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Volume 19, No.4 Pages 338 - 345

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPring-8シンポジウム2014報告
SPring-8 Symposium 2014 Report

久保田 佳基 KUBOTA Yoshiki

SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)担当幹事/大阪府立大学大学院 理学系研究科 Graduate School of Science, Osaka Prefecture University

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はじめに
 去る9月13日、14日の2日間にわたり、東京大学弥生講堂において「SPring-8シンポジウム2014 -SPring-8による科学・技術の新次元New dimension of Science and Technology using SPring-8-」が、SPring-8ユーザー共同体(以下、SPRUC)、高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)、理化学研究所(以下、理研)、東京大学の4者の主催により開催されました。会場の弥生講堂は木の質感を活かしたデザインの美しい建物でした(写真1)。講演会場の一条ホールは収容人数300名余りのホールでしたが、実行委員会の予想をはるかに上回る総計382名の参加があり、常時満席の状態でした。SPRUC発足以来、大阪大学、京都大学と続いた第3回目のシンポジウムは、代表機関のひとつである東京大学にホストをお引き受けいただきました。東京大学は日本初の放射光利用専用リングの建設から現在の放射光連携研究機構の運営に至るまで、放射光科学と密接な関わりを持ちながら構造生物学、物質科学など様々な分野でSPring-8を活用した研究成果を挙げています。今回のシンポジウムではそれらの研究成果を中心として、新次元を意識したSPring-8の生物科学や物質科学への応用、そして、産業との連携などのセッションが組まれました。さらに新しい試みとしてユーザーのためのビームラインセレクションガイドも設けられ、2日間にわたって密度の濃い熱い議論がなされました。

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写真1 講演会場一条ホールの様子


Session I オープニングセッション
 オープニングセッションでは、高原淳会長からの開会挨拶に続いて施設側より理研の坪井裕理事が挨拶しました。光源の高性能化への国際競争の激化に対応するために放射光科学総合研究センターに回折限界光源設計検討グループを設置したこと、また、理研各センターの国際評価においてもSPring-8の次期計画については期待が大きいことを紹介しました。続いてJASRIの土肥義治理事長より挨拶がありました。JASRIでは利用者支援体制の組織変更と利用制度の見直しを行ったことを紹介しました。前者についてはタンパク質構造研究の成果創出の強化のため、新たにタンパク質結晶解析推進室を設置したことを紹介しました。また、利用制度については、環境保全や除染、防災、科学捜査、食の安全、美術・芸術、文化財、考古学などこれまでSPring-8とは直接つながっていなかった分野を想定した課題種や分科会を新設し、新規の利用者を開拓していきたいと述べました。次にホストの東京大学の松本洋一郎理事から挨拶がありました。東京大学が物性研SOR-RING建設から放射光科学をリードし、世界最高性能の軟X線を提供するSPring-8アウトステーションの実現につながっていると述べました。そして、放射光を利用する科学、分野は産学官にわたり益々大きくなっていくと思われるが、SPring-8が我が国の科学・産業にとってなくてはならない施設であることをSPRUCの活動を通じて示していくことが重要であると述べました。
 最後に文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子放射線研究推進室の工藤雄之室長よりご挨拶をいただきました(写真2)。国の予算は厳しい状況にあるが、その中でSPring-8はユーザーの皆様の努力により高い評価を受けていると説明されました。SPRUCには放射光将来ビジョン白書を提出いただいたが、国の財政状況も踏まえつつ、今後放射光がどうあるべきか考えていく必要があり、また、ユーザーの皆様にはSPring-8を支えている多くの成果をわかり易く説明する努力を一層進めていただき、SPring-8の放射光が我が国の産業、学術、イノベーションに寄与することを認知していただくことが重要であると述べられました。

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写真2 文部科学省 量子放射線研究推進室 工藤雄之室長の挨拶


