熊本大)はX線非弾性散乱を利用した非晶質物質のダイナミクス研究について経緯や背景を含めて示した。寺崎一郎氏(名大)は、分子導体の電子相転移の赤外顕微分光観測の研究を報告した。
 物質基礎分野は多様性があり科学的に興味深いだけでなく、社会とのつながりも深い分野であることを改めて感じた。全体では放射光を使った新しい発見が多数みられた。一方で、発表では研究のねらいと位置づけ、そこにある課題を明確に指摘されていない発表もあり、「貴重なビームタイムだということを自覚して科学研究をやってもらいたい。」との意見もみられた。各研究会は、研究ターゲットを絞り込み、SPring-8を使った研究成果の社会的・国際的なインパクトについて議論すべき状況に来ている。今後の分野融合は各研究会が切磋琢磨してコラボレーションを展開していくべきであろう。

 

 

物質基礎分野プログラム
会場:普及棟大講堂
【1日目 2014年2月1日(土)】
13:55-14:00 開会の挨拶
有馬 孝尚(東大)

 

セッション1:手法開発
座長:原田 慈久(東大)
14:00-14:20 「有機デバイスの高度化を目指した深さ分解構造解析」
若林 裕助(阪大)
14:20-14:40 「リラクサー強誘電体におけるコヒーレントX線散乱実験」
大和田 謙二(JAEA)
14:40-15:00 「蛍光X線ホログラフィーで観る原子レベルの局所格子歪み」
林 好一(東北大)
15:00-15:20 「顕微二次元光電子分光器の開発」
大門 寛(奈良先端大)
15:20-15:40 「グラファイト・グラフェンの光電子回折・ホログラフィー」
松井 文彦(奈良先端大)
15:45-16:05 「グラフェン・トランジスタの電子状態のオペランド光電子顕微鏡観察」
吹留 博一(東北大)

 

セッション2:構造物性研究
座長:若林 裕助(阪大)
16:20-16:40 「固体表面、固体液体界面の吸着構造」
中村 将志(千葉大)
16:40-17:00 「放射光回折で明らかにした多孔性配位高分子ナノ薄膜の構造と機能」
大坪 主弥(京大)
17:00-17:20 「放射光X線・中性子回折の相補利用による金属水素化物の高圧力下構造研究」
町田 晃彦(JAEA)
17:20-17:40 「新規水素化物の高温高圧合成」
高木 成幸(東北大)
17:40-18:00 「金属流体水素の生成と観測」
太田 健二(阪大)
18:00-18:20 「高温超高圧下合成Nb水素化物およびRu窒化物の電子構造と化学状態」
曽田 一雄(名大)

 

【2日目 2014年2月2日(日)】
セッション3:磁性研究
座長:有馬 孝尚(東大)
 8:30- 8:50 「キラルスピンテクスチャーと伝導電子の結合」
岸根 順一郎(放送大)
 8:50- 9:10 「キラリティドメインの放射光X線顕微観察」
大隅 寛幸(理研)
 9:10- 9:30 「鉄系超伝導体母物質における非弾性X線散乱の理論的研究」
筒井 健二(JAEA)
 9:30- 9:50 「高エネルギー密度科学状態研究におけるX線プローブの役割」
米田 仁紀(電通大)

 

セッション4:電子状態、励起状態
座長:木村 昭夫(広島大)
10:20-10:40 「軟X線角度分解光電子分光による酸化物ヘテロ接合界面の電子状態観測」
藤原 秀紀(阪大)
10:40-11:00 「超臨界アルカリ金属流体の電子状態観測」
松田 和博(京大)
11:00-11:20 "High resolution IXS"
Alfred Baron(理研)
11:20-11:40 「X線非弾性散乱による非晶質物質のダイナミクス」
細川 伸也(熊本大)
11:40-12:00 「赤外顕微分光で見る電子相の不均一」
寺崎 一郎(名大)
以上     

 

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物質基礎分野

 

 

