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Volume 19, No.3 Pages 244 - 250

4. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS

SPring-8低エミッタンス運転の紹介
Low Emittance Operation of the SPring-8 Storage Ring

下崎 義人 SHIMOSAKI Yoshito[1]、佐々木 茂樹 SASAKI Shigeki[1]、早乙女 光一 SOUTOME Kouichi[1]、木村 洋昭 KIMURA Hiroaki[2]、鈴木 基寛 SUZUKI Motohiro[3]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

Abstract
 2013年5月8日より、蓄積リングのユーザー運転用オプティクスが変更され、供給されるエックス線の輝度とフラックス密度が向上した。電子ビームの自然エミッタンス(=位相空間拡がり)は、以前の3.5 nm・rad(ナノ・メートル・ラジアン)から2.4 nm・radに低減され、標準的なビームラインで25 ~ 30%程度の輝度とフラックス密度の向上が確認されている。ここでは加速器運転と放射光利用の両方の観点から2.4 nm・radの低エミッタンス運転について紹介する。
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1. はじめに
 SPring-8をはじめとする放射光施設では、光速近くまで加速された電子が磁場中で曲げられることにより光を生成する。この放射光の特徴は方向のそろった光が狭い領域から生成されることである。
 充分な強度の光を得るには必要な数の電子の集団を電子蓄積リング内で周回させる必要があるが、生成される放射光のサイズおよび角度の拡がりは電子ビームの持つサイズおよび角度の拡がりを反映したものになる(光の波長で決まるサイズおよび角度の拡がりの影響を無視できる範囲を考える)。この電子ビームの拡がりを定量的に評価する際に用いられるのがエミッタンスといわれる量である。
 エミッタンスが小さいほど、小さな光源から方向のそろった放射光が生成されることになり、電子ビーム中の電子数は同じ、すなわち光の総量は同じなので、放射光の輝度が増すことになる。従って、輝度が重要な実験にとってはエミッタンスが小さいほどメリットが大きくなる。
 ここからはエミッタンスについてもう少し詳しく説明するが、加速器分野以外の方には馴染みのない用語等が出てくるかも知れないがしばらくおつきあいいただきたい。
 一般に加速器を設計する際は基準粒子というものを設定する。例えばSPring-8の場合、基準粒子として電子を選択し、電子エネルギーは8 GeV((cpx, cpy, E) = (0 GeV, 0 GeV, 8 GeV))、真空容器の中央((x, y) = (0 mm, 0 mm))を、常に同じ周期(周回時間の偏差 Δt = 0 sec)で通過する、というような感じである1
 しかし実際に加速器を周回する粒子集団を考えると、必ず基準粒子に対して位置方向と運動量方向にばらつきを持つ。全粒子についてこれらばらつきの拡がりを求めたものがエミッタンスとなる2
 ただし、通常は運動量の粒子の進行方向に垂直な成分の代わりに進行方向からの角度を変数として用いる。εxεyをそれぞれ、進行方向に直交する水平、および鉛直方向のエミッタンスとすると、εx = (<Δx>2x'>2 − <ΔxΔx'>2)1/2εy = (<Δy>2y'>2 − <ΔyΔy'>2)1/2で、< >は粒子集団に対する平均の意。故にエミッタンスの単位はメートル・ラジアンとなる3
 詳しい説明は省くが、理想的な蓄積リングの場合、εxは有限値を持つが、εyは0となる(電子の軌道が水平面内にあるため)。実際のリングでは様々な誤差磁場の影響で水平方向の運動が鉛直方向に結合し(この結合度をκで表す)、鉛直方向のエミッタンスも有限値となる。結合度を用いて、εx = ε0 / (1 + κ)、εy = κ εxと表す。ε0は自然エミッタンスと呼ばれる量で、SPring-8などの電子用の円形加速器では、自然エミッタンスは電磁石の配列・強度(ラティスと呼ぶ)だけで決まる。
 SPring-8蓄積リングでは、2003年に6.7 nm・radから3.4 nm・radへの低エミッタンス化が行われている。これは電磁石の並びは同じ(=ラティスは同じ)で、電磁石の励磁量(=オプティクスと呼ぶ)を変えた[1][1] 田中均、大熊春夫、熊谷教孝:SPring-8利用者情報 Vol.8 No.2 (2003) 84.。その直後、電子ビーム廃棄時に、オプティクス変更に伴う真空トラブルを生じ、6.7 nm・radのオプティクスに戻して運転が再開された。
 真空系に改良を施し、2005年にトップアップ運転が行われることとなったが、このときに実は3.4 nm・radから2.5 ~ 2.6 nm・radへの更なる低エミッタンス化が試験されている[2][2] 田中均 他:SPring-8 internal report ACC-MEMO 2005-04.。当時は入射効率が低く、またビーム寿命も短かったため、更なる低エミッタンス化への試みは断念され、3.4 nm・radのオプティクスでトップアップ運転が開始された[3][3] 田中均 他:SPring-8利用者情報 Vol.11 No.2 (2006) 87.
 その後、長直線部への6極電磁石追加[4][4] K. Soutome et al.: Proc. of EPAC08, THPC070 3149.やオプティクス歪み補正用トリム4極電源の追加[5][5] 2005年当時は、4極補助電源は13台だったものを、2006年9月に48台に増設した.など、加速器の性能向上に向けた取り組みが進行した。これらが今回の2.4 nm・radへの低エミッタンス化[6][6] Y. Shimosaki et al.: Proc. of IPAC2013, MOPEA027 133.実現にもつながっていくこととなる。
 以上をまとめると、SPring-8蓄積リングでは、2000年の長直線部導入以降[7][7] H. Tanaka et al.: Nucl. Instrum. Meth. A 486 (2002) 521.、運転に適用されたオプティクスがこれまでに3種類存在する(エミッタンスがそれぞれ6.7 nm・rad、3.4 nm・rad(その後、Dゾーン長直線部へのID43導入に伴うラティスの改造により、自然エミッタンスが3.5 nm・radになった)および2.4 nm・rad)。以下ではぞれぞれのオプティクスをDBA-6.7、DB-3.5およびDB-2.4と呼ぶ(DBはDouble Bend、AはAchromatの略である)。