Session II 施設報告
 初めに、理研放射光科学総合研究センターの石川哲也センター長が、「SPring-8のこれから」と題して講演しました。播磨サイトはSPring-8とSACLAを有する世界最先端の研究基盤となっており、高エネルギーPhoton Scienceの世界的拠点であるべきであると述べました。SPring-8とSACLAの光を組み合わせることによって、「何が起こっているのか」だけでなく、「なぜ起こっているのか」に答えることができる、それはすなわち原子レベルで理想的なサンプルを作るのではなく、実際に働いている状態での測定を行うことによって、「なぜ」を解明することができるのではないかと期待していると述べました。また、ロードマップを示し、SPring-8次期計画の回折限界光源から将来的にはLaser-Driven XFEL、さらにはリング型のFELに至るまでの先端光源の将来像についても紹介しました。
 次にJASRI利用研究促進部門の高田昌樹部門長が、「社会が求めるSPring-8」と題して講演しました。SPring-8は物質・材料、生命科学、産業利用など多くの分野をカバーし、ユーザーの皆様の不断の努力のおかげで利用者数、実験課題数ともに順調に増加して飽和状態にあり、トップクラスの研究が行われていると述べました。これまでの発展の中には、理研と阪大が開発した大阪ミラーがナノビームやコヒーレントX線の成果を生むきっかけとなっていて、最近の元素戦略の磁性材料研究拠点としてSPring-8のナノビームで軟X線MCD(磁気円二色性)の実験ができるようになったことを紹介しました。課題解決型イノベーションサイクルとしてフロンティアソフトマター連合体BLの成果が紹介され、低燃費タイヤのプロセスエンジニアリングの可視化により国内3社それぞれが低燃費タイヤを開発し、日本のグローバルマスターブランドになっていることを紹介しました。最後に、日本の科学技術のジャンプを起こすような研究が期待される内閣府のImPACTプログラムについても紹介しました。12人のプログラムマネージャーのうち4人がSPring-8またはSACLAに関わっていてその重要性が認識されているが、施設側としても将来のことを考えつつ、ジャンプが必要であり、ユーザーの皆様とともにいろいろな大きな課題に取組んでいきたいと述べました。


Session III 放射光の生物科学への応用
 初めに、東京大学 分子細胞生物学研究所の豊島近教授が、生物科学研究についてのオーバービューを講演しました。タンパク質がどう動いているかを観測するために初期の頃、放射光のパルス光源を利用した白色ラウエ法が使われていたこと、そして、酵素反応の活性化が熱による場合、試料の温度を下げることにより動きを抑制して反応を追跡できることを示しました。最近はSACLAを用いた実験により反応の中間状態がわかりつつあり、kineticsが理解されてきたが、そのためには膨大な結晶の数とビームタイムが必要であると述べました。
 東京大学 新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授は、マイクロ秒X線による1分子計測について講演しました。1分子計測は1990年代には、いかにして高速化、高感度化するかが課題であったが、そこで発展してきた技術は日本発の技術であることを紹介しました。ラベルしたナノ結晶のX線回折を利用する手法は、1 mm・rad程度の微小な動きも容易に観測することが可能であるが、ラベルしたナノ結晶とタンパク質の環境をよく見ることが重要であると指摘しました。そして、非常に混沌としたデータに対して統計的処理をし、さらに差分をとるなど工夫することによって膜タンパク質の動きを見事に観測した例を紹介しました。
 理研放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部の平田邦生専任技師は、理研のターゲットタンパクBLの技術開発について講演しました。BL32XUでは、これまでSPring-8で開発されてきた最先端技術を集積することにより、世界最小の微小結晶の構造解析が可能なBLになっていることを示しました。照射損傷の問題も、小さなビームを使った多点露光により回避して、格段に良質なデータが得られるようになったことや、高速X線CCD検出器の導入による視認困難な結晶のアライメント、そしてそれを使った結晶探索の効率化についても紹介しました。さらにBL41XUにおいては、微小結晶から大きなサイズの結晶まで対応可能な高フラックス化アップグレードを完了したことも紹介しました。
 東京大学 理学系研究科の濡木理教授は、膜輸送体タンパク質の高分解能X線結晶構造解析について講演しました。膜タンパク質を脂質に埋め込んで結晶化する方法により様々な構造を解くことが可能となったことを示し、実に多くのインパクトのある結果を紹介しました。MATEと呼ばれる薬物の排出を行う物質では、薬剤の複合体の結晶構造解析により、薬物認識部位が曲がって薬剤を排出する機構が明らかになり、その様子をムービーで示しました。


