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Volume 19, No.3 Pages 300 - 303

4. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS

「専用ビームライン 中間評価」について
Interim Review Results of Contract Beamlines

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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 SPring-8の専用ビームライン(以下、専用BLと記します)は、(独)理化学研究所以外の設置者が、その利用目的に添った計画を立案し、登録施設利用促進機関であるJASRIに設置した専用施設審査委員会およびSPring-8選定委員会において「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき検討評価され、選定されます。
 現在、SPring-8には国内外・産学官の設置者による19本の専用BLが稼働中です。設置が認められた専用BLは、その設置期間の中間期を目処に専用施設審査委員会等において、その使用状況および研究成果等の中間評価が行われ、継続、改善、中止等の判定が行われます。

 平成26年7月に開催しましたSPring-8選定委員会において、平成26年3月および6月の専用施設審査委員会で中間評価を実施した下記2本の専用BLの評価結果が審議され、ともに引き続きビームラインの運用を「継続」する旨の結果を得ましたので、財団より、各設置者へ通知いたしました。

 

中間評価実施専用BL
 1. フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(BL03XU)
  (設置者:フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体)
 2. 先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン(BL36XU)
  (設置者:国立大学法人 電気通信大学)

 

 ※各専用BLの評価結果は以下に掲載

 

 

「フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(BL03XU)中間評価」

 フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(BL03XU)(以下、本ビームライン)は、ソフトマテリアル製造企業と大学の対からなる18グループと1大学の、計19グループの連合体により建設されて、2010年から本格的に運用が開始されている。本ビームラインは、学術研究者と企業研究者がSPring-8の高度な光源性能を駆使してソフトマター新素材の「ものづくり」を進めるという理念で建設され、運用体制もこれを実現すべく学術諮問委員会を設けるなどの工夫が凝らされている。この優れた運用により、高分子材料の動的構造物性をはじめとした将来の産業に資する優れた成果を数多く創出している。これらのことを鑑み、専用施設審査委員会(以下、本委員会)は、当該ビームラインの設置と運用を「継続」することを勧告することが妥当であると判断した。

 以下、フロンティアソフトマター開発産学連合体から本委員会に提出された「フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体中間報告書」と平成26年3月4日に開催された本委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 本ビームラインは、真空封止アンジュレータを光源とし、液体窒素冷却二結晶分光器、KB配置の集光ミラーを持ち、斜入射X線回折装置を持つ第一実験ハッチと、小角・広角同時測定が可能な第二実験ハッチから構成されており、ラインの製造プロセスの評価までも視野に入れて実験ハッチに大型装置の持ち込みが可能であるという特徴を持っている。ビームラインの技術的改良・開発は順次進められており、1ミクロン以下のX線ビームを用いたマイクロビーム実験技術、異常散乱を利用した小角散乱や斜入射回折実験技術、1ミクロン以上の構造まで観測可能な極小角散乱・斜入射極小角散乱技術など、第三世代小角散乱ビームラインで考え得るすべての実験手法が利用可能となっていることは、高く評価できる。また特筆すべきことは、実際にこれらの技術が工業材料に応用され、研究成果を挙げている点である。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 本ビームラインは、学術研究者と企業研究者がSPring-8の高度な光源性能を駆使してソフトマター新素材の「ものづくり」を進めるという理念で建設され、運用体制もこれを実現すべく学術諮問委員会を設けるなどの工夫が凝らされている。19グループの共同出資であるため各社あたりの年間経費は低く抑えられており、そのコストパフォーマンスの高さはより広く知られるべきであるとともに、新たな産学連携専用ビームライン建設の良き参考モデルとして、一つの方向性を示したものと評価する。また建設当初より化学薬品を扱う実験が多く行われることが想定され、実験ハッチに排気装置等を設けるだけでなく、連合体内に安全委員会を設置して、安全管理と事故防止に努めている点は高く評価でき、他のビームラインの参考となるものである。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 学術研究者と企業研究者をまとめあげた優れた運用体制により、これまでに出版された28報の研究成果のうち25報が企業と大学の共同研究によるものであり、そのいずれもが将来の産業に資する優れた成果となっている。成果の主なものは高分子材料の動的構造物性、微小領域の構造物性、薄膜構造物性、変形機構、加工プロセス中の構造物性の変化などを扱っており、炭素繊維・有機薄膜太陽電池・医療用材料・新規高分子材料などの重要な工業材料が対象となっている。このような事実から、本ビームラインの設置目的が達成されていることは明らかであり、これらの研究成果は高く評価できる。

4. 「今後の計画」に対する評価
 産学連携将来高度化委員会を設けるなど将来を見据えた積極的な活動と、大型の公的外部競争的資金の獲得という実績により、新たな検出器の購入をはじめとした将来に向けた整備計画が着実に進められていることは高く評価できる。今後もSPring-8唯一の、フルスペック単色アンジュレータ小角散乱ビームラインとして、より一層先端的な実験(時分割、マイクロビームなど)への積極的な取り組みに期待したい。

以 上

 

 

