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Volume 19, No.1 Pages 27 - 32

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

International Conference on Biology and Synchrotron Radiation(BSR2013)会議報告
Report on the International Conference on Biology and Synchrotron Radiation (BSR2013)

長谷川 和也 HASEGAWA Kazuya、星野 真人 HOSHINO Masato

(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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はじめに
 今回で第11回目となったInternational Conference on Biology and Synchrotron Radiation(BSR2013)が、2013年9月8日~11日の期間で、ドイツのハンブルグで開催された。日本はまだ残暑が厳しい9月の初旬であったが、ハンブルグは早くも秋の雰囲気であった。会議初日は、午前中こそ晴れ間が見えていたが、会議が始まる午後には天候は下り坂で、会期中はあまり好天に恵まれなかった。


夕暮れのアルスター湖

 会場となったGrand Elysee Hamburgホテルは、市内のDammtor駅から徒歩数分であり、Dammtor駅までは空港地下から出ているSバーンで30分程度とアクセスは良好であった。Dammtor駅を挟んで反対側には、市庁舎やショッピングストアなどが軒を連ねており、ハンブルグの名所であるアルスター湖(川をせき止めて作ったという人工湖)までは、会場から徒歩15分程度の距離であった。アルスター湖では、遊覧船が周遊しており、天候が良ければ船上からハンブルグの街並みを眺めるのにはうってつけである。

 さて、今回のBSRでは、オーラル発表はホテル施設であるGrand Ballroomで行われた。パラレルセッションは行われず、すべてのオーラル発表がこのGrand Ballroomで行われた。各オーラルセッションは、招待講演と一般講演で構成され、装置開発や応用など、放射光を用いたBiology研究についての講演が行われた。オーラル発表は全部で9つのセッションで構成され、セッションの最初に招待講演が行われ、続いて一般講演が行われた。各セッションのテーマは次の通りである。
Session1: Synchrotron Instrumentation
Session2: Biology sample preparation and characterization
Session3: Biology small angle X-ray scattering
Session4: Macromolecular X-ray crystallography
Session5: Biological X-ray imaging, and absorption
Session6: Application to medically relevant objects
Session7: Sources and methods development
Session8: Structural biology hybrid applications
Session9: Free Electron Laser applications in biology


オーラル発表会場(Grand Ballroom)の様子


 筆者2人で、すべてのセッションおよび講演テーマについて触れることは不可能なので、以下では専門分野を中心に口頭発表に関する報告を行う。

 まず、オープニングトークでは、ハンブルグに拠点を構えるDESYのJochen Schneider氏により、放射光を用いた構造生物学研究ということで、主にDESYキャンパスの概要や、PETRA-IIIの建設とその利用についての講演がなされた。また、近年その利用が開始されている世界各地のXFELについても言及し、FLASH(Free Electron Laser in Hamburg)を始め、アメリカ・スタンフォードのThe Linac Coherent Light Source(LCLS)などにおける構造生物学研究についての概説がなされた。
 続くオーラルセッション1では、Synchrotron Instrumentationということで、主に装置開発や構造生物ビームラインの現状などについて6件の講演が行われた。Diamond Light SourceのG. Evans氏からは、Diamond Light Sourceにおけるタンパク質結晶構造解析ビームライン(MXビームライン)の現状について報告がなされた。様々な結晶サイズに対応するため、ビームサイズは8 μm2から50 μm2まで可変であるということである。また、マイクロビームを生成するために、Compound refractive lensを用いていることが紹介された。微小結晶の測定では結晶の可視化が困難であることから、測定装置上の結晶の位置を探る目的で、X線マイクロCTを用いた位置決めも開発しているということである。
 JASRIの八木直人からは、SPring-8における高フラックスビームラインBL40XUにおける時分割小角散乱実験の現状についての報告がなされた。時分割計測を行う上での装置の工夫(高感度X線検出器、高速カメラ、蛍光体の残光特性など)について示された。また、時分割計測の応用として、小角散乱を用いた昆虫の筋肉の動きに関する研究例などが示され、試料のダイナミクスを研究する上で、高輝度放射光の存在は不可欠であることが示された。
 その他、このセッションでは、フランスESRFや中国SSRFのMXビームラインにおける、オートメーション測定やサンプルチェンジャーロボット、また測定試料のメールインサービスの現状について報告がなされた。
 初日最後の講演は、理研の山本雅貴氏による講演であり、SPring-8のBL32XUにおけるタンパク結晶構造解析において、10ミクロン以下のマイクロ結晶をターゲットとしたマイクロフォーカスビームラインの現状とアップグレード、および、微小結晶を扱うための結晶加工技術やハンドリング技術についての報告がなされた。