_____________________________________

1 水平方向、リングの外向き(SPring-8の実験ホール側と山側でいうと実験ホール側)をx > 0、鉛直方向上向きをy > 0とする。cpは光速と運動量の積。

2 加速器内の電子の拡がりは(Δx, Δpx, Δy, Δpy, Δt, ΔE)と6次元位相空間内の拡がりで表すことができる。位相空間とは、空間座標とそれに共役な運動量(時間に対してはエネルギー)を座標軸とする空間である。電子の集団がこの空間内に占める体積のことをエミッタンスという。

3 本来は、εx = (<Δx>2px>2 − <ΔxΔpx>2)1/2, εy = (<Δy>2py>2 − <ΔyΔpy>2)1/2であるが、(x', y') = (px/pz, py/pz) = (tanθx, tanθy) ~ (θx, θy)と、正準運動量(px, py)から角度(x', y')にスケール変換するのが一般的である。(pzは進行方向の運動量である。)

 

 

 

2. DB-2.4の設計について
 DBA-6.7、DB-3.5およびDB-2.4の主要パラメーターを表1に、またラティス関数を図1に示す。図1のβはベータ関数、Dは分散関数で、電子ビームのエミッタンスをε、エネルギーばらつきの幅(RMS値)をσΔE/Eと定義すると、電子ビームの幅(RMS値)は

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と記述することができる。

 

表1 SPring-8蓄積リングの主要パラメーター
DBA-6.7 DB-3.5 DB-2.4
Energy 8 GeV
Natural emittance 6.67 nm・rad 3.49 nm・rad 2.41 nm・rad
σΔE/E 0.11%
Tune (Qx, Qy) (40.15, 18.35) (40.14, 19.35) (41.14, 19.35)
Natural chromaticity (-91, -42) (-88, -42) (-117, -47)

 

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図1 (a) DBA-6.7 (b) DB-3.5および(c) DB-2.4のラティス関数

 

 

 今回のDB-2.4の特徴として、「挿入光源のギャップの開閉でエミッタンスが変わらない」という点があげられる。ユーザー運転中、「他のビームラインで挿入光源のギャップが変わっても、ユーザーの実験条件(=電子ビームのエミッタンス)が変わらないように」かつ「挿入光源のギャップ条件によらず常に3.5 nm・radよりもエミッタンスが小さくなるように」、βDの最適化を行った(図2)。現状、オプティクスの変更(3.5⇔2.4 nm・rad)は電磁石の設定電流値の変更だけで行うことができ、1時間ほどで切り替えることができる。

 

