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Volume 19, No.1 Pages 33 - 36

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

14th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems(ICALEPCS2013)報告
Report on the 14th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems

山下 明広 YAMASHITA Akihiro

(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI

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 2013年10月7日から11日にわたって、米国サンフランシスコで開催されたICALEPCS 2013(14th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control System)の報告をします。


ICALEPCSとは
 ICALEPCSとはその名前のとおり、加速器と巨大物理実験の制御システムについての国際会議です。ここでの巨大物理実験は、核融合研究、素粒子検出器、電波、光学望遠鏡、重力波検出器などです。これらの巨大化、精密化する科学施設を運転するためには、制御システムが欠かせません。ICALEPCSは長年にわたって巨大科学施設の制御について、唯一の国際会議として成長してきました。
 1983年に第1回がベルリンで開催されてから1年おきに欧、米、アジア・オセアニア地域を巡回して行われています。今回は米国のNIF(National Ignition Facility、国立点火施設)を持つローレンスリバモア研究所が主催しました。これまでの主催者は全て加速器施設でしたが、14回目の今回は加速器施設以外での初の開催ということになります。ローレンスリバモア研究所については後述いたします。


会議前ワークショップ
 会期に先立って、いくつかのプレカンファレンスのワークショップが行われました。
 SPring-8メンバーが参加したのは、Open Hardware Workshop CERNが主導しているOpen hardwareについてのワークショップです。Open hardwareはプロジェクト数、利用者数とも順調に拡大しています。


Motion Control Applications in Large Facilities Workshop
 科学施設で使用されている主にモーターの制御について広い話題を取り上げたワークショップ。SPring-8でもビームラインを中心に多数のモーターが使用されているので、興味深いワークショップです。ステッピングモーターかサーボモーターか、カスタムの制御ハードウェアか市販の制御ハードウェアか、などの論争の一方、市販のハードウェアを使用した場合、そのサポート切れにどう対応すべきなのかなど、泥臭い話題が多岐にわたって話し合われました。


Control System Cyber Security for High Energy Physics Workshop
 科学施設のコンピューターセキュリティについてのワークショップ。これももう4回目を迎えました。当初に比べて、制御系も含めたコンピューター/ネットワークセキュリティについて理解も深まり、前回まで大きな話題であったネットワーク攻撃の話題はありませんでした。
 各研究所の現状報告がありました。ファイアウォールで区画された多層のネットワーク構成は、どこも似たようなものに落ち着いてきているようです。


リモートアクセスと認証について
 多機関での共同研究が増加する現状において、ネットワークセキュリティを確保しつつ、外部の別機関のネットワークにアクセスしたいという相反する要求を満たすのは技術的になかなか難しいことです。SPring-8の杉本が、所外からの加速器/ビームラインネットワークへの安全なアクセスを許すWARCS2システムについて話した他、役割ごとに細かいアクセスを許可するシステムが紹介されました。
 TANGO Workshop ESRFが中心となって、開発が続けられている制御フレームワークのTANGOのワークショップ。TANGOは主にヨーロッパの放射光施設で広く使われています。


会場
 会場は、サンフランシスコのダウンタウンのビジネス街にあるハイアットリージェンシーサンフランシスコホテルでした。
 2013年10月といえば、アメリカ政府のシャットダウンが大きな話題になっていました。主催者をはじめ、参加者にはアメリカの国立研究所のメンバーも多く、部外者としては心配でしたが、実際は何の問題も感じられませんでした。アメリカの加速器関係の国立研究所が政府直営でなかったことが幸いでした。
 会議はホテルの宴会場で行われ、ポスター会場もその周辺でコンパクトにまとまっていました。会議場の広さは十分にあり、参加者の前にテーブルが置かれメモを取るには最適でした。ところが天井が低く大画面のスクリーンが設置できない構造のため、苦肉の策としてスクリーンを左右2画面で同時表示させざるを得なくなっていました。
 そのため、レーザーポインタを使う発表者はどちらのスクリーンを指示しようか戸惑うことになってしまいました。大会場ではレーザーポインタを使わないプレゼンテーションをすべきであるという日頃の筆者の持論が、またもや証明されました。読者の皆様にもこのことを強調したいと思います。