物質応用分野
 物質応用分野では、「実用」グループの核になるであろう研究会の研究発表を通じ、活動を融合化するとともに、そのグループ形成について議論し、とくに、その形成において重要となる産業界ユーザーグループの枠組に関しても議論することを目的とした。「結晶化学研究会」、「ソフト界面科学研究会」、「高分子科学研究会」、「高分子薄膜・表面研究会」、「残留応力と強度評価研究会」、「機能性材料ナノスケール原子相関研究会」、「放射光人材育成研究会」、「文化財研究会」、「地球惑星科学研究会」が、応用分野にカテゴライズされた。今回、「結晶化学研究会」、「ソフト界面科学研究会」、「高分子薄膜・表面研究会」、「機能性材料ナノスケール原子相関研究会」、「地球惑星科学研究会」に加え、「表面界面・薄膜ナノ構造研究会」から推薦された講師の先生からのご講演が1日目にあり、企業からの講師のご講演が2日目にあった。それに続き、全参加者によって、産業界ユーザーグループの枠組み形成の議論と、高度化に関する応用分野全体の総合討論が別個に活発に行われた。
 各講演については、内容が盛りだくさんの興味ある内容であったが、そのうちのいくつかについて報告する。種々のナノサイズ合金のバンドフィリング制御により、水素吸蔵特性が制御できたことが小林浩和氏(京大)から紹介された。元素戦略の観点から今後の進展を期待した。13個のAuが形作る正20面体の超原子が点や面などで共有した2量体の超分子構造と、その光学活性について佃達哉氏(東大)が報告された。実用的な機能探索がこれから進展されるであろうと思い、楽しみな研究と感じられた。増野敦信氏(東大)は、これまで形成できなかった元素を組み合わせた新しい超高屈折率ガラスを、無容器法により作成することに成功した研究を紹介された。その成果は短期間で製品化につながると期待された。
 企業からの発表はどれも大変興味深く、SPring-8がこんなに社会に役立っているのかと改めて感じ入った。余談かもしれないが、企業人は会社内で成果をどのようにアピールするかに苦労されていることを漏らされている方もあり、改めて評価の多様性を認識した。
 産業界のユーザーグループの枠組み形成については、各企業の抱える共通なニーズに対する要望や課題・技術的な困難を解決するために、施設に直接発信、対話することを主目的とした新たな企業利用研究会(案)が提案された。SPRUCにおける企業人の意見・要望が直接的に見えるようにできる可能性はある。しかし、実際にどう進めるのか、あるいは、研究会形式でまとめるよりも、横串のビームライン毎に要望をまとめる方がいいのではないか、などの意見もあった。この研究会の形成に向けてさらに議論を続ける必要性を感じた。
 施設への高度化に関する要望については、 各講演者や企業の独自の要望ではなく、共通要素を抽出した。利用申請、測定、データの解析に至る全体のシステムとして、よりユーザーフレンドリー化するための要望について集中して議論された。今回は、時間の都合であまり議論ができなかったSPring-8 IIに向けたX線源などのトピックスについては、引き続き検討を続けることになった。

 

 

物質応用分野プログラム
会場:普及棟中講堂
【1日目 2014年2月1日(土)】
14:00-14:05 開会の挨拶
巽 修平(川崎重工業)

 

座長:小澤 芳樹(兵庫県大)
14:05-14:25 「メタル化アミノ酸およびペプチド超分子構造解析 ~SPring-8での成果を中心に」
高谷 光(京大)
14:25-14:45 「新規固溶ナノ合金および多孔性金属錯体複合物質の作製と機能探索」
小林 浩和(京大)

 

座長:小原 真司(JASRI)
14:45-15:05 「超原子および超原子分子の創製と構造評価」
佃 達哉(東大)
15:05-15:25 「無容器法により合成した機能性酸化物ガラスの構造と物性の相関」
増野 敦信(東大)

 

