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Volume 19, No.4 Pages 334 - 337

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第11回SPring-8産業利用報告会
The 11th Joint Conference on Industrial Applications of SPring-8

佐野 則道 SANO Norimichi

(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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1. はじめに
 産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)、兵庫県、(株)豊田中央研究所、(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)の4団体の主催、SPring-8利用推進協議会、姫路市、姫路商工会議所の共催、およびフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体、SPRUC企業利用研究会、(一財)高度情報科学技術研究機構(RIST)、(一財)総合科学研究機構東海事業センター(CROSS東海)、光ビームプラットフォームの協賛で、第11回SPring-8産業利用報告会が、9月4、5日に姫路商工会議所において開催された。総参加者数は269名であり、口頭とポスターの各セッションでの活発な議論や、技術交流会(懇親会、参加者133名)での盛況ぶりにより、当初の2つの目的は達成されたものと思われる。
 今年は、11回目を数えるSPring-8産業利用報告会と、第12回ひょうごSPring-8賞の受賞記念講演会が併催され、昨年に引き続きSPring-8産業利用の包括的かつ適時的な情報発信の最良の機会がつくられた。専用および共用のビームラインを産業利用に供する各団体が合同して、SPring-8利用推進協議会の共催の下、2004年より毎年開催されてきた成果報告会は、(1)産業界における放射光の有用性を広報するとともに、(2)SPring-8の産業界利用者の相互交流と情報交換を促進する目的で実施してきた。一方、SPring-8立地自治体の兵庫県では、SPring-8の社会全体における認識と知名度を高める目的で、2003年度より「ひょうごSPring-8賞」を設置し、SPring-8の利用により社会経済全般の発展に寄与することが期待される成果をあげた研究者らを顕彰してきた背景がある。


2. 口頭セッション(第1日目)
 セッション1は、4日の13時より、第12回ひょうごSPring-8賞受賞記念講演会が行われた。本年はダイハツ工業(株)の田中裕久氏が「新規液体燃料電池自動車の開発」で受賞した。まず、坂田選定部会長による講評では、「開成」の選定方針が示された。続いて田中氏の受賞記念講演では、同社が(1)白金を使わない電極触媒と(2)炭素を含まない液体燃料である水加ヒドラジンを用いる、(3)高出力で軽自動車に搭載可能な、新規のアニオン交換膜形燃料電池を開発しており、非白金触媒の開発にBL14B2のin-situ XAFSと、BL46XUのHAXPES、また電解質膜の開発ではBL19B2におけるSAXSの利用が有効であったことが述べられた。同社が東京モーターショー2013に出展した燃料電池自動車「FC凸DECK」が、SPring-8構内を走行する様子も上映され、SPring-8がアニオン交換膜形燃料電池の実用化に寄与していることが、具体的に聴衆らに印象付けられた。

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写真1 田中裕久氏の受賞講演

 セッション2では、主催4団体を代表してJASRIの土肥理事長が挨拶し、SPring-8の特色として(1)産業利用のシステムが整っていることと、(2)技術開発力が優れていること、が挙げられた。続いてセッション司会のJASRI山川常務理事より、本報告会では優秀発表賞の選定(受賞者は後日、同報告会ウェブページにて発表)があること、また2015A期より、(1)生命科学/蛋白質結晶構造解析分野(L1分科)の運用が変更になること、(2)社会・文化利用課題が新規に設定されること、および(3)一般課題(産業利用分野)への申請要件として実験責任者・共同実験者に民間企業所属者を含むこと、が告知された。
 セッション3は、第14回サンビーム研究発表会であり、共同体参加企業がサンビーム(BL16B2とBL16XU)や共用ビームライン、さらに他施設も利用した研究成果の発表を行った。研究対象は、二輪車用排ガス浄化触媒、自動車用鋼板、切削工具用硬質薄膜材料、燃料電池用触媒、ネオジム磁石と多彩であった。また回折計用ソフト開発の発表もあった。川崎重工業(株)の谷口氏による「ガス雰囲気変動下における貴金属の酸化還元特性の評価」では、三元触媒で代表的に使用されている白金とパラジウムの酸化還元特性を、二輪車実使用環境を模した条件下のQuick XAFS測定により明らかにした。(株)神戸製鋼所の北原氏は、「X線回折を用いたマルテンサイト鋼の評価法検討」により、自動車用鋼板の高強度化に伴い、従来の冷間プレスに代わって用いられる熱間成形技術においては、鋼板材料の組織評価手法として従来用いられてきたX線回折法による結晶系の判別や、炭素定量精度に課題があることを明らかにした。住友電気工業(株)の山口氏の「硬質薄膜材料の残留応力測定」では、PVD法で超硬合金上に成膜された厚さ数µmのTiAlN膜に対し、切削工具の性能に重要な役割を果たす残留応力の深さ方向分布をX線回折の「侵入深さ一定法」を用いて測定する方法を確立し、試作と測定の結果から成膜時のバイアス電圧の制御により残留応力を制御することを可能にし、設計通りに改善された切削寿命を実現したことが述べられた。ソニー(株)の後藤氏は、「Ruコア/Ptシェル触媒ナノ粒子の表面電子状態における粒子サイズとコアの影響」を調べるために、SPring-8 BL16B2において、Ru K端とPt LIII端のXAFS測定と、SAGA LSにおいてナノ粒子表面のXPS価電子帯スペクトル測定を行い、粒子サイズ減少に伴う価電子帯へのRuコアの影響の低下が、リガンド効果の低減によると解釈した。(株)日立製作所中央研究所の菅原氏は、「ミクロンサイズ磁石単結晶のヒステリシス測定」において、マイクロビーム磁気円二色性(XMCD)により、µmサイズのネオジム磁石単結晶の磁化曲線測定に成功した例を示した。最後に、(株)富士通研究所の淡路氏は、「多次元検出器とBL16回折計のLabVIEW、IDLによる統合制御ソフトの開発」において、PILATUS 100K検出器、MYTHEN検出器、およびAnton Parr DHS1100加熱装置を回折計ゴニオメーターに連動させ、各種測定に活用するために、グラフィック型言語による開発環境であるLabVIEWと、配列指向言語であるInteractive Data Language(IDL)を組み合わせたソフトを開発し、利用者の利便性を向上させた。