Session IV SPring-8の多彩なビームラインのセレクションガイド
 今回のシンポジウムでは、ユーザーが研究テーマに対してどのようなBLを利用することが可能であるかをわかり易く紹介する目的で、BLのセレクションガイドのセッションが設けられました。初めにJASRI利用研究促進部門の藤原明比古副部門長が、「物質・材料研究のための空間ピンポイント計測」という題目で講演しました。SPring-8の光源の利用は、吸収・透過、蛍光、回折・散乱、光電子など様々あるが、それぞれにおいて高空間分解能化の要望があり、例えば、KBミラーやフレネルゾーンプレートを利用することにより、現在は100 nmの空間分解能でのルーチン的な測定が可能になっていることを紹介しました。また、イトカワ試料の分析ではラウエ回折をエネルギースキャンすることによって、試料の部位によって異なる結晶の状態を解析する新しい手法も生み出されていることを紹介しました。
 次に、JASRIタンパク質結晶解析推進室の八木直人室長が、生命科学研究における時分割測定について講演しました。時分割計測はオーダーメイドで1つ1つ異なっているため、ユーザーがスタッフとともに実験をデザインする必要があると述べました。X線シャッターを用いたパルス時分割実験では、およそ100 psオーダーの時間分解能でタンパク質の測定が可能となっているが、測定効率に難があり、照射ダメージもあるために、たくさんの結晶が入手可能なタンパク質でなければ難しいという試料の制限があると説明しました。そして、現象の緩和時間がどのくらいであるかを知ることが重要であり、それを踏まえてBLセレクション以前にFacilityセレクションが必要であると述べました。これまでの研究開発により、時分割実験の技術は完成度が高く可能な実験は様々あるが、重要なことは興味ある試料、テーマを見つけてくることであり、その点はユーザーの皆様に大変期待が大きいと述べました。
 同じく推進室の熊坂崇副主席研究員は、構造生物学研究のための結晶回折測定について講演しました。構造生物学では0.1 nmから10 µm程度の幅広いスケールが対象となり、最終的にはそれらの動的な構造解析が必要であるが、まずは静的安定構造を解明して分子間相互作用を理解し、さらに創薬やタンパク工学では構造に基づいたデザインがなされることを説明しました。高精度データを測定するためには、結晶性、X線照射による損傷やラジカルの生成など注意点が多数あり、それらを踏まえてビームラインを選択する必要があると述べました。挿入光源BLでは微小結晶測定や低回折能の高難度結晶からの高精度測定、高速検出器を活かした迅速測定が想定され、また、偏向電磁石BLでは扱いやすい安定なビームを利用した遠隔実験やメールインサービスが可能となっていることを紹介しました。加えてタイムリーな利用に対応するために、BLの運用ルールが今後改訂されることも紹介しました。
 最後に、JASRI XFEL利用研究推進室の犬伏雄一研究員が、SACLAの実験について講演しました。SACLAの利用成果として、生きた細胞のフェムト秒スナップショットや放射線損傷のないタンパク質結晶構造解析、X線非線形光学現象の観測について紹介しました。SACLAの高度化についての説明の後、Serial Femtosecond X-ray Crystallography(SFX)と呼ばれるインジェクターにより連続的に試料を供給し、シングルショットでデータを測定する手法を紹介しました。SFXのための汎用プラットフォームの構築により、様々な液体インジェクターの利用やシングルショット計測の技術を盛り込める環境ができていることを紹介しました。今後は、SACLAで培った実験技術や装置をSPring-8にも展開して、さらなる発展を目指したいと述べました。