SAXSに関する口頭発表報告
 今回のBSRの特徴のひとつは、オーラル・ポスターともにSAXSに関する発表が多かったことである。これは、SAXSの大家Dmitri Svergun先生のお膝元でもあり、また、本学会のオーガナイザーの一人であったことが大きいであろう。2日間あったポスター発表の初日は大半がSAXS関連の講演であったように思う。オーラルでは、セッション2: Biology sample preparation and characterization、セッション3: Biological small angle X-ray scattering、セッション6: Application to medically relevant objectおよびセッション7: Source and methods developmentにおいてSAXSの方法論・装置開発・利用研究に関する講演があった。ここでは、そのいくつかについて報告する。
 EMBL HamburgのClement Blanchet氏はPETRA-III SAXS beamline P12について報告した。このビームラインでは、集光にBimorph Mirrorを使用し、ビームサイズ200×120 μm2、フォトンフラックスが1×1013(photons/s)で、エネルギー4~20 keVをカバーしている。また、寄生散乱の少ないScatterlessスリットを使用して低角分解能を精度良く測定できるようにしているということである。この講演で驚いたことは、SAXS測定・解析の自動化が非常に進んでいることであった。サンプルチェンジャーの導入はもちろんのこと、Flight Tubeと呼ばれるシステムを開発し、検出器の移動と真空パス長の変更を自動的に行っている。データ測定には独自開発したBECQUEREL(Beamline Experiment Control–QUEue and RELax)を使用し、自動化を実現している。また、データ解析ソフトATSASによる解析を測定に連動させ、測定から解析までパイプライン化されたシステムを実現していた。また、これらを用いたリモート測定やメールイン測定も実施しているということであった。このような自動化、パイプライン化は、ビームラインの効率利用だけではなく、SAXS利用への敷居が低くなり他分野からの利用増加にも貢献するであろう。
 EMBL HamburgのMelissa Graewert氏はPETRA-IIIのSAXSビームラインに導入しているMalvern systemについて報告した。放射光のSAXSビームラインでは、測定セルにサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を連結し、測定直前に単分散成分を分離して測定する方法が良く用いられる。このシステムでは、SECの溶出液のUV測定だけではなく、屈折率と静的光散乱を測定し、濃度以外に試料の分子量情報などの物理化学的性質が得られる。これにより、測定した試料の素性がより詳細に分かりSAXSデータ解析の助けになるということであった。講演に対しては、測定に時間がかかり限られた時間が有効に利用できないのではという指摘があったが、スピードよりもより質の高いデータを得る方針で導入したということである。
 Luebeck大学のManfred Roessle氏は、SAXSの測定試料の準備を効率化するSAXS-CDについて講演した。SAXS測定では濃度の希釈系列や溶媒条件のスクリーニングなどのために多くの条件の試料準備が必要になる。SAXS-CDは、より少ないサンプル量で効率的に試料準備を行うために、Compact Disc(CD)のような形状をした円盤に微小水路を加工し、それを回転させることで遠心力で溶液の混合を行う仕組みである。また、そのままSAXSの測定も可能であるということであった。
 SAXSの利用例として以下の3件を紹介する。Copenhagen大学のPie Huda氏は、SAXSを用いたNanoDiscの構造研究について講演した。NanoDiscは膜骨格タンパク質(Membrane Scaffold Protein: MSP)で囲まれた脂質二重膜でその中に膜蛋白質を組み込むことが出来ることから、不安定な膜蛋白の研究に利用できると期待されている。本講演では、SAXSによる構造研究に適した品質のNanoDiscの作成方法の開発と、その実例としてマグネシウムトランスポーターのSAXSによる解析例について報告があった。
 コーネル大学のLois Pollack氏はSAXSを用いたRNAのダイナミックス、分子間相互作用についての研究について講演した。時分割SAXS、粒子間干渉測定、anomalous SAXS法を用いることで、溶液中のイオンの濃度・価数がRNAのフォールディングにあたえる影響や、RNA周辺の1価、2価イオンの分布を明らかにした。SAXSのもつ特徴を目的に応じて使い分けることで、結晶解析法で得ることが困難な情報を得ている研究であった。
 Basel大学のGeorg Schultz氏は、Scanning SAXS法を用いた脳組織中のナノ構造の研究について講演した。5×20 μm2のビームを用いて100 μmステップで脳組織の切片を2次元スキャンし、ミエリンの分布や配向を決定した。蛍光顕微鏡では観察できないミエリンの配向を決めることができるのがメリットということであった。


