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Volume 19, No.1 Pages 37 - 39

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第6回SPring-8萌芽的研究アワード/萌芽的研究支援ワークショップ報告
The 6th Workshop on the SPring-8 Budding Researchers Support Program / Winners of Budding Researchers Award

高田 昌樹 TAKATA Masaki

SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会 委員長 Chair of The SPring-8 Budding Researchers Award Committee

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1. はじめに
 SPring-8は、これまで、多彩な研究分野にわたって利用されてきました。そして、その研究分野の数だけ、放射光科学とクロスオーバーした先端的な研究領域が創成されてきました。しかし、光源性能の進化に伴う応用分野の展開は、ますます加速しています。そのため、放射光科学の応用分野は、大学の既設のカリキュラムでの人材教育は追いつかず、On the Research Training(ORT)による自立的な人材を育成する場が求められています。そこで、SPring-8では、平成17年度より、放射光科学研究の独創的な展開を担う人材育成を支援することを目的として、「萌芽的研究支援プログラム」を実施しています。本プログラムは、一般課題と同じ基準による課題審査に基づき、大学院生が実験責任者として主体的にSPring-8を利用した研究遂行を支援する内容となっています。また、研究支援ワークショップやアワードなどを設け、成果発表までの方向性を議論する場も設け、SPring-8の利用を通して、一人前の研究者への成長を促すよう、プログラムされており、ひとつの特色となっています。
 開始以来、7年にわたり約340課題が実施され、質・量ともに、学位取得に関わるレベルの高い成果発表が行われてきた萌芽的研究支援プログラムは、これまで2度にわたって行われた外部有識者による評価*1でも、大学院生が研究者になるための主体的な能力開発に取り組む姿勢を積極的にサポートする意義深いプログラムであるとの高い評価を受けました。また、さらに若い学生の研究に対する自立性を支援するよう提言を受け、平成24年度(2012A期)より、実験責任者の応募資格をこれまでの博士後期課程から博士前期(修士)課程まで引き下げ、応募相談窓口となる大学教授によるコンサルタントを設置し、SPring-8利用に対するアドバイスをもらうことで、本プログラムの利用のメリットを的確に把握できるよう、支援の拡大と充実を図ってきました。
 平成20年度に設置された、「SPring-8萌芽的研究アワード」は、その一環であり、本プログラムを活用して優秀な成果を上げた学生(当時)を表彰し、奨励してきました。また、アワード審査の口頭発表に合わせて、様々な研究分野にわたる萌芽的研究支援課題の成果発表ポスターセッションを企画する「萌芽的研究支援ワークショップ」を開催し、SPring-8がカバーする多様な利用研究に触れてもらい、幅広い視野と価値観を持った研究者としての成長を促すことを支援しています。
 第6回を迎えたSPring-8萌芽的研究アワードは、2011A期から2012B期に実施された99課題を対象に、第一次審査として応募書類審査を行い、後述のとおり12月6日に開催されたワークショップにおいて口頭発表による第二次審査を行い、審査の結果、以下のとおり受賞者を選出しました。


第6回SPring-8萌芽的研究アワード 受賞者
 江原 祥隆
(東京工業大学 総合理工学研究科)
「NEMS用圧電体膜のナノドメインスイッチングのナノ秒での高速応答の測定」
 吉村 寿紘
(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

「生物骨格による気候復元の高精度化に向けた軟X線μ-XAFS法による微量元素の高分解能マッピングと化学状態の解明」

 

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*1 http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/committees/reports/bud_res_sup_report/

 

 

2. 萌芽的研究アワード審査
 SPring-8萌芽的研究アワードの審査基準は以下の3つの項目で、最大2名が、アワードに選ばれます。
①研究テーマの新規性・独創性・発展性
②研究成果におけるSPring-8の有効性
③実施体制における主体性
 第一次審査(書類審査)および第二次審査(口頭発表:発表時間20分、質疑応答10分)ともに、SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会の審査委員7名が、それぞれの審査基準について5段階評価を行い、集計結果をもとに合議により受賞者を決定しました。
 第一次審査で選出された、アワード受賞候補者5名の研究成果発表(第二次審査)は、物質科学、材料科学、環境科学など広い研究分野にわたるテーマで、X線回折、XAFS、時分割、軟X線吸収分光など多彩な研究手法を用いた内容でした。発表はSPring-8の特性を活かすための独自の工夫を凝らした研究プロセスについて紹介され、それがチャレンジングなテーマの遂行にどのように効果的であったかという情熱的な議論から、実験成果を根気よく積み上げて取り組み、最後の結論を導き出したものまで、学生の多様な個性が発揮されたものとなりました。
 審査は、人材育成の観点からディスカッションを重視し、専門分野の異なる学界・産業界の審査委員からの多角的な質問に対しても、明確な議論が展開されるなど、本プログラムの趣旨が成果を上げつつあることがうかがえました。
 なお、今後の研究活動へのアドバイスとして、アワード応募者全員に、審査委員の審査コメントをフィードバックし、本プログラムがORTの役割の一助となるよう配慮しております。