「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン(BL36XU)中間評価」

 先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン(BL36XU)(以下、本ビームライン)は、電気通信大学がNEDOプロジェクト「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/MEA材料の構造・反応・物質移動解析」研究の一環として建設されたものであり、燃料電池における電極触媒反応をXAFS法等によるリアルタイム計測により解明し、化学反応過程および劣化過程のメカニズムを明らかにしようとするものであり、平成22年度より建設に着手し、平成25年1月より利用を開始したものである。
 専用施設審査委員会(以下、本委員会)は、本ビームラインが、燃料電池内における複雑多様な現象を、主としてXAFSによるその場観察が、現象把握に飛躍的な進展をもたらしつつあることを認識し、その先端性・先駆性と波及効果の重要性を高く評価し、「継続」を勧告することで一致した。なお、本ビームラインは、平成22年より27年10月までの期間の設置が承認されたものであり、本委員会はこの期間内の継続使用を承認するものである。

 以下、電気通信大学(燃料電池イノベーション研究センター)から提出された、BL36XU中間報告書、同追加資料(発表論文リスト等)、中間報告書要約レポート、パワーポイント資料(「本課題の背景・目標と重要性」、および「研究課題・内容・成果」)と、平成26年6月10日に開催された本委員会での報告および討議に基づき、以下に評価結果を報告する。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 BL36XUのビームライン構成は、光源に真空封止型テーパーアンジュレータを設備し、光学系は、クイックXAFS計測に最適化された高速スキャン二結晶分光器、集光ミラー系等から構成され、実験ハッチには、高速クイックXAFSとエネルギー分解XAFS計測システムおよび走査型顕微XAFS計測システム等を整備し、これら測定を燃料電池反応下でのin-situ計測に最適化された電池セルと試料雰囲気制御および排ガス処理システム等が整備されている。テーパーアンジュレータを始め、高速XAFS計測方法・技術等は、個別的には既に他のビームライン等で先行されているものであるが、燃料電池触媒研究に最適に、短期間のうちに当初目標とした計測システムを完成させ、この分野で世界最高レベルの時間分解能と空間分解能を達成するなど、実際の燃料電池反応の計測に極めて有効に駆使されている点は、大いに評価できる。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 本ビームラインは、電気通信大学が設置し、NEDO燃料電池プロジェクト予算に基づき運営されている。設置期間が5年間と限定されており、NEDOプロジェクト推進を目的とし燃料電池計測に特化した専用利用施設である。運用の基本方針に関しては、NEDO技術委員会等との綿密な討議がなされており、BL維持管理についてもサイト内専任スタッフを置くなど、効率の高い利用がなされていると判断される。利用については、電気通信大学を中心にプロジェクト参画の4学術機関が専用施設として使用している。この基本方針は、この短期の設置期間内に研究成果を集中するために必要な措置であり、妥当なものと理解できる。研究成果は原則として公開されており、既に燃料電池に関する先駆的な研究成果が報告され、公開成果報告会を含め、活発に研究成果報告会等が開催されている。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 本プロジェクトの目標は、燃料電池のカソード電極を構成する触媒金属と膜/電極接合体(MEA)内での化学反応を、電池作動中におけるin-situ計測によって、反応機構を解明し、触媒の活性・耐久性を支配する要因を明らかにし、燃料電池設計の指針を得ることと設定されている。自動車搭載用などの有力候補である固体高分子形燃料電池(PEFC)を対象に、実際の動作状況でのXAFS測定から、電極金属の化学状態、即ち、キーとなる触媒金属、Ptの価数およびPt-Pt配位数、さらにPt-O配位数を決定し、その発電過程での変化を観測し、電極触媒粒子のPt酸化状態と配位構造および吸着酸素の配位状態等を初めて明らかにした。さらに、高速時間分解XAFSによって、これらのPt価数と配位構造の時間変化等を明らかにし、電池セルの電気量と化学構造変化の関連と速度定数を明確にした。これらの結果は、燃料電池における電池化学反応の素過程を解明したことに相当し、今後の燃料電池分野の発展に大きく寄与することが期待できる。また、走査型顕微XAFS法を用い、触媒1粒子について、その複合構成金属の酸化/還元状態および酸素組成の2次元マッピングに成功し、複合組成の触媒活性の機構解明に重要な発展をもたらしたものと考えられる。この他、ラミノグラフィーの手法をXAFS/XANESに展開し、膜/電極接合体(MEA)内での積層構造マッピングによって電池の劣化過程を観測するなど、新規の化学状態マッピング法を開発し、燃料電池の実時間反応過程の解析に新分野を拓きつつある。
 以上、NEDOプロジェクトの研究目標を実現するべく、XAFS計測に関し最新の放射光技術を駆使し、世界的にも極めてユニークな燃料電池専用BLを実現したことは高く評価できる。特に、燃料電池における極めて複雑な複合反応系を、発電状態におけるin-situ計測、カソード触媒金属における酸化還元状態等の化学状態のダイナミズムを明らかにし、従来不明確であった素過程を解明しつつある点は優れており、本分野における今後の発展が大いに期待できる。

4. 「今後の計画」に対する評価
 本ビームラインは、先鋭的な目標設定とそれに最適化された施設建設、さらに強い指導力によって運営されており、優れた研究成果が創出されつつあり、今後も更なる発展が期待でき、継続して利用されることが望ましい。なお、当初の契約期間(平成27年10月まで)以降の本ビームラインの利用については、ビームライン設置者から、改めて、再契約の申請を受け、本委員会で次期計画等を審議されるものである。しかし、今回の中間評価は実質1年半の実験結果であるにもかかわらず、極めて重要な知見を得ており、その優れた研究成果を考慮すると、27年10月以降も継続して燃料電池における化学・電気化学反応の機構解明に資すべきであり、施設資産の有効利用と研究組織の継続を計られることを希望する。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794