Macromolecular crystallographyに関する口頭発表報告
 このセッションでは、タンパク質結晶構造解析ビームラインに関する講演が3件、タンパク質の結晶構造解析に関する講演が2件あった。
 SOLEILのAndrew Thompson氏は、講演の前半で、平行ビームで多軸ゴニオメーターとPILATUSを実装するPROXIMA1と、10×5 μm2のビームが利用可能なPROXIMA2の2本のビームラインについて紹介した。ビームは非常に安定しておりその変動は、±15 μm/month, 1 μm/30 minであることを強調されていた。また、データ測定中に2 msecのインターバルで、6箇所に仕込んだビームモニタをチェックしているとのことである。講演の後半はPIXEL検出器と多軸ゴニオメーターを用いたデータ測定の話であった。この組み合わせはS-SAD法のように非常に微弱なシングナルの測定が必要なときに有用であると述べていた。多軸ゴニオメーターを利用する際に測定条件を推奨するプログラムをGlobal Phasing LTDのG. Briconge氏と共同開発していること、また、多軸ゴニオメーターが他の機器に衝突するのを防ぐためにAnti-collisionのシステムも開発しているとのことである。
 Lund大学のMarjolein Thunnissen氏は、MAX IVのMXビームラインについて講演した。MAX IVはスウェーデンで建設の進んでいる加速エネルギー3 GeV、周囲長528 m、蓄積電流500 mAの新しい放射光施設である。水平エミッタンスが0.24 nm.radで、PETRA-IIIを抜いて世界最小の低エミッタンスリングとなる。低エミッタンスを実現するために7 bend achromatを採用しているということであった。この低エミッタンス光源を利用しMXビームラインも2本計画されている。そのひとつは、BioMAXと呼ばれるビームラインで、ビームサイズ10~100 μm、フォトンフラックス2×1013 photons/secの性能で、ハイスループットデータ測定を目的とし、2016年のユーザー利用をめざし計画が進んでいるということであった。もう1本のビームラインはMicroMAXと呼ばれるマイクロフォーカスビームラインである。最小0.71×1 μm2で2×1013(photons/sec)を目指したビームラインで、BioMAXで測定できない微小サンプルをターゲットとする。このビームラインでは、XFELで行われているSerial Crystallographyも利用するということである。また、ユニークなオプションとして、フォトンフラックスが1015台のピンクビームを利用できるようにするということである。先に述べたようにMAX IVは低エミッタンスリングである。別のセッション(セッション7: Source and method development)では、ESRFの低エミッタンス化に向けたPhase II upgradeに関する講演があった。それによると0.13 nm.radの低エミッタンスを実現し、それを利用した0.5×0.1 μm2、6×1014(phs/s/μm2)のMXビームラインを構想しているとのことである。SPring-8でも次期計画において、これらを上回る低エミッタンス化を目指しているが、これを利用したMXビームラインについてもその方向性を議論する時期であろう。
 執筆者の一人、JASRIの長谷川和也はBL41XUの高度化について講演した。楕円ミラーを用いた2段集光を用いることで、ビームの微小化・高強度化を図り、サイズ5 μm~50 μmで、フォトンフラックス1×1013 ~5×1013(photons/s)を実現するということである。ビームサイズ変更は、仮想光源サイズの変更に加え、試料のデフォーカス位置への移動と、ミラーの傾き変更を組み合わせて行うということであった。これに対して、ビームサイズ変更に要する時間、サイズ変更後のアライメント方法についての質問があった。MXビームラインでは、1回のビームタイムに数μm~数百μmの範囲でサイズの異なる結晶が持ち込まれることがあり、試料に応じて迅速にビームサイズを切り換えることが重要である。BL41XUのアプローチは、これまでにMXビームラインで試されてこなかったことから注目されたのであろうと思われる。
 このセッションの他の2講演は、Utrecht大学のPiet Gros氏によるほ乳類の補体にかかわるマルチドメインタンパク質の構造研究に関する講演と、Bach Institute of BiochemistryのVladimir Popov氏による高熱菌由来アルコール脱水素酵素の分子構造と熱安定性の関係についての研究に関する講演であった。タンパク質構造解析の講演が少なかったのが今回BSRの印象である。このセッションでの上述2件の他は、Structural biology hybrid approachのセッションで電顕やSAXSを組み合わせた講演があっただけであり、SAXSに比べてやや寂しい感が否めなかった。