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図2 SPring-8標準アンジュレータを最小ギャップまで閉めたときのエミッタンス変化(計算)。横軸は標準アンジュレータの仮想台数で、DB-2.4では挿入光源ギャップに対するエミッタンスの依存性がほとんど無いことがわかる。

 

 

 SPECTRA[8][8] T. Tanaka and H. Kitamura: SPECRA code ver. 9.02 (2012).で計算した、それぞれのオプティクスでの、SPring-8標準アンジュレータから発せられるエックス線の輝度とフラックス密度の比較を図3に与える。絶対量で比較すると、DBA-6.7からDB-3.5に切り替えた際の増分と同程度の輝度・フラックス密度の増分が、DB-3.5からDB-2.4への切り替えで期待できるという結果となった。

 

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図3 DBA-6.7、DB-3.5およびDB-2.4における(a) 輝度と(b) フラックス密度。SPECTRAによる計算。

 

 

3. 加速器パフォーマンス
 今回のDB-2.4では、垂直方向ビームサイズの低減(線形カップリング補正[9][9] M. Takao et al.: Proc. of IPAC2012, TUPPC016 1191.および垂直方向分散関数補正)、バンプ電磁石駆動時の蓄積ビーム(=光源)の振動抑制[10,11][10] C. Mitsuda et al.: Proc. of IPAC2014, MOPRO082.
[11] K. Fukami et al.: Nucl. Instrum. Meth. A 694 (2012) 1.
、バンチフィリング安定性の確認等、一連の加速器調整を行い、トップアップ入射が可能であることを確認した上で、2013年1月26日にビームライン試験利用を行った。その結果、運用には問題がないことが確認されたため、2013年5月8日よりDB-2.4をユーザー運転に適用した。
 加速器性能について、加速器診断用ビームラインI(BL38B2)[12][12] S. Takano et al.: Proc. of IBIC2012, MOPB52 186.で評価を行った(高輝度光科学研究センター加速器部門の高野史郎氏および正木満博氏に測定いただいた)。エックス線プロファイルモニター[13][13] S. Takano et al.: Nucl. Instrum. Meth. A 556 (2006) 357.を用いてビームプロファイルを測定した。プロファイル例を図4に与える。ビームプロファイルからRMSビームサイズが求まり、応答関数解析等によって得られたラティス関数からエミッタンスが求まる。結果を表2に示す。概ね設計値通りのエミッタンスが得られている。

 

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図4 加速器診断用ビームラインI(BL38B2)で測定したビームプロファイル例 (a) DB-3.5および (b) DB-2.4

 

 

表2 測定結果から得られたエミッタンス
DB-3.5 DB-2.4
Hor. emit.εx (nmrad) 3.55 2.55
Ver. emit.εy (pmrad) 20.1 13.8
Nat. emit. (nmrad) measurement / design 3.57 / 3.49 2.57 / 2.41

 

 

 加速器診断用ビームラインII(BL05SS)[12][12] S. Takano et al.: Proc. of IBIC2012, MOPB52 186.のID05(λu = 76 mm, N = 51)[14][14] M. Masaki et al.: AIP Conf. Proc. SRI2009, 1234 (2010) 560.を用いて、10 keV光子(K = 1.666, 3rd harmonic)のフラックス密度測定を行った(スリット位置:発光点から92.275 m、スリット幅:0.37 mm × 0.37 mm(4 μrad角相当))。DB-3.5からDB-2.4に切り替えることで、フラックス密度が1.3倍増大するとの結果を得た(図5)。これはSPECTRAの計算結果とよく一致する。

 

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図5 加速器診断用ビームラインII(BL05SS)で測定された、ID05からの10 keV 光子のフラックス密度

 

 

 2013年5月8日のDB-2.4のユーザー運転適用後もマシンスタディや加速器調整等で加速器のブラッシュアップは続けられている。そのひとつの例として、ビーム寿命に関する最新の調整結果[15][15] M. Takao, K. Kaneki, Y. Shimosaki and K. Soutome: Proc. of IPAC2014, MOPRO083.を図6に示す(高輝度光科学研究センター加速器部門の高雄勝氏にデータをいただいた)。ビーム寿命はトップアップ運転を維持するために重要なパラメーターとなる。RF電圧が定常値の16 MVのとき、DB-3.5で29.2時間あったビーム寿命(バンチ電流値1 mA時の寿命で、バンチ体積で規格化してある)が、DB-2.4に切り替えた直後は14.7時間にまで減少した。トップアップ運転継続に問題はないものの、電子ビームの長寿命化が課題となっていた。その後の実験・解析で、分散関数の高次項が影響しているということがわかり、それを補正することで、現在はビーム寿命が24.6時間まで回復している。今後もユーザー運転に向けた加速器の高度化は続けられる予定である。

