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Volume 19, No.2 Pages 184 - 186

5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS

平成26年度に指定されたパートナーユーザーの紹介
Newly Designated Partner Users FY 2014

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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 平成25年度まで募集していた「パワーユーザー」の名称および一部運用を変更し、パートナーユーザー(以下「PU」という)として運用を開始します。平成26年度は、4名の応募があり、PU審査委員会による審査の結果、3名が指定されました。指定されたPUおよびPU審査委員会からの審査結果を以下に示します。


PUの概要

・PUは、平成25年度までの「パワーユーザー」の名称および一部運用を変更したもの。

・平成26年度以降のPUは、共用ビームラインおよび測定技術を熟知し、放射光科学・技術の学術分野の開拓が期待できる研究者で、
1)ビームライン実験設備の開発および高度化への協力
2)上記高度化等に関連した、先導的な放射光利用の実施および当該利用分野の拡大・推進
3)上記高度化等に関連した利用者支援
のいずれも満たすユーザーを指す。

・PUの指定期間は原則2年間(PU審査委員会が必要と認めた場合には延長可。最長5年間)。

 

[指定期間]
平成26年4月1日から平成28年3月31日まで(2年間)

[指定されたPU]
1. Bo Iversen(University of Aarhus)

(1)実施内容
 研究テーマ:Application of synchrotron radiation in materials crystallography
 高度化:構造ダイナミクス分析基盤整備と先導的活用
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL02B1

 

(3)審査コメント

The proposal aims for visualization of the relation between structural features and physical/chemical properties of stimulus-responsive materials, and development of the hardware system, followed by the application of the system to the dynamical structure research. Group members of "the Center for Materials Crystallography" will play roles for upgrading the single-crystal structure-analysis beamline BL02B1 in collaboration with the Japanese team, for completion of time-resolved x-ray diffraction (TR-XRD) measurement and analysis system.

Quite a few researchers, including postdoctoral researchers and PhD students will participate in the program. Some will be visiting SPring-8 for the assigned beam-times or expected to stay during the periods. Experiences of experiments at SPring-8 are sufficient for being Partner Users. Japanese collaborators also support the program.

The proposal includes: establishment of charge density study under static external field; development of sample preparation techniques under external field; and development of high frequency hybrid pixel detector. A 208-kHz pulse-selector has already been prepared for the TR-XRD with 50-ps resolution.

For a first half-year period, they plan to measure the samples of magnetic materials, spin cross-over complexes, and transition metal sulfides, as well as to develop the fast detector. The research group is expected to complete the user-friendly measurement and analysis system, resulting in supports for new users indirectly. This program will also promote an international collaboration, stimulating the potential users of Japan to pursue dynamical structure research.

The proposal highly matches the requirement of upgrade plan of BL02B1 and the partner-user scheme. Thus the Partner User Review Committee approves the proposal as Partner Users of BL02B1.

 

 

2. 白土 優(大阪大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:スピントロニクスデバイスを基盤としたナノ計測技術の開発と物質・材料研究への展開
 高度化:軟X線ナノビームラインの整備と先導的活用
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL25SU

(3)審査コメント
 本申請は、BL25SUにおけるナノビーム・ブランチの新設に対応して、エンド・ステーションにおける試料走査型のナノXMCD装置を立ち上げる等の高度化の作業に協力し、最先端のナノ計測技術を確立して、主として磁性に関連した物質・材料研究を行うことを目的としている。申請代表者らは、これまで、新規機能が期待される種々の磁性薄膜材料を作製してBL25SUに持ち込み、ヒステリシスカーブの巨大な垂直シフトなど興味深い現象を見出してきた。出版論文から判断して、これまでの研究成果の質と量は非常に高い水準にある。これらの成果は、申請者のグループによる卓越した試料作成技術とBL25SUの高度な性能が結合してもたらされたものといえる。
 PUにおいては、ビームラインの高度化、具体的にはナノXMCD装置の建設に対して、申請者が技術的側面において、より深く関わることが期待される。また、その際、ビームライン担当者とのより密接な連絡・連携が重要である。ゾーンプレート縮小光学系の導入・取り扱いに関しては、他のビームラインを含めた先行研究例から学ぶことも必要である。
 配分可能なビームタイムに関しては、Bブランチの建設のスケジュールの関係で、著しく制約を受けることも考えられる。従って、初年度は、装置の建設・立ち上げに主力を注ぎ、次年度以降に、成果の創出や利用者の支援に注力した人員配置・作業計画の具体化が求められよう。
 以上のように、当該ビームライン高度化の特殊事情はあるものの、本申請は全体として積極的で学術的・技術的に意欲に満ちた内容であり、また、申請者のこれまでの実績から判断して、PUとしての採択が適当であると考えられる。


3. 廣瀬 敬(東京工業大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:極細X線ビームを使った超高圧高温下の物性測定
 高度化:安定高温高圧実験ステーション整備と先導的活用
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL10XU

(3)審査コメント
 本申請は、申請者がこれまで築いてきた世界トップクラスの超高圧高温環境における物質構造決定技術を更に発展させ、それを通じて地球深部の金属コアの物質構造を高い精度で把握することを目的とし、高度化開発、利用実験、利用者支援のいずれの観点においても優れた提案であり、JASRI担当職員と緊密な連携がされていることからPUとして選定する。以下に高度化開発、高度化に関連した利用実験、及び利用者支援についての計画とそれに関する評価意見の詳細を記す。

1)高度化開発
 高度化開発では、入射X線ビーム径の微細化と受光面積が広い高エネルギー対応のCMOSカメラの導入の2項目が計画されている。入射X線ビーム径の微細化は既に実施されている液体窒素型冷却型分光器の導入と屈折レンズによるX線集光光学系の開発によりサブミクロン径の入射X線を形成するものであり、現行の約8 μmビーム径では1000 K程度にまで及ぶ温度誤差を約100 Kにまで低減される。これにより超高圧高温下にある物質の融解温度、状態図、及び状態方程式の精度が格段に向上することが期待できる。また、CMOSカメラの導入は老朽化した現有のCCDカメラを置き換えるばかりでなく、これまでより高波数域の回折も短時間で測定ができるようになることから、物資の状態図決定精度の向上に資することが明白である。以上のように高度化計画は明瞭かつ適切であり、地球惑星科学分野以外の研究者にも大きな利益をもたらすことが期待できることから本申請は非常に高く評価できる。

2)高度化に関連した利用実験
 利用実験として「地球内核物質の結晶構造決定」、「内核−外核境界における軽元素の分別」、「鉄及び鉄合金の融解曲線の決定とコア温度の推定」、「鉄の状態方程式の決定、液体鉄合金の状態方程式の決定」が利用実験のテーマとして掲げられている。いずれも、X線のマイクロビーム化による温度精度の向上により実現されるものであり、高度化開発と同期した研究である。これらの利用実験の成果は地球の起源や地表環境変動に関する重要な知見を与えることが期待される。

3)利用者支援
 高度化で整備した実験機器の日常管理や一般ユーザーの利用実験のための機器の準備・調整、利用実験中の支援を行う者がPUグループメンバーの中から指名されているため、充実した支援が責任をもって実施できる体制が構築されていると評価できる。

 

 

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794