X線イメージングに関する口頭発表報告
 招待講演であるUniversity of MelbourneのLeann Tilley氏からは、マラリアに感染した赤血球のX線イメージングに関する講演がなされた。赤血球は大きさ数ミクロンの血液細胞であり、マラリアに感染するとその形状が大きく変化することが知られている。Tilley氏の講演では、高分解能結像型軟X線顕微鏡やコヒーレント回折イメージング法を用いて、マラリア感染した赤血球の構造計測に関する報告がなされた。軟X線顕微鏡は、ウォーターウィンドウ領域(波長2.3 nm~4.4 nm)の軟X線を利用することで、含水もしくは凍結状態の試料を高い画像コントラストで計測することが可能であり、細胞のような含水微小有機物のイメージングに適している。Tilley氏が利用したALSの軟X線顕微鏡(National Center for X-ray Tomography)は、世界的にも珍しい軟X線を用いたナノトモグラフィーを専用とした装置であり、マラリア感染した赤血球を3次元で計測することが可能である。ナノトモグラフィーにおける3次元画像の空間分解能は50 nm程度で、観察可能な視野の直径は10ミクロンということである。一方で、コヒーレント回折イメージングは、APSで行っており、フレネルゾーンプレートをコヒーレント照明することによって得られる集光ビームにおいて、集光位置から少し下流側に試料を設置することにより、球面波により試料を照明し、回折パターンを取得するFresnel Coherent Diffraction Imaging(FCDI)という手法を用いていることが紹介された。X線エネルギー2.5 keVで、空間分解能は35 nm程度とのことである。また、タイコグラフィーという手法を組み合わせることで、FCDI画像の画質の向上や試料への低線量化が図れるということである。
 同じく招待講演であるBrookhaven National LaboratoryのLisa Miller氏からは、放射光イメージングのアルツハイマー病の研究への応用についての講演がなされた。アルツハイマー病で発現するとされる金属イオン(鉄、銅、亜鉛)をバイオマーカーとすることで、それらを放射光イメージングで定量し、病気発現におけるそれらの役割を解明しようとするものである。アルツハイマー病を発現させたPSAPPマウスを用いて、放射光赤外スペクトロスコピーによる脂質過酸化反応(Lipid Peroxidation)や、蛍光X線顕微鏡による上記の金属イオンの定量に関する結果が紹介された。
 Paul Scherrer InstitutのAna Diaz氏からは、SLSにおける凍結細胞のX線ナノトモグラフィーについての取り組みが紹介された。Tilley氏の講演でも用いられたタイコグラフィーという手法を用いて、それをX線ナノトモグラフィーに応用している。世界的に見ても、タイコグラフィーは高分解能X線イメージングにおける新しいスタンダードになってきていることが伺える。なおDiaz氏の講演では、これまでのスタンダードであったゾーンプレートを用いたX線顕微鏡における測定上の問題点(結像素子であるゾーンプレートの焦点深度や効率等)についての指摘がなされた。彼らの中では、タイコグラフィーを用いることで、一般的なコヒーレント回折イメージングと比べても大視野のイメージングが可能となることから、従来法に代わる高分解能X線イメージング法として位置付けられているようである。講演では、セルモデルとしてクラミドモナス(藻の一種)を用いて、開発手法の有用性について示された。3次元画像における空間分解能は50 nm程度だということである。なお、タイコグラフィーを用いたナノトモグラフィーによる試料の3次元画像において、10 nmの空間分解能の達成を目標とした装置開発プロジェクトOMNY(tOMography Nano crYo stage)についても紹介された。
 執筆者の一人、JASRIの星野真人からは、X線位相差CTを用いた定量イメージングに関する報告がなされた。前述のTilley氏やDiaz氏は、細胞のような生体内でもミクロな器官を測定ターゲットとしていたのに対して、星野はよりマクロな試料を測定ターゲットとして、マウス胎児の全身イメージングを例に、3次元定量イメージングにおけるX線位相差CTの有用性について報告がなされた。講演では、タルボ干渉計を用いたX線位相差CTを用いて、摘出直後のマウス胎児に応用することで、試料の3次元密度分布を定量的に可視化するとともに、同一試料においてホルマリンによる固定前後の密度分布を比較することで、一般的に試料固定用に用いられる固定剤が生体試料の密度分布や試料形状変化に与える影響について示された。
 University of California, San FranciscoのCarolyn Larabell氏からは、軟X線顕微鏡を用いた細胞核の3次元イメージングに関する報告がなされた。講演では、Tilley氏の研究でも使用されているALS, National Center for X-ray Tomographyで行われている細胞のナノトモグラフィーに関して、様々な測定例とともに紹介された。ナノトモグラフィーによって得られる3次元画像の空間分解能は50 nm程度であるということで、現状ではDiaz氏によって紹介されたタイコグラフィーを用いた方法でも、ゾーンプレートを用いた方法でも達成される空間分解能は同等のようである。装置自体は実用レベルであり、試料調整も含め測定手法として確立されている印象を受けた。一緒に参加した日本人研究者の中には、Larabell氏が示した細胞の3次元画像に感嘆する人もいた。
 今回のイメージングに関する口頭発表のうち、ほとんどが細胞をターゲットとしたイメージングであり、マウスやラットのような実験動物を用いたWhole bodyイメージングに関する発表は、ポスター発表も含め数が少ないという印象を受けた。前回のBSRでは、MASR(Medical Application of Synchrotron Radiation)との共同開催ということもあり、様々な計測手法や解析手法に関する講演が見られたが、今回はBSR単独開催ということも要因の一つではないかと思われる。


