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Volume 19, No.3 Pages 234 - 236

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第5回世界加速器会議(IPAC2014)会議報告
Report of IPAC’14 (The 5th International Particle Accelerator Conference)

持箸 晃 MOCHIHASHI Akira、高雄 勝 TAKAO Masaru

(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI

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 世界加速器会議(International Particle Accelerator Conference, IPAC 2014)が6月15日~20日の期間、ドイツのドレスデン市にあるドレスデン国際会議場で開催された。これまでアメリカ、ヨーロッパ、アジアで開催されていた粒子加速器国際会議をIPACという形で統一して国際会議を開催するようになってから早くも5年が経過した。IPACは毎年開催されており、開催地はアジア、ヨーロッパ、アメリカの順に巡回する。今回は開催地がヨーロッパの年であった。IPACは文字通り世界中の加速器科学の研究者・技術者が一堂に会する国際会議で、今回の会議では37ヶ国から1287人が参加した。また発表件数は、33ヶ国、200以上の研究施設から1405件の発表申し込みがあったとのことであった。1400件もの発表、1200人を超える参加者の大規模な国際会議であるが、会議の進行・運営は至ってスムーズであり、参加した誰もが満足のいく会議であったと思う。会場となったドレスデン国際会議場は十分な広さがあり、口頭発表の会場である大ホール、小ホールとも参加人数に対して席に余裕が見られた。またポスターセッションは1つの大広間にポスター設営場所が3ヶ所に分散してあり、ポスター会場の間に企業展示のブースが並んでいるという配置であった。連日300件程度のポスター発表があったが、発表の分野によって会場が分類してあり、効率よくポスター発表を見て回ることができた。

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  Fig. 1 IPAC'14開催会場のドレスデン国際会議場

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  Fig. 2 ポスターセッションの様子。 ポスターセッションは連日賑わいを見せた。

