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Volume 19, No.3 Pages 220 - 224

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

半導体ポリマーの配向制御と有機薄膜太陽電池特性
Control of Backbone Orientation in a Semiconducting Polymer and Their Photovoltaic Performance

尾坂 格 OSAKA Itaru[1]、斎藤 慎彦 SAITO Masahiko[2]、瀧宮 和男 TAKIMIYA Kazuo[3]、小金澤 智之 KOGANEZAWA Tomoyuki[4]

[1](独)理化学研究所 創発物性科学研究センター/JSTさきがけ Center for Emergent Matter Science, RIKEN、[2]広島大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Hiroshima University、[3](独)理化学研究所 創発物性科学研究センター Center for Emergent Matter Science, RIKEN、[4](公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

Abstract
 有機薄膜太陽電池の高効率化に向けて半導体ポリマーを開発する上で、キャリア輸送性を決定する結晶・配向構造を制御することは、最も重要なポイントの1つである。我々は、チオフェンとチアゾロチアゾールを主鎖に有する半導体ポリマーにおいて、側鎖のアルキル基の長さと形状の組み合わせを変えることで、ポリマーの配向を制御できることを見出した。さらに、これらのポリマーを用いた太陽電池を作製したところ、特に活性層が厚いときに、顕著に配向性の影響が現れることが分かった。
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1. はじめに
 有機薄膜太陽電池(OPV)は、軽量、大面積、柔軟で、塗布法を用いた低コストプロセスにて作製可能という、シリコン系太陽電池にはない特長を持つことから、新しい太陽光発電技術として注目されている。OPVは、通常、p型材料である半導体ポリマーと、n型材料であるフラーレン化合物の混合膜を光活性層として用いる。OPVの課題は、シリコン系太陽電池の半分以下であるエネルギー変換効率の向上であり、それに向けて様々な研究が行われている。中でも半導体ポリマーの開発は特に活発であり、数多くのポリマーが報告されている[1][1] (a) A. Facchetti, Chem. Mater. 23 (2011) 733–758. (b) P. M. Beaujuge and J. M. J. Fréchet, J. Am. Chem. Soc. 133 (2011) 20009–20029.。半導体ポリマーの開発には、電荷生成過程において重要な吸収波長(バンドギャップ)やフロンティア軌道のエネルギーレベルなどの電子構造、あるいは電荷輸送過程において重要な結晶性や配向性などの薄膜構造の制御がポイントである。
 電荷輸送過程に着目すると、電荷(ホール)はポリマー主鎖間をホッピングにより輸送されるため、高性能ポリマーの開発には、分子間の相互作用を高める、つまり結晶性の向上が必要である。また、ポリマー主鎖は、一次元的構造をもつため、ポリマーの配列方向によって電荷の流れる方向が異なる。すなわち、ホールは、ポリマー主鎖面が基板に垂直なエッジオン配向では基板平行方向に流れやすく、基板に平行なフェイスオン配向では基板垂直方向に流れやすい。OPV素子においては、電荷は光活性層を挟んだ電極間(基板垂直方向)を流れるため、ポリマーがフェイスオン配向を形成するように構造制御する必要がある(図1)。
 本稿では、高結晶性を与えるチアゾロチアゾール(TzTz)系ポリマーの分子設計、特にアルキル基の設計による配向制御とOPV特性およびその相関関係について述べる。

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図1. 結晶層中におけるポリマー主鎖の配向様式とキャリア輸送方向