参加者、プレゼンテーション全般
 参加者は全部で610名、そのうち530名が一般参加者。他が企業、学生などです。
 プレゼンテーション全般の印象として、今回の会議でも準備不足と思わせるものが多々あったことは残念です。しゃべりの下手は論外としても、一度仲間にレビューしてもらえば有り得ないだろうというような小さい字で書いてくる者など、少しのリハーサルの手間を惜しんだために研究の内容が理解できない、研究の価値が低く見られてしまうものが散見されたことは非常に残念なことです。また一般発表者ではなく基調講演でしたが、下手なTED(Technology Entertainment Design)風のプレゼンテーションって本当に悲惨ですね。読者の皆様の中にもTED風プレゼンテーションに憧れる方もいらっしゃると思いますが、相当ガンバらないといけないという感想を持ちました。
 SPring-8の2人の口頭発表者は、わずか3回しか仲間内のリハーサルができませんでしたが、合格点レベルの発表ができたことを報告しておきます。


セッション構成
 下記の14セッションのうち一部パラレルで行われました。

・プロジェクトの現状報告
・プロジェクト管理と協力関係
・複雑で多様なシステムの統合
・知識ベースシステム
・人的安全と機械保護
・ハードウェア技術
・タイミングシステムと同期
・ソフトウェア技術の進歩
・実験制御
・フィードバックシステム
・ユーザーインターフェイスとそのツール
・データー管理と処理
・制御システムインフラ
・制御システムのアップグレード

 回を追うごとにセッションにも変化が見られます。前回と同数の14セッションが設けられましたが、4セッションで入れ替えがありました。前回のものより具体的なものが多いという印象です。抽象的なセッション名での発表はチェアの意図がよく伝わらず、内容がフォーカスされていないものが多いと感じました。


発表と印象
 筆者はハードウェアというよりソフトウェア寄りなので偏りが出るかもしれませんが、そのつもりでお読みください。


ソフトウェア、インターネット発祥技術の応用
 現在の世界のソフトウェア開発を牽引するのは、何といってもインターネット関連の技術であることに異論は無いでしょう。今回はインターネット発の技術を制御に応用した発表が目立ちました。Websocketというブラウザとサーバーを高速に通信する技術を使用して、ブラウザ内でリアルタイム性を高めたユーザーインターフェイスの発表がいくつかあったのは予想通りでした。
 リレーショナルデータベースを使わないNoSQL(Not only SQL)を使用したデータ蓄積システムもSPring-8を含めていくつも出始めました。いずれも大量のログデータの蓄積にリレーショナルデータベースに変わり、NoSQLを使用しているところが共通です。今まで使用されてきたリレーショナルデータベースは性能面、スケーラビリティの面でNoSQLに及ばないことが明らかになってきたというのが世界的な合意だと思われます。
 SPring-8では、新データ蓄積システムとしてカラム指向データベースであるApache Cassandraを使用し始めていますが、他にHbaseやドキュメント指向データベースであるMongoDBを使用したシステムが発表されていました。新技術の出始めにはこのように様々なシステムが乱立し、いずれ少数に統一されるのが常です。制御におけるNoSQLも、やっと乱立時代が始まったと言っていいかもしれません。
 通信のミドルウェアにも転換が訪れているようです。10年ほど前までは分散オブジェクト指向ミドルウェアであるCORBAが全盛で、それを使用した制御システムも花盛りでした(TANGO, NIFの制御システム)。しかし、その複雑さとパフォーマンスの悪さから、よりシンプルで高速なメッセージを中心としてミドルウェアを採用する動きが見えてきました。ミドルウェアとしてZeroMQ(Tango, SPring-8, CERNで採用)のほか、AMQP(Advanced Messaging Queuing Protocol)の実装であるRabbitMQやJAVA messagingのActiveMQを採用したシステムなどです。
 また複雑なデータ構造を通信するため、それを一旦文字列に変換することをジリアリゼーションと呼びますが、その方式についてもGoogleが開発したProtocol bufferの人気がありました。MADOCAIIでは別のMessagePackというシステムを使用しているので、ポスター発表の時にはそれについての優劣を議論できたのは有益でした。
 その他インターネット界で話題になっているビッグデータについても、X線CCDからの画像データをhadoopのmap reduceで解析してHDF5ファイルに落とすという発表が興味深かったです。
 クラウド利用について印象に残る発表は、特にありませんでした。ただ、NoSQLのデータベースのスケーラビリティを測定するのに、自前の計算機ではなくAmazonのAWSを借りてテストした例がありました。システムのスケーラビリティをテストするために、自前で事前にハードウェアを揃えるのが難しいことが多いのですが、そのような時に有効だと思いました。