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写真2 口頭発表会場の全景

 セッション4のJASRI共用ビームライン実施課題報告会では、JASRI産業利用推進室の廣沢室長による「共用ビームラインでの産業利用実施概況」に続いて、利用者による4件の発表があった。まず、(株)原子力安全システム研究所の山田氏らによる「白色X線と2次元検出器および半導体検出器を用いた、冷間加工ステンレス鋼の粒界近傍応力測定」は、JASRI産業利用推進室の宮澤氏(現東京工業大学)らとの共同研究で、BL28B2において開発された金属材料内部微小応力測定技術であるEnergy-dispersive X-ray Diffraction Microscopy(EXDM)を用いて、原発長期利用のためにその防止が重要であるステンレス鋼の粒界型応力腐食割れにおける粒界への応力集中挙動を詳細に調べた。(株)富士通研究所の野村氏らの「硬X線光電子分光法によるGaN-HEMTのバンド構造解析」は、BL46XUにおいて膜の深いところまで測定可能なHAXPESの特徴を活用し、携帯電話の基地局や、航空管制・気象用レーダー等の高周波用途や、電気自動車等のパワーデバイス用途に幅広い市場の拡大が見込まれる高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor, HEMT)のバンド構造を、電極や絶縁膜などが形成された実デバイスに近い状態で直接観測した例である。日東電工(株)の宮崎氏らの「超小角X線散乱によるエマルション粘着剤の構造解析」では、液晶パネルや携帯電話、自動車などに広く使用されているアクリル系接着剤の、環境負荷の低い製造方法として注目されているエマルション重合における凝集構造の解析を行い、粘着力や耐水性・耐湿性などの性能向上を目指している。最後に、大阪大学の有澤氏の「硫黄修飾金に担持した有機合成用金属ナノ粒子触媒の開発」では、ligand-freeな鈴木−宮浦カップリング反応のために実用化されている硫黄修飾金に担持したパラジウム(Sulphur-modified Au-supported Pd, SAPd)が、5 nm程度のPd(0)ナノ粒子で自己組織的に多層状集積していることを、BL14B2におけるPd K端のXAFS測定とTEM観察から明らかにし、この知見を基に硫黄修飾金に担持したニッケル(SANi)の開発に成功した。


3. 技術交流会
 この後行われた技術交流会(懇親会)には、全参加者のほぼ半数が集まった。例年と同様、産業分野や産官学の所属組織を超えた「SPring-8産業利用者仲間」の連帯感が会場に充満していた。また、他施設の職員らとJASRI職員・SPring-8利用者らの間の活発な交流も見られ、施設間相補利用の拡大発展が期待された。