2. 結果・考察
2.1 ポリマーの配向
 TzTzとチオフェンとのコポリマー(PTzQT-14:図2)は結晶性が高く、有機トランジスタにおいて0.3 cm2 V–1 s–1を超える高い移動度を示す[2][2] (a) I. Osaka, G. Sauvé, R. Zhang, T. Kowalewski and R. D. McCullough, Adv. Mater. 19 (2007) 4160–4165. (b) I. Osaka, R. Zhang, G. Sauvé, D.-M. Smilgies, T. Kowalewski and R. D. McCullough, J. Am. Chem. Soc. 131 (2009) 2521–2529.。また、その誘導体であるPTzBT-14HD(図2)は、最高被占分子軌道(HOMO)レベルが、−5.2 eVと深いため、大気中で安定に動作する有機トランジスタ材料であるとともに[3][3] I. Osaka, R. Zhang, J. Liu, D.-M. Smilgies, T. Kowalewski and R. D. McCullough, Chem. Mater. 22 (2010) 4191–4196.、OPVにおいても、0.8 V以上の高い開放電圧(VOC)と5%を超える変換効率を示す(変換効率=短絡電流密度(JSC)×VOC×フィルファクター(FF))[4][4] I. Osaka, M. Saito, H. Mori, T. Koganezawa and K. Takimiya, Adv. Mater. 24 (2012) 425–430.。また、PTzBT-14HDにおいては、分子量の増大によってランダムからエッジオンに、あるいは高分子量体にフラーレン誘導体(PC61BM)を混合することによってエッジオンからフェイスオンへと、ポリマーの配向が変化する。側鎖に直線状のアルキル基(直鎖)を有するPTzQT-14は、エッジオン配向し、分子量等によっても配向は変化しないことから、我々は、側鎖に直線状アルキル基と分岐状のアルキル基(分岐鎖)の両方を持つことが、PTzBT-14HDにおいて配向が変化する原因ではないかと考えた。この仮説を実証するため、PTzBTの側鎖に種々の長さの直鎖および分岐鎖を導入し、配向の変化とOPV特性に与える影響を調査した[5][5] I. Osaka, M. Saito, T. Koganezawa and K. Takimiya, Adv. Mater. 26 (2014) 331–338.

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図2. TzTzを有するポリマー


 直鎖としては、デシル基(C10)、ドデシル基(C12)、およびテトラデシル基(C14)、分岐鎖としては、2-ブチルオクチル基(BO)、2-ヘキシルデシル基(HD)、および2-オクチルドデシル基(OD)を用い、R1、R2として直鎖と分岐鎖をもつ直鎖−分岐鎖型ポリマーと、R1、R2ともに分岐鎖を持つ分岐鎖−分岐鎖型ポリマーを合成した(図3)。アルキル基の組み合わせによるHOMOレベルやUV-vis吸収スペクトルの変化はなかった。

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図3. 合成したTzTz系ポリマーと用いたアルキル基


 次に、ポリマー薄膜の微小角入射X線回折(GIXD)測定を行ったところ(使用ビームライン:BL19B2、課題番号:2012A1611)、側鎖の組み合わせによりポリマーの配向が大きく変化することが分かった。図4にGIXDの二次元像を示す(図4a:直鎖−分岐鎖型ポリマー、図4b:分岐鎖−分岐鎖型ポリマー)。PTzBT-14HDでは、qz軸方向(qz = ~0.3 Å–1)にラメラ構造に由来する(100)回折が4次まで現れ、qxy軸方向(qxy = ~1.8 Å–1)にπ-スタック構造に由来する(010)回折が現れた。これは、ポリマーがエッジオン配向を形成していることを示す。このポリマーのR1(C14)のみを、C12(PTzBT-12HD)およびC10(PTzBT-10HD)と短くすると、010回折が、PTzBT-12HDではqz軸とqxy軸の両方に現れ、PTzBT-10HDではqz軸上のみに現れた。すなわち、直鎖を短くすることで、徐々にエッジオンからフェイスオンへと配向が変化することが分かった。また、R2 = ODのポリマーでも、R1をC14(PTzBT-14OD)からC12(PTzBT-12OD)、C10(PTzBT-10OD)と短くすることで、π-スタック由来の回折がqz軸上により鮮明に現れ、フェイスオン配向が支配的になることが分かった。PTzBT-10HDや-12ODのようにR1(直鎖)とR2(分岐鎖)の長さが同じポリマーでは、 特に010回折がqz軸上にのみ強く現れることから、直鎖と分岐鎖の長さを揃えることがフェイスオン配向を強めるのに重要であると言える。

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図4. ポリマー薄膜の二次元GIXD像 (a) 直鎖−分岐鎖型 (b) 分岐鎖−分岐鎖型ポリマー