ハードウェア
 ハードウェア部門では、ポストVMEの組込み用のモジュールの規格は定まっていないという印象があります。画像データなど高速大容量な処理が必要な時に何を使うか。ヨーロッパを中心にMTCA.4の採用がありますが、他にもPCI Expressなどもあり、外側の規格はともかく、中のシステムはFMC(FPGA Mezzanine Card)開発してしまう流れが見てとれました。
 FPGAは完全に一般のハードウェアの要素になっています。10マイクロ秒以下の反応が必要なときはFPGA、それより遅いときはCPUの棲み分けも一般的といえるようです。
 人的保護と機器保護で印象的だったのは、SLACの二重安全システムの今後についてでした。SLACでは別のプログラマチームが書いた2重のシステムを使うという航空機(この場合は3重だったかも)のような方法をとっていました。ところがシステムの煩雑化のため、かえって信頼性が損なわれそうだという考えが出てきて、単純化する方向に移行するようです。


基調講演(キーノート )
 2009年、我々が主催した時には一般発表者を中心に置き、キーノートは最小限に抑えましたが、前回に続き今回も多数のキーノートが行われました。毎日、最初はキーノートスピーチが行われ、NIFの現状がその所長から、火星探査機CuriosityについてのJPL所長の話などがありました。両方ともアメリカの大研究所の所長ともなるとさすがに慣れておられ、実にわかりやすくて興味深いプレゼンテーションでした。
 他に興味深かったのはGNU Radioプロジェクトの話でした。これはソフトウェアラジオをGNUオープンソースで実現するプロジェクトです。ソフトウェアラジオは、従来高周波のアナログ回路で行われていた信号処理をFPGAなどの上でデジタルで、ソフトウェアで行うことで1つのハードウェアを変更することなくさまざまな通信方式、たとえばワンセグとかCDMA、LTEなどを実現してしまう技術です。GNU Radioの標準ハードウェアはとても安価で加速器の高周波回路には使えないかもしれませんが、ソフトウェアは応用が効くかもしれないと思われました。


サイトツアー、ローレンスリバモア研究所国立点火施設
 主催のローレンスリバモア研究所は核兵器研究所として開設された研究所ですが、近年はレーザー核融合のためのNIFを建設し、その縁でICALEPCSコミュニティに参加してきました。NIFは2年ほど前に完成しましたが、会議が始まるほんの1週間前に科学的ブレークイーブン(吸収されたレーザーエネルギーより核融合により放出されたエネルギーが上回る、NIFの造語らしい)をようやく達成したことをEd Moses所長が意気揚々と話していました。
 会期の半日を使ってサイトツアーがありましたが、さすがに兵器研究所はセキュリティが厳しく、今までに無い経験をしました。まず、カンファレンス会場からバスに乗る時点でカメラは没収。携帯電話での撮影も禁止。研究所に着いてからも2度のパスポートチェックがあった後に、やっとNIFの見学ができました。
 NIFは、192本の高出力レーザーを小さなターゲットに集中させて核融合を起すことを目的とした施設です。フットボールグランドサイズの建物に、レーザー装置がぎっしり詰まっています。研究所の写真は撮れませんでしたが興味のある方は、この前公開された映画「スタートレック イントゥダークネス」をご覧ください。NIFの心臓部のターゲットチェンバーが、エンタープライズ号のワープエンジンとして登場しています。


ICALEPCS Lifetime Achivement表彰
 バンケット会場ではSPring-8の田中良太郎、黒川 真一KEK名誉教授の他4名が、長年にわたる制御の分野における貢献とICALEPCSへの寄与によって2013 ICALEPCS Lifetime Achievement Awardを表彰されました。
 次回の会議はAustralian Synchrotronが主催し、メルボルンで行われることが前回発表されました。また、最終日に次々回の会場がスペインのバルセロナで行われることが発表されました。主催者はALBAシンクロトロンを運営するConsortium for the Exploitation of the Synchrotron Light Laboratory(CELLS)です。


 今回の会議には、SPring-8制御・情報部門から田中、古川、松本、佐治、籠、清道、杉本、山下(筆者)が参加し、松本、佐治が口頭発表を行いました。
 このレポートを執筆するにあたり、これらの方々から参考になるご意見を多くいただいたことを感謝いたします。

 

 

 

山下 明広 YAMASHITA Akihiro
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0945
e-mail:aki@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794