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写真3 技術交流会の様子


4. 口頭セッション(第2日目)
 セッション5として、兵庫県放射光産業利用研究発表が、翌5日午前9時より兵庫県立大学の太田副学長および兵庫県企画県民部科学振興課の坂東課長の挨拶で始まった。ここでは2本の兵庫県専用ビームライン(BL08B2、BL24XU)とニュースバルで実施された研究成果が、合わせて5件報告された。本年は、ソフトマターの研究・開発に兵庫県ビームラインが用いられた例を纏めて知る機会となった。まず、住友ゴム工業(株)の松本氏らは「In-situ Zn K-edge XAFS/SAXS計測を用いたゴムの加硫反応研究」において、加硫促進助剤として用いられている酸化亜鉛(ZnO)の空間配置調整による物性制御を目的として、ZnOの反応過程と拡散過程をQXAFSとSAXSの逐次計測により追跡し、ZnOから各種亜鉛化合物となり拡散しながらZnSまで反応が進行することを明らかにした。京都工芸繊維大学の櫻井氏が発表した「広角X線散乱その場測定による高シス含有ポリブタジエンの延伸結晶化に関する研究」は、旭化成(株)の今泉氏が実験責任者で、同社、旭化成ケミカルズ(株)、兵庫県放射光ナノテクセンター、および京都工芸繊維大学の共同研究であり、航空機のタイヤなどに使われている天然ゴムの代替として用いられることが期待される合成品である高シス含有ポリブタジエンの伸張結晶化挙動を、時分割2次元WAXSにより解析した。住友ベークライト(株)の首藤氏による「SAXSとRMCによる構造発色フィルムの光学特性発現機構の解析」は、兵庫県放射光ナノテクセンターの横山氏らとの共同研究で、粒径が数十から数百nmのナノシリカ粒子を架橋アクリル樹脂中に秩序分散させた構造発色フィルムについて、BL08B2とBL24XUで測定した小角散乱プロファイルから抽出した構造因子から、FOCUSスパコン上のRMC++を用いて粒子の三次元配列モデルを導出し、粒子の短距離秩序構造が可視光の干渉性と高い相関があることを見出した。(株)ミルボンの伊藤氏らによる「加齢に伴う毛髪内密度の変化とX線CTによる観察」は、兵庫県立大学の高野氏らとの共同研究で、美容所用ヘアケア製品の開発や販売促進のために、加齢による毛髪の密度低下を可視化した。兵庫県立大学の村松氏は「ニュースバルBL10を利用した企業材料の放射光軟X線分析」と題して、同BLにおいて70 eV−1 keVの領域における軽元素材料の汎用的軟X線吸収分析と軟X線反射率測定を組み合わせた分析ができるよう機器整備が進められている現状を報告した。
 セッション6は、第5回豊田ビームライン研究発表会で、昨年に続きBL33XUにおける散乱・回折技術に関連した研究成果2件の発表があった。瀬戸山氏による「放射光回折応力測定のための2次元検出器用スリットの開発」では、自動車等の材料・部品内部の応力・ひずみ分布測定において、必要十分な空間分解能と回折角分解能を確保するために、従来提案されてきた回転型スパイラルスリットの技術的問題点を解決する新開発スリットが報告された。また泉氏による「摩擦面その場XRDによる鋼材の焼付き現象解析」では、鋼材摺動部の焼付き時に観察される塑性流動の発生に対応して、摩擦面でマルテンサイトからオーステナイトへの相変態が生じることが明らかになった。

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写真4 口頭発表の様子

 セッション7では、本年初の試みとして坂田名古屋大学名誉教授と土肥理事長からの講評があった。坂田氏からは主催4団体に対し「不安定要素も入れた企画」への期待、また土肥氏からは「産学連携の推進」への期待が、それぞれ述べられた。最後に山川常務理事が閉会の挨拶をした。


5. ポスター発表
 口頭セッション終了直後12時より2時間に渡って行われたポスター発表には、主催のサンビーム23件、豊田中央研究所7件、兵庫県25件、およびJASRI共用BL22件のポスターに加えて、協賛のフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体の2件とSPRUC企業利用研究会、RIST、CROSS東海、光ビームプラットフォームから各1件、さらにJASRI産業利用推進室とJASRI利用推進部から各1件のポスターが掲示された。今回は、これまでの団体ごとに区画された配置をやめ、全ポスターが1つの大部屋に(1)エレクトロニクス・半導体、(2)資源・環境/無機材料、(3)リチウム電池、(4)触媒、(5)食品・健康、(6)高分子・有機材料、および(7)測定機器・技術の分野ごとに配置された(図1)。また掲示板レイアウトも、会場全体に見通しが効き、人の流れが円滑になるように工夫されたこともあり、各分野のコーナーで活発な議論の輪が形成された。本年の形式に対し、参加者から好評の声が聞かれた。

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図1 ポスター配置図


6. サイトツアー
 89名の参加者が、サンビーム、兵庫県ビームライン、共用産業利用ビームライン、およびSACLAを見学した。サンビームで新規に導入された大型設備等に多くの関心が集まった。


7. おわりに
 こうして本年の産業利用報告会が無事、盛況のうちに終えることができた。準備段階から当日の会場運営、さらに事後のとりまとめ等、主催4団体の事務局のご尽力と共催団体の関係者各位のご協力に、この場を借りて感謝の意を表したい。

 

 

 

佐野 則道 SANO Norimichi
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0963
e-mail : sanon@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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