XFELのbiologyへの応用について
 会議最後のセッションではXFELのbiologyへの応用に関する報告がなされた。Uppsala UniversitetのJanos Hajdu氏からは、XFELを用いて1高分子からの回折を捉える試みが紹介された。XFELの場合、その強度ゆえ、試料への放射線損傷が大きな問題となる。講演では、もちろんそのことについても触れられ、印象的だったフレーズが、“Speed of light vs. Speed of a shockwave”であり、試料が破壊される前に構造を反映した情報を取得するということである。また、コヒーレント回折イメージングを用いた3次元イメージングの試みについても紹介された。試料自体は、1度X線パルスを照射すると破壊されてしまうので、3次元イメージングを行うためには、異なる試料から得られた2次元回折データから、Self-consistent 3Dデータを作成して、それから3次元の電子密度分布を再構成するということであった。また、XFELとはいえ、X線パルスをそのまま照射しただけでは1分子からの信号強度は非常に弱いため、信号強度を増やすためにKBミラーにより集光しているなど実際の計測を行う上での工夫も紹介された。
 同様にDESYのHenry Chapman氏からも、スタンフォードのLCLSにおけるコヒーレント回折実験についての報告がなされた。こちらもコンセプトは、“Time is frozen with a short light pulse”であり、試料の放射線損傷は避けては通れないものとして、その上で様々な工夫をすることで、高分解能計測に応用しているようである。
 SLACのKeith Hodgson氏や、European XFELのCharlotte Uetrecht氏からは、XFELのバイオメディカル研究に向けた装置改良について報告された。いかにして効率よくX線パルスの光路上に試料を持っていくか(Delivery system)について、また試料からの信号を効率良く捉えるためにバックグラウンドを低く抑えるための試みについて報告された。
 SLACのSebastien Boutet氏は、スタンフォードLCLSにおいて実際の利用実験に向けた施設側の取り組みについて報告された。例えば、XFELを用いたコヒーレント回折イメージングにおける試料位置でのフラックス向上を目的としたKBミラーによるX線パルス集光や、XFEL実験における限られたビームタイムを増やすことを目的としたMultiplexingオプションの開発などが紹介された。Multiplexingオプションでは、極薄シリコンやダイヤモンドから成るビームスプリッターを用いてビームを分割することで、同時に複数の実験に利用できるとのことである。
 XFELのセッションでは、XFELをBiologyへ応用する上での様々な問題点が指摘されたが、共通していることは、いかにして試料からの回折光を効率良く測定するかということ、またフラックスを上げるために集光ビームにした場合、X線パルスの集光スポットに試料をいかに効率良く運ぶか、ということのようである。これらの問題を解決するために、講演では具体的な方法も示されており、次回のBSRではより精度の高い計測結果が出てくるであろうと思われる。


おわりに
 次回のBSRは、3年後の2016年にアメリカ・スタンフォードで行われるとのことである。会議中は、厚手の上着が手放せなかったが、日本に帰国するとまだ残暑が厳しく、この気温差はかなり体にこたえるものであった。

 

 

 

長谷川 和也 HASEGAWA Kazuya
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : kazuya@spring8.or.jp

 

星野 真人 HOSHINO Masato
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : hoshino@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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