 R1およびR2ともに分岐鎖を有するポリマーは、PTzBT-EHODを除き、フェイスオン配向に特徴的な回折像を与えた。PTzBT-EHODは、R1とR2の差が炭素6個とこれらのポリマーの中では最も大きいが、これがエッジオン配向することの要因であると推察される。これは、分岐鎖を導入することが必ずしもフェイスオン配向を誘起することにはならないことを示している。以上のことから、R1とR2が直鎖−分岐鎖型および分岐鎖−分岐鎖型のいずれのポリマーでも、R1とR2の長さの差を広げる(直鎖−分岐鎖型では直鎖を長くする)ことでエッジオン配向、長さを揃えることでフェイスオン配向を形成することが分かった。すなわち、側鎖の長さと形状をうまく組み合わせることで分子配向を制御できることを示唆している。


2.2 ホール移動度
 これらのポリマーのホールオンリー素子(素子構造:indium tin oxide (ITO)/poly(3,4-ethylenedioxythiophene) polystyrene sulfonate (PEDOT:PSS)/Polymer/MoO3/Al)を作製し、空間電荷制限電流(SCLC)モデルにより、ポリマーのホール移動度を評価した(表1)。その結果、エッジオン配向ポリマーよりも、フェイスオン配向ポリマーの方が高い移動度を示した。すなわち、フェイスオン配向を形成するポリマーの方が面外方向へのホール輸送性が高いことが、実験的にも示された。

 

表1. ポリマーのキャリア移動度と光電変換特性
Side chains Orientation(a) µSCLC [cm2/Vs](b)
polymer
Photovoltaic parameters
p:n ratio thickness [nm] JSC [mA/cm2] VOC [V] FF PCEmax (PCEave) [%]
12OD face-on 1.25 × 10–4 1:2    210 10.7 0.82 0.62 5.5 (5.2)
        260 11.3 0.82 0.62 5.8 (5.7)
        370 11.5 0.82 0.61 5.7 (5.5)
14HD edge-on 0.20 × 10–4 1:2    200 9.9 0.82 0.66 5.4 (5.2)
        270 11.3 0.81 0.55 5.0 (4.8)
        360 11.7 0.78 0.52 4.8 (4.5)
EHOD edge-on 0.34 × 10–4 1:2    190 10.3 0.88 0.64 5.8 (5.6)
        260 11.1 0.87 0.56 5.4 (5.2)
        380 11.3 0.88 0.52 5.1 (4.9)
BOHD face-on 0.85 × 10–4 1:2    200 10.1 0.90 0.67 6.1 (5.8)
        270 11.4 0.89 0.65 6.7 (6.5)
        400 11.8 0.89 0.62 6.5 (6.3)
      1:2(c) 330 12.7 0.90 0.65 7.5 (7.2)

(a) ポリマーの配向 (b) ホールオンリー素子にて求めたホール移動度 (c) n型材料としてPC71BMを使用

 

 

2.3 OPV特性
 ポリマーとPC61BM(重量比1:2)との混合膜を活性層としてOPV素子(素子構造:ITO/PEDOT:PSS/Polymer: [6,6]-phenyl C61 butyric acid methyl ester (PC61BM)/Ca/Al)を作製し、光電変換特性を評価した。図5aに、代表的なエッジオンポリマーであるPTzBT-14HDおよび-EHOD、フェイスオンポリマーであるPTzBT-12ODおよび-BOHDの素子(活性層膜厚:約200 nm)の電流密度−電圧特性を示す。変換効率は5.4 - 6.1%であり、PTzBT-BOHDで最も高い値を示した(表1)。興味深いことに、JSCおよびFFは、いずれの素子も約10 mA/cm2および約0.65程度であった。一方で、VOCは直鎖−分岐鎖型ポリマー(PTzBT-14HD, -12OD)では0.82 Vであるのに対し、分岐鎖−分岐鎖型ポリマー(PTzBT-EHOD, -BOHD)では0.88 - 0.90 Vと高い値を示した。いずれのポリマーもHOMOレベルは同等であることを考えると、エネルギーレベルの点からVOCに差が生じることは考えにくい。より嵩高い側鎖を持つ分岐鎖−分岐鎖型ポリマーにおいては、PC61BMとの相互作用が弱くなることが予想され、そのためポリマーとPC61BMとの界面での電荷再結合が抑制される可能性がある。このことがVOCの差の原因ではないかと推測される。