 会期中は午前9時から昼食を挟んで午後4時まで口頭講演、午後4時から6時までポスターセッションというスケジュールであった。IPACは加速器科学を網羅する会議であるため、放射光源加速器だけではなく素粒子実験用高エネルギー加速器や重イオン加速器等のセッションも設けられている。参考までに口頭講演でのカテゴリーを列挙すると、
 ● Synchrotron Light Sources and FELs
 ● Circular and Linear Colliders
 ● Hadron Accelerators
 ● Beam Dynamics and Electromagnetic Fields
 ● Accelerator Technology
 ● Particle Sources and Alternative Accelerating Techniques
 ● Beam Instrumentation and Feedback
 ● Engagement with Industry
 ● Applications of Accelerators
であり、IPACでカバーする分野はまさに加速器科学全般にわたる。限られた会期中にこれ程広範囲にわたるセッションのプログラムが組まれており、全てのセッションに参加するのは不可能であるが、口頭講演は初日と最終日のプレナリーセッションおよび後述のAccelerator Prize受賞講演を除いてパラレルセッションとなっており、特に興味のあるセッションを選択して参加することができた。以下では、特に放射光源加速器に関連したセッションについて紹介したい。
 初日の午前中には、SLACのR. O. Hettel氏による“Challenges in the Design of Diffraction-limited Storage Rings”という招待講演が行われた。これは昨今の低エミッタンスリングに関するレヴューであった。蓄積リングの場合、得られるビームエミッタンスはラティス(加速器を構成する電磁石群の配置)に依存すると同時にラティス中の偏向電磁石数にも依存し、偏向電磁石の数を増して緩やかに電子ビームを偏向させればビームエミッタンスを低減できる。このラティスはmulti bend latticeと呼ばれており、現在建設が進んでいるMAX-IVを皮切りに世界各地の放射光施設で検討が進んでいる。このmulti bend latticeは、低エミッタンス化を図るためにこれまでにない磁場勾配を持つ四極電磁石や六極電磁石が必要であり、このため電磁石の磁極における磁場の飽和が問題となる。この問題を避けるため、できるだけ磁極をビームに近づける、すなわちビームダクトを細くすることが必要となるが、細いダクトの真空排気のためにはダクトの内側をNEGコーティングする方法が検討されている。また高磁場勾配のためビームが安定に存在できる力学的領域が狭いため、ビーム入射方法や非線形ビーム力学の検討が必要となる。まさに加速器科学の粋を結集して実現できるのが回折限界蓄積リングである。このレヴューだけではなく、ポスターセッションでは複数の放射光施設におけるmulti bend化によるエミッタンス低減の発表があり印象的であった。
 続いて理研の原氏による“Innovative Ideas for Single-pass FELs”という招待講演が行われた。これはSelf-Amplified Spontaneous Emission(SASE)FELに関する幾つかのアイディアのレヴューであり、Seeded FEL、Self-seeded FEL、High-Gain Harmonic Generation(HGHG)、Echo-Enabled Harmonic Generation(EEHG)、improved SASE(iSASE)といったSASE FELのlongitudinal coherenceを向上させる方法が紹介された。また、SASE FELのパフォーマンスを向上させるため、更なる短パルス化、多色FEL発振、マルチエネルギー運転といった方法が紹介された。
 2日目にはSLACのJ. N. Galayda氏によるLCLSの次期計画に関する講演、それに引き続きDESYのM. Vogt氏によるFLASH施設の現状に関する講演があった。LCLSの将来計画に関する講演では、超伝導線型加速器(エネルギー4 GeV)を新たに導入するという内容であった。超伝導線型加速器の導入に伴い、光源であるアンジュレータも更新される。軟X線、硬X線それぞれのアンジュレータを用意し、ビームを高速振り分けして各アンジュレータにビームを供給する。超伝導線型加速器を用いた場合、カバーする光子エネルギーは軟X線では200 ~ 1300 eV、硬X線では1 ~ 5 keVである。また現状の常伝導線型加速器も引き続き新規設置のアンジュレータにビームを供給することが可能な計画となっており、常伝導線型加速器で硬X線用アンジュレータを光源とした場合、25 keVまでのX線をカバーするとのことであった。DESYのFLASH施設の現状の講演では、ビームラインを新たに1本増設(既設ビームラインをFLASH1、新ビームラインをFLASH2と称していた)し、2014年3月からビームラインのコミッショニングが始まったとのことであった。またLow Level RF系システムの更新により、ビームエネルギーおよび位相のジッターが1/2程に低減されたとの報告があった。
 またJASRIの大熊より、GeV領域の準単色ガンマ線発生に関する講演があった。GeV領域のガンマ線は、SPring-8ではBL31LEP、BL33LEPにおいて発生・利用されている。これらのビームラインでは外部からレーザーを蓄積リング内に導入して電子ビームと衝突させ、コンプトン散乱によりGeV領域のガンマ線を発生させるものである。大熊の提案する手法は、結晶を用いて背面反射させたアンジュレータ放射X線を蓄積リング内を周回する電子ビームとコンプトン散乱させてGeV領域のガンマ線を発生させるというものである。レーザーを用いた場合、発生するガンマ線のエネルギースペクトルは低エネルギーからCompton edgeと呼ばれる高エネルギー領域まで幅広いものになるが、アンジュレータ放射による硬X線を用いた場合、電子ビームエネルギーとほぼ等しい準単色のガンマ線スペクトルが得られる。講演では、この手法の鍵となる結晶を用いた背面反射実験について、シリコン結晶を用いた場合の反射X線強度のエネルギー依存性・角度依存性に関する報告がなされた。
 3日目はKEKの山本氏より、極短周期アンジュレータの開発に関する講演があった。これは周期長4 mmのアンジュレータであり、2.5 GeVの電子ビームの場合1次光で12 keVのX線が発生できる。4 mmの周期長を実現するためには、磁石ブロックを並べる方法では不可能なので、磁性体に直接着磁させる方法が採用される。講演の中で山本氏は着磁用の磁気ヘッドを磁性体上に配置し着磁させる方法を採用したと述べ、現時点でビーム軸方向長さ100 mmの磁性体に4 mmの周期長のアンジュレータ磁場の着磁に成功しており、ギャップ幅1.6 mmにおいて4.1 kGの磁場が得られているとのことであった。磁場測定結果も良好で、近い将来実際の電子ビームを用いた試験が待たれるところである。
 IPACは3年に一度ヨーロッパで開催されるが、その際に加速器科学に貢献した3名に著名な加速器科学者の名前が冠されたAccelerator Prizeが授与される。今回は受賞者3名全員が放射光・FELに関連した研究者であり、FELの研究開発に関連した業績でSLACの若手研究者A. Marinelli氏にFrank Sacherer賞が、Max laboratoryで長年にわたり加速器開発(MAX-I~MAX-IV)の主導的役割を担ったM. Eriksson氏にRolf Wideröe賞が、そしてC-band加速管技術・電子銃開発等、広範囲にわたってSACLA建設に貢献した新竹氏にGersch Budker賞が授与され、それぞれ受賞講演が持たれた。特に新竹氏の講演では氏のこれまでの道のりとSACLA建設のエピソードが紹介され、講演の最後に「我々は頂上を目指すのではなく、むしろ研究分野の下支えをしていかなければならない」というメッセージを残した。新竹氏の講演後の拍手はなかなか鳴りやまなかったのが印象的であった。

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  Fig. 3 Accelerator Prize受賞講演を行う新竹氏

 IPAC会期中はブラジルでのワールドカップ開催と重複していたこともあり、IPACの中でもEntertainment Presentationと題して、サッカー全般のこと、またワールドカップの優勝国予想を統計学と確率論を駆使して(?)議論する講演が持たれていた。今回のIPACの開催国はドイツ。この議論の結果、導出された優勝国予想は果たしてどこであったか、ご想像にお任せしたい。
 IPACでの全ての発表のproceedings、また口頭発表のスライドはJACoWのウェブサイト(http://www.jacow.org)で近日中に公開される予定である。興味のある方は是非ご覧いただきたい。次回のIPACはアメリカに渡り、バージニア州リッチモンドで2015年5月に開催される予定である。

 

 

 

持箸 晃 MOCHIHASHI Akira
(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0867
e-mail : mochi@spring8.or.jp

 

高雄 勝 TAKAO Masaru
(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0860
e-mail : takao@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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