3. 萌芽的研究支援ワークショップ/ポスターセッション
 アワード審査に合わせて開催されたワークショップには、約30名の参加があり、ポスターセッションによる活発な議論が行われました。
 2012A期から課題応募資格を拡大したことにより、発表者数とともに発表者の学年幅が広がり、修士課程2年からポスドクまで10名の発表がありました。発表者らは審査委員や専門分野の異なる他の参加者と交流することができました。



4. おわりに
 萌芽的研究アワードは回を重ねるごとに、研究テーマの応募分野はますます広がり、プレゼンテーションの技術も向上してきました。そのため、審査員の先生方からも、書類審査、口頭発表のいずれも、審査による発表者の順位付けも、年々難しくなってきたとの嬉しい悲鳴が聞こえてきます。今回、残念ながらアワード受賞に該当しなかった方々も、受賞者と優劣付け難い研究成果を発表されています。これまでの応募者の多くが、学位取得、及び企業、大学、公的研究機関でのポスト獲得にも成功されています。これらのことは、この萌芽的研究支援プログラムの趣旨がユーザーに着実に根付き、目標としている一定の成果を挙げていることの現れと言えます。
 土肥理事長の挨拶にもありましたように、若い研究者達が、このプログラムでの成果をもとに、世界へ羽ばたき、各国の研究者として切磋琢磨し、SPring-8の次を切り拓く、国際的な研究者として活躍する日は、そう遠くないと確信しております。
 今回のアワード受賞者は、昨年度の受賞者とともに、3月7日に大阪で開催が予定されているSPring-8コンファレンス20142において表彰され、受賞講演を行う予定です。また、ワークショップで発表されたすべての研究成果は、コンファレンスにてポスター展示される予定です。萌芽的研究が、学術、産業界の研究者の目に触れ、新たな研究交流の場となる事、そして、さらに次の世代の学生の本プログラムへの応募をエンカレッジする機会となることを期待しております。
 本支援プログラムは、平成25年度に実施された国の大型放射光施設(SPring-8)中間評価3においても、多くの若手研究者の育成に貢献したと高い評価を得ております。人材育成のさらなる充実を図るため、今後も大学・大学院との連携・協力のもと、一層の支援の改善、拡充に努めていく所存でございます。大学・大学院の指導教員の先生方にも、萌芽的研究支援課題への学生の応募を奨励下さるよう、ご協力をお願いいたします。


〇アワード受賞候補者研究タイトル一覧
1.「2回らせんに基づく有機結晶のキラル特性解明と結晶構造制御」
  佐々木 俊之(大阪大学大学院 工学研究科)
2.「放射光X線回折によるFeNi規則合金の構造解析および磁気異方性との関係」
  小嶋 隆幸(東北大学 金属材料研究所)
3.「NEMS用圧電体膜のナノドメインスイッチングのナノ秒での高速応答の測定」
  江原 祥隆(東京工業大学 総合理工学研究科)

4.「生物骨格による気候復元の高精度化に向けた軟X線μ-XAFS法による微量元素の高分解能マッピングと化学状態の解明」

  吉村 寿紘(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
5.「二次元光電子分光法による酸化物半導体/絶縁膜界面の構造解析と欠陥評価」
  上岡 義弘(奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科)


〇ポスター発表研究タイトル一覧(アワード受賞候補者 重複分を除く)
1.「赤外顕微分光を用いたLaCo1-xRhxO3のCo3+のスピン状態」
  浅井 晋一郎(名古屋大学 理学研究科)
2.「メカノケミカル調製したPd含有La-Fe系ペロブスカイト型酸化物のPd K, L3-edgeによるXAFS分析」
  内山 智貴(九州大学大学院 総合理工学府)
3.「コリンホスフェイト基を有するCalix[4]arene系ミセルの構造解析と生体膜との相互作用評価」
  藤井 翔太(九州大学 工学府 物質創造工学専攻)
4.「蛋白質結晶中に創り出した隙間を利用して分子の動きを観るための新しいX線結晶解析」
  松岡 礼(九州大学 生体防御医学研究所)
5.「超分子Calix[4]areneのSAXS構造解析」
  坂本 俊介(北九州市立大学 国際環境工学研究科)


〇萌芽的研究アワード審査委員会

委員長 高田 昌樹 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門長
委 員 岡田 明彦 住友化学株式会社 先端材料探索研究所 材料物性科学グループ 研究グループマネージャー
委 員 上村みどり 帝人ファーマ株式会社 生物医学総合研究所 課長
委 員 栗原 和枝 国立大学法人東北大学 原子分子材料科学高等研究機構および多元物質科学研究所 教授
委 員 鈴木 謙爾 公益財団法人特殊無機材料研究所 代表理事
委 員 鈴木 昌世 公益財団法人高輝度光科学研究センター 研究調整部長
委 員 八木 直人 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 コーディネーター

 

 

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*2 http://www.spring8.or.jp/ja/science/meetings/2014/140307/

*3 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu17/houkoku/1342511.htm

 

 

 

高田 昌樹 TAKATA Masaki
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750
e-mail:takatama@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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