座長:芳野 極(岡山大)
15:45-16:05 「液体合金の密度と音速測定」
寺崎 英紀(阪大)
16:05-16:25 「高温高圧変形その場観察実験によるhcp Feの格子選択配向の研究」
西原 遊(愛媛大)

 

座長:坂田 修身(NIMS)
16:25-16:45 「放射光時間分解回折で明らかにした強誘電体薄膜の外場応答」
舟窪 浩(東京工大)

 

座長:飯村 兼一(宇都宮大)
16:45-17:05 「塩を含む混合溶液系で見られる新しい秩序構造 ~SPring-8での成果を中心に」
貞包 浩一朗(立命館大)

 

座長:高原 淳(九大)
17:05-17:25 「フィルム形成過程のSAXS/WAXD同時測定」
宮崎 司(日東電工)
17:25-17:45 「オリゴウレタンおよびポリウレタン薄膜のミクロドメイン構造の膜厚依存性」
*小椎尾 謙、小松 拓也、本九町 卓、吉永 耕二(長崎大)

 

【2日目 2014年2月2日(日)】
 9:00- 9:05 挨拶
佐野 則道(JASRI)

 

座長:渡辺 義夫(あいちSR)
 9:05- 9:25 「プロセスのその場観察からわかること:水熱反応過程を中心に」
松野 信也(旭化成)
 9:25- 9:45 「化粧品・香粧品開発のためのSPring-8放射光利用研究」
久米 卓志(花王)
 9:45-10:05 「特定保健用食品『POs-Ca』ガムの研究開発」
田中 智子(江崎グリコ)
10:05-10:25 「レーザーピーニングによる金属材料の高機能化とSPring-8による評価」
佐野 雄二(東芝)
10:25-10:45 「タイヤ用ゴムの構造とダイナミクス研究」
岸本 浩通(住友ゴム工業)
11:00-11:30 実用的な観点からの放射光利用技術の向上とそのための産業界ユーザーグループの枠組の形成
司会:佐野 則道(JASRI)
11:30-12:00 総合討論(BLの高度化やSPring-8次期計画に関する議論など)
司会:高原 淳(九大)
以上     

 

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物質応用分野

 

 