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図5. 代表的なエッジオン配向ポリマー(PTzBT-14HD, -EHOD)とフェイスオン配向ポリマー(PTzBT-12OD, -BOHD)を用いたOPV素子の特性 (a) 電流密度−電圧特性 (b) 変換効率の膜厚依存性


 次に、活性層の厚い素子(約250 - 400 nm)を作製し、評価したところ、エッジオン配向ポリマーでは変換効率が低下するのに対し、フェイスオン配向ポリマーでは向上した(図5b、表1)。例えば、エッジオン配向のPTzBT-14HDは、膜厚が200 nmの場合、変換効率は5.4%(JSC = 9.9 mA/cm2、FF = 0.66)であり、270 nmにおいてJSCは11.3 mA/cm2まで増加するが、FFは0.55と大きく減少し、その結果、変換効率は5.0%まで低下した。さらに、360 nmまで厚膜化することで、FFが0.52まで低下し、変換効率は4.8%を示した。一方で、フェイスオン配向のBOHDは、膜厚が200 nmの場合、変換効率は6.1%(JSC = 10.1 mA/cm2、FF = 0.67)であるが、270 nmにおいて、JSCは11.4 mA/cm2まで増加するとともに、FFも0.65と高い値を維持し、変換効率は6.7%まで向上した。さらに、400 nmの膜厚においても、FFは0.62と高い値を示し、変換効率は6.5%であった。以上の結果から、フェイスオン配向するポリマーでは、面外方向のキャリア輸送性が向上することで、活性層の厚膜化による変換効率の向上が可能であることが示唆された。
 最も高い変換効率を示すPTzBT-BOHDにおいて、PC61BMよりも吸収領域の広い[6,6]-phenyl C71 butyric acid methyl ester(PC71BM)を用いたOPV素子を作製したところ、7.5%(JSC = 12.7 mA/cm2VOC = 0.90 V、FF = 0.65)と非常に高い変換効率を示すことが明らかとなった(表1)。バンドギャップが1.8 eV程度(吸収端は680 nm程度)の材料でも、これほど高い効率が得られたことは非常に興味深い。


3. まとめ
 本稿では、チアゾロチアゾール系半導体ポリマーの側鎖アルキル基の組み合わせを慎重に設計することで、分子配向の制御が可能であることを示した。また、この配向制御により、活性層の厚膜化による効率向上が可能であることは非常に興味深く、いかに構造制御が重要であるかを改めて認識させられる。従来、バンドギャップやHOMO-LUMOの制御あるいは主鎖の平面性(結晶性)の制御という観点から半導体ポリマーの開発がなされてきたが、分子配向という要素を分子設計指針に加えることで、今後ますます高性能化が進んでいくことが期待される。

 

 

 

参考文献
[1] (a) A. Facchetti, Chem. Mater. 23 (2011) 733–758. (b) P. M. Beaujuge and J. M. J. Fréchet, J. Am. Chem. Soc. 133 (2011) 20009–20029.
[2] (a) I. Osaka, G. Sauvé, R. Zhang, T. Kowalewski and R. D. McCullough, Adv. Mater. 19 (2007) 4160–4165. (b) I. Osaka, R. Zhang, G. Sauvé, D.-M. Smilgies, T. Kowalewski and R. D. McCullough, J. Am. Chem. Soc. 131 (2009) 2521–2529.
[3] I. Osaka, R. Zhang, J. Liu, D.-M. Smilgies, T. Kowalewski and R. D. McCullough, Chem. Mater. 22 (2010) 4191–4196.
[4] I. Osaka, M. Saito, H. Mori, T. Koganezawa and K. Takimiya, Adv. Mater. 24 (2012) 425–430.
[5] I. Osaka, M. Saito, T. Koganezawa and K. Takimiya, Adv. Mater. 26 (2014) 331–338.

 

 

 

尾坂 格 OSAKA Itaru
理化学研究所 創発物性科学研究センター
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斎藤 慎彦 SAITO Masahiko
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瀧宮 和男 TAKIMIYA Kazuo
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小金澤 智之 KOGANEZAWA Tomoyuki
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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