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Volume 19, No.3 Pages 241 - 243

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第14回SPring-8夏の学校を終えて
The 14th SPring-8 Summer School

八木 直人 YAGI Naoto

SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 SPring-8 Summer School Executive Committee, Chair

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 「第14回SPring-8夏の学校」は、7月6日(日)~9日(水)の3泊4日の日程で、全国から76人の学生の参加を得て、放射光普及棟およびSPring-8蓄積リング棟・ニュースバル実験研究棟・SACLA実験研究棟を会場として開校されました。この夏の学校は、SPring-8サイトに施設を持つ各機関((公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)、(独)理化学研究所、(独)日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門(JAEA))と、これらの機関と連携大学院協定を持つ大学(兵庫県立大学大学院物質理学研究科・生命理学研究科、関西学院大学大学院理工学研究科、岡山大学、北陸先端科学技術大学院大学)、およびSPring-8サイトにビームラインを持ちそこで教育を行っている大学(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所、東京大学放射光連携研究機構)が主催して、ビームタイムや教官を供出し合って行ったものです。校長は東京大学大学院新領域創成科学研究科の雨宮慶幸先生(東京大学放射光連携研究機構・機構長)にお願いしました。実行委員会は主催団体のスタッフで構成され、事務局はJASRI研究調整部が行いました。
 この夏の学校の開校目的は、「将来の放射光利用研究者の発掘と育成」であり、主として大学院博士課程前期(修士)と学部4年生を対象としています。募集人員は64人程度でしたが、主催各大学からの推薦も含めて100人以上の応募がありました。そのため実習ビームラインを急遽1本追加して17本としましたが、それでも参加希望者のうち学部4年生の多くは参加できないことになりました。その後参加者の都合でキャンセルもあり、最終的に史上最高(2011年と同数)の76人の参加者で開催されました。参加者は北海道から九州までの様々な大学から来ています。
 夏の学校では通例として、初日に3講座、2日目に4講座の講義を行い、その後の2日間に2テーマの実習を行っています。講義題目と講師(敬称略)は以下の通りです。
 放射光発生の基礎(理研:北村英男)、X線光学の基礎(JASRI/兵県大:山崎裕史)、X線の強度を測る(東大:雨宮慶幸)、X線自由電子レーザー(理研:大和田成起)、回折散乱の基礎(関学:高橋功)、XAFS(JAEA/関学:西畑保雄)、軟X線スペクトロスコピー入門(東大:松田巌)。
 どの講義も、講師の先生方が専門外の学生も飽きることのないように工夫を凝らしておられ、とても分かりやすい講義となっていました。
 また、2日目午前にはSACLAとニュースバルの見学、夜にはSPring-8の見学を行いました。さらに3日目の夕方には、SPring-8蓄積リング収納部の見学が行われました。どれも案内者による丁寧な説明があり、施設の大きさや複雑さ、最新の装置技術は参加者に強い印象を与えたようです。
 実習のテーマと使用したビームラインおよび担当者(敬称略)は以下の通りです。

 

 

BL01B1 “その場”XAFS計測
(JASRI:宇留賀朋哉・新田清文・加藤和男・伊奈稔哲)
BL02B1 単結晶構造解析の入門
(岡山大:池田直、JASRI:杉本邦久・安田伸広)
BL04B2 高エネルギーX線回折を用いた浮遊液体の3次元構造解析
(JASRI/北陸先端大:小原真司・藤原明比古)
BL07LSU 軟X線で見る宝石の輝き
(東大:原田慈久・和達大樹)
BL11XU 半導体結晶成長のその場X線回折測定
(JAEA:高橋正光)
BL13XU 放射光マイクロX線回折法入門
(JASRI/岡山大:木村滋)
BL14B2 XAFS分析の基礎
(JASRI:本間徹生・高垣昌史・大渕博宣、JASRI/岡山大:廣沢一郎)
BL17SU 軟X線を使った液体中の分子の電子状態観測
(理研:徳島高・山本雅貴・堀川裕加)
BL19B2 粉末X線回折
(JASRI:大坂恵一・渡辺剛・廣友稔樹・井上大輔・佐藤眞直、JASRI/岡山大:廣沢一郎)
BL20B2 X線画像検出器の評価
(JASRI:上杉健太朗)
BL22XU X線回折法を利用した金属材料応力・ひずみ評価
(JAEA:菖蒲敬久)
BL24XU 微小領域高精度X線回折
(兵県大:津坂佳幸・篭島靖)
BL26B1 単結晶回折(タンパク質)
(理研:平田邦生・山本雅貴)
BL26B2 単結晶回折(タンパク質)
(JASRI/理研/関学:熊坂崇、理研:山本雅貴)
BL40B2 X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析
(JASRI:八木直人・関口博史)
BL46XU X線反射率
(JASRI:小金澤智之、JASRI/岡山大:廣沢一郎)
ニュースバル 炭素を含む物質の軟X線吸収スペクトル測定
(兵県大:新部正人・天野壮)

 

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写真1 講義風景

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写真2 実習風景

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写真3 懇親会風景

 参加者は実習テーマの選択希望を出すことができますが、各ビームラインあたりの参加者数には限りがあり、すべての希望をかなえるのは無理でした。しかし、第1希望の実習は必ず受けられるよう工夫したので、特に強い関心を持っている実習は受けてもらえたはずです。もちろん参加者は専門外の講義や実習も受けることもありますが、講師や実習担当の方々の努力もあって、十分に興味を持ってもらえたようです。学生時代になるべく広い範囲の研究に触れておくことの重要性はしばしば指摘されています。一般の講習会では得られないような広範な知識を得られる点こそが、夏の学校の大きな特長となっています。今年は参加者が多かったため、参加者7人で実習を行ったビームラインもあり、実習担当者の苦労もあったと思いますが、学生の意欲は下がらなかったようです。
 夏の学校の目的は放射光科学の勉強だけではなく、同世代の異なった研究分野の人たちとの交流を通じて知り合いの輪を広げ、将来の研究につなげることも重要です。初日には参加者の自己紹介と懇親会があり、3日目には萌光館でのバーベキューもあって、教官と参加者が一緒になって会話を弾ませていました。参加者が将来の進路を決める時の参考になることと思います。
 参加者が熱心に講義や実習を受け、また楽しんでいる様子からも、この夏の学校が有意義なものであったことは明らかでした。10数人の希望者の参加をお断りしなければならなかったことは残念でしたが、今年参加をお断りした学部4年生の方々には、来年申し込みがあれば優先的に参加していただく方針です。
 最後になりましたが、熱意のこもった講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる実習を熱心に指導していただいた実習担当の皆様、分かりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、特にSPring-8蓄積リング収納部の見学を可能にしていただいたJASRI加速器部門の方々に感謝致します。また、事務局としてウェブ作成から懇親会・バーベキューのお世話までご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々にも感謝したいと思います。

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写真4 記念写真

 

 

 

八木 直人 YAGI Naoto
(公財)高輝度光科学研究センター
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2750
e-mail : yagi@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794