Session V 放射光の物質科学への応用
 東京大学物性研究所の辛埴教授は、「放射光を用いた電子状態の研究」と題して、軟X線分光を取り巻く現状やそれを利用した研究例について紹介しました。光電子分光により実証されたトポロジカル絶縁体は、現在デバイス開発にまで進んでいることや、軟X線発光分光により固体中の振動励起やスピノン、マグノンが運動量空間で観測可能であることを紹介し、これらはひとえに100 meVを切る超高分解能により可能となっていると説明しました。また、FELによる時間分解分光や軟X線回折法にも言及したが、日本の放射光施設において共鳴非弾性X線散乱(RIXS)の高分解能化は喫緊の課題であることを最後に指摘しました。
 続いて、東京大学 新領域創成科学研究科の篠原佑也助教が、「次世代X線散乱法の開発-非晶性物質の時空間構造解析に向けて」と題して、広い階層構造とスケールを持つソフトマターにおける構造解析について講演しました。タイヤのゴムや毛髪を対象とした高輝度X線による小角散乱の例を示したが、コヒーレントなX線を利用することにより平均化されない量を観測することが可能であり、スペックルパターンを解析できればゴム中のナノ粒子のゆらぎが観測できると説明しました。そして、理想系としての結晶に対して、実在系のソフトマターの不均一性や階層構造を、コヒーレンスを活かした時間分解測定により可視化していきたいとの目標を述べました。


Session VI 高度化計画とSPRUC
 初めに、雨宮慶幸前会長がSPRUC放射光科学将来ビジョン白書について講演しました。SPring-8の計画開始からSPRUC発足までの経緯、SPRUC組織の枠組みについて紹介があり、SPRUCが14,000人の会員からなる組織になると同時に大学や研究機関からも認知、関心を持たれる組織になりつつあると説明しました。そして、放射光科学将来ビジョン検討部会では、世界の放射光施設の最近の動向を見ながらSPring-8が今後どうあるべきか、そして日本の放射光施設の中でどう位置付けるか、日本全体を俯瞰した放射光計画グランドビジョンを策定したことを説明しました。その中で特に、人材育成の視点も含めた国内施設の整備と連携の重要性や科学技術・産業イノベーションサイクルの観点からも、放射光が社会から見て必要なものであると認識してもらえるようにユーザー皆が考えていくことが大切であると述べました。
 続いて、理研放射光科学総合研究センター 回折限界光源設計検討グループの田中均グループディレクターが、SPring-8高度化計画の現状について講演しました。SACLAとSPring-8は相補的なものであり、観測対象や光の特性が異なっているが、SPring-8のアップグレードは光の特性のギャップを埋めるものであると説明しました。目標としてはエミッタンス100 pm・rad、蓄積電流100 mAを目指しており、アップグレードのコンセプトや条件、方法、スケジュールなどについて詳細に紹介しました。現状では克服するべき課題はすべて検討しているが、致命的な問題点は認められず、順調に進んでいると述べました。そして、CDR(Conceptual Design Report)が公開されているのでユーザーの皆様にはぜひご覧いただきたいと紹介しました。


Session VII 基調講演 SPring-8と産業の連携
 今回は、産業界でSPring-8を活用した先端研究を推進している2名の企業研究者の方々に基調講演をしていただきました。初めに、富士通株式会社 未来医療開発センターの松本俊二エグゼクティブリサーチャが、「IT創薬:大規模スーパーコンピュータを活用した構造ベースde novo創薬技術への取り組み」と題して講演しました(写真3)。IT創薬はコンピュータ上で医薬候補分子を設計・評価するものであるが、従来の既存の化合物のライブラリから実験的に探索・解析というアプローチではなく、ゼロから化合物を設計して作りたいとのモチベーションがあり、分子シミュレーションや軌道計算を利用して、タンパク質の作用部位に強く結合する分子の設計を目指していることを説明しました。分子動力学により計算されたサンプルのムービーが示され、タンパク質と結合している周囲の水分子の動きを見ることができました。IT創薬の枠組みとしては、入力情報からたくさんの化合物を作るde novo化合物設計と、その結合活性の高精度予測の組み合わせによりいろいろな構造を提案するものであり、それを受けて実際の化合物合成と活性測定が行われることを説明しました。そして、製薬からは生化学情報や化学合成情報を、IT創薬からは低分子構造を相互に提供する産学連携が行われているが、初めの入力情報にはSPring-8ユーザーの皆様が得た構造に期待が大変大きいと述べました。