計測分野
 計測分野は、計測手法・計測対象が多岐にわたり、日常から密接な議論をする機会が少ないユーザーが参加する。一方、マルチ計測による物質や現象の理解の深化など、連携によるブレイクスルーも期待できる。計測分野では、「X線マイクロナノトモグラフィー研究会」、「X線トポグラフィ研究会」、「X線スペクトロスコピー利用研究会」、「放射光赤外研究会」、「核共鳴散乱研究会」、「物質における高エネルギーX線分光研究会」、「軟X線光化学研究会」の7研究会がアサインされ、X線スペクトロスコピー利用研究会を除く研究会からの発表と討論が行われた。
 計測分野の冒頭、世話人の水木純一郎氏(関学大)より、ワークショップの目的として、1)研究会活動融合(研究会連携)の議論、2)産業界の参画(産学連携)に向けた議論、3)分野としての施設への意見(高度化・次期計画)、4)研究会融合による研究グループ案の提案が示され活発な議論が促された。
 セッション1「放射光先端分光の開発と物質評価への応用1」では、メスバウアー分光、精密X線蛍光分光の最新情報が示された。三井隆也氏(JAEA)は、エネルギー領域測定法とその手法を用いた高圧力下試料、薄膜試料への応用例を示した。また、円偏光を利用した選択的測定例を示した。増田亮氏(京大)は、内部転換電子を用いたメスバウアー分光測定の原理とその計測効率向上のための装置開発を紹介した。S/N比向上による実材料でのスペクトル測定例も示された。この新しい計測法は、従来のFe核に限らず、多くのメスバウアー核に適応可能な手法であり、広い研究領域への発展が期待できるものである。伊藤嘉昭氏(京大)は、精密な蛍光X線スペクトル測定のための分光器開発と開発した分光器を用いた測定例を示した。いずれも、計測機器開発として興味深いものであったが、今後、計測技術の物質・材料への応用を如何に広げていくかが議論となった。
 セッション2「放射光先端分光の開発と物質評価への応用2」では、XFELを利用した最先端分光研究が紹介された。James Harries氏(JAEA)は、軟X線レーザー光源SCSSを用いたsuperfluorescenceの観察について述べた。superfluorescenceとは、波長内に原子が2個以上あるような条件で一斉に原子が励起された場合に、励起原子間の協同現象によって生じる蛍光である。原子間平均距離を変えることによる崩壊ダイナミクスの変化が報告されているが、理論との完全な一致は得られていない。SCSSやSACLAを用いることにより、このような興味深い量子光学実験が可能となり、多くの研究者の興味を集めている。永谷清信氏(京大)は、SACLAと多元分光装置を用いた原子・分子物理学の最先端研究を紹介した。X線パルスの照射により、(1)キセノン原子では一原子でのX線多光子吸収と多価イオン形成が認められた。(2)ヨウ素を付加した分子では、ヨウ素原子上での多電荷形成と、それに伴う分子内電荷移動についての情報が得られ、クーロン爆発が確認された。(3)金クラスターでは、XFEL照射で生成した多数のイオンと電子によるナノプラズマ形成が見られた。XFELの高輝度パルスX線は原子・分子の励起状態の研究に欠かせないツールとなり、新たな研究領域が開けつつあることが実感された。
 セッション3「放射光先端計測による放射光活用」では、研究会活性化と施設との連携による研究推進加速についてのコメントと討論が行われた。冒頭、松下智裕氏(JASRI)より、SPring-8における制御・情報環境の概要と整備計画、将来展望が示された。壽榮松氏より、ユーザーと施設の連携によるその場多重計測システムの開発例が示され、今後、利用目的に最適化した計測技術の開発をユーザーと施設との連携でプロジェクト化し推進することが提案された。
 セッション4「放射光分光計測による物質・材料評価」では、赤外分光、蛍光分光による材料評価の研究成果が報告された。池本夕佳氏(JASRI)は放射光源を利用した赤外分光測定の特長を示し、最近の研究成果例を示した。村上大樹氏(JST-ERATO、九大)は、放射光赤外分光測定の応用例として、顕微測定で初めて観測が可能となった高分子電解質ブラシの親水性表面の濡れ性に関する測定結果とその解釈を示した。福島整氏(NIMS)は、精密な蛍光X線スペクトル測定の茶葉への応用例を紹介し、その有効性を示した。セッションの議論で、先端計測技術は、利用者のニーズをよく踏まえ、適切なコーディネーションを行うことで利用研究の質と量の向上がなされることが共有された。
 セッション5「放射光イメージングによる物質・材料評価」では、様々なイメージング法による材料評価の例が報告された。梶原堅太郎氏(JASRI)は、白色X線回折イメージングによる新しいトモグラフィー法を紹介した。この手法の特徴は、従来の単結晶を対象としたトモグラフィーとは異なり、多結晶試料における結晶粒界分布、格子ひずみ、応力など、実用材料の評価が可能であり、産業界への発展が期待できる。小林正和氏(豊橋技科大)は、X線CTによる構造材料評価に関して多くの応用例を示し、産業界への更なる発展が期待される。上椙真之氏(JAXA)は、X線CTによるイトカワ試料の解析結果とはやぶさ2で期待される有機物を含有した鉱物試料の解析方法の開発の必要性を示した。本セッションで議論された実用金属材料のイメージング技術は、産業への展開が必要な技術であり、専用のビームラインの設置も視野に入れた、更なる活用が行われるべきとの意見があった。
 セッション6「セッション討論」では、冒頭、産業界からの研究会、施設への期待が示された後、今後のユーザーと施設の連携について議論された。産業界の要望として、成熟した計測技術に関しては、スループット効率化やその場観察などへの要求があり、実験基盤技術の開発・整備、ユーザビリティの向上が第一に挙げられた。また、先端技術に関してはアクセスが困難であるため、ニーズとシーズの融合の場の提供が要望としてあげられた。SPring-8の更なる活用に関しては、施設側からの技術情報の発信・周知の機会の必要性が示された。計測分野としては、検出器の整備も必要であり、検出器にかかわる研究会の設置も重要であるとの見解が示された。次期計画に関しては、光源特性に合わせた研究計画ではなく、研究計画にあわせて光源特性への要求を出してほしいとの施設側からの要望があった。さらに、次期計画に関しては、単なる現在の延長ではなく、新しい展開を生み出す研究計画、利用方法の提案が重要であることも示された。
 計測分野の研究会の技術開発、計測応用は高いレベルにあるが、その活用をさらに広げるコーディネーションの重要性が明らかになった。この際、施設側からの情報発信、周知や利用相談、技術協力などが必要であり、ユーザーと施設側の協力によるプロジェクト型研究の推進へ発展させることが重要であるとの認識を共有した。今後のSPRUC研究会活動やユーザーの連携、ユーザーと施設側の連携を活性化して、上記を実現するアクションを行うべき時期が来ている。