 

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図6 ビーム寿命のRF 加速電圧依存性(測定結果)

 

 

4. 利用側から見た低エミッタンス運転
 ビームラインでの低エミッタンス運転による恩恵は、輝度およびフラックス密度の向上であり、特に挿入光源ビームライン(ID-BL)での効果が期待される。ID-BLでは、電子ビーム性能がSRビームの性能に直接反映される。そのため、電子ビームのエミッタンスが小さくなると、光源サイズもSRビームの発散角も縮小される。その結果、試料位置でのフラックスが増加し、ビームサイズも小さくなる。
 一方、偏向電磁石ビームライン(B-BL)ではおもに水平方向の取込角と電子ビームのエネルギーでSRビーム性能が決まっている。そのため、低エミッタンス化してもSRビームの水平・垂直の発散角は変わらず、フラックスも増加しない。光源サイズは水平・垂直とも、ビームラインの水平取込角・偏向電磁石の曲率・使用する波長の発散角に依存するので、集光ビームサイズが一概に小さくなるとは言えない。
 利用側では低エミッタンス運転導入に向けたスタディを2013年1月に行った。3.5 nm・radの通常運転と2.4 nm・radの低エミッタンス運転を同じ日に行い、低エミッタンス化によるSRビーム性能や機器への熱負荷等についての比較データを収集することを目的とした。このスタディには、20本程度のビームラインが参加した。その結果、どのID-BLにおいてもユーザー利用の条件において試料位置で10%程度のフラックスの増大が観測された。スリットを絞った擬似的なピンホールカメラ光学系による測定では最大25%の強度増大が見られ、これは光源輝度の増加分によく対応している。B-BLではフラックスに変化はなかった。また、低エミッタンス運転では通常運転と比べて問題となるような性能低下等はID-BL、B-BLともに認められなかった。
 ここでは、その中から硬X線アンジュレータビームラインBL39XUでの結果を紹介する。図7にアンジュレータの光源スペクトルの比較を示す。フロントエンド(FE)スリットサイズ(光源から29 mに設置)は通常使われる0.5 × 0.5 mm2で(17 μrad角相当)、液体窒素冷却のSi111モノクロメータを使用している。同じIDギャップ値に対して、低エミッタンス化によってスペクトル幅はわずかに減少し、ピーク強度は5%の増加が見られた。この結果はSPECTRAによる計算結果と定性的に一致している。なお、グラフの数ヵ所にみられるディップはモノクロメータのグリッチ(同時反射による強度減少)によるものである。

 

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図7 IDスペクトルの比較(BL39XU)

 

 

 図8はFEスリット位置でのビームサイズの比較である。FEスリットの位置スキャンにより、モノクロメータ後での単色X線強度を使って計測した。測定中のスリット幅は0.1 mmである。水平方向に関しては、13%(FWHM 1.08→0.94 mm)のビームサイズの減少が見られたが、垂直方向の変化は見られなかった。

 

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図8 FEスリットにおけるビームサイズの比較(BL39XU)

 

 

 BL39XUにはサブマイクロビーム生成のためのKBミラーシステム[16][16] 鈴木基寛 他:SPring-8利用者情報 Vol.16 No.3 (2011) 201.があり、その集光特性も比較した。モノクロメータ下流のTC1スリットを仮想光源として用い、スリットサイズは水平54 μm、垂直5 mm(垂直方向は全開)とした。垂直方向に関しては、光源像を直接投影する配置を用いており、低エミッタンス化によって特に垂直方向の集光ビームサイズが小さくなることを期待した。金ワイヤーのエッジスキャンで評価したビーム形状を図9に示す。水平・垂直ともビームサイズの変化は見られなかった。光源サイズ縮小による垂直方向の集光サイズの明確な変化が観測されなかったのは、モノクロメータやKBミラーなど光学系の振動による影響と考えられる。ただし、集光ビーム強度は10%の増加が見られた。これは光源の発散角が小さくなったことにより、FEスリットや仮想光源スリットを通過する強度が増し、スループットが向上したためと考えている。

 

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図9 KB ミラーによる集光ビームの形状の比較(BL39XU)

 

 