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写真3 富士通(株)松本俊二氏の講演

 株式会社東芝 電力・社会システム技術開発センターの佐野雄二技監は、放射光とXFELを利用したレーザーピーニング技術の開発について講演しました(写真4)。原子炉構造物の応力腐食割れの抑制や蒸気タービン動翼の高サイクル疲労対策に関する研究例を紹介したが、レーザーピーニングの基礎プロセスの理解には、塑性変形や残留応力の測定、衝撃波の伝播の確認など時空間ともミクロな情報が得られる放射光とXFELの利用が有効であると述べました。そして、これまで直接見ることが困難であった疲労き裂の成長の非破壊確認や、結晶粒の微細化の時間発展の確認をすることができ、最先端施設が産業競争力の維持・向上に不可欠なツールとなっていると述べました。

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写真4 (株)東芝 佐野雄二氏の講演


Session VIII ポスターセッション
 ポスターセッションは一条ホールのロビーにおいて行われました(写真5)。大勢の参加者に対して会場は若干手狭ではありましたが、活発なディスカッションが行われていたと思います。今回はコアタイムを前半・後半に分けることにより、発表者、質問者双方の機会を確保するようにしたことも効果があったかもしれません。発表件数は、研究会32件、施設・共用BL19件、理研・専用BL22件、JASRI施設高度化15件、PU9件、長期利用課題16件の合計113件でした。

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写真5 ポスターセッション会場の様子


Session IX SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)研究活動報告
 今年度当初の第2期研究会募集において、新たな5つの研究会が発足しました。各研究会が5分という短い時間ではありましたが、研究会の目的や活動について紹介しました。それぞれ、これまでにない新しい視点での研究会の構成であり、ユーザーが所属する研究会の選択肢が着実に広がっていると言えます。その後、中川敦史利用副委員長より分野融合型研究グループについて紹介がありました。研究会組織については一昨年より議論してきたが、ほぼ10倍になった多数の会員からどのように意見を吸い上げていくかが重要な観点であり、そのために4つの研究分野、研究会を設置し、分野・研究領域の世界的動向とSPring-8の状況を踏まえ、戦略に基づいた提言を施設に対して行えるようにすることを目指していると説明しました。また、有識者がプログラムオフィサーや顧問となってトップダウン的に戦略的研究を推進する時限付き分野融合型研究グループについて説明があり、4つのグループのうち2つが近いうちにも立ち上がる予定であると紹介しました。そして、分子機能性材料研究グループの顧問である梶山千里福岡女子大学学長より、研究グループ立ち上げの経緯について紹介がありました。


Session X SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)総会
 SPRUCの活動報告、2013年度決算および2014年度予算報告の後、SPRUC 2014 Young Scientist Award 受賞式が行われました(写真6)。今年度は東京工業大学の野村龍一氏と東京大学の西増弘志氏の2名に授与されました。選考委員長である関西学院大学水木純一郎教授が選考の講評を述べ、この賞は各学会が与える賞とは異なり、SPring-8の特徴を活かした先端技術開発や成果を対象としていることを説明しました。応募者は12名であったが、今後産業界からも若手育成の観点から応募をぜひ期待したいとのメッセージを述べました。今回、野村氏については急遽出席が叶わなくなり大変残念でしたが、彼の受賞理由は、SPring-8の複数のビームラインにおける最先端の装置群を駆使して、地球深部物質の超高圧高温下における振る舞いについて、いくつもの極めて重要な新しい知見を得ることに成功したことでした。例えば、これまで極めて困難だった多成分系の超高圧下における融解温度を精密に決めたことや、融解物質中の鉄のスピン状態を明らかにし、メルト中に鉄が濃縮することとそのメカニズムを解明したことなどです。
 引き続き、西増氏の受賞講演が行われました。彼は核酸を切るCas9と呼ばれるタンパク質の結晶構造解析による作動機構解明について講演しました。ゲノム編集技術は2013年に初めて報告された新しい技術であり、その簡便性から急速に実際の研究の現場で使われていると紹介しました。SPring-8のBL32XUとBL41XUを利用して解かれたCas9タンパク質およびその複合体の結晶構造ももちろん素晴らしいものであるが、それよりもこの研究がチューリッヒのグループと激しい競争の中で行われ、2012年のCas9の発見以来、非常に短期間で双方が論文発表を繰り返し、鎬を削ったというドラマに私たち聴衆も引き込まれました。