 

 

計測分野プログラム
会場:中央管理棟上坪講堂
【1日目 2014年2月1日(土)】
14:00-14:10 計測分野の開会挨拶・研究会の在り方と連携について

 

セッション1:放射光先端分光の開発と物質評価への応用1
座長:水木 純一郎(関学大)
14:10-14:35 「核モノクロメーターを用いた先進的放射光メスバウアー分光法の現状と展望」
三井 隆也(JAEA)
14:35-15:00 「内部転換電子用検出器を用いた放射光メスバウアー測定法の計数改善」
増田 亮(京大)
15:00-15:25 「X線スペクトルのサテライトの起因 -第3世代放射光と高分解能X線分光器を用いて-」
伊藤 嘉昭(京大)

 

セッション2:放射光先端分光の開発と物質評価への応用2
座長:壽榮松 宏仁
15:45-16:10
「SCSSにおけるヘリウムガスの超蛍光の観測」
James Harries(JAEA)
16:10-16:35 「SACLAのフェムト秒XFELパルスによる原子・分子・クラスターの多光子吸収ダイナミクス」
永谷 清信(京大)

 

セッション3:放射光先端計測による放射光活用
座長:壽榮松 宏仁
16:35-17:10 研究会活性化と施設との連携による研究推進加速についてのコメントと討論

 

【2日目 2014年2月2日(日)】
セッション4:放射光分光計測による物質・材料評価
座長:藤原 明比古(JASRI)
 9:00- 9:25 「高輝度赤外放射光を利用した研究成果」
池本 夕佳(JASRI)
 9:25- 9:50
「高分子電解質ブラシ表面の液体濡れ性に関する赤外分光測定」
村上 大樹(JST-ERATO高原プロジェクト、九大)
 9:50-10:15
「高分解能特性X線分光の状態分析への応用」
福島 整(NIMS)

 

セッション5:放射光イメージングによる物質・材料評価
座長:八木 直人(JASRI)
10:30-10:55 「白色X線回折イメージング」
梶原 堅太郎(JASRI)
10:55-11:20 「高輝度放射光を使ったX線CTによる構造材料評価の応用例」
小林 正和(豊橋技科大)
11:20-11:45 「はやぶさ帰還試料の放射光分析と、はやぶさ2に向けての新規手法開発」
上椙 真之(JAXA)

 

セッション6:セッション討論
オーガナイザー:壽榮松 宏仁
11:45-12:10 計測分野総合討論
以上     

 

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計測分野会場

 

 

 

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi
大阪大学 蛋白質研究所
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-2
TEL : 06-6879-4313
e-mail : atsushi@protein.oaska-u.ac.jp

 

熊坂 崇 KUMASAKA Takashi
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2718
e-mail : kumasaka@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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