 上記以外の点について、当初はビームフットプリントの減少にともなうパワー密度の増大による光学素子への熱負荷の影響が心配されたが、モノクロメータ結晶の温度上昇は無視できる範囲であった。また水平方向ビームサイズの減少により、トップアップ入射の瞬間のビーム変動が目立つようになるのではないかという懸念もあったが、今のところ問題となっていない。
 このスタディの好結果を受けて、2013A期5月から2.4 nm・radの低エミッタンス運転がユーザー利用に提供された。通常、低エミッタンス運転で想定される最大の問題は蓄積電流寿命の低下だが、安定なトップアップ運転が今回の低エミッタンス化においても実現されているため、その心配はない。思えば、最初の低エミッタンス化(6.7→3.4 nm・rad)が実施された2003年には、まだトップアップ運転が導入されておらず、寿命低下による影響(セベラルバンチ運転時は半日で蓄積電流値が半分になり、1日2回入射)を考える利用側と加速器側で喧々諤々の議論があった。当時と異なり、今回の改良では利用側は利点のみを享受できるため、大変スムーズな導入となった。


5. おわりに
 今回のSPring-8蓄積リング(88台の偏向電磁石で構成)のラティス切り替え(DB-3.5→DB-2.4)に際し、世界の大型放射光施設と比較してみる。アメリカのAPS(偏向電磁石の台数は80台)が電子エネルギー7 GeVで自然エミッタンスが2.5 nm・rad[17][17] http://www.aps.anl.gov/Accelerator_Systems _Division/Accelerator_Operations_Physics/ SRparameters/SRparameters.html、ヨーロッパのESRF(偏向電磁石の台数は64台)が6 GeVで4.0 nm・rad[18][18] http://www.esrf.eu/Accelerators/Performanceといったところである。自然エミッタンスは電子エネルギーの2乗に比例し、偏向電磁石台数の3乗に反比例するので、各施設の比較のため、自然エミッタンスをこれらで規格化すると、APSの規格化エミッタンスが105.7、ESRFは117.4、SPring-8のDB-3.5が149.8で、DB-2.4が103.5となる(単位はいずれもnm・rad / GeV2 / rad3)。SPring-8をDB-3.5からDB-2.4へ切り替えたことで、世界の大型放射光施設から見て、いい所にいったのではないかと思う。ただ昨今、世界各地で、より低エミッタンスを目指したリングが設計中・建設中である。SPring-8も負けないように、0.2 nm・rad以下の極低エミッタンスリング(SPring-8 II)を現在検討中である。

 

 

 

参考文献
[1] 田中均、大熊春夫、熊谷教孝:SPring-8利用者情報 Vol.8 No.2 (2003) 84.
[2] 田中均 他:SPring-8 internal report ACC-MEMO 2005-04.
[3] 田中均 他:SPring-8利用者情報 Vol.11 No.2 (2006) 87.
[4] K. Soutome et al.: Proc. of EPAC08, THPC070 3149.
[5] 2005年当時は、4極補助電源は13台だったものを、2006年9月に48台に増設した.
[6] Y. Shimosaki et al.: Proc. of IPAC2013, MOPEA027 133.
[7] H. Tanaka et al.: Nucl. Instrum. Meth. A 486 (2002) 521.
[8] T. Tanaka and H. Kitamura: SPECRA code ver. 9.02 (2012).
[9] M. Takao et al.: Proc. of IPAC2012, TUPPC016 1191.
[10] C. Mitsuda et al.: Proc. of IPAC2014, MOPRO082.
[11] K. Fukami et al.: Nucl. Instrum. Meth. A 694 (2012) 1.
[12] S. Takano et al.: Proc. of IBIC2012, MOPB52 186.
[13] S. Takano et al.: Nucl. Instrum. Meth. A 556 (2006) 357.
[14] M. Masaki et al.: AIP Conf. Proc. SRI2009, 1234 (2010) 560.
[15] M. Takao, K. Kaneki, Y. Shimosaki and K. Soutome: Proc. of IPAC2014, MOPRO083.
[16] 鈴木基寛 他:SPring-8利用者情報 Vol.16 No.3 (2011) 201.
[17] http://www.aps.anl.gov/Accelerator_Systems_Division/Accelerator_Operations_Physics/SRparameters/
  SRparameters.html

[18] http://www.esrf.eu/Accelerators/Performance

 

 

 

下崎 義人 SHIMOSAKI Yoshito
(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
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