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写真6 SPRUC 2014 Young Scientist Award 受賞者


Session XI クロージングセッション
 クロージングセッションでは、雨宮慶幸組織委員長より閉会の挨拶がありました。来年は9月19日、20日の日程で九州大学にて開催が予定されていることを紹介しました。このシンポジウムも年々参加者が増え、SPring-8を盛り上げるSPRUCの活動やシンポジウムがますます重要になってきていると感じていて、来年のさらなる盛会への期待とともにシンポジウムの実行に関してご尽力いただいた皆様に対して、心より感謝したいと謝意を述べました。


おわりに
 SPRUCが発足して3回目のシンポジウムを無事終えることができ、ユーザーが集い研究交流する場の提供としては軌道に乗ったように思います。当日の運営は非常にスムーズに行われていたと思います。JASRI、理研の事務の方々も準備段階から深く関わっていただき心より感謝いたします。事務方は過去のSPrng-8シンポジウムにおけるノウハウの蓄積により、運営方法をある程度確立されていることと思いますが、毎回変わる会場の現地実行委員の方々にも、事前準備において多大な労力と時間を割いていただいていると思います。この部分は回数を重ねてもなかなか規格化することは難しい部分であると思いますが、できる限り現地実行委員会の負担を減らし、全国各地の代表機関が難なくホストをお引き受けいただけるような体制を作れれば理想的であると思います。
 最後になりましたが、今回ホストをお引き受けいただき、ご協力いただきました東京大学の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。そして、ご参加いただいた皆様を含め、このシンポジウムの開催に関わりましたすべての皆様に感謝の意を表してこの報告を終わります。

 

 

SPring-8シンポジウム2014プログラム
9月13日(土)
Session I オープニングセッション

司会:雨宮 慶幸(SPring-8シンポジウム2014組織委員長、東京大学 教授)

13:00-13:05  開会の挨拶
高原 淳(SPRUC会長、九州大学 教授)
13:05-13:20 挨拶
坪井 裕((独)理化学研究所 理事)
土肥 義治((公財)高輝度光科学研究センター 理事長)
松本 洋一郎(東京大学 理事)
13:20-13:25 来賓挨拶
工藤 雄之(文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子放射線研究推進室 室長)

 

Session II 施設報告

座長:豊島 近(SPring-8シンポジウム2014実行委員長、東京大学 教授)

13:25-13:40 SPring-8のこれから
石川 哲也((独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター センター長)
13:40-13:55 社会が求めるSPring-8
高田 昌樹((公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 部門長)
13:55-14:05 休憩

 

Session III 放射光の生物科学への応用

座長:山本 雅貴((独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部 部長)

14:05-14:35 蛋白質科学と放射光
豊島 近(東京大学 分子細胞生物学研究所 教授)
14:35-15:05 マイクロ秒X線1分子追跡法とその広域的利用
佐々木 裕次(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授)
15:05-15:35 タンパク質微小結晶構造解析の現状と展望
平田 邦生((独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部 専任技師)
15:35-16:05 脂質キュービック相結晶化法および高輝度シンクロトロン放射光を用いた膜輸送体タンパク質の高分解能X線結晶構造解析
濡木 理(東京大学大学院 理学系研究科 教授)
16:05-16:15 休憩

 

Session IV SPring-8の多彩なビームラインのセレクションガイド

座長:水木 純一郎(関西学院大学 教授)

16:15-16:40 物質・材料研究のための空間ピンポイント計測
藤原 明比古((公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 副部門長)
16:40-17:05 生命科学研究のための時分割計測
八木 直人((公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室 室長)
17:05-17:30 構造生物学研究のための結晶回折測定
熊坂 崇((公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室 副主席研究員)
17:30-17:55 SACLAがもたらす新たな放射光科学とSPring-8への展開
犬伏 雄一((公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 研究員)

 

 9月14日(日)
Session V 放射光の物質科学への応用

座長:有馬 孝尚(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授)

 9:00- 9:30 放射光を用いた電子状態の研究
辛 埴(東京大学物性研究所 放射光連携研究機構 教授)
 9:30-10:00 次世代X線散乱法の開発 - 非晶性物質の時空間構造解析に向けて
篠原 佑也(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 助教)
10:00-10:10 休憩

 

Session VI 高度化計画とSPRUC

座長:西堀 英治(SPRUC企画幹事、筑波大学 教授)

10:10-10:40 SPRUC放射光科学将来ビジョン白書の報告 - SPRUCのこれまでの活動と今後を託して -
雨宮 慶幸(SPRUC前会長、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授)
10:40-11:10 SPring-8高度化計画の現状
田中 均((独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター 回折限界光源設計検討グループ グループディレクター)

 

Session VII 基調講演 SPring-8と産業の連携

座長:高尾 正敏(SPRUC渉外幹事、大阪大学 教授)

11:10-11:40 IT創薬:大規模スーパーコンピュータを活用した構造ベースde novo創薬技術への取り組み
Structure and Simulation based de novo drug design technology.
松本 俊二(富士通(株)未来医療開発センター エグゼクティブリサーチャ)
11:40-12:10 レーザーピーニング技術の開発・実用化における放射光とXFELの活用
佐野 雄二((株)東芝 電力・社会システム技術開発センター 技監)

 

Session VIII ポスターセッション(一条ホールロビー)

12:10-14:10
SPRUC研究会 32件
施設・共用BL 19件
理研・専用BL 22件
JASRI施設高度化 15件
PU 9件
長期利用課題 16件

 

Session IX SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)研究活動報告

座長:中川 敦史(SPRUC利用副委員長、大阪大学 教授)

14:10-14:35 新規研究会紹介
企業利用研究会の概要
巽 修平(企業利用研究会 代表、川崎重工業(株)テクニカルアドバイザー)
複数ビームライン横断利用と革新的分子集積マテリアルの創製
高谷 光(革新的分子集積マテリアル研究会 代表、京都大学化学研究所 准教授)
DDSナノ粒子の物性評価と薬事審査
櫻井 和朗(放射光を用いた薬物輸送と体内動態に関する研究会 代表、北九州市立大学 教授)
軟X線による実環境下反応その場計測研究会の設立
雨澤 浩史(軟X線による実環境下反応その場計測研究会 代表、東北大学 教授)
光・磁性新素材産学連携研究会の設立と活動計画
井上 光輝(光・磁性新素材産学連携研究会 代表、豊橋技術科学大学 副学長)
松原 英一郎(光・磁性新素材産学連携研究会 副代表、京都大学 教授)
中村 哲也(光・磁性新素材産学連携研究会、(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門)
14:35-15:15 分野融合型研究グループについて
15:15-15:25 休憩

 

Session X SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)総会

司会:原田 慈久(SPRUC庶務幹事、東京大学物性研究所 准教授)

15:25-15:40 SPRUC活動報告、2013年度決算・2014年度予算報告
15:40-15:50 SPRUC 2014 Young Scientist Award 授賞式
15:50-16:10 SPRUC 2014 Young Scientist Award 受賞講演1
Low Core-Mantle Boundary Temperature Inferred from the Solidus of Pyrolite
野村 龍一(東京工業大学 地球生命研究所)
16:10-16:30 SPRUC 2014 Young Scientist Award 受賞講演2
ゲノム編集ツールCas9の作動機構の解明
西増 弘志(東京大学大学院 理学研究科)

 

Session XI クロ-ジングセッション

16:30 閉会の挨拶
雨宮 慶幸(SPring-8シンポジウム2014組織委員長、東京大学 教授)

 

 

 

久保田 佳基 KUBOTA Yoshiki
大阪府立大学大学院 理学系研究科
〒599-8531 大阪府堺市中区学園町1-1
TEL : 072-254-9193
e-mail : kubotay@p.s.osakafu-u.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794